硬軟織り交ぜながらの対中戦略
5/10の日本時間13時01分に米国は昨年9月に賦課した中国からの輸入品2,000億ドル相当、5,745品目に対する関税を、これまでの10%から25%に引き上げました。
今回の引き上げは、来年の大統領選に向け対中強硬派が占める強力な支持者への配慮が背景にあると見られています。
- ※出所:SBIリクイディティ・マーケット
関税引き上げが一時的な措置で終わり、合意に達することになれば、NY株式市場も反発に向かい、トランプ大統領の再選に向けた礎につながるとするシナリオも聞かれます。
実際、トランプ大統領は「今後の交渉次第で関税は撤廃される可能性もあれば撤廃されない可能性もある」と発言、さらに「習近平国家主席との絆は非常に強い」と述べるなど、交渉がいずれ合意する期待を残す発言をしています。
しかし、トランプ大統領は残り3250億ドルについても関税措置の準備を進めているとされるなど、硬軟織り交ぜながらの対中戦略を展開させています。
一方、中国は5/13に報復関税措置として、米国からの輸入製品600億ドルに対し、5%〜25%の制裁関税を6/1から実施する方針を表明したことから、米中貿易問題の激化を背景に世界経済の減速懸念が高まり、NY株式市場は大幅な下落となりました。
こうした動きに対し、ムニューシン財務長官が米中通商交渉の継続に言及したほか、訪中についても調整中と前向きな見解を表明。
さらに、トランプ大統領も6月のG20で米中首脳会談や米露首脳会談の意向を明らかにしたほか、第4弾となる3,250億ドル相当の対中関税に関しては、決定していないと発言。米中両国の政治的な駆け引きが継続しています。
米消費者物価指数 前期比(%)
- ※出所:米労働省
5/10に、FRBが注目するインフレ指標の一つ、4月消費者物価指数が発表されました。
今後、今回の中国からの輸入品5,745品目、2,000億ドル相当について、10%から25%へ関税が引き上げられることで、輸入物価を押し上げ、インフレ率の上昇につながると見られます。
加えて、トランプ大統領は、関税対象外となっている中国からの輸入製品3,250億ドル相当を対象に、25%の関税を課す準備を進めると牽制、中国に対し合意に向けた一段の柔軟な対応を求めています。
仮に3,250億ドルに25%の関税を課すことになれば、衣料品など消費者に直結した商品が対象に含まれることから、物価上昇への影響は避けられないと見られます。
想像されるFRBの対応として、物価上昇は貿易問題による一時的な現象とし、現状の金融政策の維持が考えられます。
さらに、中国が報復措置を講じる可能性や企業の部品・材料など調達コストの上昇が企業業績に及ぼす影響など、米国経済に悪影響が及ぶ可能性を見極めると思われます。
こうした展開となった場合、NY株式市場はどのような反応を示すのでしょうか。株式市場が急落する下振れ懸念が高まった場合でも、インフレ率の上昇がFRBの利下げを妨げることになり、トランプ大統領の思惑通りには進まない可能性があるかもしれません。
直近、ドル円は109円02銭まで下落しましたが、6月のG20に向けて米中貿易問題を巡る米中間の対立が激化し、米中のみならず世界経済の減速懸念が高まることになれば、ドル円は一段と円高が進行する可能性があるかもしれません。
一方で、G20で米中首脳会談が実現し、両国が関税撤廃や削減措置を講じる前向きな合意が得られることになれば、ドル円は下げ止まり、110円台から一段の円安進行につながる可能性もあるだけに、今後の動向が注目されます。