「トランプ・ラリー」が高値圏で保ち合う形に転じてきています。日経平均株価はトランプ氏当選が確実になった11/9(水)に付けた安値16,111円を起点に、12/1(木)には一時18,746円まで上昇しましたが、12/5(月)には一時18,227円まで下落しています。急ピッチで上昇してきたことからスピード警戒感が強まったことに加え、イタリアの国民投票(12/4)で改憲に反対する勢力が圧勝し、再びEU(欧州連合)が不安定化しかねないとの懸念が強まったためです。ただ、12/5(月)には金融株がけん引役となってNYダウが再び最高値を更新したため、12/6(火)の東京株式市場は買い先行となっています。
今後はどうなるのでしょうか。日経平均株価のRSI(相対力指数)や騰落レシオは依然、株価が過熱圏にあることを示唆しているので、一応の注意は必要であると考えられます。しかし、今回の上昇相場の背景には、世界的な資金の流れが変化する中で、日本株に資金が回ってきたことが指摘され、そのスケールは意外に大きい可能性があります。残りわずかとなった2016年・年内の調整は限定的となり、2017年に向けて上昇トレンドが維持される可能性は大きいと「225の『ここがPOINT!』」では考えています。
<今週のココがPOINT!>
10月・11月の株価上昇の本質的理由は? |
日経平均株価の月次上昇率は10月が+5.9%で、11月は+5.1%でした。今回の上昇相場は「トランプ・ラリー」と言われることが多いようですが、トランプ氏当選で上昇した11月よりも、10月の方が株価上昇率が大きかった点にも注目したいと思います。10月以降の上昇相場は、米10年国債利回りの保ち合い放れ(10月)もあり、外為市場で円安・ドル高が進み、世界的な資金の流れが変化し始めたことが本質的な要因であると考えられます。トランプ氏の当選でそれらの動きが加速したことが上昇相場につながったのではないでしょうか。
すなわち、10月以降は大統領選挙という不透明要因こそあったものの、基本的には米国の年内利上げ観測が維持される形になりました。失業率は9年ぶりの低水準まで低下しており、基本的に米国経済は強く、将来のインフレ高進への配慮が必要になっているのが現状であると思います。
そうした中、米大統領選挙に当選したトランプ氏は移民を制限する方針であることに加え、製造業の海外移転をけん制する発言を繰り返しており、米製造業のグローバル化にブレーキがかかる可能性が強まっています。さらにトランプ氏は社会インフラ投資の増加を主張しています。安価な労働力へ依存しにくくなることや、海外からの安い輸入品がこれ以上は入りにくくなること、そうした中で内需が刺激されること等、将来インフレ率を高めかねない要因が増えています。さらにOPEC(石油輸出国機構)の減産合意で、原油価格も下がりにくくなると予想されます。将来インフレ率を高めるような要因がここにきて増えていることになります。今後期待インフレ率が上昇し、米長期金利の上昇が続く可能性が強まっています。
一方、日本銀行は金融政策の枠組み変更を通じ、10年国債利回りをゼロ近辺で固定化することを目論んでいます。すなわち、長期金利の方向感は米国が上向きで、日本は横ばいであり、その差である金利差(米国−日本)は拡大が見込まれることから、為替の方向感は円安・ドル高方向に傾きやすくなります。原油価格の安定化や円安が消費者物価を押し上げる要因になるため、日銀が目標とする「デフレからの脱却」も見えてくることになりそうです。
日本株は円安・ドル高で企業業績の回復が見込まれる上、脱デフレも見えてくると考えるならば、息の長い上昇相場が続いても不思議ではないと思います。
図1:日経平均株価(日足)〜上昇ピッチが鈍化
- ※当社チャートツールもとにSBI証券が作成。データは2016/12/5現在。
図2:ドル・円相場(日足)・過去3ヵ月
図3:米10年国債利回り(日足)・過去3ヵ月
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは2016/12/5現在。
当面のタイムスケジュール〜欧米の金融政策をチェックする期間に |
当面のスケジュールの中で要注目なのが現地時間12/8(木)のECB(欧州中銀)定例理事会と、同12/14(水)に結果発表となるFOMC(米連邦公開市場委員会)です。前者については現在2017/3までとなっている債券買い入れ期間をさらに延長するか否かがポイントになっています。また、金利先物市場が示す年内利上げ確率は「100%」を維持しており、FOMCでは政策金利の上限について、現在の0.5%から0.75%に引き上げる可能性が大きくなっています。
12/2(金)に発表された米雇用統計では失業率が前月比0.3%低下し、2007/8以来9年ぶりの低水準となる4.6%となる一方、非農業部門雇用者数は前月比17.8万人増と事前の市場予想を下回りました。労働参加率(労働力人口が生産年齢人口に占める比率)が低下していることや賃金が減少していること等を加味すると、全体的にはやや弱めの結果であったと考えられます。しかし、非農業部門雇用者数の増加数を3ヵ月移動平均でみると月17.6万人増ペースで年間では211万人増のペースです。労働力人口は年間213万人増ペースですので、決して悪い数字ではないと考えられます。労働参加率が低いということは、労働力の供給が少ないということであり、現在の雇用環境が続くと賃金上昇圧力は強まると考えられます。
すなわち、雇用統計の発表を経ても、FOMCが12/14(水)に利上げを発表するとの市場の見方に変化は生じないと考えられます。問題は、逆にそこで円安・ドル高の材料が目先出尽くしてしまう可能性があることです。したがって、むしろFOMCの注目ポイントはFRBが示す2017年の経済見通しや、FRBメンバーの金利見通しになると考えられ、そこで2017年も利上げが続くと市場が確信を持てれば、円安・ドル高トレンドが維持されると予想されます。
