東京市場では日経平均株価の動きが波乱含みとなっています。6月以降2万円前後をもみ合う展開を続けてきましたが、北朝鮮情勢の緊迫化を受け、7月安値を割り込んで「下放れ」の形になってしまいました。北朝鮮問題が収束するか否か不透明な状態が続いていることに加え、日経平均株価が長いもみ合いの後に下放れた形になっているだけに、当面は注意を要する状態になっていると考えられます。
ただ、決算発表で明らかになったように企業業績は堅調で、日本経済のファンダメンタルズは良好とみられます。このため、予想PERが低下し、株価の割安感は強まっていると考えられます。地政学的リスクの高まりによる押し目の形成が、買い場提供につながる可能性もありそうです。
<今週のココがPOINT!>
「下放れ」となってしまった日経平均株価に波乱の余地? |
8月第2週に入り、日経平均株価は8/7(月)に20,055円89銭(前営業日比103円56銭高)、8/8(火)に19,996円01銭(同59円88銭安)と2万円前後での動きが続きました。米雇用統計(8/4)で堅調な雇用の拡大が確認され、8/7(月)までNYダウが10営業日連続高となるなど、海外株高が下支え要因となりました。
しかし、8/9(水)の日経平均株価は19,738円71銭(前日比257円30銭安)となり、ボックス相場の下限とみられた7/7(金)の取引時間中の安値19,856円65銭を割り込んでしまいました。3連休明けの8/14(月)には一時19,500円を割り込むなど、さらに波乱色が強い相場となりました。北朝鮮がミサイルに搭載可能な核弾頭の開発に成功しているとの分析が報道され、トランプ大統領が過激な発言を繰り返すなど、米朝緊迫化の度合いが一気に強まったことが要因と考えられます。市場では安全資産とされる米長期国債が買われ、米長期金利が低下し、外為市場では一時1ドル108円台まで円高・ドル安が進みました。
米政府高官から外交的な解決を優先する発言が相次ぎ、8/15(火)の日経平均株価は反発しました。しかし、依然として北朝鮮問題が収束するか否か不透明な状態が続いていることに加え、日経平均株価が長いもみ合いの後に下放れた形になっているだけに、当面は注意を要する状態になっていると考えられます。
一方、日経平均株価の予想EPS(一株利益)が過去最高水準である1,415円台まで上昇(8/14)するなど企業業績は堅調とみられます。8/14(月)に発表された4〜6月期の実質GDP(前期比・年率)は事前予想(+2.5%)を大きく上回る+4.0%と加速しました。こうした中、日経平均株価の予想PERは14倍を割り込み始めており、株価の割安感は強まりつつあります。
図1:日経平均株価(日足)〜ボックス相場から「下放れ」
- ※当社チャートツールをもとにSBI証券が作成。データは2017/8/15取引時間中
図2:ドル・円相場(日足)・一目均衡表
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは2017/8/15取引時間中
図3:米10年国債利回り(日足)・一目均衡表
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは2017/8/14(現地時間)現在
当面のタイムスケジュール〜「ジャクソンホール会議」まで重要日程は少ない |
米雇用統計の発表が終わり、日米の主力企業については4〜6月期決算発表も一巡しました。今後2週間でもっとも重要な日程と考えられるのは8/24(木)から開催が予定されている「ジャクソンホール会議」であると考えられます。FRB(米連邦準備制度理事会)のイエレン議長(8/26に講演予定)やECB(欧州中銀)のドラギ総裁が出席を予定しており、秋以降の金融政策についてヒントが示されるのか否かが注目点となります。
それまでは特に、重要な日程は日米ともに予定されていません。北朝鮮情勢に注目が集まりやすい状態が続くとみられます。その意味では8/21(月)からスタートする米韓軍事演習(〜8/31)の間は一応の注意が必要とみられます。
その他、米国では住宅関連指標の発表が続きます。米住宅市場は中古販売、新築販売ともに3月のピークからやや足踏み状態となっていますが、市場の趨勢が低下する兆しをみせている訳ではなさそうです。中古住宅の在庫水準は2008年のピークから半分強程度に縮小しており、それが住宅価格の上昇につながり購入意欲の減退の要因になっていると考えられるためです。米労働市場は堅調に推移していますので、大きな崩れはないと考えられます。
表1:当面の重要なタイムスケジュール〜「ジャクソンホール会議」まで重要日程は少ない
月日(曜日) |
国・地域 |
予定内容 |
ポイント |
---|---|---|---|
8/15(火) | ドイツ | 4〜6月期GDP統計(速報値) | 1〜3月期は前年同期比+2.9% |
米国 | 7月小売売上高 | 市場コンセンサス(除自動車・ガソリン)は前月比+0.4% | |
8/16(水) | 欧州 | EU・4〜6月期GDP速報 | 市場コンセンサスは前年同期比+2.1% |
米国 | 7月住宅着工件数 | 市場コンセンサスは前月比0.8%増 | |
8/17(木) | 日本 | 7月貿易収支 | 輸出のコンセンサスは前年同月比+13.4% |
米国 | 7月鉱工業生産・設備稼働率 | 鉱工業生産のコンセンサスは前月比+0.3% | |
米国 | 8月フィラデルフィア連銀製造業景況指数 | ||
米国 | ★決算発表 | アリババ、ウォルマート他 | |
8/18(金) | 米国 | 8月ミシガン大学消費者信頼感指数 | 市場コンセンサスは94 |
