東京株式市場が堅調な動きとなっています。日経平均株価は8/13(木)には約2ヵ月ぶりに23,000円台を回復し、1/20(月)の本年高値24,083円51銭奪回も視野に入る状況となっています。過剰流動性を背景に、IT関連株がけん引役の上昇相場となってきましたが、景気・企業業績の回復が期待され、景気敏感株が買い直される場面も出ています。
今後はどうなるのでしょうか。日経平均株価の先行きを考える時に、TOPIXと比べた強さなどを吟味しておく必要があると考えられます。現在、日経平均株価をTOPIXで割ったNT倍率の上昇が長期化していますが、このことは何を示しているのでしょうか。
東京株式市場が堅調な動きとなっています。日経平均株価は8月第1週(8/3〜8/7)に前週末比619円94銭(2.9%)高と上昇した後、第2週(8/11〜8/14)は4営業日すべて上昇となり、前週末比959.42円(4.3%)高と続伸しました。途中8/13(木)には約2ヵ月ぶりに23,000円台を回復し、1/20(月)に付けた本年高値24,083円51銭奪回も視野に入る状況となっています。
過剰流動性を背景に世界的な株高が続き、それが東京株式市場にも追い風になっています。米国市場では、NYダウが7月に2.4%上昇した後、8月は第2週末(8/14)までで5.7%上昇となっています。また、ナスダックは7月に7.0%上昇した後、8月は第2週までで2.6%上昇となっています。7月まではナスダック上場が多いIT関連株がけん引役の上昇相場となってきましたが、8月は景気・企業業績の回復が期待され、NYダウ構成銘柄に象徴される景気敏感株が買い直される場面も出ています。
今後はどうなるのでしょうか。新型コロナウイルスの感染拡大は続いており、我が国では死亡者数が再び増加する兆しをみせているので油断は大敵だと思われます。仮に経済活動を制限する動きが内外で再び強まった場合、景気回復期待が後退して一時的に株価が下落する可能性も残っています。
ただ、基本的には、欧州や日本、東アジアでは新規死亡者数はあまり発生しなくなっている上、世界最大の感染拡大国である米国でも一時に比べれば新規感染者数や死亡者数は減速する傾向にあります。早ければ9月にも、ワクチンの接種が開始されるとの見方が有力で、仮にそれにより、新型コロナウイルスの克服がより明確になれば、株式市場での景気回復期待はより強まり、株価上昇力が強まると予想されます。
なお、一般的に東証1部の売買代金は8月、夏休みの本格化で中旬から下旬にかけて縮小する傾向があります。そうした中、8月第1週・第2週は1営業日当たり平均2.36兆円とそこそこの水準を維持しました。しかし、第3週に入ると、8/17(月)には1.5兆円台まで縮小し、一気に様子見気分が強まりました。これを受け、株価も8/17(月)および8/18(火)は冴えない展開が続いています。
表1 日経平均株価の値動きとその背景(2020/8/11〜2020/8/18)
日経平均株価 | 日米株式市場等の動き | ||
終値 | 前日比 | ||
8/11(火) | 22,750.24 | +420.30 | 景気回復傾向を背景にNYダウが7連騰したことを好感し、大幅に反発。 |
8/12(水) | 22,843.96 | +93.72 | 続伸。純利益増のソフトバンクGが利益確定売りで下落。 |
8/13(木) | 23,249.61 | +405.65 | 米ワクチン購入発表で実用化に期待が膨らむ。SOX指数が最高値更新で半導体関連が高い。 |
8/14(金) | 23,289.36 | +39.75 | 米週間失業保険件数減少。アップル上場来高値更新。増益確保のソニーが19年ぶり高値。 |
8/17(月) | 23,096.75 | -192.61 | GDPが戦後最大の落ち込みを記録。米中協議の無期延期も懸念に。売買代金が縮小。 |
8/18(火) | 23,051.08 | -45.67 | 様子見気分が続く。円高も逆風か。売買代金は連日の2兆円割れ。 |
- ※日経平均株価データ、各種資料をもとにSBI証券が作成。
図1 日経平均株価(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールをもとにSBI証券が作成。データは2020/8/18現在。
図2 NYダウ(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは米国時間2020/8/17現在。
図3 ドル・円相場(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは2020/8/18取引時間中。
表2 当面の重要スケジュール
月日(曜日) | 国・地域 | 予定内容 | ポイント |
8/3(月) | 日本 | ★決算発表(105件) | 三菱重工、NTTドコモ、エーザイ |
米国 | 7月ISM製造業景況指数 | ||
8/4(火) | 日本 | ★決算発表(120件) | 日本製鉄、ソニー、三菱UFJ、オリックス |
米国 | ☆決算発表 | ディズニー | |
8/5(水) | 日本 | ★決算発表(172件) | ホンダ、伊藤忠、ユニチャーム |
米国 | 7月ADP雇用統計 | 市場コンセンサスは2618千人増 | |
米国 | 7月ISM非製造業景況指数 | 雇用・新規受注等の指標にも注意 | |
8/6(木) | 日本 | ★決算発表(333件) | 資生堂、ダイフク、トヨタ、任天堂、三井不動産 |
8/18(火) | 米国 | 7月住宅着工件数 | |
8/19(水) | 日本 | 7月貿易統計 | |
日本 | 6月機械受注 | 民間設備投資の先行指標 | |
