足元の株式相場は世界的に回復基調にあり、NYダウ及び日経平均株価は揃ってコロナショック暴落後の安値から半値戻しを達成した。しかし、この先はレンジ相場になる確率が高いとみる。ここまでの株高基調の背景にあった最大の要因はまさしく「期待」だ。ここまで、「新規感染者数増大ペースの鈍化→経済活動再開期待の高まり→企業業績の回復見込み」という図式が成り立っていた。だからこそ、世界中で過去最悪の失業率(米国)や景気指標が相次いでも市場はほとんどネガティブな反応を示してこなかった。
また、国内では株価の方向性を決めるにあたって重要な業績見通しを示さない企業が半数以上を占めるなど、過去に例がないような事態が起きても、市場は実績が悪くなければ(あるいは悪くても、「悪いのは当たり前」として)むしろ、あく抜け感としてポジティブに捉え、酷い業績着地となった企業でも株価は上昇するといったケースが目立っていた。
ただ、日経平均が半値戻しを達成したいま、さすがにこの先は期待だけで一層の上値追いができるとはやや考えにくい。期待で上がってきた分、この先は今まで期待してきたシナリオがちゃんと実現するのかどうかを見極めていく段階となるだろう。そのため、まずは経済活動再開というシナリオがしっかりと実現することが重要だが、こればっかりは不確実性の高い要素だ。
二次感染の拡大がないと言い切れる保証はどこにもなく、経済活動を再開すると発表した国でも、再び感染拡大の兆しが出れば躊躇なくロックダウン(都市封鎖)を行うとしている。また、二次感染リスクを抑えるために必須となる新薬も、世界各国で開発競争が起きており、スピード感は高まっているが、これにしたって段階的な試験フェーズを考えれば、奇跡的な成功が起きたとしても普及し始めるのは早くて今年の秋頃だとされている。
また、より確度高く予想するならば来年に入ってからということになる。それまでの間は、開発フェーズに応じたニュースフローに一喜一憂するしかない。経済活動も二次感染の状況に応じて「再開→制限→再開」といった動きを繰り返さざるをえないだろう。そのため、株価もこれに応じた動きを強いられることとなろう。ただ、一方で、世界各国の中央銀行による異例の大規模金融緩和や過去最大規模の政府財政支出といった下支え要因もあり、必要に応じて更なる拡充もあるとされているため、株価の下値も限られそうだ。
日本に至っては、日銀によるETF(上場投資信託)買いの動きに変化がみられてきており、5月15日には、前引けの東証株価指数(TOPIX)が0.32%の下落率だったにもかかわらずETFの買い入れが実施され、実施基準が引き下げられている兆候がみられる。過去最大に積み上がってきているネットの裁定売り残高も考慮すれば、下値の堅さをみた売り方がより一層の買い戻しに転じざるをえないケースも想定されよう。そのため、ここまでに上げてきた要因を総合的に考えれば、今後の世界の株式相場は二次感染リスクと新薬開発状況という2つのニュースフローに一喜一憂するレンジ相場になっていくと考えられる。
図1 直近1年の日経平均チャート(日足)
- ※当社WEBサイトを通じて、SBI証券が作成
図2 直近1年のNYダウチャート(日足)
- ※当社WEBサイトを通じて、SBI証券が作成
さて、企業の3月期決算発表は5月第2週がピークだったが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い延期が認められ、足元でも続いている。2020年3月期の企業業績は概ね想定されていたとおりのもので、年度末にかけて新型コロナの影響が強まったことを受けて厳しい内容だった。商品市況の下落や設備稼働率の低下に伴って多額の損失を計上し、赤字転落する主要企業も少なくなかった。続く21年3月期の業績予想については合理的な算定が困難として非開示の企業が多く、開示されたケースでも期初から新型コロナの影響が直撃するとあってやはり厳しい内容。また、新型コロナの影響が4-6月期までに一巡するなど、一定の前提に基づいて作成されている点にも注意する必要があるだろう。
