2020年1月の東京株式市場では、第1週・第2週と日経平均株価(図1)が上昇(週足ベース)しました。しかし、第3週の日経平均株価は前週比214円08銭(0.9%)安と、週足ベースでは3週間ぶりの反落となりました。中国でコロナウイルスによる新型肺炎が本格的に拡大する兆しを見せたことが警戒されました。
ニュースをみる限り、新型肺炎の感染者・死亡者数は増加が加速しつつあり、今後は世界経済への影響も心配され、株式市場の波乱が続く可能性がありそうです。そうした中、日経平均株価はいつ下げ止まるのでしょうか。
2020年1月の東京株式市場では、第1週・第2週と日経平均株価(図1)が上昇(週足ベース)しました。米国とイランの間で一時戦争の危機が高まったものの当面は回避されたこと、米国と中国の通商交渉が第1段階の合意に達したこと等、世界的な政治・経済情勢の落ち着きが好感されました。それらを背景に、米国株(図2)が高値更新の動きとなり、外為市場(図3)で円安・ドル高が進んだことも支援材料になりました。
しかし、第3週の日経平均株価は前週比214円08銭(0.9%)安と、週足ベースでは3週間ぶりの反落となりました。中国でコロナウイルスによる新型肺炎が本格的に拡大する兆しを見せたことが警戒されました。はじめは、ヒトとヒトの間の感染はないとの理解から楽観的な空気もありましたが、ヒトとヒトの間の感染が確認され、患者数や死者数の拡大が加速し始めたこと
から、次第に市場の警戒心が強まりました。
1/27(月)からは、中国が団体旅行禁止の措置を実行し、我が国のインバンウド消費への悪影響が懸念され始めたことから、この日の日経平均株価は一時前週末比509円安、終値でも483円安と急落しました。さらに中国国務院は従来1/30(木)までだった春節の休みを2/2(日)まで延長する措置も発表。1/28(火)も売り先行の展開です。折しも、東京株式市場では2019年10〜12月期の決算発表が次第に本格化していますが、利益が事前の市場予想を下回る銘柄が多く、市場の様子見気分を強める要因になる可能性がありそうです。
テクニカル的に日経平均株価が25日移動平均を割り込んできたことで、慎重姿勢に拍車がかかる可能性もありそうです。東京株式市場では今後さらに様子見気分が強まるかもしれません。
表1 日経平均株価の値動きとその背景(2020/1/20〜2020/1/28)
日経平均株価 | 日米株式市場等の動き | ||
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終値 | 前日比 | ||
1/20(月) | 24,083.51 | +42.25 | 米国株の高値更新を好感。米休場控え、東証1部売買代金は1.41兆円にとどまる。 |
1/21(火) | 23,864.56 | -218.95 | 新型肺炎感染の拡大を警戒。アジア株安も逆風。 |
1/22(水) | 24,031.35 | +166.79 | 半導体や電子部品に買い戻しの動き。 |
1/23(木) | 23,795.44 | -235.91 | 新型肺炎への警戒で上海・香港が急落。米半導体株高が下支え。 |
1/24(金) | 23,827.18 | +31.74 | 東証1部の値下がり銘柄数は7割超。新型肺炎が懸念材料。 |
1/27(月) | 23,343.51 | -483.67 | 新型肺炎対策で中国が団体旅行禁止。我が国のインバウンド需要にも逆風。 |
1/28(火) | 23,215.71 | -127.80 | 新型肺炎の感染拡大を懸念し1/27のNYダウが453ドル安。 |
- 日経平均株価データ、各種資料をもとにSBI証券が作成。
図1 日経平均株価(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- 当社チャートツールをもとにSBI証券が作成。データは2020/1/28取引時間中。
図2 NYダウ(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- 当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは米国時間2020/1/27現在。
図3 ドル・円相場(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- 当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは2020/1/27現在。
日米で本格的な決算発表シーズンに突入しました。1月最終週の米国市場では、アップルに続き、ボーイング、キャタピラー、フェイスブック等の発表となります。我が国は1月最終日に当たる1/31(金)が発表社数では第1のヤマ場になります。もっとも、1月は時価総額の大きい主力企業の発表が多く、質的な面では決算発表のピークに近いと言えそうです。
