ユーロ圏の債務共有化に向けた位置付けとの見方もある「EU復興基金」は、ユーロ発足時からの長年の課題の一つとされています。

6/18-19に開催されたEU首脳会議では、7,500億規模のEU復興基金と1.1兆ユーロ規模の7ヵ年予算について議論されました。

・4月に決定した5,400億ユーロ（以下、ユーロは省略）の財政パッケージは、
1.欧州投資銀行の企業支援に2,000億　
2.欧州安定メカニズム（ESM)の特別融資枠を通じた国家予算の保護に2,400億
3.欧州委員会の一時的な雇用への助成金に1,000億

・欧州委員会は、5/27に総額7,500億規模の基金の枠組みを発表。このEU復興基金は新型コロナウイルスによる欧州経済への影響が沈静化し、2021年以降、景気回復を加速させるための「第2の矢」として重要なものと位置付け

・復興基金7,500億の内、5,000億が返済不要の補助金、2,500億が返済の必要な融資と いう構成

今回の首脳会議では、各国要人から前向きな発言が目立ったものの、コンセンサスには至らず首脳会議を終了しました。EU復興基金を巡る議論は、EU加盟国による「債務の共有化」であり、オーストリア、オランダ、デンマーク、スウェーデンの4ヵ国からは財政負担に対し、反対の意向も聞かれる中、条件次第では譲歩する姿勢も見られました。

EU復興基金はEUが初めて5,000億の大規模な債券を発行し、イタリアやスペインなど感染による経済的打撃の大きなEU加盟国の救済を中心に資金を振り向けるというものです。それだけに、EU加盟国からの拠出金や炭素税やデジタル課税など新税で賄うことについて、EU各国首脳の合意はもちろん、欧州議会での承認も必要となります。

今後、7月の臨時EU首脳会議で更なる議論が行われる予定ですが、5,000億が返済不要の補助金、2,500億が返済の必要な融資という構成の中で、補助金を各国にどのように振り分けるのかが、議論の対象になると思われます。2,500億の融資に関して、借り入れた加盟国は2028-2058年の間に返済を行うこと、また3,100億の補助金に関しては、欧州委員会から各国の人口、過去の失業率、人口一人当たりのGDPなどを基に振り分ける案が提示されています。

しかし、こうした案ではイタリアやスペインなどが最も恩恵を受けることになり、オーストリア、オランダ、デンマーク、スウェーデンや東欧の国からも反対意見が聞かれています。欧州議会での承認が得られるか、楽観ばかりではないという状態が先週以降のユーロの動きに表れているのかもしれません。

ユーロは、EU復興基金の合意に対する期待が先行するかたちで、6/10に3/10以来の高値となる1.1422ドルまで上昇しました。しかし、議論の行方を見据えた慎重な見方も聞かれたことで、先週末6/19には1.1168ドルまで下落し、下落基調を続けています。

ユーロは6/9の安値（1.1241ドル）と6/12の安値（1.1213ドル）を結んだ下値支持線を割り込むか、今後の値動きを占う上で注目されます。

今回のEU復興基金は、ドイツのメルケル首相とフランスのマクロン大統領の二人がリーダーシップを発揮し、感染による欧州経済の回復に向けた対策として共同での提案から始まりました。

しかし、仮に今後7月のEU首脳会議やそれ以降の議論で合意を得られたとしても、先々について必ずしも楽観できないとの慎重な見方も聞かれています。

メルケル首相は、2021年秋に議員としての任期が終了し政界を引退することが明らかになっており、リーダー不在への懸念も聞かれます。また、マクロン大統領も就任当初こそ、ドイツ出身のフォンデアライエン欧州委員長とともにEUを牽引していくリーダーとしての期待がありましたが、年金改革や感染対策でフランス国内での支持率が低下しており、欧州でのマクロン大統領に対する求心力の低下につながっています。

メルケル首相が引退する1年後を見据えた際に、メルケル首相以上のリーダーが 現れるのでしょうか。マクロン大統領には荷が重いとの指摘も聞かれます。EU復興基金が仮に合意したとしても、運用面で柔軟な対応を指揮するリーダーが不在となる懸念が顕在化するリスクも見据えて、ユーロの動向を注視していく必要があるかもしれません。