Brexit(英国のEU離脱)を警戒した世界の為替・株式市場の混乱は収束しつつあります。国民投票の当事国である英国ではむしろ株価が年初来高値を更新しており、日本株の出遅れが目立っています。他の国・地域に比べ、全面的な円高が景気・企業業績に悪影響を与えると懸念されたためです。
しかし、日経平均を「ドル建て」に再評価し、海外投資家のような視線で見直すと違った景色になります。日経平均は三角保ち合いを形成し底固い動きになっています。日本株に投資を促す要因もいくつかありそうです。
<今週のココがPOINT!>
Brexit(英国のEU離脱)問題による当面の相場混乱は一巡 |
6/23(木)に実施された英国民投票は日本時間6/24(金)に結果が判明し、EU(欧州連合)離脱派が勝利を収めました。それを開票速報とともに織り込む形となった日経平均株価は前日比1,286円安の波乱となり、終値は2/12(金)以来の1万5千円台割れとなってしまいました。しかし、日経平均株価はそこをボトムに反発に転じ、7/4(月)には一時15,800円台を回復しています。Brexit(英国のEU離脱)による当面の波乱は収束しつつあります。
国民投票の当事国である英国では6/24(金)・6/27(月)と株価が下げたものの、その後は上昇に転じ、結局年初来高値更新となっています。米国NYダウも6/24・6/27と下げた後は7/1(金)まで4日続伸となっています。英国民投票で「EU離脱」は決まったものの、実際に「離脱」が成立するまでは数年を要する見込みであり、短期的な材料としては一巡した可能性が大きいとみられます。一時は世界的な経済危機につながるとの指摘もありましたが、世界の金融当局がドル供給に向けた備えを構築していたこともあり、混乱は未然に防がれた格好です。
ちなみに、英国民投票の結果を受けて日経平均株価が急落した6/24(金)を最終日とする1週間、日経平均の下落率は4%を超え、主要国ではイタリアにつぐ大きな下落率になりました。同じ期間に英国などは逆に上昇しています。英国経済や欧州経済に対する懸念材料であるにもかかわらず、なぜ日経平均株価の方が大きな下げになったのでしょうか。
図1は過去3ヵ月の日経平均株価の推移を主要な出来事とともに振り返ったものです。結局、日経平均株価の下げが大きくなったのは、円が全面高となり、輸出の悪化を通じ景気・企業業績への悪影響が心配されたことが強く影響していると考えられます。4/25頃に1ドル111円台にあったドル・円相場は結局、2ヵ月で1割を超える円高・ドル安になってしまいました。その背景には、米雇用の回復が頭打ちになり、利上げペースが緩やかになるという「ドル安」要因に加え、日銀が連続で追加緩和を見送るという「円高」要因が重なったことが大きいと思われます。
確かに、日本経済を映す鏡として日経平均を自国通貨建で評価するならば、円高が景気・企業業績に与える影響は懸念材料です。2016/4〜6期のドル・円相場は期中平均で1ドル108円となりましたが、前年同期比で11%の円高・ドル安ですので、輸出企業を中心に悪影響が顕在化してくる可能性があります。ただ、日経平均を日本人としてではなく、外国人としてながめたと仮定した場合、違った景色が見えてくることになります。
図1:日経平均株価(日足)〜英国民投票開票日(6/24)を底に反発局面
- ※当社チャートツールをもとにSBI証券が作成。データは2016/7/4現在。
当面のタイムスケジュール〜6月の米雇用統計および米決算発表が重要 |
当面のタイムスケジュールの中ではまず、7/8(金)の米雇用統計(6月)が重要です。英国民投票後のマーケットが仮に、現在よりも混乱した状態であったならば、「米国の年内利上げは無理」という見方が支配的となり、逆に雇用統計への関心は低くなっていたかもしれません。しかし、英国民投票後のマーケットが比較的落ち着いているため、FRB(米連邦準備制度理事会)が年内に1回程度利上げできる可能性は残ったとみられます。このため、雇用統計については平常通りキッチリとチェックしておく必要がありそうです。
7/8(金)に発表が予定されている米雇用統計については、市場でもっとも注目される「非農業部門雇用者数」の伸び(前月比)が17.5万人程度と予想(7/5現在)されています。当日に発表される実数がこれよりも多く、20万人前後に回復するようであれば、米国の利上げ観測が再び強まり、ドル高・円安が進む可能性が出てきそうです。
ちなみに、前回の雇用統計(6/3発表・5月分)は非農業部門雇用者数が事前予想の16.4万人増に対し、実数は3.8万人増と大幅に下回ってしまいました。これを受けて市場では円高・ドル安方向への動きが強まりました。今回も事前予想を下回ると、外為市場や株式市場の波乱につながる可能性がありますので、注意が必要です。ちなみに、週次で発表される「新規失業保険申請件数」は確かに、3月・4月に比べ5月は多めになっていましたので、悪い雇用統計を示唆していた可能性があります。ちなみに、「新規失業保険申請件数」は6月に入り、5月ほど多くはないものの、3月・4月と比べれば多めの水準となっています。
米雇用統計の発表を終えると、週末の休みをはさんだ週明けの7/11(月)には、米非鉄大手アルコアの決算が予定されています。アルコアの決算は同社の業績が重要というよりも、米決算発表シーズンの幕開けを示すという象徴的な意味合いの方が大きいと思われます。事実、同じ週の後半には米金融大手の決算発表が予定されています。また、翌週には日本企業の決算発表も開始されますので、アルコアの決算発表は「日米上場企業の決算発表シーズンの幕開け」を示すスケジュールと言えます。
表1:当面の重要なタイムスケジュール/6月の米雇用統計
月日(曜日) |
国・地域 |
予定内容 |
ポイント |
---|---|---|---|
7/5(火) |
米国 |
5月製造業受注 |
|
7/6(水) |
米国 |
6月ISM非製造業指数 |
新規受注や雇用指数など内訳もヒントに |
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米国 |
