11月雇用統計のポイント
・時間給賃金は、前月に続き前年比+3.1%と、2009年4月以来9年半ぶりの高水準を持続
・就業者数は、政府系・建設業・一部小売での伸び悩みを背景に鈍化
・製造業の就業者数は2.7万人増、ヘルスケアは3.2万人増と好調を持続
・1969年以来、48年ぶりの低水準である3.7%の低失業率を3ヵ月継続
・12月利上げ観測に変更なし、来年以降のFOMCで「漸進的利上げ」 文言削除の観測
6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | |
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非農業部門 雇用者数(万人) | 20.8 | 16.5 | 28.6 | 11.9 | 23.7 | 15.5 |
失業率(%) | 4.0 | 3.9 | 3.9 | 3.7 | 3.7 | 3.7 |
時間給賃金 前月比(%) | 0.1 | 0.3 | 0.3 | 0.3 | 0.1 | 0.2 |
時間給賃金 前年比(%) | 2.7 | 2.7 | 2.9 | 2.8 | 3.1 | 3.1 |
- ※出所:SBIリクイディティ・マーケット
賃金上昇は幅広い業種に波及するか
9月以降、3ヵ月連続で3.7%の低失業率を継続する米国の労働市場は、極めて良好との印象です。
しかし、就業者数が市場予想の19.8万人増に対し15.5万人増、さらに、前月も25.0万人増から23.7万人増へ下方修正される結果となりました。
米国の景気減速懸念が高まったとの判断から米長期金利が低下し、ドル円は伸び悩むこととなりましたが、果たして市場の判断は正しいのでしょうか?
確かに、雇用統計を見る上で、景気の過熱感やインフレの加速に焦点を当てる状況までハードルが上がっているだけに、厳しい見方は決して誤りではないでしょう。完全雇用といわれる状況下、就業者数の伸び悩みは否めないと思われます。
一方、時間給賃金は、前月に続き前年比+3.1%と2009年4月以来の高水準を2ヵ月連続で維持しています。前月から上昇してはいるものの、レジャー産業では16.19ドル、小売の一角では19.03ドルと低賃金の状態が続いています。一方、鉱工業や林業などでは32.97ドル、金融関連では35.17ドル、情報関連で40.72ドルとバラつきがあります。
就業者数が相対的に多いとされる小売などで20ドル割れの状況となっており、こうした業者でも賃金の上昇が顕著になるのか、幅広い分野への広がりを見せるのかが注目されます。
今後も対前年比での賃金上昇や低失業率の状況が継続するのであれば、FRBの金融政策も極端に弱気になる必要がないため、利上げ継続の可能性を残していると言えるのではないでしょうか。
しかし、ポイントは米国と中国との貿易問題が今後一段と深刻化するかどうかです。12/1の米中首脳会談で米国が課した、1.技術移転強要の是正、2.知的財産権侵害の是正、3.非関税障壁撤廃など、6つの分野に及ぶ課題に対し、中国は90日以内に合意することができるのでしょうか。
米国が新たに賦課関税へと動くことになれば、中国のみならず米国経済にも影響が及ぶことから、当然、労働市場への影響も避けられないと見られています。
こうした懸念が米国の株式・債券市場にも影響を及ぼしているだけに、経済指標以上にトランプ政権の通商政策の行方を見極めていく必要がありそうです。
米時間給賃金 前月比(%) 、 前年比(%)
※出所:米労働省
来年の利上げペースは!?
11月の雇用統計を受けて、12/18-19のFOMCの利上げ観測は維持されており、FRBは3月、6月、9月に続く今年4回目の利上げに踏み切ると見られています。
歴史的な低失業率が継続されていること、対前年比での時間給賃金が2ヵ月連続で3.1%の高水準を記録したことが、大きな支援材料と思われます。
就業者数は伸び悩んだものの、完全雇用の状況下で、今年1月以降11月までの平均でも20万人増を上回る水準を維持していることも、評価される点かもしれません。
9月FOMCでは、16人のFOMCメンバーの内、12人が年内(12月)の利上げを想定していたほか、来年に3回の利上げを想定していることが明らかになりました。
しかし、ドットチャートは、FOMCで委員が話し合いを行った結果を踏まえて、各委員が政策金利見通しを示すものではありません。(誤解され易いポイント)
各委員が政策金利見通しを持ち寄って、強気な見方を示す委員、やや弱気な見通しを示す委員などの見通しを基に、議論の進行に役立てるものです。
今回の雇用統計では、12月の利上げ見通しに変更はないものの、来年の金融政策を占う上で、9月に示された来年3回の利上げ見通しが年2回、もしくは年1回に下方修正されるのか、さらには、声明文から「漸進的な利上げ」との文言が削除されるのかが注目されます。
同時に、政策の柔軟性(経済指標次第、原油価格次第、米中貿易問題の影響次第など)についての言及も注目されます。
さらに、来年のFOMCから、毎回パウエルFRB議長の会見が予定され、より市場との対話を深めると予想されるだけに、今回12/18-19のFOMCが年末から年始にかけての相場を占う上で注目されます。