日経平均株価は、中国の製造業PMI(11月)の上振れ等もあり、12/2(月)という年の瀬になって年初来高値を更新してきました。しかし、同株価は翌日、米国株の急落を受けて一時342円安となるなど高値波乱の展開となりました。
11月下旬に上昇基調をたどり、12月第1営業日にかけて堅調を維持したものの、その後波乱になるという意味では、あたかも昨年の株式相場をなぞっているかのようです。結局、10%超下がった2018年のように、本年の日経平均も「波乱の12月」になってしまうのでしょうか。それとも、上昇基調を維持できるのでしょうか。
日経平均株価は12/2(月)に23,529円50銭で引け、11/12(火)に付けていた終値ベースの年初来高値23,520円01銭を上回り、年初来高値を更新しました。休み中に発表された中国の製造業PMI(11月)が予想を上回り、景況感の良し悪しの境目になる50を回復してきたことが好感されました。実際の合意成立まで長引いているとはいえ、米中通商協議での妥協成立に対する期待が継続していることも追い風になっていると考えられます。
2020年11月の米大統領選挙まで、米政策金利が引き上げられる可能性は低く、当面はFRB(米連邦準備制度理事会)による緩和的金融政策が続き、株式市場では「金融相場」が展開されるとの見方が強いことが、世界的な株高をもたらしている本質的な要因のひとつであると考えられます。ただ、9〜11月の3ヵ月連続の利下げで、当面は利下げが終了したとの見方が支配的で、それが円安・ドル高傾向につながっており、日本株の上昇に寄与していると考えられます。
そうした中、12/2(月)の米国株式市場では、ISM製造業景況指数(11月)が事前の市場コンセンサス(49.2)を下回る48.1にとどまり、景況感の良し悪しの境目になる50を4ヵ月連続で下回ってしまいました。米国経済への不透明感が強まったことを背景に、この日のNYダウは前週末比268ドル安と大幅続落し、これを警戒した12/3(火)の東京株式市場では一転売り先行となり、日経平均株価は一時342円安となる高値波乱の展開になっています。
2018年は11/22(木)〜12/3(月)に日経平均株価が7営業日連続高し、計1,067円上げましたが、12月第2営業日である12/4(火)に538円安となり、結局12月相場は10%超下がる波乱となりました。2019年も12月第1営業日に年初来高値更新となった後の波乱で、似たような空気の相場になっているように感じられます。本年も同様に波乱の月になってしまうのでしょうか。
表1 日経平均株価の値動きとその背景(2019/11/25〜12/3)
日経平均株価 | 日米株式市場等の動き | ||
---|---|---|---|
終値 | 前日比 | ||
11/25(月) | 23,292.81 | +179.93 | 米中合意に前向きな発言が目立ち、前週末の米国株が上昇。 |
11/26(火) | 23,373.32 | +80.51 | 中国が知財保護に前向きと報道され、米主要指数が連日で高値更新。 |
11/27(水) | 23,437.77 | +64.45 | 国内は米国株の高値更新継続を好感、配当金再投資の買いも需給面でプラスに。 |
11/28(木) | 23,409.14 | -28.63 | 「香港人権法案」に大統領が署名し、米中関係悪化となる可能性を懸念しました。 |
11/29(金) | 23,293.91 | -115.23 | 円安・ドル高が追い風でしたが、米中対立が懸念されました。 |
12/2(月) | 23,529.50 | +235.59 | 中国の製造業PMI上振れや、円安・ドル高が好感されました。 |
12/3(火) | 23,379.81 | -149.69 | 米国のISM製造業指数が下振れし、NYダウが10/8以来の大幅安でした。 |
- ※日経平均株価データ、各種資料をもとにSBI証券が作成。
図1 日経平均株価(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールをもとにSBI証券が作成。データは2019/12/3取引時間中。
図2 NYダウ(日足)
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは米国時間2019/12/2現在。
図3 ドル・円相場(日足)
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは2019/12/3取引時間中。
米国では12/6(金)、日本時間22時30分に雇用統計(11月)の発表が予定されています。中核的指標である非農業部門雇用者数(前月比・増減)は10月には12.8万人増でしたが、11月は19万人増となる予想(市場コンセンサス)です。同様に、失業率は3.6%、時間当たり賃金(前年同月比)3.0%増の予想です。
10月の非農業部門雇用者数(同上)の12.8万人増という数字は9月の18万人増からみると随分少ない印象でした。しかし、失業率が1969年12月の3.5%以来の低水準で、いわゆる「完全雇用」状態であることを考えると悲観すべき水準とはいえません。そもそも、直近3ヵ月の平均は17.6万人増であり、労働市場は依然強いとみなすことができそうです。
ただ、新規失業保険申請件数が4月に一時19万人台まで減り、現状は21〜22万人増に漸増していることを考えると、ピークアウトしている可能性はありそうです。雇用統計前に発表されるADP雇用統計や、ISM非製造業景況指数の雇用指数等も注意して見守る必要がありそうです。
