4月22日には4月の消費者信頼感指数が-38（3月：-31）と2008年7月以来の水準に低下したことに加え、3月の小売売上高が前月比、前年比ともに2月から大幅に低下したことをきっかけに2020年11月以来の1.2900ドル割れへ下落したことで対ドルでのポンド売りが加速。その後もコロナ規制下のロックダウン法違反で罰金を支払ったジョンソン首相に対する責任追及による首相辞任は不可避との報道などを受け、4月25日の1.2833ドルを高値に4月28日には2020年7月以来の安値となる1.2412ドルへ下落。

こうした中、英予算責任局が、2022年には一人当たりの実質可処分所得が前年比2.2%減と、統計開始以来、単年で最大の減少幅を記録する見通しを発表したこともあり、消費の低下を通じた成長鈍化懸念が、先行きの英国経済及びポンドの下押し要因となりました。

先週末6日の欧州市場序盤に2020年6月30日以来の安値である1.2276ドルへ下落。5日の英中銀政策委員会で昨年12月から4会合連続の利上げ（0.75％⇒1.00％）を決定したほか、年内の10%超へのインフレ上昇と2023年のマイナス成長を予測したことで、利上げ継続見通しを疑問視する見方のほか、スタグフレーションへの警戒からポンド売りに反応したことが要因となりました。

その後、ユーロの対ドルでの上昇に支援されたほか、英中銀の主席エコノミストがスタグフレーションのリスクに直面しているわけではないと発言したことから、1.2380ドルへ反発したものの、一時的な反発に留まり1.2301ドルへ下落。その後も上値の重い値動きを続け、週明けの東京市場でも1.2344ドルを高値に1.2306ドルへ下落する軟調な値動きを続けています。

先週5日に実施された英地方議会選挙は6日までに、開票結果がほぼ判明。感染対策や物価高への対応に対するジョンソン首相および与党保守党への批判票が予想以上に増えたことで、480議席以上を失う大敗となりました。一方、今回の地方選で躍進した労働党ですが、ロンドン以外は期待外れの結果となったことから英議会でのジョンソン首相に対する退陣要求も懸念される事態には至らないとの見方も聞かれます。さらに、ウクライナ情勢の長期化が懸念される中、対ロシア制裁を巡る各国との共同歩調への対応などが優先課題とされること。加えて、地方選を終えたことで、スターマー労働党首がロックダウン期間中に選挙事務所で複数のグループ同士でビールを飲んでいた件について、警察の調査が開始されると見られています。そのため、労働党によるジョンソン首相への辞任追求も一旦棚上げされると見られ、為替市場への影響は限定的に留まると思われます。

12日には英1-3月期GDP速報値が発表されます。市場予想は前期比+1.0％と昨年10-12月期（+1.3％）から2四半期連続で減速すると見られます。また、英3月鉱工業生産は前月比+0.1％と2月（‐0.6％）から改善が見込まれる一方、3月の製造業生産は前月比‐0.5％と2月（‐0.4％）から2ヵ月連続でマイナスになると見られます。4月に英中銀ベイリー総裁から物価の上昇と景気減速のバランスをとりながら行う政策決定の難易度は高く狭い小道を歩くようなものであるとの認識を示しています。

5月18日に発表される英4月消費者物価指数が30年ぶりの高水準となった3月（前年比+7.0％）を上回った場合、スタグフレーションへの警戒が高まると見られます。

5日の英中銀政策委員会で成長率見通しの下方修正と、物価見通しの上方修正がされました。今週発表の3月鉱工業生産や1-3月期GDP以上に、来週17日に発表される4月失業率や賃金上昇率、さらに18日発表の4月消費者物価指数や小売売上高を受けて、景気減速懸念や物価上昇といったスタグフレーションへの警戒が一段と高まるか注目されます。

現状、市場で英中銀が年内に政策金利を2.0%へ引き上げるとの見通しを織り込んでいることから、先行きの利上げ期待の後退につながることになれば、ポンドの下押し圧力を高めることになるかもしれません。 一方、IMMシカゴ通貨先物ポジションは5月3日時点で7.3万枚の大幅な売り越しとなっており、前述の英経済指標が予想を上回った場合には、売りポジションの巻き戻しが見られる可能性もあるだけに、今週から来週にかけてポンドの動向が注目されます。