日本 | 7月訪日外客数 | 4月、5月、6月は前年同月比99.9%減 | |
8/20(木) | 米国 | 8月フィラデルフィア連銀製造業景況指数 | 米製造業のマインドは? |
8/21(金) | 日本 | 7月全国消費者物価 | |
米国 | 7月中古住宅販売件数(前月比) | 前回20.7%増から今回(市場コンセンサス)は14.4%増の予想 | |
8/24(月) | 米国 | 7月シカゴ連銀全米活動指数 | |
米国 | 共和党の党大会(〜27日) | ||
8/25(火) | 米国 | 6月S&PコアロジックCS住宅価格指数 | 前回(20都市)は前年同月比3.69%上昇 |
米国 | 8月CB消費者信頼感指数 | ||
米国 | 6月FHFA住宅価格指数 | ||
米国 | 7月新築住宅販売件数(前月比) | 前回13.8%増から今回(市場コンセンサス)は2.5%減の予想 | |
ドイツ | 8月Ifo景況感指数 | 約7千社のドイツ企業に景況感をアンケート | |
8/26(水) | 日本 | 7月企業向けサービス価格指数 | |
★決算発表(1件) | リクルートHD | ||
米国 | 7月耐久財受注 | 米民間設備投資の先行指標 | |
8/27(木) | 日本 | 6月全産業活動指数 | |
米国 | 4-6月期GDP改定値 | ||
米国 | トランプ大統領、共和党の党大会で大統領候補の指名受諾演説 | ||
米国 | 7月中古住宅販売仮契約 | ||
8/28(金) | 米国 | 7月個人所得・個人支出 |
表3 日米欧中央銀行会議の結果発表予定日(月日は現地時間)
2020年 | |
日銀金融政策決定会合 |
9/17(木)、10/29(木)、12/18(金) |
FOMC(米連邦公開市場委員会) |
9/16(水)、11/5(木)、12/16(水) |
ECB(欧州中銀)理事会・金融政策会合 |
9/10(木)、10/29(木)、12/10(木) |
- ※各種報道、日米欧中銀WEBサイト等をもとにSBI証券が作成。「予想」は市場コンセンサス。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合があります。なお、ECB理事会は金融政策の議論・決定を行う会合の日程のみ掲載しました。日付は日本時間(ただし、表2の中央銀行会議の結果発表日程は現地時間)を基準に記載しています。
そもそも、日経平均株価は我が国を代表するとされる225銘柄から構成され、その動きは日本経済の動きを象徴すると考えられます。同様に、TOPIX(東証株価指数)は東証1部上場の全銘柄で構成され、その動きもまた日本経済の動きを示すとみられています。
ただ、そのパフォーマンスには差が生じているのが現実です。8/18(火)終値を昨年末終値と比較した場合、日経平均株価は2.6%下落にとどまっていますが、TOPIXは6.5%も下落しています。図4では、日経平均株価をTOPIXで割ったNT倍率をグラフ化(青線)しています。上述したように、日経平均株価もTOPIXも、日本経済の動きを示すものであれば、前者を後者で割ったNT倍率は横ばいで推移してもよさそうなものですが、近年のNT倍率は上昇基調が続いています。すなわち、日経平均株価のパフォーマンスは継続的にTOPIXをアウトパフォーマンスしていることになります。
我々は「225の『ココがPOINT!』」において、日経平均株価が象徴する日本株の先行きを予想しようと常日頃努力しています。しかし、ここで日経平均株価を見通すだけでは不十分であり、TOPIXとの相違などに留意すべきであると考えられます。具体的に、NT倍率は上昇基調が長期化していますが、この動きが今後も続くのか、もう終わるのかについて考えておくことも、日経平均株価を見通す上で重要な要素であると考えられます。
ちなみに、日経平均株価には構成銘柄の入れ替えがあり、その構成銘柄数は原則225銘柄です。日経平均株価は単純に考えれば、この225銘柄の単純平均として計算されます。流動性や業種バランスに配慮し、定期的にリフレッシュされることになります。その変動は、単純平均ゆえに値がさのハイテク株等の影響を受けやすくなります。
これに対し、TOPIXは東証1部市場全銘柄の時価総額を基準に計算されています。日経平均株価に比べると輸送用機器や銀行の変動が影響しやすいといえますが、基本的には市場全体の変化を反映します。
2022年に予定されている東証の市場改革では、東証1部の多くの銘柄が「プライム市場」に移行し、流通株式数で基準に合わない数百銘柄が「スタンダード市場」に移行する規則に変わる予定です。ただ当面は希望すれば、東証1部銘柄が「スタンダード市場」に格落ちする事態は避けられる見通しとなっています。すなわち、当初期待された東証1部の大掛かりな市場改革は実質的には先送りされ、例えば東証1部における優良株の比率が上昇するというような変化も期待しにくくなりました。
したがって、NT倍率の上昇は続きやすいと考えられます。図4において、赤い線は日経平均株価の予想EPS(1株利益)をTOPIXの予想EPSで割った数値を示していますが、こちらも基調的には日経平均株価の方が相対的に強い状態が長期化しています。
ただ、新型コロナウイルスに対するワクチンや治療薬の登場等により、景気回復期待が高まり、金利に上昇圧力がかかるような場面では、円安・ドル高の動きにもつながりやすく、銀行や輸送用機器の相対株価も上昇しそうです。その場合は、日経平均株価の対TOPIXでの相対パフォーマンスは悪化し、NT倍率が下がりやすくなると考えられます。
図4 NT倍率と日経平均・TOPIXのEPS比較
- ※日経平均・TOPIX株価データをもとにSBI証券が作成。日経平均のEPS、TOPIXのEPSはともに日経予想ベース。