8月末の日経平均株価終値は23,139円76銭となり、前月末比1,486円76銭(6.8%)高と、月足としては反発になりました。8月は9月に次ぎ、月次パフォーマンス(過去30年間の平均)が悪い月になっていますが、日経平均株価の上昇率は8月としては2003年の8.2%以来の高さとなりました。ただ月末間近の8/28(金)の日経平均株価は前日比326円21銭安となりました。安倍首相が辞任の意向を固めたとの報道があったためです。一部では、長期政権の後は比較的短命の政権が成立しやすく、政治の不安定化と株価の低迷が心配されています。
ただ、日経平均株価の過去の動きをみる限り、長期政権終了後に波乱となったケースは少ないようです。今回の「日本株投資戦略」は、安倍政権という戦後最長の長期政権が終わった後、市場が心配しているように、株価が下落する可能性は大きいのか、小さいのか考えてみました。
8月が終わりました。日経平均株価は8月第1週(8/3〜8/7)に前週末比619円94銭(2.9%)高、第2週(8/11〜8/14)に同959円42銭(4.3%)高と続伸した後、第3週(8/17〜21)は369円06銭(1.6%)安、第4週(8/24〜28)は37円07銭(0.16%)安と続落しました。結局、8月末の日経平均株価終値は23,139円76銭となり、前月末比1,429円76銭(6.6%)高と、月足としては反発になりました。
8月は9月に次ぎ、月次パフォーマンス(過去30年間の平均)が悪い月になっています。そうした中で、日経平均株価の上昇率は8月としては2003年の8.2%以来の高さとなりました。
日経平均株価が大きく上昇した背景には、過剰流動性を背景に世界的な株高が東京株式市場にも追い風になった点が指摘されます。米国市場では、NYダウが7月に2.4%上昇した後、8月は7.6%上昇、ナスダックは7月に7.0%上昇した後、8月は9.6%上昇となっています。NYダウは8月としては1984/8の9.8%以来36年ぶりの大きな上昇率を記録しました。注目のジャクソンホール会議では、FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長が物価上昇率について、2.0%以上の期間が長めに続くことを容認し、過剰流動性継続への市場の期待がさらに高まりました。
なお、世界の新型コロナウイルスの新規感染者数(死者数)は7月に705万人増(16.6万人増)、8月に764万人増(17.2万人増)と感染拡大が続いています。ただ、世界最大の感染国である米国では新規感染者数が7月192万人増、8月143万人増と減速の兆しが強まっています。日本や欧州では、新規感染者数こそ増えているものの、死亡者数はほとんど増加せず「弱毒化」の傾向が指摘され始めています。米国を中心にワクチン実用化へ向けた動きが強まっていることに加え、新型コロナウイルス終息の兆しが強まっていることも、株価上昇の追い風になっていると考えられます。
こうした中、8/28(金)の東京株式市場は波乱となりました。日経平均株価は一時、前日比614円安の水準まで下落。その後はやや下げ渋りましたが、終値も前日比326円21銭安となりました。「安倍首相が辞任の意向を固めた」との報道があったためで、事実安倍首相はこの日、17時から記者会見を行い、内閣総理大臣の職を辞することを正式に表明しました。潰瘍性大腸炎が再発し、病状が悪化したことから継続的治療が必要となり、責任を果たせなくなったことが理由とされました。
安倍首相が再び首相に復活した2012/12/26の日経平均株価は10,230円36銭で、その後現在までの上昇率は2.2倍となりました。政治の安定が株価の上昇に寄与した面があるとみられます。安倍首相以前で長期政権となった佐藤内閣では、日経平均株価が207.3%、中曽根内閣では188.6%上昇しています。長期政権の後は比較的短命の政権が成立しやすく、政治の不安定化と株価の低迷が心配されるところで、8/28(金)の日経平均株価が乱高下となった理由も、その辺にありそうです。ただ、菅官房長官が自民党総裁選への立候補を表明し、政策の継続が期待されたことから、8/31(月)は257円11銭高と反発しました。
