依然として燻る株安・円高に転じる不安
11/1に、米中閣僚級の電話会談による通商交渉を契機に、部分的合意に向けたコンセンサス形成に進展が見られました。また、11/7には部分合意文書の両国首脳による署名を経て、段階的に関税引下げの合意との報道が伝えられたことを背景に、米長期金利が上昇しました。
ドル円は、今年5/30以来となる109円49銭まで上昇しました。ドル円は200日移動平均線を下値支援として、110円台回復に向けた足場固めの基礎を築く中、先週末11/8にも109円48銭まで上昇したものの、109円台半ばからの上値の重さを改めて確認する一方で、108円台後半から109円台前半での堅調な値動きを継続しています。
先週末11/8に、トランプ大統領は「中国は関税撤廃を望んでいる、私はまだなにも合意していない」、「中国は通商合意の成立を私が望んでいる以上に望んでいる、現状に満足している」との考えを明らかにしました。
また、輸入関税の撤廃について「何も合意していない」と述べているものの、翌11/9には、「中国との通商協議はとてもうまく進んでいる」と述べたほか、「米国にとって適切な内容である場合のみ合意を受け入れる」との考えを示しています。
それでも、市場では12/15の追加関税の発動は回避される可能性が高いとの期待感があり、こうした思惑がドル円の堅調やNY株式市場及び日経平均株価の上昇を支援しているといえます。
政治的な案件をどのように為替市場で織り込んでいくのか難しく、先行きに対し楽観・悲観が交錯しています。米中通商協議は第3段階まで想定され、2020年後半まで通商協議が続く可能性があるとのの見方もあり、通商協議の第1段階の合意に関する署名手続きが12月中に行なわれたとしても、第2段階以降の通商協議や関税撤廃に関して具体策が提示されなければ、株安・円高に転じるとの不安は完全には払しょくできない状況となっています。
注目される豪ドルの反応
- ※出所:SBIリクイディティ・マーケット
米中通商交渉の行方を見る上で注目されるのが豪ドルの反応です。
豪にとって貿易相手国のシェア1位である中国との関係は密接であり、中国経済の行方も豪経済や豪中銀の政策金利の動向にも大きな影響力を及ぼしているといわれています。
豪ドル円は、11/7に75円67銭まで上昇、7/24以来の水準まで回復、200日移動平均線(現状:75円74銭)の回復に迫る場面も見られました。
しかし、先週末のトランプ大統領による輸入関税の撤廃に否定的な発言を嫌気して、11/8には74円73銭へ反落するなど、米中通商交渉の行方に一喜一憂する値動きとなっています。
先週11/5の豪中銀政策委員会では、政策金利を0.75%に据え置くことを決定しました。6月、7月、10月と3度の利下げを行ってきた豪中銀の金融政策の緩和政策に関する追加緩和継続の見方に変化が見られてきたことも、豪ドルの下落に一定の歯止めをかける要因になっています。実際、豪中銀の政策委員会での声明では「必要ならば更なる緩和を行う用意がある」との方針に変更はなく、労働市場の行方や賃金上昇などに対する懸念が残っているとの懸念も聞かれています。
一方で、豪7−9月期消費者物価指数は前期比+0.5%、前年同期比+1.7%と予想通りの結果となったほか、中国・財新製造業PMIが51.7と前月から改善したことが中国経済の下振れに歯止めがかかったとの安心感につながったことも、豪ドルの下値支援の一因になりました。
今週は、11/14に豪10月雇用統計の発表が予定されています。また、中国では11/14に10月鉱工業生産や小売売上高の発表も控えています。
米中通商交渉を巡る協議進展の行方や豪や中国の経済指標を受け、豪ドル円が75円00銭を下値支持の水準として堅調な値動きを継続するか、あるいは75円00銭を上値抵抗線として下落基調に転じるのか今後の動向が注目されます。
- ※出所:SBIリクイディティ・マーケット