昨年末、「掉尾の一振」を見せた日経平均は、大納会前の2日間で1000円近く上昇、27000円の大台を突破した。そして、直近2年ほどは波乱に見舞われていた年明け1月も、日経平均は堅調な滑り出しをみせた。
米ジョージア州の上院決選投票という大きなイベントを前に大発会から6日までは警戒感からの調整が続いたが、結果が判明した7日以降は政治の先行き不透明感が大きく後退、イベント通過に伴うあく抜け感から一気に待機資金が流入し大幅高となった。米民主党が政権および議会で圧倒的多数を占める「ブルーウェーブ」が実現すれば、増税や規制強化のほか、財政悪化に伴う米長期金利の上昇など、マーケットにとってネガティブな材料が出てくるのではという事前の警戒はどこ吹く風といった様子で、イベント通過後の世界の株式市場は大きく上昇し、日経平均は28000円をも突破した。
コロナ禍ではまず経済対策が優先され、増税や規制強化といったネガティブな政策は当分先になるだろうという、ご都合主義の解釈が先行した。これにより、イベント後の急落を見込んで空売りをしていた投資家が買い戻しを迫られたほか、イベント前に様子見姿勢を決めていた投資家による待機資金が一気に流入しするなどして、需給環境がさらに良化した。米長期金利についても、年明けのウェブシンポジウムにおいてパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が「出口議論は時期尚早」と改めて強力な金融緩和姿勢を強調し、こうした金融環境も追い風となった。
しかし、日本では年明け早々に緊急事態宣言が再発出されたほか、感染力が強いとされる変異型の新型コロナウイルスが蔓延するなど世界的な感染第3波には収束の兆しがみられていない。それにも関わらず株高基調が崩れない背景には、「ワクチンが普及すればコロナはいずれ収束するだろう」、「いざという時には追加の財政金融政策が下支えしてくれるだろう」という楽観的な見方が強く存在していることがある。
もちろん、大規模金融緩和政策により生み出された過剰流動性や、世界的なゼロ金利など、過去にない市場環境を背景にこれまでの株高には一定の合理性があるとする意見も多く、筆者自身も頷ける面があると考えている。しかし、オプション絡みの取引も相まって米国のテスラ株が「合理的なバブル」という言葉ですら正当化できないほどに上昇し続けていることや、SNSで結集した素人個人投資家がゲームストップ株を買い上げ、ヘッジファンドが救済資金を受け取る事態に陥るなど、米国では一部で過熱的な取引が行われている。
こうした過熱的な取引を警戒してか、当欄執筆時である1月28日時点では、前日の米株市場において市場の警戒感を示すVIX指数が前日比60%超急騰している(米国時間27日時点で37.21pt)。現在、日米ともに主力企業の10-12月期決算シーズンに入っており、業績内容を確認した後にはさらなる株高になるだろうという見方が市場関係者の間では多くあるが、上述した一部の過熱的な取引や直近のVIX指数の急騰などをみている限り、目先は短期的にでも調整局面を警戒しておいた方がよいタイミングなのかもしれない。
図1 日経平均チャート 日足、1年チャート
- ※SBI証券サイトより転載
1月5日に行われた米ジョージア州の上院決選投票の結果が明らかになると、日経平均はおよそ30年5ヶ月ぶりに28000円台を回復。さらに29000円手前まで上昇すると、同水準でもみ合う展開となっている。米国で大統領及び上下院を民主党が握る「トリプルブルー」が実現し、積極的な財政政策が期待できるとの見方が広がった。また、当初遅れが懸念されていた米国での新型コロナウイルスワクチンの普及だが、足元でペースが加速しつつあるとの見方も投資家心理を上向かせた。
この間、日本では小売り・サービス企業を中心に2020年9-11月期の決算発表があり、全体としては改善を感じさせるような内容だった。実際、日本経済新聞社が算出する日経平均の予想PER(株価収益率)から逆算したEPS(1株当たり利益)を見ると、12月下旬に1070円台だったのが、1月下旬には1100円前後まで増加。BPS(1株当たり純資産)も同様に22400円程度から23000円前後まで増えた。また、PERは24倍台から26倍前後へ、PBRは1.2倍から1.25倍前後へそれぞれ上昇している。外部環境の改善に対する期待もさることながら、企業業績の持ち直しとそれに伴うバリュエーション向上が日経平均を一段と押し上げたことがわかる。
さて、足元では10-12月期の決算発表が本格化している。皮切り役となった25日の日本電産<6594>、続く26日の日東電工<6988>などの決算内容や株価反応はまずまず良好で、好調な滑り出しと言っていいだろう。ただ、ディスコ<6146>やオービック<4684>のように決算内容そのものに対する評価は高かったものの、市場が売りで反応した銘柄も少なからずある。業績の改善(コロナ禍で需要が拡大した業種では堅調維持)はここまでの株価上昇である程度織り込まれているとみられ、決算のサプライズ感の大きさや先行きに対する見方、株式需給(信用需給)などで株価反応が分かれている印象だ。29日には第1の発表ピークを迎えるが、こうした様々な観点から分析し、銘柄選別する必要があるだろう。