表1 日経平均株価の値動きとその背景(2020/8/24〜2020/9/1)
日経平均株価 | 日米株式市場等の動き | ||
終値 | 前日比 | ||
8/24(月) | 22985.51 | +65.21 | 東証1部売買代金が1.5兆円台に縮小。任天堂などゲーム株が堅調。 |
8/25(火) | 23,296.77 | +311.26 | 売買代金が7日ぶりに2兆円を超える。米ワクチンなどの報道で景気回復期待高まる。 |
8/26(水) | 23,290.86 | -5.91 | 利益確定売り優勢。アリババ傘下アントが上場申請で出資元のソフトバンクGが高い。 |
8/27(木) | 23,208.86 | -82.00 | ジャクソンホール会議控え、様子見ムード。中国ミサイル発射で米中対立激化懸念。 |
8/28(金) | 22,882.65 | -326.21 | 安倍首相辞任意向受け、大幅下落。売買代金は3日ぶりに2兆円を超える。 |
8/31(月) | 23,139.76 | +257.11 | 長期政権後の不安が後退。菅官房長官の立候補で政策維持への期待も。 |
9/1(火) | 23,138.07 | -1.69 | NYダウが下げたこともあり、利益確定売りが先行。 |
- ※日経平均株価データ、各種資料をもとにSBI証券が作成。
図1 日経平均株価(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールをもとにSBI証券が作成。データは2020/9/1取引時間中。
図2 NYダウ(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは米国時間2020/8/31現在。
図3 ドル・円相場(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは2020/9/1取引時間中。
表2 当面の重要スケジュール
月日(曜日) | 国・地域 | 予定内容 | ポイント |
9/1(火) | 日本 | 7月失業率・有効求人倍率 | 前回は前者2.8%、後者は1.11倍 |
日本 | 4-6月期法人企業統計 | ||
日本 | 8月自動車販売台数 | ||
★決算発表(1件) | 伊藤園 | ||
EU | ユーロ圏7月失業率 | ||
米国 | 8月ISM製造業景況指数 | 前回は54.2 | |
米国 | 7月建設支出 | ||
9/2(水) | 日本 | 8月マネタリーベース | |
米国 | ADP雇用統計 | 市場コンセンサスは1,000千人増。 | |
米国 | レッドブック週間小売統計 | ||
米国 | 7月製造業受注 | ||
米国 | ベージュブック | ||
9/3(木) | 米国 | 7月貿易収支 | |
米国 | 8月ISM非製造業景況指数 | 新規受注や雇用等の個別指標にも注意 | |
9/4(金) | 米国 | 8月雇用統計 | 市場コンセンサスは非農業部門雇用者数が1,370千人増。失業率9.8% |
9/7(月) | 中国 | 8月貿易収支 | |
米国・カナダ | レーバーデー | ||
9/8(火) | 日本 | 7月家計調査 | |
日本 | 7月毎月勤労統計調査 | ||
日本 | 4-6月期GDP確報値 | ||
日本 | 8月景気ウォッチャー調査 | ||
米国 | 7月消費者信用残高 | ||
9/9(水) | 日本 | 8月マネーストック | |
中国 | 8月生産者物価 | ||
中国 | 8月消費者物価 | ||
米国 | レッドブック週間小売統計 | ||
9/10(木) | 日本 | 7月機械受注 | 前回は前月比7.6%減 |
★決算発表(1件) | 積水ハウス、神戸物産 | ||
欧州 | ECB定例理事会 | ||
米国 | 8月生産者物価 | ||
9/11(金) | 日本 | 8月国内企業物価指数 | |
日本 | 7-9月期法人企業景気予測調査 | ||
米国 | 8月消費者物価 | ||
米国 | 8月財政収支 |
