8/27のパウエルFRB議長の講演を受けた米長期金利の上昇に伴い、ドル円は8/28に106円94銭まで上昇しましたが、安倍首相の突然の辞意表明によるアベノミクス終焉の思惑により、NY市場では一時105円20銭まで反落しました。しかし、8/19の安値（105円10銭）を手前に下げ止まり、105円36銭で先週末の取引を終了しました。

安倍首相の後任となる新たな首相の任期は来年9月末までです。党則によると、全国の自民党員による党員投票と国会議員との公選が原則ですが、「緊急を要する事態」の場合、党員総会で自民党の国会議員一人一票、さらに各都道府県連に三票ずつ割り当てる方法で総裁を選出してもよいとの決まりがあります。いずれの方法でも、過半数を獲得する候補者がいなければ、国会議員一人一票と各都道府県連に一票ずつ割り当てられ、上位2候補による決戦投票が行われることになります。

自民党員による投票を行うのか、国会議員票主体の投票となるのかが、総裁選の行方を左右することになります。安倍首相と麻生財務相の率いる派閥で全自民党議員のおよそ40%を占めるだけに、菅官房長官、もしくは岸田政調会長のいずれかで一本化できれば、反主流派石破元幹事長の総裁の芽を摘むことができるとされます。米国や中国をはじめとする外交、さらには各国との連携を継承・強化できるかが焦点となると思われます。

失業給付特別加算金（週当たり600ドル）が7月末で期限切れとなったことが労働参加率を高めることにつながった可能性がある一方、新型コロナウイルスの感染拡大の影響による飲食関連を中心にした雇用調整がどの程度進んだか注目です。また、8月の消費者信頼感指数やフィラデルフィアおよびNY連銀製造業指数がいずれも7月から鈍化したほか、新規失業保険申請件数も高止まりの状況が続いていることも就業者数の伸び悩む状況を示唆しており、懸念材料となるかもしれません。

一方、先週の講演でパウエルFRB議長は、インフレは期間「平均」で2%を達成する、いわゆるアベレージ・インフレの導入を決定したと発言しました。アベレージ・インフレの導入により、従来の固定された物価目標ではなくなり、FRBは金利を何年もゼロ近辺に据え置くことを明確に示す可能性もあるとの観測も聞かれました。また、その結果として、長期的なインフレ期待を高めることにつながるといった解釈も聞かれ、米長期金利が上昇しました。さらに、市場は議長が既に「政策の変更」に取り組んでいると発言したことで、9月FOMCで新たな緩和策が示される可能性が後退したと捉えました。今回の雇用統計が追加緩和策の必要性につながるほど悪化するか、また、先週の発言を裏付けるか注目されます。

ドル円は6/5の高値（109円85銭）と8/13の高値（107円05銭）を結んだ上値抵抗線を上抜けたのも束の間、7/31の安値（104円20銭）と8/19の安値（105円10銭）を結んだ下値支持線を下回っています。今週発表される米8月ISM製造業景況指数や雇用統計を受けて、この下値支持線を上抜けるか、もしくは105円10銭や心理的節目とされる105円00銭を割り込み円高圧力が高まるか注目されます。