東京株式市場は、内容的には波乱含みの展開となっています。安倍首相の辞任表明や、米国株式市場(特にグロース銘柄)の変調などが相次ぎ、大きな変化に襲われました。
こうした中、世界的投資家であるウォーレン・バフェット氏はなぜ今、日本の大手商社株を買ったのでしょうか。
商社の投資ポイントと、バフェット氏の考え方に思いを巡らせることで、相場の先行きについてみえてくるものとは?
目先波乱の可能性は残るものの、出遅れ修正の余地に期待がかかる日本株について考察してみましょう。
8月の日経平均株価の上昇率は、同月としては2003年の8.2%以来の高さとなる6.6%となりました。過剰流動性を背景に世界的な株高が東京株式市場にも追い風になった点が指摘されます。ジャクソンホール会議(8/27〜28)では、FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長が物価上昇率について、2.0%以上の期間が長めに続くことを容認し、過剰流動性継続への市場の期待がさらに高まりました。
こうした中、8/28(金)の東京株式市場は波乱の展開になりました。日経平均株価は一時、前日比614円安の水準まで下落。その後はやや下げ渋りましたが、終値も前日比326円21銭安となりました。安倍首相の辞任報道が原因と考えられます。長期政権が終焉を迎えることで、政治の不安定化に対する市場の懸念が強まりました。
ただ、週明け8/31(月)の東京株式市場では、菅官房長官が自民党総裁選へ立候補との報道を受け、安倍政権での政策の継続が期待されたことから、日経平均株価は257円11銭高と反発しました。この日、世界的に著名な投資家で、世界最大の投資持ち株会社バークシャー・ハサウェイを率いるウォーレン・バフェット氏が三菱商事(8058)や三井物産(8031)など、日本の大手商社株5社に投資したことが明らかになり、バリュー株が再評価されたことも追い風になりました。
なお、9/3(木)の米国株式市場では、NYダウが一時1,000ドル超を下げ、終値も807ドル安となる波乱となりました。ナスダックは600ポイント近い下げになり、3/16(月)の970ポイント超を下げて以来の大幅安になりました。GAFAM(アルファベット(Google)、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)に象徴されるハイテク株に投資資金が集中し、過熱感を伴いながら上昇し、株価に割高感が強まっていたことが背景で、警戒感が広がったためとみられます。株式分割を控えて急騰してきたテスラは、分割実施後は買い先行後下落に転じ、9/3(木)終値は9/1(火)高値からおよそ19%の下落となりました。
こうした流れを受け、9/4(金)の東京株式市場は売りが先行する展開となり、取引開始直後に日経平均株価は前日比366円安水準まで下落しました。終値も260円10銭安となっています。米国株安が直撃した形ですが、バリュー株を再評価する流れは続いており、全面安は免れました。結局、9月第1週(8/31〜9/4)の日経平均株価は前週末比322円78銭(1.4%)高となりました。9/7(月)のレーバーデーを控え、方向感にかけ、9/7(月)および9/8(火)の東京市場は一進一退になりました。
表1 日経平均株価の値動きとその背景(2020/8/31〜2020/9/8)
日経平均株価 | 日米株式市場等の動き | ||||||||
終値 | 前日比 | ||||||||
8/31(月) | 23139.76 | +257.11 | 反発。菅官房長官の総裁選出馬で通信大手が安い。バフェット効果で商社が高い | ||||||
9/1(火) | 23,138.07 | -1.69 | 売買代金が再び2兆円を割る。バフェット効果で注目が集まる5大商社は堅調に推移。 | ||||||
9/2(水) | 23,247.15 | +109.08 | 米景況感の上振れを追い風に反発。TDKなど好調なアップル関連銘柄が上昇。 | ||||||
9/3(木) | 23,465.53 | +218.38 | 日経平均終値がコロナ前までの水準まで回復。巣ごもり需要でスカパJHが高い。 | ||||||
9/4(金) | 23,205.43 | -260.10 | 米株急落で3日ぶり反落。菅官房長官の地域金融機関再編発言を受け、銀行業が上昇。 | ||||||
