3月第4週(3/22〜26)の東京株式市場は、日米中央銀行の「出口戦略」が静かに始まったことを意識させるような週となり、日経平均株価は波乱の動きとなりました。ただ、株価下落局面で日銀が通常パターン以上のETF(上場投資信託)を買ったことで、足元は落ち着きを取り戻しています。
年度変わりとなる4月はどんな相場になるのでしょうか。4月は1年間に12ヵ月ある中でもっとも高いパフォーマンスを期待できる“株高アノマリー”のある月となっています。ただ、海外での「ブロック取引」に関する不気味な動きもみられ、リスクに対する目配せも必要になりそうです。
3月第4週(3/22〜26)の日経平均株価は前週末比615円35銭(2.1%)安となり、週足ベースで3週間ぶりに反落しました。前半3営業日で1,386円53銭(4.7%)下落し、後半2営業日で771円18銭回復したものの、前週末終値を取り戻すまでには至りませんでした。同じ週、TOPIX(東証株価指数)は1.4%の下落となりました。
株価が下げた理由はおもに以下の3点であったと考えられます。
(1)米国で大手銀行への資本規制が4月以降再開されることに決定(3/19)したため。
(2)日銀がETF購入について、最低金額の目標をはずしたうえ、対象から日経平均型を除いた(3/19)ため。
(3)欧州での新型コロナウイルス感染再拡大・規制再強化への動きもあり、景気回復期待に冷や水が浴びせられたため。
(1)の資本規制の内容は「米大手銀行は、エクスポージャー(価格変動リスクにさらされている資産)に対し、最低5%以上の中核的自己資本を確保しておく必要がある」というもの。FRB(連邦準備制度理事会)は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、上記エクスポージャーから国債や準備預金を除いて良いという緩和措置(2020/4から1年限定)を取ってきました。これを受け、米銀は資本規制を過度に気にせずに、国債を買い増すことが可能になっていました。
大手銀行からは緩和措置延長の声が多くありましたが、民主党左派の反対もあり、4月以降、この規制緩和措置が延長されないことになり、その分だけ米銀は国債を保有しにくくなります。新聞報道では、これにより米債券市場では約2千億ドルの売り需要が発生するとみられ、今後も金利上昇に要注意ということになりそうです。このことがおもな理由となり、3/19(金)〜3/25(木)の米国株も軟調な展開になりました。
(2)の日銀によるETF購入について、これまでは年間で最低6兆円、最高で12兆円を目安にし、購入対象としては75%をTOPIX型、残りを日経平均株価およびJPX日経400型にすると定めてきました。3/19(金)に日銀金融政策決定会合の結果として、上記最低額の撤廃と、購入対象をTOPIX型に絞り込むことが発表され、市場では不安心理が強まりました。特に日経平均高寄与度銘柄への不安は強く、日経平均株価の下落率がTOPIXを上回り、NT倍率が下げる要因にもなりました。
(3)について、ドイツ、フランス、イタリアなど主要国で感染再拡大の傾向がみられ、再び規制が強化される流れとなっています。さらに、アストラゼネカ社の新型コロナウイルス向けワクチンが臨床試験不足の可能性を指摘されたこともあり、ワクチン接種の拡大で早期に新型コロナウイルスを克服し、景気を回復させるという期待が後退してしまいました。
さらに、3月もSQ算出日(3/12)を通過し、3月期末のポジション水準をほぼ固めた機関投資家も多いとみられ、株価が下げても押し目買いのリスクを取りにくい向きが多く、そのことが下げを加速させた面もありそうです。
なお、日経平均株価が590円超下げた3/24(水)、日銀はETFの購入に動きました。通常、日銀がETFを買う時は1日に501億円というのが通常パターンでしたが、この日は1日で701億円の日本株を買うという不規則な姿勢を見せました。「市場が大きく下げた時は想定以上に買う可能性がある」ことを市場に示した形となり、3/25(木)以降の日経平均株価は反発に転じました。3月決算銘柄の権利付最終日となる3/29(月)、日経平均株価は207円82銭高となりましたが、配当取りの「駆け込み需要」から株価が上昇するパターンがこれで6年続いたことになります。
気になるトピックス
3/31(水)に米ペンシルベニア州ピッツバーグで予定されているバイデン米大統領による数兆ドル規模のインフラ投資計画の発表が気になるところです。米銀資本規制復活に加え、計画の財源を国債に頼らざるを得ない現状では、金利上昇懸念につながる可能性もあります。
図表1 日経平均株価の値動きとその背景(2021/3/22〜2021/3/30)
日経平均株価 | 日米株式市場等の動き | ||
終値 | 前日比 | ||
3/22(月) | 29,174.15 | -617.9 | 米大手銀行の資本規制復活を嫌気して大幅続落。 |
3/23(火) | 28,995.92 | -178.23 | 欧州での新型コロナ再拡大とワクチンの治験不足報道が逆風。 |
3/24(水) | 28,405.52 | -590.40 | 4日続落。欧州で景気鈍化懸念。日銀が701億円のETFを購入。 |
3/25(木) | 28,729.88 | +324.36 | 売り一巡後に反発。日銀の不規則な買い増しを評価か。 |
3/26(金) | 29,176.70 | +446.82 | バイデン米大統領が新型コロナ向けワクチンの接種倍増を表明。 |
3/29(月) | 29,384.52 | +207.82 | 米国株高(過去最高値更新)に加え、消費者心理の改善も好材料か。 |
3/30(火) | 29,432.70 | +48.18 | 米大統領が4/19までに成人の9割接種を目標に。日経平均配当落ちは178円台。 |
- ※日経平均株価データ、各種資料をもとにSBI証券が作成。