FOMC議事録 |
6/15結果発表の分について |
7/7(木) |
日本 |
景気動向指数 |
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日本 |
◎決算発表〜セブン&アイ他 |
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米国 |
6月ADP雇用統計 |
労働省発表雇用統計の先行指標 |
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- |
イスラム世界でラマダーン明け |
|
7/8(金) |
日本 |
◎決算発表〜小売を中心に73社が予定 |
|
|
米国 |
6月雇用統計 |
雇用者数(前月比)は前回38千人増から6月は175千人増の予想 |
7/10(日) |
日本 |
参議院選挙投開票 |
改選121議席に対し、自公で計61議席以上なら与党「勝利」 |
7/11(月) |
日本 |
5月機械受注 |
前月比増減は3月+5.5%、4月-11.0%と推移 |
|
米国 |
★米決算発表〜アルコア |
米4〜6月期の決算発表シーズンが幕開け |
7/12(火) |
日本 |
6月国内企業物価 |
前回は前年同月比4.8%増 |
7/13(水) |
中国 |
6月貿易収支 |
輸出(前年同月比)は同4.0%減の予想 |
|
米国 |
ベージュブック(地区連銀経済報告) |
金融政策の判断材料 |
7/14(木) |
日本 |
首都圏マンション発売 |
|
|
英国 |
BOE金融政策委員会 |
政策金利0.5%から利下げはあるのか? |
|
米国 |
★米決算発表〜JPモルガン・チェース |
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7/15(金) |
日本 |
LINE(3938)が新規上場 |
|
|
中国 |
4〜6月期GDP |
1〜3月は前年同期比6.7%成長。4〜6月期は同6.6%成長の予想 |
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中国 |
6月鉱工業生産 |
前年同月比で5月+6.0%から6月は+5.9%増の予想 |
|
中国 |
6月小売売上高 |
前年同月日は5月と同じ10%増の予想 |
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米国 |
NY連銀製造業景気指数 |
|
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米国 |
6月鉱工業生産・設備稼働率 |
|
|
米国 |
7月ミシガン大学消費者信頼感指数 |
|
|
米国 |
★米決算発表〜シティグループ他 |
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7/18(月) |
日本 |
東京市場は休場(海の日) |
|
7/19(火) |
日本 |
東証マザーズ指数先物上場 |
|
7/20(水) |
日本 |
◎決算発表〜安川電機他 |
日本の4〜6月期決算発表シーズンが幕開け |
7/21(木) |
欧州 |
ECB(欧州中銀)理事会 |
|
7/27(水) |
米国 |
FOMCの結果発表 |
利上げ観測が後退する中でのFRBの考え方は? |
7/29(金) |
日本 |
日銀金融政策決定会合結果発表 |
追加金融緩和はあるのか? |
- ※各種報道等をもとにSBI証券が作成。予想は市場コンセンサス。データは2016/6/28現在。
【ココがPOINT!】「外国人のスタンス」ならどう見える?別の景色が見えてくる? |
日経平均株価は2015/6/24(水)に高値20,952円を付け、そのちょうど1年後の2016/6/24(金)に14,952円まで約29%の下落となりました。結局、外為市場では2015/6の1ドル125円台がこの2016/6/24(金)には1ドル99円台まで円高・ドル安となっていますので、「円高が株安の大きな要因」と考えてよいかと思われます。図2の日経平均(円建て)は、ようやくW底を確認したかのような形になっています。
しかし、この日経平均を図3のように、ドル建てやユーロ建てでみた場合、少し違う景色が見えてきます。このうち、特にドル建てで見たチャートが図3となりますが、底値形成(円建て)というよりも「三角保ち合い形成」に向かっているように思われます。
ドル建ての日経平均は、米国人に象徴されるドル圏の投資家から見た日経平均の値動き(為替ヘッジなし)を示しているという部分があります。すなわち、ドル建てですので、円高・ドル安になるほど、このグラフは上に行きやすいことになります。外国人から見れば、円高による景気・企業業績の悪化は、円資産の上昇である程度相殺できると考えられます。したがって、ドル建て日経平均は、円建てよりも底堅いイメージになる訳です。
海外投資家の目線で改めて日本の政治経済を考えた場合、
(1)欧米では今後国政選挙が多く予定され、現在の政権を否定するような動きが増えてきそうだが、日本は当面政治の安定が期待できること、
(2)米国はいずれ金融引き締めが見込まれるが、日本は当面、金融緩和状態が続くとみられること、
(3)今後、欧州が分断しやすくなるとしても、日本はそこから遠く離れている上、貿易面でも影響が小さいとみられること
(4)日本には景気浮揚のための財政出動等、政策余地が残されていること
という複数のプラス要因が考えられ、十分投資対象になってくると考えられます。
図2:日経平均株価(日足)とそのドル換算値、ユーロ換算値
- BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図3:ドル建て日経平均株価と主要移動平均株価
- BloombergデータをもとにSBI証券が作成
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