とはいえ、全体としては引き続きEPS・BPSの増額が日経平均を支える構図が続きそうだ。半面、当欄のテーマと異なるため詳細は割愛するが、海外テック企業で株価のボラティリティー(変動性)が上昇し、一部で過剰流動性による投機的な動きも指摘され始めた。日本は個人の株式投資比率がピーク時ほど上昇しておらず、過熱感もなければ投資余力はなお大きいとみられている。ただ、「マネーの過熱」への警戒感がにわかに台頭し、「企業業績の回復」と綱引きになる可能性もあるだろう。今後の動向を注視したい。
日本:緊急事態宣言発出で1-3月期はマイナス成長に
- 経済見通し
2021年1-3月期の日本経済は、国内外における新型コロナウイルスの感染拡大が個人消費や輸出を圧迫することから、マイナス成長になると予想される。日本政府は緊急事態宣言の対象に大阪、福岡など7府県を加えており、その他の県でも独自の対策を講じていることから、外食、交通、宿泊・旅行、被服・履物、娯楽サービスなどにおける消費が大幅に抑制される見込み。経済損失額については7000億円から1兆円規模になると試算されている。感染拡大が抑制されず、期間が2カ月程度まで延長された場合、直接的な経済損失額は2.5−3兆円規模まで拡大する可能性がある。
なお、ワクチン接種の開始時期は一部を除いて3月以降になるとみられているが、ワクチン接種の遅れは、個人消費の抑制につながる可能性がある。また、企業設備投資などを含めた他の需要項目への波及も予想されることから、日本経済全体ではさらなる需要喪失につながる可能性が高いとみられる。 - 金利見通し
債券利回りは上げ渋る可能性がある。欧米諸国の金融緩和策は長期化するとの見方が広がっており、日本銀行の金融政策にも影響を与えそうだ。米長期金利の上昇は一服していることから、国内債券市場では、超長期債の需要が増えるとみられる。ただし、ウイルス感染の減少やドル円場の安定化は、債券利回りの低下を阻む一因となる。10年債利回りが0.00%近辺まで低下する可能性は低いとみられる。
- 10年債利回りの想定レンジ:0.01%−0.06%
アメリカ:ワクチン接種のぺース加速で今年前半の景気回復も
- 経済見通し
バイデン米大統領は1月14日、新型コロナウイルスの感染被害に対応する1兆9000億ドル規模の追加経済対策案を発表した。対策案には、直接給付金を昨年12月承認の600ドルから計2000ドルに増額、失業保険給付を9月まで400ドル上乗せ、州・地方自治体への支援金として3500億ドル、低賃金の時給15ドルへの引き上げ、学校再開支援に1300億ドル、ワクチン・コロナ検査などに1600億ドル、賃貸・小規模家主支援として300億ドル、保育サービス業者向けに250億ドル、などが盛り込まれている。
さらに、インフラや気候変動対策など一段と長期的な開発目標向けの資金も含まれることになるようだが、共和党は追加経済対策案に含まれる州・地方自治体への支援金内容や気候変動対策費を問題視しており、「上下両院で民主党が多数派を占めることになってもすみやかな議会通過は保証できない」との声が聞かれている。 - 金利見通し
追加経済支援策は雇用回復や個人消費の下支えに寄与するとみられている。ただ、新型コロナウイルスのワクチン接種のペースは専門家の想定を下回っており、経済活動の再開が遅れることで期近の回復見通しは悪化しつつある。米国の経済成長は今年1-3月期に多少鈍化すると予想されているが、2月以降にワクチン接種のぺースが加速した場合、4-6月期における景気回復の可能性はやや高まると予想される。
- 10年債利回りの想定レンジ:0.95%−1.15%
- ドル・円想定レンジ:102.00円−106.00円
図2 米ドル/円チャート 日足、1年チャート
- ※SBI証券サイトより転載
ユーロ圏:経済規制強化で1-3月期はマイナス成長に
- 経済見通し
欧州中央銀行(ECB)は1月21日開催の理事会で、主要政策金利の据え置きを決定した。理事会終了後に行われた会見でECBのラガルド総裁は、「ユーロ圏経済は2020年10−12月に恐らく縮小した」と語った。欧州連合(EU)と英国の通商・貿易関係を巡る合意が昨年末に実現したことや、ウイルスワクチンの接種開始は喜ばしいが、パンデミック(世界的大流行)の継続と経済・金融状況への影響は引き続き下方リスクの根源となっていると指摘した。 大半の市場関係者もおおむね同じ見方を示しており、ドイツやフランスなどの経済規制措置が長期化した場合、家計、企業への財政支援策を考慮しても、雇用情勢のすみやかな改善や企業収益の向上は期待できないと予想され、今年1-3月期のユーロ圏経済はマイナス成長となる可能性がある。
- 金利見通し
報道によると、欧州中央銀行(ECB)の政策当局者らは、新型コロナウイルスのパンデミック以降のユーロ相場の上昇を深く分析するもようだ。米国の金融政策との違いが為替レートを動かす要因になっているか、調査するとみられている。ユーロ高はインフレ見通しの引き下げにつながっており、ECBの金融政策にも大きな影響を与えていることから、ユーロ高を抑制するために追加緩和を実施する可能性は残されている。
ECBは現行規模の金融緩和策(買い入れ規模は総額1兆8500億ユーロ、買い入れ期間については2022年3月まで)を2022年3月以降も続ける可能性がある。ただ、新たな財政出動によってインフレ見通しの引き下げは回避されるとの見方も出ており、ドイツ、フランスなどが新たな支援措置を導入した場合、ドイツ国債利回りはゆるやかに上昇する可能性がある。 - ドイツ10年債利回りの想定レンジ:-0.60%から-0.40%
- ユーロ・円想定レンジ:123.00円−128.00円
図3 ユーロ/円チャート 日足、1年チャート
- ※SBI証券サイトより転載
提供:フィスコ社