8/21(月) | 米国 | 7月シカゴ連銀全米活動指数 | |
米国 | 米韓合同軍事演習(〜8/31) | 北朝鮮との緊張が高まる可能性は? | |
8/22(火) | ドイツ | 8月ZEW景況感指数 | アナリストは機関投資家など350人にアンケート調査 |
米国 | 6月FHFA住宅価格指数 | 5月は前月比0.4%上昇 | |
8/23(水) | 米国 | 7月新築住宅販売件数 | 6月は前月比0.8%増 |
8/24(木) | 米国 | 7月中古住宅販売件数 | 6月は前月比1.8%減 |
米国 | ジャクソンホール会議(〜8/27) | 主要国の中央銀行幹部や経済学者が討議 | |
8/25(金) | 日本 | 7月全国消費者物価指数 | 6月(除生鮮食品・エネルギー)は前年同月比+0.0% |
日本 | 8月東京都区部消費者物価指数 | 7月(除生鮮食品・エネルギー)は前年同月比-0.1% | |
ドイツ | 8月IFO景況感指数 | 約7,000社の企業にアンケート | |
米国 | 7月耐久財受注 | 設備投資の先行指標 |
表2:日米欧中央銀行会議の結果発表予定日
2017年 | 2018年 | |
---|---|---|
日銀金融政策決定会合 | 9/21(木)、10/31(火)、12/21(木) | 1/23(火)、3/9(金)、4/27(金)、6/15(金)、7/31(火) |
FOMC(米連邦公開市場委員会) | 9/20(水)、11/1(水)、12/13(水) | 1/31(水)、3/21(水)、5/2(水)、6/13(水)、8/1(水) |
ECB(欧州中銀)理事会・金融政策会合 | 9/7(木)、10/26(木)、12/14(木) | 1/25(木)、3/8(木)、4/26(木)、6/14(木)、7/26(木) |
※各種報道、日米欧中銀Webサイト等をもとにSBI証券が作成。「予想」は市場コンセンサス。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合がありますので、あくまでもデータ作成段階のものです。なお、ECB理事会は金融政策の議論・決定を行う会合の日程のみ掲載しました。日付は現地時間を基準に記載しています。
【ココがPOINT!】地政学的リスクで波乱の東京市場!今は「買い」か「売り」か? |
最初の項でご説明したように、日経平均株価はボックス相場から下放れた形になっています。米政府高官から北朝鮮問題について外交的な解決を優先する発言が相次ぎ、8/15(火)の日経平均株価は反発しましたが、ボックス相場の下限とみられてきた7/7(金)の取引時間中の安値19,856円65銭を回復できていないため、不安定な状態が続くと予想されます。8/21(月)からスタートする米韓軍事演習(〜8/31)の間や、9/9(土)の北朝鮮建国記念日なども絡み、緊張状態が高まるか否か、要注意であると考えられます。
確かに、北朝鮮が一定の核攻撃能力を持った以上、同国を震源地とする地政学的リスクが完全に払しょくされることを望むのは当面難しいかもしれません。しかし、最悪のシナリオである武力衝突がどこの国にとっても利益をもたらさないと考えられる以上、どこかの時点で妥協や小康状態が成立することがメインシナリオであると考えられます。当面の株式相場は波乱含みの展開が想定されるものの、株価下落は長続きしないと「225の『ココがPOINT!』」では考えています。
図4は日経平均株価の予想PERの推移を示したものです。8/14(月)の大幅安を受け、予想PERは13.80倍まで低下しました。ちなみに、野田前首相が党首討論の場で衆議院解散の意向を表明した2012/11/14を「アベノミクス相場」のスタートと考えた場合、その前日の2012/11/13に付けた予想PER13.60倍はひとつの基準になると考えられます。すなわち、日経平均株価の予想PERが13.60倍を割り込むということは、市場心理が「アベノミクス相場以前」に戻ることを意味すると理解されます。
前回の「225の『ココがPOINT!』」でもご説明したように、「日経平均株価」は日経平均株価の「予想EPS」と「予想PER」の掛け算として算出されます。この時、「予想EPS」は企業業績という「現実」を示し、「予想PER」は何年分の利益を買って良いのかという「期待」の大きさを示していると考えることができます。予想PERが13.60倍を割り込むということは、安倍政権の経済対策に対する市場の「期待」値の上積みがなくなった状態になっているとも考えられ、それはさすがに「行き過ぎ」であると考えることができます。
現実には、日経平均株価の予想PERが13.6倍を切る場面は何回か訪れています。そして、それらの場面ではいずれも、海外発の悪材料に襲われ、外為市場で円高が進むなど、先を見通しにくい状態に追い込まれた時になっています。しかし、予想PERが13.6倍を割り込む局面、さらに言えば14倍を割り込む局面は長くは続きませんでした。
ちなみに「アベノミクス相場」における予想PERの平均は15.6倍になっています。8/14(月)の日経平均株価の予想EPSは1,415円で、それに15.6倍を掛けると22,074円と計算されます。
日経平均株価は地政学的リスクを背景に当面は波乱含みの展開が予想されるものの、押し目は「買い」になる可能性が大きいと「225の『ココがPOINT!』」では考えます。
図4:日経平均株価予想PERの推移(「アベノミクス相場」開始以降)
- ※日経平均株価データをもとにSBI証券が作成。データは2017/8/14現在
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北朝鮮リスク再燃は買い場か