なお、1/24(金)から春節の休みに入った中国ですが、人の移動が感染を助長する面もあるためか、中国政府は団体旅行を禁止する策に打って出ました。さらに、春節休みの終了を当初の1/30(木)から2/2(日)に延期することを発表しています。対策の前に議論を要する民主主義国家と異なり、強固なリーダーシップで難局を乗り切ろうとしています。
なお、2/7(金)には国内で約500社の決算発表が予定され、社数ベースではここが決算発表のピークとなりそうです。一方米国では雇用統計(1月)の発表が予定されています。重要日程が集中し、投資家はポジションを取りにくいタイミングといえ、その前からポジション調整が難しく、相場に波乱が生じやすくなる可能性があります。
表2 当面の重要スケジュール
月日(曜日) | 国・地域 | 予定内容 | ポイント |
1/28(火) | 日本 | ★決算発表(39件) | エムスリー、信越化学、日立化成 |
米国 | 12月耐久財受注 | 米設備投資の先行指標 | |
米国 | 11月S&PコアロジックCS住宅価格指数 | ||
米国 | 1月コンファレンスボード消費者信頼感指数 | ||
米国 | ☆決算発表 | アップル、3M | |
1/29(水) | 日本 | ★決算発表(73件) | NEC、アドバンテスト、ファナック、キヤノン、LINE |
米国 | 12月中古住宅販売仮契約 | ||
米国 | ☆決算発表 | ボーイング、フェイスブック、GE、コーニング | |
1/30(木) | 米国 | FOMC(米連邦公開市場委員会)結果発表〜日本時間の未明に発表 | 政策金利の変更はない見通し |
日本 | ★決算発表(197月件) | 中外薬、OLC、アンリツ、任天堂、東京エレク、三井住友FG | |
米国 | 10〜12月期GDP | 市場コンセンサスは前期比(年率)2.2%増 | |
韓国 | ☆決算発表 | サムスン電子 | |
1/31(金) | 日本 | 12月失業率/有効求人倍率 | 前回は失業率2.2%、有効求人倍率1.57倍 |
日本 | 12月鉱工業生産 | ||
日本 | ★決算発表(413件)〜第1のヤマ場 | 第一三共、コマツ、日立、みずほFG | |
中国 | 1月製造業PMI | ||
英国 | 英国のEU離脱期限が到来 | ||
米国 | ☆決算発表 | キャタピラー、エクソンモービル | |
2/2(日) | 中国 | 春節の休みが終了 | 当初の1/30(木)から延期された |
2/3(月) | 日本 | ★決算発表(101件) | 三菱電、パナソニック、村田製 |
米国 | 1月ISM製造業景況指数 | 米製造業のマインドを計る | |
米国 | 大統領選挙の予備選開始 | ||
米国 | ☆決算発表 | アルファベット | |
2/4(火) | 日本 | ★決算発表(123件) | 花王、武田薬、CTC、ソニー、三井物、三菱UFJ |
米国 | 12月製造業受注 | ||
米国 | トランプ大統領一般教書演説 | ||
米国 | ☆決算発表 | ウォルト・ディズニー、フォード | |
2/5(水) | 日本 | ★決算発表(171件) | 協和キリン、住友電工、伊藤忠、丸紅、三菱商事 |
米国 | 米1月ADP雇用統計 | 労働省雇用統計の前哨戦 | |
米国 | 1月ISM非製造業景況指数 | 雇用、新規受注などの個別指標にも注目 | |
米国 | ☆決算発表 | GM、クアルコム | |
2/6(木) | 日本 | 1月都心オフィス空室率 | |
日本 | ★決算発表(223件) | 三菱ケミカル、資生堂、トヨタ、オリンパス、NTT | |
米国 | ☆決算発表 | ツイッター | |
2/7(金) | 日本 | ★決算発表(501件) | 件数ベースでは最大のヤマ場 |
中国 | 1月貿易統計 | ||
米国 | 1月雇用統計 | 市場コンセンサスは非農業部門雇用者数が前月比15.3万人増 |
表3 日米欧中央銀行会議の結果発表予定日(月日は現地時間)
2020年 | |
日銀金融政策決定会合 | 3/19(木)、4/28(火)、6/16(火)、7/22(水)、9/17(木)、10/29(木)、12/18(金) |
FOMC(米連邦公開市場委員会) | 1/29(水)、3/18(水)、4/29(水)、6/10(水)、7/29(水)、9/16(水)、11/5(木)、12/16(水) |
ECB(欧州中銀)理事会・金融政策会合 | 3/12(木)、4/30(木)、6/4(木)、7/16(木)、9/10(木)、10/29(木)、12/10(木) |
- 各種報道、日米欧中銀WEBサイト等をもとにSBI証券が作成。「予想」は市場コンセンサス。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合がありますので、あくまでもデータ作成段階のものです。なお、ECB理事会は金融政策の議論・決定を行う会合の日程のみ掲載しました。日付は日本時間(ただし、表3の中央銀行会議の結果発表日程は現地時間)を基準に記載しています。決算発表のポイント欄に書かれた銘柄名は発表会社の例であり、ほかにも発表会社がある時が多くなっています。
