安定のフランス、混沌のイギリス、今後のユーロ経済は?
政治的安定を迎えたフランス
6/18(日)に行われたフランスの議会選挙決選投票では、予想通りマクロン大統領率いる「共和国前進」が議会の圧倒的過半数を獲得しました。反ユーロを掲げた国民戦線の支持票は大きく減少するなど、欧州全体を見渡すと、ポピュリズムの嵐も一旦収まっているようです。フランスの選挙結果を受けて欧州の政治リスクは大きく後退しました。
先週末に発表されたユーロ圏・6月の製造業PMI(購買担当者景気指数)は、57.3と6年ぶりの高水準を記録したほか、ドイツの製造業PMIも59.3と、6年1ヶ月ぶりの高水準となった5月(59.5)に迫る好調な結果となりました。
フランスの製造業PMIも55.0と6年ぶりの高水準となった4月(55.1)に肩を並べ景況感の改善が顕著となっています。
これに伴い日本の投資家がユーロ圏の国債比率を大きく増やすなど、欧州債の持ち高が6年ぶりの高水準に達しているとの観測も出ています。
ユーロ圏 製造業PMI(購買担当者景気指数)の推移
- ※出所:Marit Economics
混沌のイギリス政治
先週末6/23で英国がEU離脱を決定した昨年の国民投票から1年が経過しました。
6/19(月)から開始されたEU離脱交渉では、メイ英首相はブレグジットについて、「欧州の友人や隣人との間に深い特別なパートナーシップを築くことが重要」との従来からの発言を繰り返しています。
しかし、離脱交渉に当たって、英国がEUとの良好な関係構築のために具体的にどのような義務を受け入れるのかは示されておらず、このままでは2019年3月までの約2年間の交渉期間中に、英国がEU各国と独自の通商協定を結べるか疑問視する声も聞こえています。
さらにEU関係者からは、「英国は交渉の仕方すら知らないのか」、「手の内を明かそうとせず、そうした交渉スタイルが自らを窮地に追い込んでいる」といった批判的な意見もあるようです。
EUから英国向けの輸出はEU域内経済活動の約3%に対し、英国から対EUに向けた輸出は英国GDPの12%を占めており、交渉決裂の代償は明らかに英国が大きくなることを理解して交渉に臨むべきだとするEU関係者の見方もあります。
さらに、イギリス下院選挙の結果で、改選前の議席や過半数割れとなってしまった責任を明らかにしていないメイ首相の求心力低下は避けられず、国内政治すらまとめられない首相がEU離脱を当初描いたように実行できなければ、首相の辞任、あるいはEU離脱交渉が決裂するのではとの憶測もあるようです。
また、経済政策以上に移民の流入制限を優先しようとしているメイ首相の行動により、ポピュリズムの動きが強まる可能性もあるかもしれません。
今後のユーロ経済と、通貨ユーロの動きは?
ユーロ圏の1-3月期GDP確報値は前年同期比+1.9%に上昇したほか、ドイツやフランスのGDPも景気回復を顕著に表す結果となっています。ドラギECB総裁は欧州経済について、「より強い動きが見られる」として安定成長への自信を示しています。
実際、6/8のECB理事会で示されたユーロ圏の成長率見通しでは、2017年が+1.9%、2018年が1.8%、2019年が1.7%とそれぞれ3月時点の見通しから上方修正されています。
一方で、イタリアやスペインを中心とした南欧経済は、依然として失業率が高止まりしているほか、賃金の上昇も期待できない状況が続いています。さらに不良債権処理問題についても、ギリシャやイタリアなど収束に至っていない国があります。
EU域内格差に配慮しながらもECBの金融政策は出口戦略を意識し始めているようで、来年1月以降の資産購入額の減額(年末まで600億ユーロ⇒来年1月以降400億ユーロ程度)も計画されています。
今後発表されるユーロ圏の経済指標次第では、9月のECB理事会で来年以降の資産購入額の減額が現実味を増し、2018年半ばから2019年初めにかけて資産購入額がゼロに達するとの見方も出ています。さらに2014年6月の理事会で決定されたマイナス金利も2019年には解除されるかもしれません。
このようにECBの金融政策が出口戦略を意識して動き出せば、ドイツの10年債利回り(現状0.2%程度)についても、消費者物価指数(5月:前年比 +1.4%)を大幅に下回る現在の状況がいつまでも続くとは考えづらく、ECBの出口戦略にともなって大きく上昇することも予想されます。
今後ドイツ10年債利回りがECBの金融政策の変更を意識して上昇することになれば、ユーロは直近の1.13ドル手前を目標に上昇するかもしれません。
昨年9月以降のユーロ/ドルの推移(日足)
- ※出所:FX総合分析チャート