9/7(月) | 23,089.95 | -115.48 | IOC関係者の東京五輪開催意向報道を受け、電通Gなど五輪関連銘柄が高い。 | ||||||
9/8(火) | 23,274.13 | +184.18 | 3日ぶりに反発。ワクチンの10月実用化報道でコロナウイルス終息に期待高まる。 |
- ※日経平均株価データ、各種資料をもとにSBI証券が作成。
図1 日経平均株価(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールをもとにSBI証券が作成。データは2020/9/8取引時間中。
図2 NYダウ(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは米国時間2020/9/4現在。
図3 ドル・円相場(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは2020/9/8取引時間中。
表2 当面の重要スケジュール
月日(曜日) | 国・地域 | 予定内容 | ポイント |
9/8(火) | 日本 | 7月家計調査 | |
日本 | 7月毎月勤労統計調査 | ||
日本 | 4-6月期GDP確報値 | ||
日本 | 8月景気ウォッチャー調査 | ||
米国 | 7月消費者信用残高 | ||
9/9(水) | 日本 | 8月マネーストック | |
中国 | 8月生産者物価 | ||
中国 | 8月消費者物価 | ||
米国 | レッドブック週間小売統計 | ||
9/10(木) | 日本 | 7月機械受注 | 前回は前月比7.6%減 |
★決算発表(1件) | 積水ハウス、神戸物産 | ||
欧州 | ECB定例理事会 | ||
米国 | 8月生産者物価 | ||
9/11(金) | 日本 | 8月国内企業物価指数 | |
日本 | 7-9月期法人企業景気予測調査 | ||
米国 | 8月消費者物価 | ||
米国 | 8月財政収支 | ||
9/14(月) | 日本 | 7月第三次産業活動指数 | |
9/15(火) | 中国 | 8月工業生産 | |
中国 | 8月小売売上高 | 市場コンセンサスは前年同月比変わらず | |
中国 | 8月都市部固定資産投資 | 市場コンセンサスは前年同月比0.4%減 | |
ドイツ | 9月ZEW景況感指数 | 350人の市場関係者に景況感をアンケート | |
米国 | FOMC(〜16日) | ||
米国 | 9月NY連銀製造業景気指数 | ||
米国 | 8月輸出入物価 | ||
米国 | 8月鉱工業生産・設備稼働率 | ||
9/16(水) | 日本 | 日銀金融政策決定会合(〜17日) | |
日本 | 9月貿易統計 | ||
日本 | 8月訪日外客数 | 4月〜7月は前年同月比99.9%減 | |
米国 | パウエルFRB議長会見(経済見通し発表) | ||
米国 | 8月小売売上高 | ||
9/17(木) | 日本 | 黒田日銀総裁会見 | |
- | アジア開発銀行(ADB)年次総会(〜18日) | ||
英国 | 金融政策発表 | ||
米国 | 8月住宅着工件数 | ||
米国 | 8月建設許可件数 | ||
米国 | 9月フィラデルフィア連銀製造業景況感指数 | 米製造業のマインドは? | |
9/18(金) | 日本 | 8月消費者物価 | |
米国 | 4-6月期経常収支 | ||
米国 | 9月ミシガン大学消費者マインド指数 |
- ※各種報道、日米欧中銀WEBサイト等をもとにSBI証券が作成。「予想」は市場コンセンサス。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合があります。
表3 日米欧中央銀行会議の結果発表予定日(月日は現地時間)
2020年 | 2021年 | |
日銀金融政策決定会合 | 9/17(木)、10/29(木)、12/18(金) | 1/21(木)、3/19(金)、4/27(火)、6/18(金)、7/16(金)、9/22(水)、10/28(木)、12/17(金) |
FOMC(米連邦公開市場委員会) | 9/16(水)、11/5(木)、12/16(水) | 1/27(水)、3/17(水)、4/28(水)、6/16(水)、7/28(水)、9/22(水)、11/3(水)、12/15(水) |
