足元の日経平均株価は堅調な動きとなっており、年初来高値近辺での取引が続いています。米国や中国で強い経済指標の発表が多かったことに加え、米中通商協議の進展を示唆する報道が続いたことが好感されました。
そうしたなか、日経平均株価をTOPIX(東証株価指数)で割ったNT倍率の上昇が加速する兆しを見せています。日経平均株価に対しTOPIXが劣後しやすくなっている理由のひとつに、時価総額が小さめの多くの銘柄が東証1部に昇格してきたことがあげられます。また、足元に関して言えば、米国のFRBが政策金利引き上げを停止すると決めたこともあり、銀行株が冴えなくなっていることも影響している可能性があります。
NT倍率の上昇は投資家に対し、「日経平均買い」と「TOPIX売り」を組み合わせる取引のチャンスを提供しており、ヘッシファンド等がそれをベースとしたポジションを構築している可能性もあります。東証1部上場基準の見直しや銀行株の動静は、こうしたNT倍率の動きにも影響を与え、波乱が生じるケースも想定され、注意深いウォッチが必要そうです。
日経平均株価は3月第4週(3/25〜3/29)に前週末比421円53銭(1.9%)の下落となった後、4月第1週(4/1〜4/5)は同601円69銭(2.8%)高と反発しました。米国や中国で強い経済指標の発表が多かったことに加え、米中通商協議の進展を示唆する報道が続いたことが好感されました。4/1(月)〜4/8(月)の日次の動きは以下の通りです。
- 4/1(月)303円22銭高・・・米財務長官が米中協議進展を示唆し、NYダウ(3/29)が上昇。新元号で祝賀ムードも。
- 4/2(火)3円72銭安・・・米国株高を受け買い先行となりましたが、21,774円64銭を高値に利益確定売り優勢となりました。
- 4/3(水)207円90銭高・・・米中閣僚級協議で合意が近いとの期待から買われました。
- 4/4(木)11円74銭高・・・前日の米国市場で半導体SOX指数が最高値となり、東京市場でも電機株等が買われました。
- 4/5(金)82円55銭高・・・米株高(4/4)を受け買い先行も、年初来高値(3/4)を超える水準で利益確定売りが増えました。
- 4/8(月)45円85銭安・・・強い雇用統計を背景とする米株高(4/5)で買い先行も、200日移動平均線手前で跳ね返されました。
中国では製造業PMIについて、国家統計局と中国物流購入連合会が共同で行う「政府版」と、大手メディア財新および英国の調査会社IHSマークイットが共同で行う「民間版」の2種類があります。直近では3/31(日)に前者が、4/1(月)に後者が発表されました。2つのPMIはともに、2018/12〜2019/2に好・不況の境目となる50を割り込んでいましたが、2019/3には50以上の水準を回復しました。市場では、政府の経済対策の効果が出てきたと理解され、上海総合指数は約10ヵ月ぶりの高値水準となりました。
4/1(月)の日経平均株価は、3/29(金)のNY株高に加え、中国の「政府版」および「民間版」製造業PMI回復が強い追い風となり、上記のような大幅高になりました。新元号決定の日でもあり、祝賀ムードがあったのかもしれません。さらに、この日に米国で発表されたISM製造業指数も市場予想を上回り、米中ともに経済が底堅いことを印象つけました。
4/5(金)に発表された米雇用統計(3月)では、非農業部門雇用者数が市場予想の17.7万人増を上回り、実績は19.6万人増と強い数字になりました。しかし、時間当たり賃金の伸び率(前年同月比)は市場予想の3.4%増を下回り、実績は3.2%増となりました。「労働市場は強いものの、インフレ高進の心配は少ない」と理解され、政策金利引き上げ停止を決めたFRB(米連邦準備制度理事会)の方針を支持する結果となり、株式市場にとっては程良い内容になりました。
図1 年初来高値水準を回復してきた日経平均株価
- ※当社チャートツールをもとにSBI証券が作成。データは2019/4/9取引時間中
図2:NYダウ(日足)
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは米国時間2019/4/8現在
図3:ドル・円相場(日足)
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは2019/4/9取引時間中
4/12(金)の米国市場では、JPモルガン・チェース、ウェルズ・ファーゴの決算発表が予定されています。この日から同国では、2019年1〜3月期の決算発表が本格化する予定となっています。同四半期の純利益は主要企業全体で前年同期比4.2%の減益になるというのが市場コンセンサスであり、企業サイドが示す利益計画や事業環境のガイダンスに注目が集まることになりそうです。
米国企業の決算発表について、その初期は金融セクターが中心となりますが、4/16(火)のネットフリックスを皮切りに、主力のIT企業でも発表が本格化してきます。4/24(水)にはフェイスブック、4/25(木)にインテル、4/29(月)にアルファベット(グーグルの持株会社)、4/30(火)にアップルが発表の予定となっています。
表1 米国で決算発表シーズンが開始
月日(曜日) |
国・地域 |
予定内容 |
ポイント |
---|---|---|---|
4/9(火) |
日本 |
★決算発表 |
Jフロント他 |
4/10(水) |
日本 |
2月機械受注 |
民間設備投資の先行指標 |
日本 |
★決算発表 |
良品計画、ユニーファミマ、イオン |
|
日本 |
総務省が「5G」実施に向け大手携帯電事業者に電波割り当て |
||
欧州 |
ECB定例理事会 |
||
4/11(木) |
日本 |
3月都心オフィス空室率 |
