9月中・下旬に上昇基調を描いてきた東京株式市場ですが、足元は調整気味の展開となっています。株価上昇の速さや米金利上昇に対する警戒感等が重なり、円安・米株高の動きも一服しているためと考えられます。
しかし、トランプ政権の経済対策を勘案した場合、米国では2019年にかけて金利先高観が維持され、日本株に追い風が続くと予想されます。したがって、足元も日経平均株価の25日移動平均線近辺で押し目買のタイミングの到来に期待したいと思います。
日経平均株価(図1)は9/7(金)に一時22,172円90銭まで下げた後は、10/2(火)の24,448円07銭まで10.3%上昇しました。1991年11月以来約27年ぶりの高値水準となっています。
株価上昇の理由は以下の5点と考えられます。
(1)米国経済の強さを示す指標の発表が多かったこと
(2)トルコの想定を超えた利上げ等があり、新興国への不安が後退したこと
(3)中国から米国への輸入2,000億ドルに対する10%の関税決定・実施等により、悪材料出尽くしとなったこと
(4)カナダと米国によるNAFTA(北米自由貿易協定)の見直しが合意に達したこと
(5)日本と米国の物品貿易協議開始が決まり、当面自動車関税が回避される見通しとなったこと
直接的には、これらを背景とする米株高(図2)や米金利上昇、円安・ドル高(図3)が追い風になりました。ただ、10/2(火)を境に日経平均株価のテクニカル指標に過熱感を示唆する材料が増えたことに加え、米国では長期金利の上昇に対する警戒感が強まり、米株高や円安の動きも一服となりました、日経平均株価は10/3(水)から10/9(火)まで4営業日続落となりました。
図1:日経平均株価が調整局面
- ※当社チャートツールをもとにSBI証券が作成。データは2018/10/9現在
図2:NYダウ(日足)
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは米国時間2018/10/9現在
図3:ドル・円相場(日足)
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは2018/10/9取引時間中
10/5(金)に米国で9月雇用統計が発表されました。以下の3点から同統計は強い米労働市場の現状を確認する内容になったと考えられ、同国長期金利の上昇につながったと考えられます。
(1)非農業部門雇用者数は前月比13.4万人増と市場予想を下回ったものの、過去2ヵ月分は8.7万人上方修正されました。
(2)すでに「完全雇用」状態であるにもかかわらず、失業率が3.7%と48年9か月ぶりの低水準まで改善しました。
(3)時間当たり賃金は前年同月比2.8%増でしたが、前年同期の高い伸び率を考えると、今年も大きく伸びたと考えられます。
米国では雇用統計が終ると通常は一息つけるタイミングですが、今週からは7〜9月期の決算発表が始まり、当面は目の離せない状態が続きそうです。S&P500採用企業の増益率は前年同期比で2割程度が期待でき、決算発表が株価の下支え材料になるケースも多いとみられす。
表1:米国で決算発表が本格化
月日(曜日) | 国・地域 | 予定内容 | ポイント |
---|---|---|---|
10/10(水) | 日本 | 8月機械受注 | 設備投資の先行指標 |
日本 | ★決算発表 | イオン他 | |
米国 | 9月生産者物価(食品・エネルギーを除く) | 8月は前年同月比2.3%上昇 | |
10/11(木) | 日本 | 9月都心オフォス空室率 | |
日本 | ★決算発表 | ビックカメラ、7&I HD、ユニー・ファミマ、ファーストリテ他 | |
- | G20財務相・中銀総裁会議(〜10/12) | ||
米国 | 9月消費者物価(食品・エネルギーを除く) | 市場コンサンサス(前年同月比)は2.2%上昇 | |
10/12(金) | 日本 | ★決算発表 | 高島屋、東宝他 |
中国 | 9月貿易収支 | 8月の輸出(ドル建て)は前年同月比9.8%増 | |
米国 | ☆決算発表(7〜9月期決算の企業が発表本格化) | シティ、JPMチェース他 | |
10/15(月) | 米国 | 9月小売売上高 | 米個人消費の強弱を占う |
米国 | 10月NY連銀製造業景況指数 | 米企業マインドのヒントに | |
米国 | ☆決算発表 | バンカメ | |
10/16(火) | 日本 | 9月訪日外客数 | 地震や台風の影響はどの程度か |
中国 | 9月消費者物価 | 前回(前年同月比)は2.3%上昇 | |
ドイツ | 10月ZEW景況感指数 | 350人のアナリストやエコノミスト等に景況感をアンケート | |