ECB(欧州中銀)理事会・金融政策会合 | 9/10(木)、10/29(木)、12/10(木) | 1/21(木)、3/11(木)、4/22(木)、7/22(木)、9/9(木)、10/28(木)、12/16(木) |
- ※日米欧中銀WEBサイトを基にSBI証券が作成。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合があります。
なお、ECB理事会は金融政策の議論・決定を行う会合の日程のみ掲載しています。日付は日本時間(ただし、ECBの結果発表日程は現地時間)を基準に記載しています。
上記のように、9月第1週(8/31〜9/4)以降の東京株式市場は、内容的には波乱含みの展開でした。安倍首相の辞任表明や、米国株式市場(特にグロース銘柄)の変調など、相次ぎ大きな変化に襲われました。
このうち、安倍首相の辞任表明については、自民党総裁選への出馬を表明している菅官房長官への政権移行がスムーズに実現する見通しとなり、懸念は小さいように思われます。一方、米グロース銘柄の変調については、過熱感や割高感が解消されるためには、内外の株価調整が必要になる可能性が大きく、予断は許されないと考えられます。ソフトバンクグループ(9984)の巨額デリバティブ投資についても、全容が判明した訳ではないため、今後も一定の注意が必要とみられます。
ただ、米国のグロース銘柄を中心とする過熱感を伴った買いの背景には、FRB(米連邦準備制度理事会)など世界の金融当局による未曽有の金融緩和の効果があると考えられます。こうした実質ゼロ金利状態となっている金融緩和状態は、2022年まで続くというのが市場の一般的な見方であり、そうした市場の見方に変化の兆しがみられない現状では、株価の本格的な下げも想定しにくいと考えられます。
ところで、世界的投資家であるウォーレン・バフェット氏はなぜ今、日本の大手商社株を買ったのでしょうか。改めて、商社の投資ポイントについて考え、バフェット氏の考え方に思いを巡らせることで、相場の先行きの何かがみえてくるかもしれません。
三菱商事(8058)や住友商事(8053)は5%台、三井物産(8031)は4%台と、大手総合商社の多くは予想配当利回りが高いのが魅力の1つです。企業業績全般に不透明感の強いご時世ですが、大手総合商社の予想PERは全銘柄が10倍台となっています。PBR1倍割れの銘柄も多く、典型的なバリュー銘柄と言えそうです。このため、グロース銘柄からバリュー銘柄への乗り換えを検討する投資家にとっては、買い付け候補になりそうな銘柄です。
総合商社は資源やエネルギーに関する事業に投資していることが多く、デフレは逆風で、ある程度のインフレ傾向は追い風になると言えそうです。2020年は金先物相場が過去最高値を更新したことが大きな話題ですが、金先物価格が高いとき、商社を代表格とする業種別指数「卸売」の相対株価は上昇しやすい傾向にあります。図4をみると、金先物価格は2018/9をボトムに上昇傾向を示していますが、それに対して、「卸売」の相対株価は低迷が続いています。そろそろ、「卸売」の水準訂正があってもよいのかもしれません。
新型コロナウイルスの流行拡大もありますが、世界的に政治は「ポピュリズム」に支配される傾向にあり、財政への規律は緩みつつあります。金先物価格の上昇は、世界的な財政規律の乱れ、ドルを中心とするマネーの余剰を反映しているのかもしれません。
なお、日本株は世界の中では景気敏感株的な要素が強いとみられますが、世界を股にかけてビジネスを展開する総合商社はその象徴的な存在と考えられます。新型コロナウイルスが猛威を振るい、世界景気がボトム近辺を低迷する中、日本株や商社の相対的な位置付けが低いことは致し方のないところと言えそうですが、逆にこれらの株にとっては今がボトムに近く、買い場と考えられるかもしれません。
目先波乱の可能性は残るものの、日本株や日経平均株価にとっては、出遅れ修正の余地がありそうです。
※文中、総合商社の株式に関する記述がありますが、あくまでも株式市況全般の話題を展開することが目的で、個別銘柄の推奨を意図したものではありません。
図4 NY金先物相場と業種別「卸売」相対株価(月足)
- ※金先物価格および東証株価データをもとにSBI証券が作成。2000/10終値を1とし、過去20年の月足データをグラフ化しています。業種別「卸売」相対株価の「卸売」は、業種別株価指数「卸売」をTOPIXで割った数値から計算されています。