過去最小の値幅で一年を終えるか
今年ここまでのドル円の値幅を見ると、高値が4/24の112円40銭、安値が8/26の104円43銭で、その差は僅か7円97銭に留まっており、このまま年初来高値・安値の更新がないまま年末を終えると、過去最小の値幅で一年の取引を終えることになります。
ここ最近の値幅を見ると、2015年が115円86銭〜125円86銭の10円00銭、2016年は英EU離脱を巡る国民投票、いわゆるブレグジットや米大統領選もあり、99円02銭〜121円69銭までの22円67銭もの値幅を記録しました。
来年2020年は、英EU離脱に波乱があるのか、今年12月の総選挙で保守党が議会下院の過半数を奪取し、1月末の英EU離脱を波乱なく通過するのかが注目されます。
しかし、移行期間中に英国とEUとの関税を巡る問題が浮上する可能性があるほか、スコットランドで英国からの離脱を巡る独立運動が再燃する可能性もあり、引き続き様々な問題を孕んでいるかもしれません。
また、トランプ大統領のウクライナ疑惑を巡る弾劾問題に関する議会での公聴会は今週も開催され、状況次第では来年1月〜2月にも裁判所の判断に委ねられるところまで発展する可能性があるかもしれません。大統領選の年に現役の大統領の弾劾問題が取り上げられる異常事態は、来年の大統領選を巡る波乱を予感させるだけに、来年のドル円が今年これまでの最小をさらに更新する可能性は低いと考えられます。
2017年も、107円32銭〜118円60銭の11円28銭の値幅、2018年が104円56銭〜114円55銭の9円99銭。今年を含め直近3年間のドル円の値幅はかなり小さくなっているだけに、来年の反動が気になるところです。
ドル円 日足チャート
- ※出所:SBIリクイディティ・マーケット
値幅縮小の背景は?
そもそも、値幅がここまで縮小した背景には、各国中銀が緩和競争に走り、各国間の金利差が縮小したことが大きな要因であるほか、米中通商問題の影響を受けた各国経済の成長率鈍化も低インフレに拍車をかけたと見られています。
また、各国中銀の金融政策がフォワードガイダンスによって政策の方向性が事前に示され、意外感がなくなったことも影響しているかもしれません。
さらに、各国中銀でも更なる金利低下の余地が限られる中、ECBでは金融政策の意図する景気への影響が良い面以上に悪影響が懸念されるなど、金融政策の限界説、さらには財政政策の必要性に議論が及ぶ状況へと変化が見られます。
米FRBは、今年7月、9月、10月のFOMCで相次いで利下げを決定、10月のFOMCでは、当面政策金利を現状のまま維持する方針を示した格好となっただけに、FRBの金融政策が来年の相場を占う上でメインテーマの一つから外れることになるかもしれません。
また、もう一つの相場のテーマである通商問題も、トランプ大統領がことあるごとに追加関税をほのめかしていた最悪期を脱しつつある兆候が見られます。
トランプ大統領は、米労働者にとってよい内容であれば、米中は貿易交渉で部分合意できるとの考えを明らかにしたほか、先週末にはクドロー米国家経済会議委員長が米中通商協議の部分的合意が近づいていると前向きな見方を示したのに続き、ロス米商務長官も米中貿易合意について米中両国が共に合意を望んでおり、ほぼ確実に達成されるだろうと発言しており、米中貿易協議の部分的合意や12/15の対中制裁関税の凍結もしくは先送りへの期待感が見て取れます。
米長期金利の底打ち感、米中通商問題の最悪期からの脱却、これらがドル円の円高方向への動きの歯止め要因となり、年末に向けて110円台を回復するか注目されます。
しかし、米中通商問題での部分合意がなされ一段落ついた後、香港情勢を巡る中国側の対応について、トランプ政権が中国を牽制するのではないかとの警戒感もあり、110円台回復の妨げにつながる可能性もあるかもしれません。
米議会では、香港での人権や民主主義を支援する「香港人権法案」を可決する可能性があり、今週の動向が注目されます。「香港人権法案」は、香港で不当拘束などの人権侵害があれば、関税やビザ発給など米国が香港に認める特権を剥奪できる仕組みとなっており、米議会下院は既に通過済み、上院でも早ければ今晩にも採決される可能性があります。
仮にこの法案が成立した場合、内政干渉として中国側が米国を非難する可能性が高く、中国側の反発によって米中通商協議が土壇場で期待から失望に一変する可能性もあり、注意が必要です。こうした法案採決の結果やその後の中国側の反応も、年末までのドル円を占う上で注目材料となるかもしれません。