図表2 日経平均株価(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールをもとに作成。データは2021/3/30取引時間中。
図表3 NYダウ(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールをもとに作成。データは2021/3/30。
図表4 ドル・円相場(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールをもとに作成。データは2021/3/30。
図表5 当面の重要スケジュール
月日 | 国・地域 | 予定内容 | 備考 |
3/31(水) | 日本 | 2月鉱工業生産 | |
中国 | 3月製造業・非製造業PMI | ||
3月コンポジットPMI | |||
EU | 3月ユーロ圏消費者物価指数 | ||
アメリカ | 3月ADP雇用統計 | 労働省版の前哨戦 | |
2月中古住宅販売仮契約 | |||
★決算発表 | マイクロン・テクノロジー | ||
4/1(木) | 日本 | 1-3月期日銀短観 | 決算発表のヒントに |
3月自動車販売台数 | |||
高年齢者雇用安定法が施行 | |||
ソニーが「ソニーグループ」に社名変更 | |||
中国 | 3月Caixin製造業PMI | ||
アメリカ | 3月ISM製造業景気指数 | 約17年ぶり高水準をうかがう | |
4/2(金) | 日本 | 3月マネタリーベース | |
アメリカ | 3月雇用統計 | 市場は雇用者数64万人増を予想 | |
- | 聖金曜日により米(為替は通常取引)、欧州、アジア主要市場が休場 | ||
4/5(月) | 日本 | ★決算発表 | しまむら |
アメリカ | 3月ISM非製造業景気指数 | ||
2月製造業受注 | |||
4/6(火) | 日本 | 2月家計調査 | |
4/7(水) | 日本 | ★決算発表 | ウェルシアHD |
アメリカ | FOMC議事録(3/16.17分) | ||
2月貿易収支 | |||
G20財務省・中央銀行会議 | |||
4/8(木) | 日本 | 3月都心オフィス空室率 | |
★決算発表 | ローソン、7&I | ||
アメリカ | 新規失業保険申請件数 | ||
4/9(金) | 日本 | ★決算発表 | 安川電 |
オプションSQ | |||
中国 | 3月生産者・消費者物価指数 | ||
アメリカ | 3月生産者物価指数 | ||
日米首脳会談(ワシントン) | 調整中 |
- ※各種報道、日米欧中銀WEBサイト等をもとにSBI証券が作成。「予想」は市場コンセンサス。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合があります。
図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定日(月日は現地時間)
2021年 | |
日銀金融政策決定会合 | 4/27(火)、6/18(金)、7/16(金)、9/22(水)、10/28(木)、12/17(金) |
FOMC(米連邦公開市場委員会) | 4/28(水)、6/16(水)、7/28(水)、9/22(水)、11/3(水)、12/15(水) |
ECB(欧州中銀)理事会・金融政策会合 | 4/22(木)、7/22(木)、9/9(木)、10/28(木)、12/16(木) |
- ※日米欧中銀WEBサイトを基にSBI証券が作成。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合があります。 なお、ECB理事会は金融政策の議論・決定を行う会合の日程のみ掲載しています。日付は日本時間(ただし、ECBの結果発表日程は現地時間)を基準に記載しています。
日経平均株価の月間騰落率に関するアノマリー(図表7)を参考にすれば、4月は1年間に12ヵ月ある中でもっとも高いパフォーマンスを期待できる月と言えそうです。特に最近の4月相場は2020年が+6.7%、2019年が+5.0%、2018年が+4.7%と好パフォーマンスが目立っています。新型コロナウイルスの感染拡大で、2021/3期の企業業績は、ここにきて予想の上方修正が目立っており、決算発表シーズンの入り口となる2021年4月も好成績を期待したいところです。
こうした中、4/1(木)には日銀短観(2021年3月調査)が発表されます。もっとも注目される大企業・製造業の業況判断指数は前回の▲10から、今回は▲1に改善するというのが市場コンセンサスになっています。市場の予想通り大幅改善となれば、4月下旬以降に発表本格化の決算発表についても、期待が先行する可能性が大きそうです。その際、どの業種で予想超過が期待され、どの業種で予想未達が警戒されるのかについても、日銀短観の業種別数値が参考になるので、活用してみてはいかがでしょうか。
もっとも、決算発表がリスクを伴わない訳ではありません。2021/3期の実績が計画や市場予想を上回る数字になっても、次期の2022/3期について予想が保守的になったり、昨年に続く未公表になるケースも想定されます。この場合は、業績修正や決算発表のタイミングがいったん好材料出尽くしとなる可能性があります。
さらに、前項の(1)や(2)については、各国中央銀行の「出口戦略」が静かに幕を開けたことを意味し、「業績相場」へ移行の過程で波乱要因になる可能性もありそうです。米国で、証券会社を通した巨額の相対取引である「ブロック取引」が観測され始めた問題や、米国野村やクレディ・スイスの巨額損失報道等、不気味な動きも、こうした時期に起きやすい出来事と考えられ、4月以降も注視する必要が大きそうです。
図表7 日経平均株価の月別の平均騰落率(過去30年)
- ※日経平均株価データをもとにSBI証券が作成。各月の騰落率を30年分単純平均したもの。3月は2020年までの30年間の平均です。