緩和競争で、世界的に低金利が蔓延
昨年は、5月にNZ中銀が政策金利を引下げたのに続き、豪中銀も6月、7月に利下げを実施しました。FRBも7月に政策金利の引下げに動き、8月にはNZ中銀が2回目の利下げを行いました。9月には、ECBが2016年3月以来、3年半ぶりに政策金利である中銀預金金利をマイナス0.5%に引下げ、月額200億ユーロの債券買入れ(量的緩和策)を再開したほか、FRBも2回目の利下げを実施しました。さらに、10月には豪中銀とFRBがそれぞれ3回目の利下げを実施するなど、主要各国の中央銀行が緩和競争を繰り広げたことで、世界的に低金利が蔓延する状態となりました。
主要各国の通貨間で金利差という概念が失われたことで、先進主要通貨間を中心とした為替市場は値幅の乏しい一年となり、ドル円は4月の112円40銭を高値に8月の104円43銭まで、僅か7円97銭の限られた値幅での取引となりました。
こうした中で、VIX指数(恐怖指数)が年初から比べ40%ほど下落するなど、リスク選好の動きに支えられ、NY株式市場では主要三指数が揃って史上最高値を更新しました。中でも、ナスダックの昨年1年間の上昇率は40%近くまで上昇したほか、NYダウ、S&P、ドイツDAX指数なども軒並み20%を上回る大幅な上昇率となりました。
しかし、こうした中、ECB内部で緩和政策の限界やマイナス金利の経済に対する弊害が指摘され、スウェーデン中銀が昨年12/19に政策金利を引上げ、5年に渡ったマイナス金利からの脱却を図るなど、緩和政策主体の流れに変化の兆しが見られ始めています。
さらに、昨年12/15には、予定されていた米中両国による双方の追加制裁関税の発動が棚上げされ、米中間の通商問題に対する進展が確認されました。また、米中通商交渉の第一段階の合意・署名の調印式が日本時間1/16の午前1時30分にホワイトハウスで行われることを前に、中国が人民元の切り下げを行わないとのコミットメントを行ったほか、為替のデータ公表に同意したとして、トランプ政権は中国の為替操作国の認定を解除しました。
そもそも、昨年から、主要各国が金融緩和策に積極的に動き、貿易問題を背景にした景気減速に歯止めを掛け、景気浮揚効果に期待する向きがありました。こうした中で、今回の米中通商交渉の第一段階の合意・署名により、米中間の通商問題に更なる進展期待が見られ、世界の貿易取引の底打ちから回復に向けた糸口を見出すことができるか注目されます。また、トランプ政権が中国を為替操作国の認定から解除したことで、米業界団体などから通貨を切り下げて自国の輸出品の競争力を不当に高めていると批判され、中国によって米国内製造業の雇用が失われたとの批判も聞かれていただけに、米労働市場にも更なる改善が進むか注目されます。
先週末1/10に発表された米12月雇用統計では、製造業の就業者数が11月の5.8万人増から1.2万人減へ低下したほか、昨年通年で製造業の就業者数は4.6万人増、賃金上昇率は0.4%に留まった一方、昨年通年で製造業を除く就業者数は210万人増、賃金上昇率は1.5%増と対照的な結果となりました。
12月雇用統計結果
- ※出所:SBIリクイディティ・マーケット
一段と株高・円安が進行するか!?
今週1/16には、米12月小売売上高の発表が予定されており、改めて個人消費の堅調を確認することになるか注目されます。
トランプ政権による中国の為替操作国の認定解除に続き、1/15の米中通商交渉の第一段階の合意・署名の調印式が、更なる米中間の通商交渉の進展や世界主要各国間の貿易取引の拡大に期待をつなぐ内容となるのでしょうか。
仮に進展への期待がリスク選好を助長し、NYダウが29,000ドル台まで上昇するなどリスク選好が助長されることになれば、ドル円は昨年5/22以来の110円台半ばを上抜け、一段と株高・円安が進行するかもしれません。
また、米国の製造業について、ISM製造業PMIの改善や労働市場における改善など先行きに明るい兆しが見られれば、今年半ばまでにFRBの来年以降の再利上げ観測が浮上するかもしれません。
主要各国間での金利差という概念が復活することになれば、為替市場にもダイナミズムが復活する兆しが見られる可能性もあり、米中間の通商交渉の先行きや米個人消費の行方などに注目する必要がありそうです。
- ※出所:SBIリクイディティ・マーケット