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米金融政策の変化に懸念は不要か?

2021/5/25

投資情報部 鈴木英之

日経平均株価は5月第2週(5/10〜5/14)に波乱含みの展開になったあと、同第3週(5/17〜5/21)は前週末(5/14)比で233円36銭(0.8%)高、週足ベースで反発となりました。

株式市場はビットコイン相場の乱高下に左右された展開となりました。
その背景には、米国で景気回復期待が強まるにつれ、現在の緩和的金融政策の終了が早まるのではないかとの懸念が強まったことがあげられます。当面は、“テーパリング”(量的緩和の縮小)のタイミングが焦点になりそうですが、この件について「過度の懸念」は不要と考えられます。
その理由についてお話します。

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1インフレ・金利上昇懸念が一服し反発局面に

日経平均株価は、5月第3週(5/17〜5/21)終値が28,317円83銭となり、前週末(5/14)比で233円36銭(0.8%)高、週足ベースで反発となりました。

5/18(火)は大幅に反発。急落後の押し目買いもみられ、ファーストリテイリング(9983)など値がさ株をはじめ、幅広く買われました。5/19(水)は反落し、下げ幅は一時500円超に。ビットコインの急落による米株安が日本にも波及しました。5/21(金)は米長期金利上昇の一服による米ハイテク株高を受け、グロース株を中心に上昇しました。同日は厚生労働省が新型コロナウイルス向けワクチンについて、米モデルナと英アストラゼネカの製造販売を承認。後場にモデルナが国内生産を検討と伝わると、ワクチンの普及期待から上げ幅を広げる場面もありました。

5月第2週(5/17〜5/21)のNYダウは前週末比0.5%安、週足ベースで続落となりました。
5/19(水)は3日続落。ビットコインの急落などにより市場心理が悪化。FRB(米連邦準備制度理事会)のFOMC(米連邦公開市場委員会)議事要旨の公表では、量的緩和の縮小(テーパリング)に関する議論を始める可能性が示唆されたことから、米長期金利が上昇し、株価が下げ幅を広げる場面がありました。
5/20(木)は4日ぶりに反発。米長期金利の上昇が一服し、アップルなどハイテク株が買われ、相場を下支え。ビットコインも反発し、仮想通貨関連銘柄も上昇しました。
5/21(金)は続伸。ビットコインの下落がダウの重荷となりましたが、欧米での良好な経済指標の発表を受けて、一時上げ幅は300ドル超に。ボーイングなど、景気敏感株が買われました。

気になる新型コロナウイルス向けワクチンの普及

英国政府が5/23(日)に公表したデータによると、5/22(土)時点で全成人の43%が2回のワクチン接種を完了。7月末までに全国民への接種完了を目指しています。
一方、米国では5/24(月)時点で2億8,572万回のワクチン接種を完了。接種回数が鈍化しはじめていることから、ワクチン接種者に対してビールの無料券や宝くじの配布、マッチングアプリでは有料サービスの値引きなど、接種率増加に向けてさまざまな取り組みが行われています。
また、ニューヨーク州やハワイ州など、観光地では外国人観光客向けにワクチンの無償サービスを実施。一部の主要空港では観光客向けに無料接種を行ってる他、ワクチン接種ツアーも実施されています。
対して、日本の接種状況はG20の中でワースト圏内。5/24(月)より東京と大阪で国による大規模接種が開始されましたが、同日時点でのワクチン接種は877万回で依然として諸外国に比べ、大きく出遅れています。
東京での大規模イベントの開催可否と同じく、今後の展開が気になるところです。

図表1 日経平均株価の値動きとその背景

  日経平均株価 日米株式市場等の動き
終値 前日比
5/18(火) 28,406.84 +582.01 大幅に反発。ファーストリテイリングなど値がさ株を中心に買われる。
5/19(水) 28,044.45 -362.39 一時下げ幅は500円超に。米株安やビットコインの急落による売りが日本株にも波及。
5/20(木) 28,098.25 +53.80 2万8000円を下回る水準で押し目買いが入り、上昇。売買代金は低調。
5/21(金) 28,317.83 +219.58 米ハイテク株高を受けて、グロース株が高い。モデルナ製ワクチンが国内生産検討と報じられ、上げ幅を広める場面も。
5/24(月) 28,364.61 +46.78 米ハイテク株安を受けて売り先行も、欧米での好調な経済指標の結果を受けて、景気敏感株が買われた。
  • ※日経平均株価データ、各種資料をもとにSBI証券が作成。