米国 | 9月鉱工業生産 | 前回は前月比0.4%増 | |
米国 | NAHB住宅市場指数 | ||
米国 | ☆決算発表 | GS、J&J、モルガンS、ネットフリックス | |
10/17(水) | 欧州 | EU首脳会議 | |
米国 | 9月住宅着工件数 | 前回は前月比9.2%増 | |
米国 | FOMC(9/26発表分)議事録 | ||
10/18(木) | 日本 | 9月貿易統計 | 前回の輸出は前年同月比6.6%増 |
米国 | 10月フィラデルフィア連銀製造業景況指数 | ||
米国 | ☆決算発表 | アメックス、イーベイ、インテュイティブサージカル他 | |
10/19(金) | 日本 | 9月消費者物価 | 前回(生鮮食品を除く・前年同月比)は0.9%上昇 |
中国 | 7〜9月GDP | 前回GDPは前年同月比6.8% | |
中国 | 9月小売売上高 | 前回は前年同月比9.0%増 | |
中国 | 9月鉱工業生産 | 前回は前年同月比6.1%増 | |
中国 | 1〜9月都市部固定資産投資 | 前回(1月〜8月)は前年同期比5.3%増 | |
米国 | 9月中古住宅販売件数 | 市場コンセンサス(前月比)は0.6%減 | |
米国 | ☆決算発表 | P&G他 |
表2:日米欧中央銀行会議の結果発表予定日(月日は現地時間)
2018年 | 2019年 | |
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日銀金融政策決定会合 | 10/31(水)、12/20(木) | 1/23(水)、3/15(金)、4/25(木)、6/20(木) |
FOMC(米連邦公開市場委員会) | 11/8(木)、12/19(水) | 1/30(水)、3/20(水)、5/1(水)、6/19(水) |
ECB(欧州中銀)理事会・金融政策会合 | 10/25(木)、12/13(木) | 1/24(木)、3/7(木)、4/10(水)、6/6(木) |
- ※各種報道、日米欧中銀WEBサイト等をもとにSBI証券が作成。「予想」は市場コンセンサス。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合がありますので、あくまでもデータ作成段階のものです。なお、ECB理事会は金融政策の議論・決定を行う会合の日程のみ掲載しました。日付は日本時間(ただし、表2の中央銀行会議の結果発表日程は現地時間)を基準に記載しています。
米国の雇用統計では多くの指標が発表されますが、一般的に、もっとも投資家の注目を集めてきたのは「非農業部門雇用者数」です。この数字が市場予想を上回ると、米労働市場は強く、逆にこの数字が市場予想を下回ると、米労働市場は弱いと考えるのが一般的です。
無論、伝統的な指標である失業率も重要な指標です。この数字は「失業者数」を「労働力人口」で割って求められますが、「労働力人口」は「生産年齢」である15歳以上で働く意志のある人々を指しています。10/5(金)に発表された米国の失業率は3.7%でしたが、これは48年9ヵ月ぶりの低水準となっています。また、FRBは現状の労働市場はすでに「完全雇用状態」と考えており、そのため、今後さらに失業率が低下すると賃金上昇圧力、しいては物価上昇圧力が加速すると考えられます。
図4は時間当たり賃金(前年同月比)と、FRBが物価指標として重視しているPCE(個人消費)デフレーター(コア)の推移を示したものです、米労働市場が「完全雇用状態」にあることを反映し、時間当たり賃金は徐々に上昇傾向が強まっており、それにつれて物価上昇圧力は強まりつつあると見受けられます。
トランプ米大統領は米労働市場が「完全雇用状態」にあるにもかかわらず、法人減税や投資拡大によって内需を刺激する政策をとっている上、貿易戦争等でさらに雇用を増やそうとしています。仮に、トランプ大統領の望むように、米国が製造業を中心に生産や雇用を増やそうとするならば、賃金上昇圧力が加速する可能性は大きいと考えられます。このため、FRBは当面、引き締め気味の金融政策を採用せざるをえないと考えられます。
FOMCメンバーの予想をまとめると、2018年はあと1回、2019年は3回の政策金利引き上げが実施されるというのが市場コンセンサスとなっています。したがって、当面は米金利先高感からドルが上昇しやすく、日本株も追い風を受けやすいと考えられます。足元の日経平均株価は調整気味となっていますが、25日移動平均線近辺で「押し目買い」を狙う「正攻法」が報われる可能性が大きそうです。
図4:賃金上昇圧力と物価上昇率
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成