象徴的なのはトヨタ自動車<7203>で、20年3月期の本業の儲けを示す営業利益は前の期に比べ1%減り、2兆4428億円となり、従来の1%増益予想から一転、減益での着地となった。21年3月期の営業利益は5000億円と8割近く減る見通し(なお、最終損益予想は非開示)。世界の自動車市場が20年4月から6月を底に徐々に回復し、20年末から21年前半にかけて前年並みに戻る前提としている。足元では中国や米国における販売促進策が奏功し、自動車市場は想定以上の回復を見せているものの、雇用環境の大幅な悪化や個人所得へのダメージを考慮すると、コロナショック前の水準まで早期に回復するかは見通しづらい。
一方、食料品や生活用品といった必需品、在宅勤務の拡大や外出自粛に伴い需要の増えたIT・インターネットサービスとその恩恵を波及する半導体関連は相対的に堅調な決算だった。とはいえ、事前の期待も相応に高まっていたため、市場予想を明確に上回ってきたのは一部企業にとどまった。
決算発表シーズンと重なった4月下旬から現在までの日経平均は、日足チャート上で25日移動平均線に沿って緩やかに上昇する展開となった。この間、企業決算を反映して1株当たり利益(EPS)が減少する一方、株価収益率(PER)は上昇基調が続いた。新型コロナの感染拡大で先行した中国や欧米では経済活動再開に向けた動きが進み、日本でも感染者の増加ペースが徐々に鈍化したため、最悪期を脱しつつあるとの期待がEPS減少下でのPER上昇につながったとみられる。
このため、決算そのものの評価はよくなかったものの、悪材料出尽くしとして発表後に株価上昇した銘柄は新型コロナの影響が大きい業種を中心に多かった。また、日銀による積極的な上場投資信託(ETF)買い入れなど、主要中銀が金融緩和的なスタンスを強めたことも株式相場を押し上げに寄与しただろう。なお日本経済新聞社は、直近のPERは企業の業績予想非開示の影響でイレギュラーな値になっていると説明しており、投資指標として用いにくくなった。
また、1株当たり純資産(BPS)が足元で20400円前後まで減ったこともあり、株価純資産倍率(PBR)は節目の1倍を回復した。この水準は企業収益の悪化・改善の分かれ目とみられることが多い。もっとも、ここまでの株高は前述した日銀のETF買いなど需給要因も大きいとみなされているのか、各種調査では株価水準ほど機関投資家や個人投資家が世界経済や企業収益の回復に自信を深めている印象は乏しい。
これらを踏まえ、今後の株価見通しについても数点述べると、
(1)既に指標面では企業収益の回復見込みを相当程度織り込んでいる株価水準と言え、ここから先は実際の回復を確認しながら戻りを試すため、上値は重くなりやすいと考えられる(一方で新型コロナ対応に関するポジティブなニュースフローや緩和的な金融政策により底堅い)。
(2)日経平均のPBR1倍回復に伴い、出遅れているシクリカルバリュー株(景気敏感系の割安株)のリバーサル(株価の反転上昇)に期待する声が多くなってきた。ただ、前述のとおりPBR1倍回復でも市場は世界経済全体、あるいは企業収益全体の回復に自信を深めているとは言えず、引き続きIT・ネット関連など事業環境の比較的良好なグロース(成長)株に資金が向かいやすいと考えられる。足元で東証マザーズ指数が昨年12月以来の高値水準を付けるなど急ピッチの上昇を見せているのも、この延長線上にあると言える。代表的なシクリカルバリューセクターを個別に見ても、新型コロナの影響が大きいうえ、コロナショック以前から構造的に業況の良くない業種が多い点に注意する必要がある。
(3)今期予想PERが投資指標として機能しづらくなったうえ、企業側の業績予想の非開示により市場予想にばらつきが生じ、コンセンサスも定まりづらくなったことから、各種報道やリリース、月次業績や4-6月期決算を受けて株価の振れが大きくなる可能性がある。
米欧日各国でも経済再開の動きが広がりつつある
米国
米国経済の再開について、ペンス米副大統領は5月19日、新型コロナウイルスの感染拡大防止策として各州が実施してきた外出制限などの規制措置について全50州が同日までに緩和に踏み切り、経済活動の再開に乗り出したと明らかにした。一部地域に限り緩和した州も含む。米国では社会・経済の再開について、おおむね三段階の基準を設けている。
- フェーズ1:学校や保育園は、バーも閉鎖。
- フェーズ2:学校や保育園は再開可能、バーは客数制限での再開可能。
- フェーズ3:客数を増やしてバーは再開可能
ただ、ニューヨーク州は、経済再開で4段階を提示。フェーズ1は建設業、製造業、卸売業、一部の小売業、フェーズ2は金融・保険等の専門サービス、不動産、小売業、フェーズ3はレストラン、飲食サービス、ホテル、フェーズ4は芸術、エンターテーメント・娯楽、教育を再開する計画となっている。
