日経平均株価は引き続き不安定な展開になっています。米中通商問題は長期化し、両国の対立はむしろ激しくなる兆しさえ見せています。
こうした中、先物と現物株の裁定取引では、「裁定買い残(純額)」が極端に減少し、残高がマイナスとなり、「裁定売り残(純額)」が積み上がった状態になっています。教科書通りに考えれば、日経平均株価は底値圏に達していると言えるかもしれません。少なくとも、相当に溜まった「売りのマグマ」が解放された場合、予想外の上昇力につながる可能性もありそうです。
日経平均株価(図1)は不安定な展開となっています。同株価の週足終値は7月第5週(7/29〜8/2)に前週末比570円99銭(2.6%)安、8月第1週(8/5〜8/9)に同402円34銭(1.9%)安、同第2週(8/13〜16)に同266円01銭(1.3%)安となった後、同3週(8/19〜8/23)は同292円10銭(1.4%)高と反発しました。週足ベースでは4週間ぶりの反発です。しかし、8/26(月)には、米中通商摩擦の激化を懸念して前週末比449円87銭(2.2%)安となり、1週間の上昇を帳消しにしてしまいました。続く8/27(火)は反発に転じましたが、商いは細く、途中からは上値の重さが意識されました。
東証1部の売買代金は8/14(水)〜8/27(火)に10営業日連続で2兆円割れとなっています。うち半分の5営業日で売買代金は1.5兆円台にとどまる「閑散商状」になっています。なお、8/19(月)から8/27(火)の日次の動きは以下のようになっています。
8/19(月)144円35銭高・・・経済対策への期待で主要海外株が上昇しましたが、売買代金は1.5兆円台に低迷しました。
8/20(火)114円06銭高・・・ファーウェイへの特例延長や、米政権のアップルへの配慮で米国株が3日続伸しました。
8/21(水)58円65銭安・・・米国株の下落に加え、イタリア政局の混迷が警戒されました。
8/22(木)9円44銭高・・・米国株高を受けて一時100円超上昇。米長期金利(時間外)の低下で伸び悩みました。
8/23(金)82円90銭高・・続伸し3週間ぶりの高値を付けました。米利下げ観測が後退し、円安・ドル高が進みました。
8/26(月)449円87銭安・・・米国が中国の報復関税に対抗し、関税税率引き上げを示唆。8/23(金)のNYダウが急落。
8/27(火)195円04銭高・・・米中協議継続を好感。為替も円安方向に反転しました。後半は円安一服で株価も伸び悩みました。
薄商いの中、日経平均株価は前日のNY市場の動向をおおむね素直に反映する展開となりました。再び、株式市場の話題の中心が米中通商摩擦問題になり、それが深刻化すると円高・ドル安を伴う展開になっているため、日米の株式市場が連動しやすくなっています。
なお、東京株式市場の薄商いについては、確かに、米中通商摩擦問題の長期化・深刻化を受け様子見気分が強まっていることが理由のひとつと考えられます。上記のとおり、10営業日連続で2兆円割れは、閑散期間として長いと言えそうです。ただ、2018年は8/17(金)以降7営業日連続で2兆円割れ、2017年は8/21(月)以降7営業日連続で2兆円割れと、例年、お盆休み直後に薄商いがもっとも酷くなる傾向にあります。8/28(水)には、8月相場も受け渡しベースでは終了となります。9月相場以降、市場参加者が戻ってくることに期待したいところです。
図1 薄商いの中、前日のNY市場を素直に反映する日経平均株価
- ※当社チャートツールをもとにSBI証券が作成。データは2019/8/27現在。
図2 NYダウ(日足)
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは米国時間2019/8/26現在。
図3 ドル・円相場(日足)
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは2019/8/27取引時間中。
8/31(土)に中国の製造業PMIが発表されます。中国の国家統計局と中国物流購入連合会が共同で、中国の景況感についてアンケート調査するもので、50が好不況の分かれ目となります。米国との通商摩擦が景況感悪化につながり、5〜7月は3ヵ月連続で50を下回りました。8月の市場コンセンサスは49.6と引き続き50を割り込む予定になっています。仮に、市場コンセンサスを下回った場合は、中国も含め、世界の株式市場の悪材料になる可能性があります。
