【中国恒大の債務問題Q&A】
中国の不動産開発大手、中国恒大集団(03333)の債務不履行懸念を受けて香港市場だけでなく、世界株式市場でもリスク回避の売りが広がっています。
「リーマンショック再来か?」との懸念も強まる中、中国恒大の債務問題はどうなるのか。債務問題の実態と中国現地の動きをQ&A形式でご紹介します。
Q1:中国恒大はどんな企業?
中国の不動産開発大手で、販売額ベース(2020年)ではカントリーガーデン(02007)に次ぐ第2位です。ただ、中国の不動産市場は規模が大きく、参入企業が多いこともあり、業界2位でも市場シェアは4-5%程度です。
Q2:中国恒大はなぜ債務問題に?
一言でいうと、同社の「無謀なリスク選好」が最大の原因のようです。
同社は中国の不動産市場が鈍化しているにもかかわらず、過去数年間で高利での資金調達を続け、事業拡大を図ってきました。それだけにとどまらず、本業以外に、テーマパークからミネラルウオーターの生産、電気自動車(EV)まで新しい産業へ次々と参入しました。しかし、新規事業はいずれも不振で、たとえば電気自動車(EV)は収益化どころか、量産の目途もたっていないのが現状です。「過剰な借り入れ+本業での収益悪化+新規事業の不振」が続いた結果、債務返済に追われています。
Q3:なぜ今になって債務不履行懸念リスクか?
中国当局は昨年末より不動産市場に対する融資を引き締めています。特に不動産開発に対しては、一定基準“3条紅線”を満たさない企業の資金調達を禁じるとしました。
なお、“3条紅線”とは、1)総資産負債比率が70%を上回らないこと、2)自己資本負債比率が100%を上回らないこと、3)現金に対する短期負債の比率が100%を上回らないことです。
中国恒大の場合は、2020年12月末時点で「3条紅線」のすべてに抵触し、新たな資金調達ができなくなりました。その後、2021年上期に資産売却による返済を進めた結果、2021年6月末時点は上記の2)をクリアしましたが、手元資金の不足で2021年9月20日の週に控えている利払いが行えない見通しとなりました。
Q4:中国恒大債務問題はリーマンショック級危機につながる?
中国恒大のデフォルトリスクを受け、市場では「リーマンショック再来?」との懸念が強まっています。
背景には、中国恒大とリーマン・ブラザーズには下記2つの共通点があるからです。
1)債務規模が大きいこと
2)不動産市場に関連すること
一方、中国恒大とリーマン・ブラザーズには、明らかな違いがあります。
1)中国恒大は不動産デベロッパーであり、リーマン・ブラザーズは投資銀行です。中国恒大の場合は、一事業会社による無謀な事業拡大と多角化の失敗によるものです。リーマン・ブラザーズの破綻は、サブプライムローン問題を裏づけにした証券化商品が原因です。
2)中国恒大の主な負債は債券や買掛金、未払金、投資信託などで、いわば一般的な債務です。リーマン・ブラザーズの場合は、複雑なデリバティブ取引に多くの金融機関が絡んでいました。また、中国恒大の場合は、ドル建て債は海外投資家が多く保有していますが、中国国内で発行している人民元建て債は中国の主要銀行が主な債権者となっています。いわば、中国当局の意向が及ぶ範囲といえます。
Q5:中国当局の意向は?
現時点で、中国恒大の債務問題をめぐる当局の意向は不透明です。中国当局からすれば、システマティック・リスクは是非とも回避したいところですが、中国恒大を救済すればモラルハザードを助長しかねません。また、「共同富裕」を最終目標に掲げている習近平政権からすると、不動産価格の下落はある程度許容できる範囲だと思います。
一方、不動産市場がハードランディングすると、中国経済全体に打撃を与えかねません。中国当局にしてみれば、これまでと同様に不動産市場をソフトランディングさせることがメインシナリオとなりそうです。したがって、中国当局が不動産に対する締め付けを完全に撤回する可能性は低いかもしれないが、システマティック・リスクの回避のために、必要なら政策の微調整を行う可能性はあると思います。
Q6:中国当局のこれまでの動きは?(直近の動きから)
9月17日:中国人民銀行は金融システムへの短期資金供給を増やしました。供給額は今年2月以来の規模で、中国恒大の債務問題を受けた流動性供給とみられます。
9月15日:中国住宅都市農村建設省は、中国恒大は9月20日が期限の利払いができない見込みと主要銀行に通知しました。中国恒大は債務返済期限の延長などをめぐって債権銀行と交渉を続けているもようです。
8月:中国恒大が本社を置く広東省の当局者は、中国恒大に再編などを専門とする法律事務所、キング・アンド・ウッド・マレソンズ(金杜律師事務所)からチームを派遣しました。中国恒大の債務再編に向けた動きとみられます。
6月:中国の国務院金融安定発展委員会は、中国恒大へのエクスポージャー巡り銀行にストレステスト指示しました。監督当局が中国恒大へのエクスポージャーについて銀行に報告を求めるのは今回が初めではないです。中国恒大の債務問題について、中国の監督当局は既に早い段階からある程度把握していることを示唆します。
Q7:香港・中国株式市場への影響は?
中国恒大の債務問題を受け、香港市場をはじめに中国株式市場はここ1-2週間調整しました。調整幅で比較した時に、中国本土市場よりも香港市場が大きいです。その背景には、以下2点が挙げられます。
1)海外投資家は中国本土投資家よりも中国に対して悲観的になりやすい傾向があります。過去の経験からすると、中国の突発的な出来事に対する投資家の反応は、中国との距離感と中国に対する理解度に反比例するようです。
2)9月21-22日の米FOMCを控え、世界株式市場ではFRBの「タカ派的な姿勢」に対する警戒が強く、全般的にリスク回避になりやすい地合いにあります。
短期的にみて、相場全体の地合いも合わせて考えると、香港および中国株式市場は神経質な展開となりそうです。目先は中国恒大が9月23日に控えている利払いを実施できるかどうかが注目を集めそうです。中国当局が中国恒大に対して強硬姿勢に出れば、一段のリスク回避の売りにつながりかねます。一方、中国当局はシステマティック・リスク回避の意向と回避に向けた打つ手はあると考えます。経済や市場への影響を考えると、中国恒大の債務再編はショック療法よりも秩序ある再編となるでしょう。
Q8:日本株市場への影響は?
上記の様に、香港および中国株式市場については、短期的に神経質な展開が予想されることから、日本株にも下落リスクが残りそうです。ただ、中国政府当局の出方が次第に明らかになり、こうした債務問題から「秩序ある再編」がみえてくれば、日本株式市場の立ち直りは相対的に早くなるかもしれません。
9/21(火)の日本株の物色状況をみると、中国関連株が売られる反面、新型コロナウイルスの収束をにらみ、陸運や空運を物色する動きも出ているようです。また、新型コロナウイルスの感染拡大がこのまま減速を続ければ、再び“リベンジ消費”を織り込む動きが本格化する可能性もありそうです。
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