ドル円は16日にジェファーソンFRB副議長が「政策金利を長期にわたり維持する可能性」に言及したことでドル円は154円79銭まで上昇。その後、ワシントンで行われたG7財務相・中央銀行総裁会議では為替に関する議論はなかったものの、神田財務官や鈴木財務相が「過度な為替変動は経済に悪影響を及ぼす」として円安を牽制。さらに、植田日銀総裁からも「円安が輸入価格の上昇を通じて基調的な物価に影響を与える可能性はあり得る」として円安による環境変化を注視するとの考えを明らかにしました。そのため、ドル円は155円を前に伸び悩む中、19日には中東を巡る地政学リスクの高まりとともに一時153円59銭へ反落しましたが、イランが即時報復の意向を示さなかったため緊張が緩和しました。
また、複数のECB要人が年内複数回の利下げの可能性に言及したのに対し、シカゴ連銀総裁は「インフレ改善の流れは止まった」「強いGDPと雇用指標がインフレを押し上げる過熱の兆しであるかを数週間から数ヶ月かけて判断する必要がある」と早期利下げに慎重なスタンスを示したことから、対欧州通貨での堅調とともにドル円は154円69銭で先週末の取引を終え、週開けの東京市場では一時154円74銭まで上昇する堅調な値動きを続けています。
日米金利差のみならず交易条件の悪化も円安要因
マイナス金利の解除などを決定した3月の日銀金融政策決定会合後の会見で植田総裁は「為替が経済や物価見通しに大きな影響を及ぼすことになれば、金融政策としての対応を考えていくことになる」との考えを明らかにしました。本来、日銀は為替政策に対する権限を有していないため、金融政策は為替動向と切り離して議論されるのが一般的なだけに、こうした発言は異例と言えます。
4月5日に植田総裁は朝日新聞とのインタビューの中で「為替動向が、賃金と物価の循環に無視できない影響を与えることになれば、金融政策として対応する理由になる」と述べています。足もとの米経済が予想以上に堅調に推移するとともにFRBによる早期利下げ開始観測の後退、さらには今後のインフレ動向次第では、現状の政策金利を年末まで維持するとの見通しもあります。こうした動きに対し、植田日銀総裁は先のインタビューで「夏から秋にかけて春闘の結果が物価にも反映されていく中で、賃金と物価の好循環といった目標達成の可能性が高まっていく」と指摘。こうした考えに基づけば日銀の追加利上げの時期は、早くとも7月から10月を視野に入れていると考えられ、当面は日米金利差は縮小し難いとの見方がドル円の円安基調を支援しています。
しかし、日米金利差のみならず、日本の構造的な要因も円安定着の一因とされ、エネルギー価格をはじめ、小麦やトウモロコシなど国際商品価格の上昇による輸入価格の上昇に対し、コスト上昇分に見合う輸出価格の上昇につながっておらず、円安進行が貿易赤字拡大に直結する可能性とともに円安加速につながるといった構造的脆弱性を有しています。また、中東情勢を巡る緊張の高まりを背景にした原油価格の上昇はさらなる円安要因になりかねない状況にあり、原油価格の上昇はインフレ圧力の高まりを通じて米長期金利の上昇要因となっており、NY原油先物価格と米長期金利の連動性が確認されています。
NY原油価格の上昇は米インフレ再燃リスクを高める?
- ※出所:SBIリクイディティ・マーケット
現状の為替市場は、米インフレ動向に敏感に反応しているだけにNY原油先物価格の上昇が利下げ開始時期をさらに後退させる一因になりえます。また、日本経済にとっても原油価格の上昇はインフレ圧力を高める要因になりますが、植田日銀総裁は急激な長期金利の上昇に対して、機動的に国債買い入れオペで対応するとして金利上昇を抑制する意向を示しているため、原油価格の上昇が日米金利差拡大、円安加速につながることも想定されます。
日米金融政策会合の行方
こうした中、4月25‐26日の日銀金融政策決定会合では、前回3月のマイナス金利解除後の経済や物価について議論されると見られています。大企業を中心とした賃上げが中小企業にどの程度の広がりを示しているか、サービス価格の上昇が続いているか、さらに歴史的な円安による物価への影響などを中心に今後の金融政策が議論されると見られています。一方、2026年度までの3年間の物価見通しを示す「展望レポート」での物価見通しは上方修正されると思われ、追加利上げの時期や国債の買い入れの縮小規模が焦点となり円安が加速するか、円安に一服感が見られるか注目されます。加えて、26日にはFRBがインフレ指標として最も重要視する3月のコアPCEデフレーターも発表されます。
- ※出所:SBIリクイディティ・マーケット
今回の結果は、4月30-5月1日のFOMCにおける利下げ開始時期や声明に大きく影響を及ぼすと見られ、日銀と米PCEコアデフレーターの結果次第では心理的節目とされる155円を突破する可能性があります。さらに、中東情勢を巡る緊張継続がもたらすリスク回避の動きによる金融市場への影響や、本邦通貨当局による円買い介入の有無と合わせて神経質な値動きが予想されるだけにドル円の動向が注目されます。
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