日経平均株価は3月第2週(3/7〜3/11)も下落傾向が続き、その後も上値の重い展開が続いています。ウクライナでの戦争状態が継続する一方、原油価格の高騰もあり、世界的なインフレ懸念も収まりがつかない状態になっています。
もっとも、日本経済は2度の「石油危機」を乗り越えてきました。今回の225の『ココがPOINT!』では、戦争と原油価格上昇、インフレというキーワードで括れば、現在と類似している点が多い「第1次石油危機」の時を例に挙げ、日経平均株価はインフレ時、どのように推移していたのかを振り返ってみたいと思います。
3月第2週(3/7〜3/11)の日経平均株価は、前週末比822円69銭(3.17%)安と、4週続落(週足ベース)となりました。同じ週のNYダウも前週末比1.99%安と5週続落(週足ベース)と、世界的な株安が続いています。
ウクライナ情勢については、停戦交渉の実施や民間人の避難路確保に向けた動き等はあったものの、戦乱は継続しました。それに対し、欧米主要国はロシア産原油・天然ガスの禁輸等、制裁を強化する方向となり、それを織り込む形で原油先物相場(WTI)は3/8(火)に1バレル123ドル台まで上昇しました。日経平均株価は3/4(金)〜3/9(水)に4営業日続落となり、3/9(水)には一時、2020/11/9(月)以来の安値となる24,681円74銭まで下落しました。
原油相場の上昇は、世界的なインフレ懸念を加速させ、一部商品の急騰につながりました。ロンドン金属取引所(LME)では、ニッケル相場(3ヵ月物・先物)が3/7(月)に前日比9割高、3/8(火)には一時2倍強となり、その日の朝を最後に取引停止(再開は3/16予定)となりました。一部投資家が大量の空売りの後「踏み上げ」に追い込まれ、上昇が加速する形となりました。市場では、空売りをした投資家の強制決済の留保や金融支援等、“異例の対策”がとられました。
先述した“異例の対策”は、市場の公平性を歪めかねないとの批判につながっていますが、商品相場に投機色が強まっていたことが背景とみられます。産油国の一部が増産意欲を示したことにより、原油価格は3/9(水)をピークに反落。株式市場もそれを好感し、日経平均株価は3/10(木)に、2020/6/16(火)以来、ザラ場での上昇幅が一時1,000円を超える大幅高になりました。
ただ、ウクライナ情勢が解決に向けてメドがついた訳ではなく、日経平均株価は早くも3/11(金)に反落。その後も戻りが鈍い展開になっています。物色的には、原油相場が高騰するような局面では、プラント株が買われやすく、天然ガスプラントの受注増の思惑もあり、プラント大手の日揮(1963)が買われました。反面、東京電力ホールディングス(9501)は軟調でした。原油高、金利上昇、円安・ドル高は、同社にとって「トリプル・デメリット」になると考えられます。
図表1 日経平均株価およびNYダウの値動きとその背景
日経平均株価(終値) | 前日比 | NYダウ(終値) | 前日比 | 国内株式市場の動き | 米国株式市場の動き | |
3/7(月) | 25,221.41 | -764.06 | 32,817.38 | -797.42 | 大幅続落。 ・NATO間または米国単独でのロシア産原油輸入禁止検討報道を受け、WTI原油先物が一時130ドル台(リーマンショック後と同水準)に上昇。 ・ウクライナの民間人撤退失敗報道。 ・欧米先物株式の下落。 |
大幅続落。 ・ロシアとウクライナの3度目の停戦交渉は進展なし。 ・ロシア産原油の輸入禁止検討報道により原油価格が高騰。コモディティ価格も全面高。 ・VIX指数(終値)が36.45まで上昇。(終値35越えは、約1年1ヶ月ぶり) |
3/8(火) | 24,790.95 | -430.46 | 32,632.64 | -184.74 | 3営業日続落。 ・米国先物株式下落で連れ安。 ・心理的節目の25,000円近辺で攻防。 ・株価大幅続落でボラティリティが拡大し、売買代金が4兆700億円超。(約1年4ヶ月ぶり) |
4営業日続落。 ・EU共同債発行計画の発表可能性が報じられ、欧米で国債が売られ、金利が上昇。 ・ウクライナ大統領、NATO加盟は現状においては、喫緊の課題としていないと発言。 ・バイデン大統領が米国単独でロシア産の原油、石炭、LNGの輸入禁止措置に署名。 |
3/9(水) | 24,717.53 | -73.42 | 33,286.25 | +653.61 | 小幅続落。年初来安値を更新。 ・アジア株式市場の大幅安を受け、軟調な地合いで終える。 ・米長期金利の上昇を受け、金融株が買われる。 |
大幅反発(前4営業日続落の約半値戻し)。 ・UAEやイラク等のOPEC+のメンバーが増産に対し意欲的な発言。原油価格が大幅下落。 ・コモディティ価格全般も一段安に。 ・引け後、アマゾンが1:20の株式分割、100億ドルの自社株買い発表。 |
3/10(木) | 25,690.40 | +972.87 | 33,174.07 | -112.18 | 大幅反発(前4営業日続落の約半値戻し)。 ・コモディティ価格の下落を受け、広く業種を問わず買戻される。 ・この日夜、米2月CPIが発表予定。FRBの金融引締めが警戒され米金利が上昇。日本の長期金利も上昇。金融株が買われる。 |
小幅反落。 ・米2月のCPI(前年同月比)は予想値と同率の+7.9%だが、約40年ぶりの高い数値。長期金利が2%を超え、ハイテク株が売られる。 ・中国企業ADRが米SECより、上場廃止可能性が示唆され、軒並み大幅安。 |