最初の項でご紹介したように、新型肺炎の感染が加速する中、1/27(月)からは、中国が団体旅行を禁止する措置を実行し、我が国のインバンウド消費への悪影響が懸念され始めたことから、この日の日経平均株価は一時前週末比509円安、終値でも483円安と急落しました。さらに中国国務院は従来1/30(木)までだった春節の休みを2/2(日)まで延長する措置も発表。1/28(火)も売り先行の展開です。
今後はどうなるのでしょうか。注意すべきなのは、今回の新型肺炎は10日前後(中国衛生当局)とされる潜伏期間中にも感染する可能性があることで、潜伏期間中には感染しないSARS(重症急性呼吸器症候群)と比べても強い感染力が警戒されることです。現在報告されている患者数や死者数が実態よりも少ない可能性が大きい上、感染が今後も拡大する危険性も高いとみられます。事実、人民日報が1/28(火)に報じたところでは、同日10時17分(日本時間)の集計で、中国、香港、マカオ、台湾の感染者数は4,428人、死者も106人に拡大しているようです。
春節休暇の延長についても、地域によるばらつきがあるようです。本土の金融市場の再開は今のところ2/3(月)になる見込みですが、経済の中心である上海市は2/9(日)よりも前の企業の事業再開を禁止したようです。中国経済の休止状態が長期化する可能性は今後も残りそうです。さらに、訪日予定だった中国人観光客のキャンセルも本格化しているようで、たとえば稼働率90〜100%を予定したホテルが、その顧客のほとんどを失うケースも出ています。今後、新型肺炎の感染拡大を原因とする日本経済への打撃も表面化してくる可能が大きそうです。投資家は残念ながら、まだまだ多くの悪材料に向き合うことになると危惧されます。
ただ、ここは冷静に考えるべきでしょう。上述した最新の感染者数、死者数から計算される致死率は2.4%(今後変動する可能性は残ります)で、季節性インフルエンザの0.1%よりは高いものの、SARSの10%弱、MERS(中東呼吸症候群)の34%よりは低いようです。また死者の多くが高齢者や糖尿病患者をはじめ健康状態の悪い人が中心であり、健康な人の致死率はさらに下がると推測されます。
また、10日前後とみられる潜伏期間に、知らず知らず感染が拡大しているリスクが大きいことになりますが、武漢市が市民の移動禁止を始めた1/23(木)から10日後は2/2(日)で、中国政府が新たな春節休暇終了の日として定めた日になっています。したがって、2月に入ると感染が減速する可能性が出てきます。
ぴったり同じと考えることはできないかもしれませんが、新型肺炎の感染について、その季節特性については、インフルエンザの例が参考になりそうです。インフルエンザの感染は平均的に、日本では1月頃がピークになりやすいというデータがあります。やはり、寒くて乾燥しやすい冬は、ウイルスが浮遊しやすく、乾燥を助長しやすいようです。東京の1月の平均最高気温が10度、最低気温が2度なのに対し、武漢市の1月は同最高が8度、最低が0度とむしろ寒く、晴れの日が多いようで、東京よりもウイルスが感染しやすいと言えるかもしれません。
ただ、中国中央部のやや内陸に入った土地柄か、2月以降の平均気温は東京よりも高くなる傾向があります。すなわち、新型肺炎も、仮に武漢市を中心に考えるならば、1月頃がピークになりやすく、2月以降は季節的に小康状態に向かいやすいと推測されます。したがって、今回の新型肺炎騒動は中国の春節休暇の間がピークになるかもしれません。
ちなみに、中国市場にリスクを取っている投資家が、これだけ騒ぎが大きくなっている春節休暇中、何もリスクヘッジをしないでしょうか。むしろ、多くの投資手段を有しているほど、様々な方法でリスクヘッジを取っていると考えるべきでしょう。このため、東京株式市場がそのリスクヘッジの対象となり、株価の下げが加速した可能性はゼロではないと思います。世界中、ボーダレスに、常に取引できる為替市場は1/28(火)、落ち着きを取り戻しています。このため、東京株式市場も2月第1週を陰の極として反発しやすくなるように思われます。
以上、トータルで考えると、中国の新型肺炎感染拡大を原因とした株式市場の混乱は、2月第1週前後が大きな転換点になる可能性が大きいのではないでしょうか。なお、日経平均株価の当面の下値めどとしては、以下の株価が参考になると考えられます。
(1)22,951円・・・・1/8に付けた2020年の安値。
(2)22,780円・・・・昨年8月安値から本年1月高値の上昇幅に対する3分の1押し。
(3)22,726円・・・・昨年11/21に付けた安値水準。
(4)22,610円・・・・26週移動平均株価(つねに変動)。
(5)22,255円・・・・昨年9/19の高値水準。
(6)22,113円・・・・昨年8月安値から本年1月高値の上昇幅に対する2分の1押し。
(7)22,046円・・・・200日移動平均株価(つねに変動)。
(8)22,000円・・・・心理的な節目。
図4 日経平均株価(日足)・一目均衡表
- 当社チャートツールをもとにSBI証券が作成。データは2020/1/28取引時間中。