図表2 日経平均株価(日足)と主要移動平均線・おもな出来事

  • ※当社チャートツールをもとに作成。データは2021/5/25取引時間中。

図表3 NYダウ(日足)と主要移動平均線・おもな出来事

  • ※当社チャートツールをもとに作成。データは2021/5/25時点。

図表4 ドル・円相場(日足)と主要移動平均線・おもな出来事

  • ※当社チャートツールをもとに作成。データは2021/5/25時点。

図表5 当面の重要スケジュール

月日(曜日) 国・地域 予定内容 備考
5/26(水) 日本 4月企業向けサービス価格指数  
  アメリカ ★決算発表 オクタ、エヌビディア
5/27(木) アメリカ 1-3月期GDP改定値  
    4月耐久財受注  
    4月中古住宅販売仮契約  
    ★決算発表 セールスフォース・ドットコム、コストコホールセール
5/28(金) 日本 4月失業率・有効求人倍率  
  アメリカ 4月個人所得・個人支出  
    バイデン大統領が2022会計年度の予算教書全容を発表 4月に裁量的経費を発表。総額1.52兆円。
5/31(月) 日本 鉱工業生産  
    小売業販売額  
  中国 製造業・非製造業PMI  
  アメリカ OECDの経済見通し発表  
    NY市場休場 戦没者追悼記念の日
6/1(火) 日本 1-3月設備投資  
  アメリカ ISM製造業景気指数  
    ★決算発表 ズームビデオコミュニケーションズ
6/2(水) アメリカ 自動車販売台数  
    ベージュブック  
    ★決算発表 シースリーエーアイ
6/3(木) アメリカ ADP雇用統計  
    ISM非製造業景気指数  
    ★決算発表 クラウドストライクホールディングス、ドキュサイン
6/4(金) 日本 家計調査実-実質消費支出  
  アメリカ 雇用統計 非農業部門雇用者数の市場予想は62万人増  
    製造業受注  
    ★決算発表 プラグパワー
6/5(土) ニュージーランド APEC(アジア太平洋経済協力会議)貿易相会合
  • ※各種報道、日米欧中銀WEBサイト等をもとにSBI証券が作成。「予想」は市場コンセンサス。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合があります。

図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定日(月日は現地時間)

  2021年
日銀金融政策決定会合 6/18(金)、7/16(金)、9/22(水)、10/28(木)、12/17(金)
FOMC(米連邦公開市場委員会) 6/16(水)、7/28(水)、9/22(水)、11/3(水)、12/15(水)
ECB(欧州中銀)理事会・金融政策会合 7/22(木)、9/9(木)、10/28(木)、12/16(木)
  • ※日米欧中銀WEBサイトを基にSBI証券が作成。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合があります。 なお、ECB理事会は金融政策の議論・決定を行う会合の日程のみ掲載しています。日付は日本時間(ただし、ECBの結果発表日程は現地時間)を基準に記載しています。

2米金融政策の変化に懸念は不要?

足元はやや減速する兆しをみせているものの、米国での新型コロナウイルスの対するワクチン接種は2億8,572万回まで進捗し、同国では景気回復期待とともに、インフレ率や金利上昇に対する懸念が高まっています。
さらに、5/19(水)に米国で発表されたFOMC(米連邦公開市場委員会)議事要旨(4/27・28開催分)では、“テーパリング”(量的緩和の縮小)について論議開始のタイミングが話題になったことが明らかになりました。

“テーパリング”という言葉は、ろうそくの火などが先細る(taper)という意味が元になっており、金融政策では、中央銀行などが買い入れていた国債の額を減らすことなどを意味しています。金融政策が緩和的な状態から一歩「出口」に近づくことを意味しており、一般的に株式市場では悪材料とされています。

テーパリングと株式市場の動きについては、2013年以降の米国の動向が参考になります。
2013/5/22(水)のFOMC後の会見で、当時のバーナンキFRB議長が、テーパリングを示唆し、世界の株式市場に動揺が広がりました。日本では2013/5/23(木)の日経平均株価終値が14,483円98銭(前日比1,148円28銭安)となる波乱になりました。

その後、FRBは2013/12に資産購入縮小、2014/10には資産購入終了(量的緩和の終了)を発表。2015/12には政策金利を引き上げるなど、金融政策の正常化に向けた取り組みを続けました。

今回もこれと同様の動きが起こり、株式市場は不安定化するのでしょうか。
結論から申し上げると、過度の懸念は不要であり、押し目は買いになる可能性が大きいと思います。

仮にテーパリングとなっても、資産購入が続く間はFRBの総資産は増え、緩和的な金融政策が続きます。
資産の縮小が進むと、さすがに逆風状態となりますが、これまで米国は株式市場の波乱になりかねない資産購入の縮小・終了や、金利の引き上げといった政策変更を、市場との対話によって切り抜けてきました。

なお、米財務長官には元FRB議長のイエレン氏が鎮座していることもあり、その経験則から金融政策変更の荒波を乗り越えられる可能性も大きいように思われます。

図表7 FRB(米連邦準備制度理事会)総資産とS&P500の推移

  • ※BloombergデータおよびFRB(米連邦準備制度理事会)データをもとにSBI証券が作成。
  • ※左軸:FRB(米連邦準備制度理事会)総資産、右軸:S&P500 期間:2005/1〜2021/4(月足)
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