|
日本 |
★決算発表 |
ローソン、ビックカメラ、安川電機、ファーストリテイリング |
|
中国 |
3月消費者物価 |
市場コンセンサス(前年同月比)は2.3%増 |
|
北朝鮮 |
最高人民会議 |
||
- |
G20財務相・中銀総裁会合 |
||
4/12(金) |
日本 |
オプションSQ |
|
中国 |
3月貿易統計 |
市場コンセンサス(前年同月比・ドル)は輸出6.2%、輸入0.2%増 |
|
英国 |
英国議会がEU離脱案を承認しない場合の離脱期限 |
||
米国 |
☆決算発表 |
JPモルガン・チェース、ウェルズ・ファーゴ他 |
|
4/15(月) |
- |
日米物品貿易協定(ワシントン〜16日) |
|
米国 |
☆決算発表 |
シティG、ゴールドマン・サックス |
|
4/16(火) |
ドイツ |
4月ZEW景況感指数 |
350人のアナリスト、市場関係者に景況感をアンケート |
米国 |
3月鉱工業生産・設備稼働率 |
市場コンセンサス(前月比)は0.3%増 |
|
米国 |
4月NAHB住宅市場指数 |
||
米国 |
☆決算発表 |
バンカメ、IBM、J&J、ネットフリックス |
|
4/17(水) |
日本 |
3月貿易統計 |
|
中国 |
3月都市部固定資産投資 |
市場コンセンサス(前年同月比)は6.3%増 |
|
中国 |
3月鉱工業生産 |
市場コンセンサス(前年同月比)は6.0%増 |
|
中国 |
3月小売売上高 |
市場コンセンサス(前年同月比)は8.4%増 |
|
中国 |
1〜.3月期GDP |
市場コンセンサス(前年同月比)は6.3%増 |
|
- |
OPEC臨時総会(ウィーン) |
||
米国 |
☆決算発表 |
モルガン・スタンレー |
|
4/18(木) |
米国 |
3月小売売上高 |
市場コンセンサス(前月比)は0.5%増 |
米国 |
4月フィラデルフィア連銀製造業景況指数 |
||
米国 |
☆決算発表 |
アメックス他 |
|
4/19(金) |
日本 |
3月消費者物価指数 |
|
米国 |
3月住宅着工件数 |
||
米国 |
株式市場は休場(イースター) |
表2 日米欧中央銀行会議の結果発表予定日(月日は現地時間)
2019年 | |
---|---|
日銀金融政策決定会合 | 4/25(木)、6/20(木)、7/30(火)、9/19(木)、10/31(木)、12/19(木) |
FOMC(米連邦公開市場委員会) | 5/1(水)、6/19(水)、7/31(水)、9/18(水)、10/30(水)、12/11(水) |
ECB(欧州中銀)理事会・金融政策会合 | 4/10(水)、6/6(木)、7/25(木)、9/12(木)、10/24(木)、12/12(木) |
- ※各種報道、日米欧中銀WEBサイト等をもとにSBI証券が作成。「予想」は市場コンセンサス。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合がありますので、あくまでもデータ作成段階のものです。なお、ECB理事会は金融政策の議論・決定を行う会合の日程のみ掲載しました。日付は日本時間(ただし、表2の中央銀行会議の結果発表日程は現地時間)を基準に記載しています。
NT倍率の上昇基調が続いており、足元はむしろ加速する兆しさえ強めています。図4はNT倍率の動きを過去10年にわたってグラフ化したものですが、「右肩上がり」に近い形状になっています。
ご存知の通り、NT倍率は日経平均株価をTOPIX(東証株価指数)で割ったものです。NT倍率が上昇しているということは、日経平均株価がTOPIXに比べると強い状態が続いていることを意味します。そもそも、両者とも我が国の株式市場の動きを象徴する代表的な指数であり、本来はその方向性に大きな違いは出ないと考えるのが普通のように思われます。しかし、実際には差が生じており、当面は拡大する可能性もありそうです。
日経平均株価は選ばれた225銘柄の単純平均がベースとして計算されています。この指数に強く影響を与えるのはファーストリテイリングやソフトバンクGなど、平均株価に採用されている値がさ株と考えられます。これに対し、TOPIXは東証1部に上場している銘柄の時価総額(ただし浮動株を加味)をベースに計算されています。時価総額上位銘柄や業種的には銀行等の影響が強めに出やすいのが特徴ですが、東証1部の銘柄の動きを網羅的に反映しているという側面もあります。
日経平均株価に対しTOPIXが劣後しやすくなっている理由のひとつに、時価総額が小さめの多くの銘柄が東証1部に昇格してきたことがあげられます。また、足元に関して言えば、米国のFRB(連邦準備制度理事会)が政策金利引き上げを停止すると決めたこともあり、銀行株が冴えなくなっていることも影響している可能性があります。
こうした中、東証1部の昇格基準を厳しくするという方向で見直しが進んでいるようですが、ここで難しいのがTOPIXとの関係です。単純に東証1部銘柄数を減らしてしまった場合、TOPIXへの反応をどうするのかが難しいところです。TOPIXは多くの機関投資家がベンチマークとしているだけに、その取扱いには慎重さが求められるところです。
NT倍率の上昇は投資家に対し、「日経平均買い」と「TOPIX売り」を組み合わせる取引のチャンスを提供しており、ヘッシファンド等がそれをベースとしたポジションを構築している可能性もあります。東証1部上場基準の見直しや銀行株の動静は、こうしたNT倍率の動きにも影響を与え、波乱が生じるケースも想定され、注意深いウォッチが必要そうです。
図4 NT倍率(先物ベース・月足)
- ※日経平均およびTOPIX先物価格(期近物)より計算してSBI証券が作成