なお、9/3(火)にはISM製造業景況指数が発表されます。こちらは、米国製造業のマインドを計測する重要な指標となります。ただ、米国経済は非製造業のウェイトが高いので、9/5(木)に発表予定のISM非製造業景況指数も併せて注目したいところです。
表1 今後約2週間の重要スケジュール
月日(曜日) | 国・地域 | 予定内容 | ポイント |
8/27(火) | 米国 | 6月FHFA住宅価格指数 | |
米国 | 6月S&PコアロジックCS住宅価格指数(20都市) | 前月は前年同月比2.4% | |
米国 | 8月コンファレンスボード消費者信頼感指数 | ||
8/28(水) | 日本 | 8月権利確定銘柄の権利付最終日 | |
8/29(木) | 米国 | 4〜6月期GDP(改定値) | コンセンサス(前期比・年率)は+2.0% |
8/30(金) | 日本 | 7月失業率・有効求人倍率 | 6月失業率は2.3%、有効求人倍率は1.61倍 |
日本 | 7月鉱工業生産 | ||
8/31(土) | 中国 | 8月製造業PMI | 5〜7月は3ヵ月連続50割れ。市場コンセンサスは49.6 |
9/2(月) | 日本 | 4〜6月期法人企業統計 | |
米国 | ◎米国市場他が休場(レーバーデー) | ||
9/3(火) | 米国 | 8月ISM製造業景況指数 | 米民間製造業のマインドは? |
9/4(水) | ロシア | 東方経済フォーラム(ウラジオストック) | |
米国 | 7月貿易収支 | ||
米国 | ベージュブック | 米FOMCの判断材料 | |
9/5(木) | 米国 | 8月ADP雇用統計 | 市場コンセンサスは前月比14.8万人増 |
米国 | 8月ISM非製造業景況指数 | 新規受注、雇用など個別指標の動きにも要注目 | |
9/6(金) | 日本 | 7月毎月勤労統計調査 | |
日本 | 7月景気動向指数 | ||
米国 | 8月雇用統計 | 市場コンセンサスは雇用者数が15.9万人増、失業率が3.6% |
表2 日米欧中央銀行会議の結果発表予定日(月日は現地時間)
2019年 | 2020年 | |
日銀金融政策決定会合 | 9/19(木)、10/31(木)、12/19(木) | 1/21(火)、3/19(木)、4/28(火)、6/16(火) |
FOMC(米連邦公開市場委員会) | 9/18(水)、10/30(水)、12/11(水) | 1/29(水)、3/18(水)、4/29(水)、6/10(水) |
ECB(欧州中銀)理事会・金融政策会合 | 9/12(木)、10/24(木)、12/12(木) | 1/23(木)、3/12(木)、4/3(金)、6/4(木) |
- ※各種報道、日米欧中銀WEBサイト等をもとにSBI証券が作成。「予想」は市場コンセンサス。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合がありますので、あくまでもデータ作成段階のものです。なお、ECB理事会は金融政策の議論・決定を行う会合の日程のみ掲載しました。日付は日本時間(ただし、表2の中央銀行会議の結果発表日程は現地時間)を基準に記載しています。
一般的に、先物と現物の裁定取引に伴う現物株の買い残高を「裁定買い残」、同じく売り残高を「裁定売り残」と言います。通常話題になるのは前者で、その残高が増え過ぎると「将来、売却される現物株が多い」として警戒されます。
図4は、日経平均先物取引における「裁定買い残」から「裁定売り残」と差し引いた数字と日経平均株価を比較したものです。このように、正確には「裁定買い残」から「裁定売り残」と差し引いた「裁定買い残(純額)」が多いと警戒が必要で、少ないと相場が底値に近いことを示唆する判断材料にできると考えられます。
図4からうかがえるのは、「裁定買い残(純額)」が極端に減少し、残高がマイナスとなり、「裁定売り残(純額)」が積み上がった状態になっていることです。教科書通りに考えれば、日経平均株価は底値圏に達していると言えるかもしれません。少なくとも、相当に溜まった「売りのマグマ」が解放された場合、予想外の上昇力につながる可能性もありそうです。
図4 裁定売り残の増加は日経平均株価のボトムを示唆しているのか?
- ※Bloombergデータを用いてSBI証券が作成。「裁定買い残ー同売り残(左・百万円)」は裁定取引に伴う現物株の買い残高から売り残高を差し引いた数字。