- ※各種報道、日米欧中銀WEBサイト等をもとにSBI証券が作成。「予想」は市場コンセンサス。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合があります。
表3 日米欧中央銀行会議の結果発表予定日(月日は現地時間)
2020年 | 2021年 | |
日銀金融政策決定会合 | 9/17(木)、10/29(木)、12/18(金) | 1/21(木)、3/19(金)、4/27(火)、6/18(金)、7/16(金)、9/22(水)、10/28(木)、12/17(金) |
FOMC(米連邦公開市場委員会) | 9/16(水)、11/5(木)、12/16(水) | 1/27(水)、3/17(水)、4/28(水)、6/16(水)、7/28(水)、9/22(水)、11/3(水)、12/15(水) |
ECB(欧州中銀)理事会・金融政策会合 | 9/10(木)、10/29(木)、12/10(木) | 1/21(木)、3/11(木)、4/22(木)、7/22(木)、9/9(木)、10/28(木)、12/16(木) |
- ※日米欧中銀WEBサイトを基にSBI証券が作成。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合があります。 なお、ECB理事会は金融政策の議論・決定を行う会合の日程のみ掲載しています。日付は日本時間(ただし、ECBの結果発表日程は現地時間)を基準に記載しています。
政治の安定は経済の拡大に貢献することは確かでしょう。戦後しばらくして、日本は岩戸景気(1958/6〜1961/12)、オリンピック景気(1962/10〜1964/10)、いざなぎ景気(1965/10〜1970/7)を経て、高度経済成長を遂げていきましたが、この背後には、岸内閣(1957/2〜1960/7)、池田内閣(1960/7〜1964/11)、佐藤内閣(1964/11〜1972/7)と、3回連続の長期政権(すべて在職日数1,000日超)の存在がありました。
一般的に長期政権の後は、比較的短命の政権が成立しやすく、政治が不安定化し、それによる株価の低迷が心配されるところです。表4にもあるように、佐藤内閣の後の田中内閣や、中曽根内閣の後の竹下内閣などは、比較的短命の政権に終わっています。中曽根内閣(1982/11〜1987/11)の後には、平均在職期間1年4ヵ月で首相が10人交代する乱立期になりました。宇野内閣(在職69日)や羽田内閣(同64日)など、「超」短命政権も存在しました。この間に平成バブル(天井は1989/12)は崩壊し、日本経済は失われた10年や同20年と酷評される低迷期に入っていきます。
ただ、日経平均株価の過去の動きをみる限り、長期政権終了後に波乱となったケースは少ないようです。中曽根首相退任後1ヵ月間で日経平均株価が若干下げた以外、在職期間1,000日超の「長期政権」退任後の1ヵ月、日経平均株価は上昇しています。なお、これらの政権において退任の1年後は例外なく上昇しており、佐藤首相退任後も高度経済成長は続き、中曽根首相退任後にバブル相場がピークに向かいます。
日経平均株価のパフォーマンスを決めるのは「政治」よりも「経済」が大きく影響していたことになります。特に、少なくとも平成バブルが頂点を付けるまでは、日本の株式市場は総じて「右肩上がり」であったと言えるでしょう。したがって、その間の2時点を長めに取ると、株価が上昇していると観測できるのは自然のことと言えそうです。すなわち、平成バブルの天井までは仮に、長期政権が終わっても、株価は長期的上昇波動の上にあったことになります。
小泉内閣終了(2006/9)後も、確かに、日経平均株価はあまり下がりませんでしたが、2007/8にパリバショックが起き、リーマンショック(2008/9)を経て、2008/10には瞬間7,000円を割ってバブル崩壊後の安値を更新します。結果的に小泉内閣の「郵政改革」は長期的な株価安定にはつながりませんでした。
安倍内閣はその最後の方で「コロナ・ショック」に見舞われた形ですが、新型コロナウイルスの感染が一巡すれば、新政権は経済回復の恩恵に浴することができるかもしれません。日経平均株価が2020年の高値水準である24,000円を回復するにあたっては、それほど障害は多くないように思われます。ただ、安倍内閣では、規制緩和や産業競争力の強化等の構造改革は目立たなかったように思われるので、その辺は今後の課題になりそうです。