表1:当面の重要なタイムスケジュール〜欧州と米国の金融政策をチェックする期間に
月日(曜日) |
国・地域 |
予定内容 |
ポイント |
---|---|---|---|
12/8(木) | 日本 | GDP改定値(推計値で新基準) | 1次速報値は前期比・年率+2.2%。市場予想は同+2.3% |
日本 | 11月都心オフィス空室率 | 10月は3.64% | |
日本 | 11月景気ウォッチャー調査 | 景気に敏感な職業の人々が報告する「街角景気」 | |
中国 | 11月貿易統計 | 収支以上に輸出や輸入の増減が重要。市場予想で輸出は-5% | |
欧州 | ECB定例理事会(ドラギ総裁会見) | (1)債券買取期間(〜17/3)延長は?(2)国債買取条件の緩和は? | |
12/9(金) | 日本 | 10〜12月期法人企業景気予測調査 | |
日本 | メジャーSQ | 裁定買い残は9月3千億円台から1.5兆円に。ただし2013/5の4.3兆円から減少 | |
中国 | 11月消費者物価 | 10月は前年同月比+2.1% | |
米国 | 12月ミシガン大学消費者マインド指数 | 9月91.2、10月87.2、11月93.8 | |
12/12(月) | 日本 | 10月機械受注 | 民間設備投資の先行指標 |
12/13(火) | 中国 | 11月鉱工業生産 | 市場予想は前年同月比+6.1% |
中国 | 11月小売売上高 | 市場予想は前年同月比+10.2% | |
中国 | 11月都市部固定資産投資(1〜11月) | 市場予想は前年同期比+8.3% | |
独 | 12月ZEW景況感指数 | 今後6ヵ月の景況感をアナリストや機関投資家等350人にアンケート | |
12/14(水) | 日本 | 12月調査日銀短観 | 大企業製造業の業況判断指数は3月、6月、9月ともに+6 |
米国 | 11月小売売上高 | 一般的に実勢は「自動車・ガソリンを除く」の部分で判断 | |
米国 | 11月鉱工業生産・設備稼働率 | 市場予想では前月比-0.35% | |
米国 | FOMC結果発表(日本時間15日未明) | 市場では政策金利(上限)が0.5%から0.75%へ引き上げられると予想 | |
12/15(木) | 日本 | プーチン露大統領来日(〜16日) | 経済協力プランの中身や平和条約締結交渉への影響に注目 |
欧州 | EU首脳会議 | ポピュリズムが台頭する中でEUの結束は? | |
米国 | 11月消費者物価指数 | 食品・エネルギーを除く指数で市場予想は前年同月比+2.1% | |
米国 | 12月フィラデルフィア連銀製造業景況感指数 | ISM製造業指数に次ぎ重要とみられる地区連銀製造業指数 | |
米国 | 12月NAHB住宅市場指数 | 全米住宅建設業者協会(NAHB)が今後半年の住宅販売予想をアンケート | |
12/16(金) | 米国 | 11月住宅着工件数 | 市場予想は前月比-6.8% |
表2:日米中央銀行会議の結果発表予定日
2016年 | 2017年 | |
---|---|---|
日銀金融政策決定会合 | 12/20(火) | 1/31(火)、3/16(木)、4/27(木)、6/16(金)、7/20(木) |
FOMC(米連邦公開市場委員会) | 12/14(水) | 2/1(水)、3/15(水)、5/3(水)、6/14(水)、7/26(水) |
※各種報道等をもとにSBI証券が作成。「予想」は市場コンセンサス。データは2016/12/6現在。予定は予告なく変更される場合がありますので、あくまでもデータ作成段階のものです。
【ココがPOINT!】「米長期金利の歴史的ボトムアウト」が日本株の「大相場」につながる? |
日本株は2017年にかけて予想外の「大相場」になる可能性も否定できないと思います。世界的な資金の流れが大きく変化する可能性があるためです。
図4は米10年国債利回りとドル・円相場の長期推移をひとつのグラフにまとめたものです。米10年国債利回りは1981/9には15.8%という高水準を付けていましたが、その後は長期低下トレンドを辿り、2012/7には1.46%という歴史的低水準を付けました。その後は一時3%近辺まで戻しましたが、2016/7には再び1.45%というボトムを付けています。米10年国債利回りは12/5(月)現在は2.40%ですが、雄大なW底形成からのリバウンドということになると、予想外の上昇になる可能性があります。
米10年国債利回りが長期にわたって低下してきた背景には、米国の期待成長率の低下があると思います。1978/6には年率16.5%の成長を遂げたこともある米国経済ですが、近年はおおむね年率5%以下で推移していることが図5からもわかります。現在、米国の潜在成長率は2%前後と考えられており、基本的にはこうした低成長トレンドから脱却できない限り、10年国債利回りの上昇にも限界があるとみられます。ただ、トランプ次期米大統領は4%成長を目指し、財政政策と減税を大規模に推進してくるとみられます。米国経済の成長率が少なくとも今よりは高まってくる可能性は十分あるとみられます。
市場では少なくとも、ゼロ金利の限界を示唆し始めた日欧を含め、先進国の金利はボトムアウト(債券市場はピークアウト)していると考え始めているようです。このため、債券市場から株式市場へ、新興国から先進国へ資金が大きく動く可能性が出てきました。そうした中、2016年に円高に苦しんだ日本経済は2017年以降、円安による企業業績の回復や物価の底打ちというシナリオが描きやすく、株価は予想外の上昇になる可能性もありそうです。
図4:米10年国債とドル・円相場(月足)
図5:米国のGDP成長率(四半期・年率・%)
- ※Bloombergデータを用いてSBI証券が作成。データは2016/12/5現在。
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