3/11(金) | 25,162.78 | -527.62 | 32,944.19 | -229.88 | 大幅反落。 ・米長期金利上昇を受け、日本でも長期金利が上昇。グロース株中心に売られる。 ・SBG(9984)が大幅反落。アリババの大幅安、中国ADR問題、および香港での新型コロナウイルス蔓延が要因か。 ファストリ(9983)も大幅反落。ロシアでの操業一時停止を嫌気。 2銘柄ともに年初来安値を更新。 |
続落。 ・米長期金利が2%台に。ハイテク株が売られる。 ・中国ADRが10日に引き続き同一の要因で下落。NASDAQゴールデンドラゴン指数は2営業日で20%以上の下落。 |
3/14(月) | 25,307.85 | +145.07 | 32,945.24 | +1.05 | 反発。 ・ローマで現地時間14日、米中高官のウクライナ情勢協議開催が伝わり好感。ロシアとウクライナの停戦協議も前進に期待される。 ・日米金利差拡大観測の強まりと、有事のドル買いでドル円が1ドル117円台後半まで進行。バリュー株が買われる。 |
NYダウはほぼ変わらず。NASDAQは続落。 ・米長期金利は一時2.14%台に(約2年半ぶり)。ハイテク株、グロース株が強く売られる。 ・WTI原油先物が一時、1バレル99.83ドルまで下落。 ・NASDAQゴールデンドラゴン指数が3営業日で30%以上の下落。 |
- ※日経平均株価・NYダウ等各種株価データ、各種資料をもとにSBI証券が作成。
図表2 日経平均株価
- ※当社チャートツールを用いて作成。データは2022年3月15日10:00時点。
図表3 NYダウ
- ※当社チャートツールを用いて作成。データは2022年3月15日10:00時点。
図表4 ドル・円相場
- ※当社チャートツールを用いて作成。データは2022年3月15日10:00 時点。
図表5 主な予定
月日 | 国・地域 | 予定 | 備考 |
3/14(月) | 欧州 | 1月鉱工業生産 | |
15(火) | 米国 | FOMC(16日まで開催) | |
2月生産者物価 | |||
3月NY連銀製造業景気指数 | |||
中国 | 2月工業生産 | ||
2月小売売上 | |||
16(水) | 日本 | 2月貿易統計 | |
米国 | ★FRBパウエル議長会見 | 政策金利を+0.25%引き上げか? | |
2月小売売上高 | |||
17(木) | 日本 | 1月機械受注 | 民間設備投資の先行指標 |
日銀金融政策決定会合(18日まで開催) | |||
米国 | 2月住宅着工件数 | ||
2月鉱工業生産・設備稼働率 | |||
3月フィラデルフィア連銀製造業景況感指数 | 米国の企業マインドは? | ||
欧州 | 2月消費者物価指数 | ||
18(金) | 日本 | 黒田日銀総裁会見 | |
米国 | 2月中古住宅販売件数 | ||
米国版SQ | |||
21(月) | 日本 | まん延防等重点措置 解除期限 | |
◎東京市場は休場 | 春分の日 | ||
23(水) | 米国 | 2月新築住宅販売件数 | |
24(木) | 日本 | 日銀金融政策決定会合議事要旨(1/17-18開催分) | |
米国 | 10-12月期経常収支 | ||
欧州 | EU首脳会議(25日まで) | ||
25(金) | 日本 | 2月企業向けサービス価格指数 |
- ※各種報道、WEBサイト等をもとにSBI証券が作成。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合があります。
図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定
2022年 | ||
日銀金融政策決定会合 | 3/18(金)、4/28(木)、6/17(金)、7/21(木)、9/22(木)、10/28(金)、12/20(火) | |
FOMC(米連邦公開市場委員会) | 3/16(水)、5/4(水)、6/15(水)、7/27(水)、9/21(水)、11/2(水)、12/14(水) | |
ECB(欧州中銀)理事会・金融政策会合 | 4/14(木)、6/9(木)、7/21(木)、9/8(木)、10/27(木)、12/15(木) |
- ※日米欧中銀WEBサイトを基にSBI証券が作成。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合があります。
- なお、ECB理事会は金融政策の議論・決定を行う会合の日程のみ掲載しています。日付は現地時間を基準に記載しています。
図表7 日経平均株価採用銘柄の上昇率上位(3/7〜3/14)
コード | 銘柄 | 業種 | 株価(3/14) | 株価(3/7) | 騰落率(3/7〜3/14) |
1963 | 日揮ホールディングス | 建設業 | 1578 | 1212 | 30.2% |
7731 | ニコン | 精密機器 | 1213 | 1085 | 11.8% |
5201 | AGC | ガラス・土石製品 | 4630 | 4185 | 10.6% |
8750 | 第一生命ホールディングス | 保険業 | 2448 | 2236 | 9.5% |
6841 | 横河電機 | 電気機器 | 2060 | 1882 | 9.5% |
