注目されていたジャクソンホール会合におけるイエレンFRB議長の講演では、米政策金利の引き上げに前向きな姿勢が示されました。その少し後にフィッシャーFRB副議長が9月利上げの可能性も示唆したことで、米国が年内に再利上げに踏み切る可能性が一気に高まることになりました。
こうした中、9/2(金)に8月米雇用統計が発表されます。非農業部門雇用者数の事前の市場予想は前月比18万人増ですが、仮にその通りであれば3ヵ月平均では月24.2万人増となり、利上げの確度が一層高まり、円安・ドル高の進展や日経平均株価の上昇が予想されます。逆に数字が弱ければ、円高・ドル安や日経平均株価の下落につながる可能性があります。
8月米雇用統計は、その後の米金融政策に「直結」しやすいという意味で一層重要度が増したとみられます。
「ジャクソンホール会合」を受け大幅高も、依然保ち合い圏内 |
8/22(月)〜8/26(金)の東京株式市場は様子見気分の強い展開でした。ジャクソンホール会合におけるイエレンFRB(米連邦準備制度理事会)議長の講演を8/26に控え、ポジションを取りにくい状況となったためです。東証一部の売買代金は1営業日あたり平均で1.76兆円にとどまり、前週比で1割弱減少しました。
こうした中、イエレン議長は8/26の講演で「米雇用が改善し、追加利上げの条件は整ってきた」と述べ、昨年12月に続く利上げに意欲を示しました。これに続きフィッシャー副議長もイエレン議長の発言について、「9月利上げの可能性を残すもの」と説明しました。FRB正副議長による一連の発言を受け、金利先物市場が示唆する9月利上げの可能性は42%に、年内利上げの可能性は63%に上昇しました。
これらを受け、外為市場では8/26(金)に1ドル100円06銭から102円10銭へと円高・ドル安が進展し、週明けの8/29(月)には一時1ドル102円39銭まで円安・ドル高となりました。その結果、同じ日の東京株式市場では日経平均株価が前週末比376円高の16,737円まで買われる展開となりました。続く8/30(火)は朝方に利益確定売りが先行する場面もありましたが、その後は底固い動きとなりました。
こうした中、9/2(金)に8月米雇用統計が発表されます。非農業部門雇用者数は6月が前月比29.2万人増、7月が25.5万人増で、今回8月の市場予想は前月比18万人増です。仮に8月がその通りになれば3ヵ月平均では月24.2万人増となり、利上げの確度が一層高まり、円安・ドル高の進展や日経平均株価の上昇が予想されます。逆に数字が弱ければ、円高・ドル安や日経平均株価の下落につながる可能性があります。
今度の米雇用統計は、その後の米金融政策に「直結」しやすいという意味で一層重要になったとみられます。日経平均株価はジャクソンホール会合以降も「保ち合い」の圏内にとどまっていますが、雇用統計次第では「保ち合い放れ」も期待できそうです。
図1:日経平均株価(日足)〜17,000円直前に「壁」が存在
- ※当社チャートツールもとにSBI証券が作成。データは2016/8/30現在。
図2はドル・円相場(日足)の動きです。8/16(火)に一時1ドル99円53銭の円高・ドル安水準を付けましたが、その後は円安・ドル高気味の展開となっています。上記したようにジャクソンホール会合におけるイエレン議長の講演を受け、8/29(月)には一時102円39銭まで円安・ドル高となりました。
図3は米10年国債利回りの推移で、その利回り上昇はドル高要因に、逆に利回り低下はドル安要因になります。FRBが政策金利を引き上げた2015/12には年2.2%を超えていましたが、その後は米景気・企業業績への不透明感や新興国経済への不安、Brexit(英国のEU離脱)問題等があり、2016/7には1.3%台まで低下しました。この米10年国債利回りの低下は強いドル安要因となり、ドル・円相場を1ドル100円割れに導く「エンジン役」となりました。
その米10年国債利回りもようやく1.6%台に水準を戻してきています。米10年国債利回りのボトムアウト感が強まってくれば、円安・ドル高の傾向が強まってくると予想されます。
図2:ドル・円相場(日足)・過去3ヵ月
図3:米10年国債利回り・過去1年
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは2016/8/30現在。
当面のタイムスケジュール〜一層重要になった8月米雇用統計 |
無論、FRBは何が何でも利上げをしたいという訳ではありません。米経済指標が緩やかに拡大し、物価上昇も抑制される中で、ゆっくりと利上げを行っていくことが「理想」のようにも思われます。そのためにも、FRBは引き続き、経済指標をひとつひとつ確認していく構えです。ただ、8月の雇用統計は上記したように、9/21(水)に結果発表のFOMCでの判断に「直結」するだけに、いつにも増して重要になったと考えられます。なお、雇用統計に向け、ADP雇用統計(8/31)やISM製造業景況指数等の重要指標にも注目しておく必要がありそうです。
その後は9/5(月)の黒田日銀総裁講演や、9/9(金)のメジャーSQが重要日程と考えられます。
表1:当面の重要なタイムスケジュール/いっそう重要になった8月米雇用統計
月日(曜日) |
国・地域 |
予定内容 |
ポイント |
---|---|---|---|
8/30(火) | 日本 |
7月有効求人倍率/失業率 |
7月は有効求人倍率は1.38倍、失業率は3.1%の予想 |
米国 |
6月S&Pコアロジック/ケースシラー住宅価格指数 |