欧州
ドイツ政府は5月6日、制限措置を大幅に緩和すると発表。国内のすべての商店について営業再開を認め、レストランやホテル、映画館などは、感染状況を見ながら、州ごとに段階的な再開を判断する。欧州におけるドイツ経済の相対的な影響力の大きさなどを考慮した措置とみられている。
イタリアでは5月18日から、小売店、理美容、飲食店などの営業再開を許可。5月25日から、スポーツジム、スイミングプールなどの再開が許可される予定。6月15日には、映画館、劇場などの再開許可が予定されている。
フランスでは公共交通機関は、5月11日から本数を増やし、車内で乗客同士の物理的距離を確保。 公共交通機関における11歳以上の者のマスク着用を義務化。違反者には罰金。また、 5月11日から、日常の外出に関して証明書は携行不要も自宅から直線距離100キロ以上の移動に関しては、やむを得ない理由を除き禁止。違反者は罰金。フランスへの入国者については、原則14日の隔離を実施。
英国では、 5月13日より、 社会的距離を確保した上で、屋外での運動を再開。家族での公園への外出、ドライブ、スポーツも可能。早ければ6月より 小学校再開(ただし、幼稚園年長相当)、新入学年及び最終学年から開始。必需品以外の小売業が再開。また、ホスピタリティ産業の一部が早ければ7月より再開される。
日本
安倍首相は5月14日、39県における緊急事態宣言の解除を発表したが、新型コロナウイルス感染拡大防止のため重点的に対応している、東京、神奈川、千葉、埼玉、大阪、京都、兵庫、北海道は引き続き緊急事態宣言の対象地域となっている。21日に緊急事態宣言を解除するかどうか判断する。関係筋によると、大阪・京都・兵庫については解除する方向で検討に入った。緊急事態宣言解除の判断基準の1つとして政府は「直近1週間の新たな感染者数が10万人あたり0.5人程度以下」と設定している。
為替・金利見通し
- ドル・円見通し:トランプ政権はドル高を容認か
新型コロナウイルスの影響で米中関係や世界経済の先行きが強く懸念された場合、投資家のリスク許容度は再び低下し、安全通貨としてのドルの需要はやや強まる可能性がある。コロナウイルス発生源を巡ってトランプ政権は中国に対する批判を強めており、今後の米中対立に発展する可能性があるが、トランプ大統領はドル高について肯定的な見解を示しており、リスク回避的なドル売り・円買いが拡大する可能性は低いとみられる。
・当面の想定レンジ:106.00円−109.00円
- ユーロ・円見通し:ドイツ経済再開などを意識してユーロ売り縮小も
新型コロナウイルス感染再拡大への警戒感はあるものの、ドイツなどは経済活動の段階的な再開に着手し、域内の経済情勢は最悪期を脱しつつある。今後発表される雇用、消費、企業設備投資関連の経済指標が市場予想を上回った場合、リスク回避的なユーロ売り・円買いが縮小する見通し。
・当面の想定レンジ:115.00円−119.00円
- 米長期金利見通し:0.60%近辺でのもみ合いが続く可能性
利回りはもみ合いか。米国経済の再開によって、雇用や企業設備投資の回復が予想されるが、ウイルスの感染流行が短期間で終息しない場合、経済活動が全米レベルで拡大することは難しいとみられる。そのため、安全逃避的な債券買いは縮小せず、利回り水準は0.6%近辺でのもみ合いが続く可能性がある。
・当面の想定レンジ:0.50%から0.75%
- 独長期金利見通し:経済活動再開で下げ渋りか
ドイツの1-3月期国内総生産(GDP)速報値は、前期比-2.2%で2009年の世界金融危機以降で最大の落ち込みを記録した。しかしながら、欧米各国の経済活動再開を意識して、7−9月期のドイツおよびユーロ圏経済はプラス成長となる可能性も残されている。安全資産としてドイツ国債に集中的に資金が向かう流れは一服する見込み。
・当面の想定レンジ:-0.50%から-0.30%
- 日本長期金利見通し:緊急事態宣言解除で下げ渋りか
利回りは下げ渋りか。日本銀行による追加緩和の可能性はあるものの、6月にかけて緊急事態宣言は全国的に解除される方向にある。経済情勢のさらなる悪化に歯止めがかかることで、長期債利回りは若干上昇する可能性も。
・当面の想定レンジ:-0.02%から+0.03%
提供:フィスコ社