ドル円は一時107円32銭まで下落。その理由は?
米国では北朝鮮情勢に加え「ハービー」や「イルマ」といった大型ハリケーンによる経済に対する影響が懸念されています。
ハリケーン被害によって7-9月期GDPを0.2%程度低下させるとの見通しのほか、10-12月期GDPにも影響が残るとの懸念があります。
ハリケーン被害により、米経済への影響が一段とインフレ期待を後退させる可能性が高く、先週末時点での9月FOMCでの利上げ確率は僅か0.6%、さらに12月FOMCでの利上げ確率も26.9%まで低下しています。
さらに、先週10月の退任を発表したフィッシャーFRB副議長は、もともと利上げに前向きなタカ派の重鎮の一人とされていました。フィッシャーFRB副議長の退任や、来年2月に任期を迎えるイエレンFRB議長が退任することになれば、金融政策の正常化への道筋が後退するとの懸念も米長期金利の低下の一因となっています。9/8(金)の米債券市場では、10年債利回りが一時昨年11月以来となる2.01%まで低下し、ドル円も昨年11月以来の107円32銭まで円高が進みました。
9/12には、北朝鮮リスクの若干の落ち着きと、ハリケーン「イルマ」の被害が想定を下回るとの予想でドル円は109.50円と、ドル高に振れていますが、値動きの激しい状況が続いています。
米10年債利回り 6ヵ月間の推移 (日足)
- ※出所:Quants Research Inc.
一方、ユーロは対ドルで1.2091ドルまで上昇し、2015年1月以来の高値を更新、堅調な値動きを続けています。 ECB関係筋によると、現在実施している毎月600億ユーロの資産買入れは今年12月で終了し、来年以降の資産買入れについては、毎月400億ユーロもしくは200億ユーロまで減額するほか、資産買入れ期間を来年6月、もしくは9月まで延長することが検討されているとの報道も聞かれています。
ユーロ/米ドル 推移 (日足)
- ※出所:FX総合分析チャート
ドル安の背景
① 10月の退任を表明したFRBフィッシャー副議長は利上げに前向きなタカ派の重鎮の一人であり、フィッシャー副議長の退任は積極的な金融政策の後退につながるとの思惑 ⇒ ドル売り
② ハリケーン「イルマ」のフロリダ上陸で、ハリケーン「ハービー」と合わせた被害額の拡大懸念により、米国経済の下振れ警戒感の高まり ⇒ 米長期金利の低下、ドル売り
③ 北朝鮮の地政学リスクの高まり ⇒ ドル売り、円買い
対北朝鮮、国連安保理 制裁決議の結果を受けて、北朝鮮の動きに注意
日本時間9/12未明に採決された国連安保理での対北朝鮮制裁決議の結果を受けて、北朝鮮が新たな挑発行為を行うのではとの懸念も聞かれています。
制裁決議は、中国、ロシアを含む全会一致で採択されました。石油精製品などの輸出制限を実施し、石油精製品の北朝鮮向けの輸出を3割減らす内容となりました。
当初は全面禁輸を盛り込んだトランプ米大統領の言う「最強の決議案」でしたが、厳しい制裁に難色を示す中国とロシアに米国が譲歩するかたちとなりました。
今後、米朝の睨み合いが続き米軍の対北朝鮮重視の姿勢が長期化することになれば、ロシアの東欧に向けた軍事力強化や中国の海洋進出に対する米国からの圧力低下につながることになりかねません。それだけに対北朝鮮には表向き「対話による解決」を強調するものの実質的には北朝鮮の放任につながっているようにも見受けられます。
米経済指標次第では一段のドル安・円高・ユーロ高の可能性も・・・
9/14(木)には米8月消費者物価指数、9/15(金)には米8月小売売上高が発表されます。
これらの指標が予想を下回り、インフレ期待を一段と低下させる結果となれば、米国の長期金利の低下につながりかねません。
特に米10年債利回りが2.0%を割込むことになれば、ドル円が直近の下値である107円32銭を下回り、一段の円高・ドル安が進む可能性もあり、結果が注目されています。
米消費者物価指数(コア) 前年比(%)
- ※出所:SBIリクイディティ・マーケット
米小売売上高 前年比(%)
- ※出所:SBIリクイディティ・マーケット