表4 戦後の我が国の長期政権
首相 | 就任 | 退任 | 在職期間 | 次の首相 | 在職期間 | |
安倍晋三 | 第1次 | 2006/9/26 | 2007/9/26 | ※3,168 | (第1次) | |
第2〜第3次 | 2012/12/26 | |||||
佐藤栄作 | 第1〜第3次 | 1964/11/9 | 1972/7/7 | 2,798 | 田中角栄 | 886 |
吉田茂 | 第1次 | 1946/5/22 | 1947/5/24 | 2,616 | 鳩山一郎 | 745 |
第2〜第5次 | 1948/10/15 | 1954/12/10 | ||||
小泉純一郎 | 第1〜第3次 | 2001/4/26 | 2006/9/26 | 1,980 | 安倍晋三 | 366 |
中曽根康弘 | 第1〜第3次 | 1982/11/27 | 1987/11/6 | 1,806 | 竹下登 | 576 |
池田勇人 | 第1〜第3次 | 1960/7/19 | 1964/11/9 | 1,575 | 佐藤栄作 | 2,798 |
岸信介 | 第1〜第2次 | 1957/2/25 | 1960/7/19 | 1,242 | 池田勇人 | 1,575 |
表5 長期政権と日経平均株価
首相 | 就任時 | 1115.65 | 在任期間 | 1ヵ月後 | 退任後 | 1年後 | 退任後 | |
年月日/株価 | 年月日/株価 | 騰落率 | 年月日/株価 | 騰落率 | 年月日/株価 | 騰落率 | ||
佐藤栄作 | 第1〜第3次 | 1964/11/9 | 1972/7/7 | 1972/8/7 | 1973/7/7 | |||
1,202.69 | 3,695.31 | 207.3% | 3,946.33 | 6.8% | 4,730.91 | 28.0% | ||
吉田茂 | 第1次 | 1946/5/22 | 1947/5/24 | 1947/6/24 | 1948/5/24 | |||
(東証再開前) | (東証再開前) | - | (東証再開前) | - | (東証再開前) | - | ||
第2〜第5次 | 1948/10/15 | 1954/12/10 | 1955/1/10 | 1955/12/10 | ||||
(東証再開前) | 340.17 | - | 378.76 | 11.3% | 407.15 | 19.7% | ||
小泉純一郎 | 第1〜第3次 | 2001/4/26 | 2006/9/26 | 2006/10/26 | 2007/9/26 | |||
13,973.03 | 15,557.45 | 11.3% | 16,811.60 | 8.1% | 16,435.75 | 5.6% | ||
中曽根康弘 | 第1〜第3次 | 1982/11/27 | 1987/11/6 | 1987/12/7 | 1988/11/7 | |||
7,898.93 | 22,795.02 | 188.6% | 22,586.52 | -0.9% | 27,866.36 | 22.2% | ||
池田勇人 | 第1〜第3次 | 1960/7/19 | 1964/11/9 | 1964/12/9 | 1965/11/9 | |||
1,115.65 | 1,202.69 | 7.8% | 1,212.37 | 0.8% | 1,295.42 | 7.7% | ||
岸信介 | 第1〜第2次 | 1957/2/25 | 1960/7/19 | 1960/8/19 | 1961/7/19 | |||
562.91 | 1,115.65 | 98.2% | 1,142.90 | 2.4% | 1,804.06 | 61.7% |
- ※日経平均株価データ、首相官邸データ他をもとにSBI証券が作成。表4で、ひとりの首相が空白期間を経て2回就任した場合、「次の首相」は2回目の次の首相となります。また、表5において年月日が東証休業日の場合、株価はその後最初の営業日の終値とします。