表2 当面の重要スケジュール
月日(曜日) | 国・地域 | 予定内容 | ポイント |
12/4(水) | 米国 | 11月ADP雇用統計 | 市場コンセンサスは19.0万人増 |
米国 | 11月ISM非製造業景況指数 | 雇用・新規受注等の指標にも注目 | |
12/5(木) | 米国 | 10月貿易収支 | |
米国 | 10月製造業受注 | ||
- | OPEC総会・OPECプラス閣僚会議(〜6日) | ||
12/6(金) | 米国 | 11月雇用統計 | 非農業部門雇用者数の市場コンセンサスは19.5万人増 |
12/8(日) | 中国 | 11月貿易収支 | 市場コンセンサス(前年同月比)は輸出0.6%増、輸入1.9%減 |
12/9(月) | 日本 | 7〜9月期GDP(確報値) | 市場コンセンサス(前期比・年率)は0.7%増 |
12/9〜12/15 | 中国 | 11月新規人民元建融資、資金調達額、マネーサプライ | 市場コンセンサスは+4.2% |
12/10(火) | 日本 | 11月工作機械受注 | 前回は前年同月比37.4%減 |
中国 | 11月消費者物価(前年同月比) | 市場コンセンサスは+4.2% | |
12/11(水) | 米国 | FOMC結果発表/パウエルFRB議長会見 | 金利先物市場の利下げ確率はほぼゼロ |
12/12(木) | 日本 | 10月機械受注 | 設備投資の先行指標 |
日本 | 11月オフィス空室率 | 都心部(10月)は1.63%で、過去最低更新中 | |
英国 | 英国議会総選挙 | 定数650に対し、保守党が過半数の見込み。首相の議席は? | |
欧州 | ECB定例理事会 | ||
12/13(金) | 日本 | 日銀短観(12月調査) | 大企業・製造業の業況判断指数(前回)は+5 |
日本 | メジャーSQ | ||
米国 | 11月小売売上高 | ||
12/15(日) | 米国 | 対中国追加関税第4弾(携帯電話、ノートPC)等発動期限 |
表3 日米欧中央銀行会議の結果発表予定日(月日は現地時間)
2019年 | 2020年 | |
日銀金融政策決定会合 | 12/19(木) | 1/21(火)、3/19(木)、4/28(火)、6/16(火)、7/22(水)、9/17(木)、10/29(木)、12/18(金) |
FOMC(米連邦公開市場委員会) | 12/11(水) | 1/29(水)、3/18(水)、4/29(水)、6/10(水)、7/29(水)、9/16(水)、11/5(木)、12/16(水) |
ECB(欧州中銀)理事会・金融政策会合 | 12/12(木) | 1/23(木)、3/12(木)、4/3(金)、6/4(木)、7/16(木)、9/10(木)、10/29(木)、12/10(木) |
- ※各種報道、日米欧中銀WEBサイト等をもとにSBI証券が作成。「予想」は市場コンセンサス。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合がありますので、あくまでもデータ作成段階のものです。なお、ECB理事会は金融政策の議論・決定を行う会合の日程のみ掲載しました。日付は日本時間(ただし、表3の中央銀行会議の結果発表日程は現地時間)を基準に記載しています。
冒頭でご説明したように、2018年の日経平均株価は11/22(木)以降に7営業日連続高しましたが、12月第2営業日である12/4(火)に538円安となり、結局12月相場は10%超下がる波乱となりました。2019年も12月第1営業日に年初来高値更新となった後の波乱で、似たような空気の相場になっているように感じられます。本年も同様に波乱の月になってしまうのでしょうか。
結論から先に申し上げれば、その心配は少ないと考えてよさそうです。米国製造業の景況感を示すISM製造業景況指数は、昨年8月にピークアウトし、11月時点でも高水準を維持していました。しかし、その後は低下傾向をたどり、2019年9月には47.8%まで低下しています。一般的に、ISM製造業指数は米国の株価に大きく影響すると考えられていますが、「これからISM指数の下落が本格化する直前」(2018年11月頃)と「ISM指数が底値を模索中の段階」(2019年11月頃)では、相場に与える意味合いが大きく異なると考えられます。
そもそも、昨年とは米国の金融政策の方向感が異なると思います。2018年11月末時点で、米国の政策金利上限は2.25%であり、その後12/20(木)に2.5%まで引き上げられてピークに達します。いわば、引き締め局面の最終段階近くでした。現在、米国の政策金利上限は1.75%であり、当面のボトムになりそうです。政策金利の引き下げはしばらくは打ち止めになりそうですが、2020年には1〜2回再利下げを想定する声は少なくありません。
以上から、米国株に波乱が生じる可能性は小さいと考えられ、2019年12月の日経平均株価に悪影響を与える可能性も小さいと考えられます。
日本経済についても、消費税引き上げや働き方改革実施の手前だった昨年と、それらが実施された後の現在では、株式相場が抱えるリスクの大きさも異なるように思います。それらを含め、米中通商摩擦の影響で上場企業の業績見通しは下振れとなりましたが、その織り込みも進んでいます。平均的に12月の日経平均は上昇することが多いという経験則になっていますが、2019年12月も、そうした経験則通りに堅調な「師走相場」を期待していいように思われます。
図4 ISM製造業景況指数とNYダウ(月足)
- ※Bloombergデータを用いてSBI証券が作成。