4324 | 電通グループ | サービス業 | 4440 | 4085 | 8.7% |
7202 | いすゞ自動車 | 輸送用機器 | 1501 | 1384 | 8.5% |
6702 | 富士通 | 電気機器 | 16670 | 15390 | 8.3% |
4063 | 信越化学工業 | 化学 | 17370 | 16045 | 8.3% |
9147 | NXホールディングス | 陸運業 | 8060 | 7460 | 8.0% |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
- ※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
- ※3/14終値を3/7終値と比較し、値上がり率の大きい日経平均採用10銘柄を掲載。
図表8 日経平均株価採用銘柄の下落率上位(3/7〜3/14)
コード | 銘柄 | 業種 | 株価(3/14) | 株価(3/7) | 騰落率(3/7〜3/14) |
9501 | 東京電力ホールディングス | 電気・ガス業 | 325 | 377 | -13.8% |
4507 | 塩野義製薬 | 医薬品 | 6837 | 7848 | -12.9% |
4911 | 資生堂 | 化学 | 5372 | 5951 | -9.7% |
6762 | TDK | 電気機器 | 3710 | 4070 | -8.8% |
7205 | 日野自動車 | 輸送用機器 | 688 | 745 | -7.7% |
5019 | 出光興産 | 石油・石炭製品 | 3405 | 3670 | -7.2% |
5707 | 東邦亜鉛 | 非鉄金属 | 2851 | 3055 | -6.7% |
5703 | 日本軽金属ホールディングス | 非鉄金属 | 1697 | 1816 | -6.6% |
4452 | 花王 | 化学 | 4686 | 5009 | -6.4% |
5706 | 三井金属鉱業 | 非鉄金属 | 3265 | 3490 | -6.4% |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
- ※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
- ※3/14終値を3/7終値と比較し、値下がり率の大きい日経平均採用10銘柄を掲載。
世界の投資家は、ロシアによるウクライナ侵攻、欧米主要国等によるロシアへの経済制裁を経て、原油価格や資源価格等のの高騰が続き、インフレが加速し、世界経済は大きな打撃を受けるのではと警戒しています。特に、日本は資源やエネルギーのほとんどを輸入に頼っており、原油・資源価格の高騰が経済に響きそうです。東京株式市場も低迷が続くのでしょうか。
戦争と原油価格上昇、インフレというキーワードで括れば、一連の動きは第1次石油危機の時と類似しているように思います。
同石油危機のキッカケは1973年10月に、第4次中東戦争が勃発したことでした。エジプトやシリア等のアラブ諸国とイスラエルが戦争状態に突入し、産油国は、イスラエルやそれを支援する米国に対抗すべく原油価格の大幅引き上げに踏み切りました。
日本はすでに、第1次田中内閣(1972年7月に発足)の「列島改造ブーム」があり、地価が急騰し、物価も上昇し始めていましたが、第4次中東戦争の勃発で原油価格が急騰したことに加え、金融引き締めの遅れもあり、物価上昇が加速する状況となりました。よって、1973年5月の時点で既に10%台に乗せていた日本の消費者物価は、1974年には毎月20%を超える“狂乱物価”の状態となりました。
この過程では、原油価格の上昇で多くのモノが作られなくなるとの誤解から、モノ不足が懸念され、特にトイレットペーパー等は店頭から姿を消し、消費者が奪い合う状態になりました。日本経済への懸念から、日経平均株価は1973年3月の5,233円90銭から、1974年10月には3,594円55銭(ともに月終値)まで約31%も下落してしまいました。
第1次石油危機はエネルギーを大量に消費する大量生産型の経済、日本の高度成長期に終わりをもたらしたと考えられます。1974年に日本の経済成長率は戦後初めてのマイナス成長となり、株価もそれを織り込む形で下げました。しかし、その後は「省エネ」や「軽薄短小」が重要視され、技術立国・ハイテク国家として、日本経済は立ち直ることになります。
1979年にはイラン革命を契機に、日本は第2次石油危機に突入しました。日本の消費者物価は一時、3%を割り込む水準まで低下していましたが、1980年9月には前年同月比8.7%まで上昇しています。しかし、第1次石油危機の経験を踏まえ、早めの金融引き締めに動いたことも奏功し、日本経済への打撃は限定的で、株価の調整期間も少なく、日経平均は上昇基調を続けました。
このように、東京株式市場と日本経済は、戦争と原油価格上昇、インフレというキーワードで括られる1970年代を、2度の石油危機に苦しみながらも何とか乗り切りました。今回も産業構造の変化を伴いながら、何とか乗り切ってくれることを期待したい所です。
図表9 2度の石油危機・物価上昇と日経平均株価
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。消費者物価は前年同月比増減率(単位は%)。日経平均株価は月終値ベース(単位は円)。