5月は前年同月比5.24%上昇。6月予想は5.1%上昇 |
|
米国 |
6月コンファレンスボード消費者信頼感指数 |
予想は97.0 |
|
8/31(水) |
日本 |
7月鉱工業生産・設備稼働率(前月比) |
6月の鉱工業生産は前月比+2.3%。稼働率は+1.5% |
米国 |
8月シカゴ購買部協会景況指数 |
7月55.8%から8月は54.5の予想。 |
|
米国 |
8月ADP雇用統計 |
民間雇用者数の8月予想は前月比17.5万人増 |
|
9/1(木) |
日本 |
法人企業統計(設備投資) |
4〜6月期予想は5.5%増 |
米国 |
8月自動車販売台数(年率) |
7月は1,777万台。8月予想は1,720万台 |
|
米国 |
8月ISM製造業景況指数 |
米企業マインドを計測する最重要指標のひとつ。7月は52.6で8月予想は52.2 |
|
中国 |
8月製造業PMI |
予想は景況感の良し悪しの境目となる50を若干下回る49.8 |
|
9/2(金) |
日本 |
ロシアと首脳会議(〜9/3) |
|
米国 |
8月雇用統計〜非農業部門雇用者数 |
7月は前月比+25.5万人。8月は同+18.0万人の予想 |
|
米国 |
8月雇用統計〜失業率 |
7月は4.9%。8月は4.8%の予想。労働時間や賃金の増減にも注目 |
|
9/4(日) |
中国 |
G20首脳会議(杭州) |
|
9/5(月) |
日本 |
黒田日銀総裁が講演 |
|
米国 |
◎米国市場は休場(レーバーデー) |
||
9/6(火) |
米国 |
ISM非製造業指数 |
雇用統計の後だけに注目度は低下? |
9/7(水) |
米国 |
ベージュブック |
米金融政策の判断材料。内容に注目 |
9/8(木) |
日本 |
4〜6月期GDP改定値 |
前回は+0.2% |
日本 |
8月の都心オフィス空室率 |
||
日本 |
8月景気ウォッチャー指数 |
||
中国 |
8月貿易収支 |
||
欧州 |
ECB定例理事会・ドラギ総裁会見 |
||
9/9(金) |
日本 |
メジャーSQ |
裁定買い残が過去最低水準に近く波乱の要素は少ない? |
中国 |
8月消費者物価 |
表2:日米中央銀行会議の結果発表予定日
|
2016年 |
2017年 |
---|---|---|
日銀金融政策決定会合 |
9/21(水)、11/1(火)、12/20(火) |
1/31(火)、3/16(木)、4/27(木) |
FOMC(米連邦公開市場委員会) |
9/21(水)、11/2(水)、12/14(水) |
2/1(水)、3/15(水) |
※各種報道等をもとにSBI証券が作成。「予想」は市場コンセンサス。データは2016/8/30現在。予定は予告なく変更される場合がありますので、あくまでもデータ作成段階のものです。
【ココがPOINT!】8月雇用統計のポイントは? |
これまでご説明してきた通り、8月の雇用統計は9/21(水)結果発表のFOMCに「直結」するとみられるので、いつも以上に重要であると考えられます。
図4は米非農業部門雇用者数(前月比増減・千人)について、2009年以降の推移をみたものです。我々がメディア等を通じてデータとしてみるのは「季節調整済み」の数字です。「季節調整」を施すからこそ、連続した月次データとして使えることになりますが、それが市場参加者の予想を難しくしている面もあるようで、事前予想から大きく外れることも珍しくない「エコノミスト泣かせ」の経済指標であると言えます。
上述したように、米雇用統計における非農業部門雇用者数(前月比)は6月+29.2万人、7月+25.5万人でしたが、3ヵ月平均で平滑化すると7月は+20.8万人、12ヵ月平均では+19.0万人となっています。月次のブレを補正すればおおよそ20万人前後で順調に拡大していると言えそうです。8月が仮に市場予想通り+18万人とすると、3ヵ月移動では24.2万人となりますので、十分強い数字であるとみなされます。
もっとも、強い雇用統計だけがFRBに利上げを促す訳ではありません。「雇用」も政策対象としているFRBとしてはむしろ、強い雇用統計は素直に喜ぶべきといえるかもしれません。しかし、往々にして労働市場の好調が続いてくると、残業が増え、労働時間が伸び、賃金が増え、それが物価上昇につながってくることになります。インフレ抑制はFRBのもうひとつの政策目標です。従って、労働市場が強過ぎ、インフレ高進の恐れがあるとき、FRBは金融を引き締めることになります。
図5は、米国の物価上昇率の推移をみたものです。消費者物価上昇率(前年同月比)は2.3%で加速する兆しをみせています。それでも、FRBが政策金利引き上げを急がなくて済んだのはPCEデフレータ(FRBが重視する物価指標)が比較的落ち着いているからですが、これも加速する兆しをみせています。雇用統計ではこうした物価上昇につながる労働時間や時間当たり賃金の増減にも注意する必要がありそうです。
雇用統計のヒントになり、毎週データの発表がある新規失業保険申請件数ですが、着実に減少傾向をたどっているように思われます。雇用統計が強い数字となり、米政策金利の引き上げが濃厚となり、円安・ドル高、株高になる可能性は十分あると考えられます。
図4:米非農業部門雇用者数(前月比増減・千人)
図5:米国の物価上昇率(前年同月比・%)
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
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