米政権のロシアを巡る混乱を受け、NY株式市場は?
5/10のホワイトハウスでのロシア高官との会談の席上に起こったとされる、トランプ米大統領の機密情報漏えいや、2月に辞任したフリン元国家安全保障担当(大統領補佐官)とロシアの不適切な関係が表面化しています。
こうした中、トランプ大統領がロシア疑惑に関して捜査中のコミーFBI長官を解任したことが司法権妨害にあたるとして、一部メディアから大統領の弾劾に発展する可能性が指摘されるなど、大統領周辺が慌ただしくなっています。
ドルの対主要通貨での強弱を示すドル・インデックスは、先週200日移動平均を割り込んだほか、昨年11/8の米大統領選前の水準へ低下、先週末19日にはドルが対ユーロで昨年11/9以来の安値を更新したほか、対ポンドでも下落したこともあり、下落基調が続いています。
一方、NY株式市場では大統領弾劾の可能性が取り沙汰された先週17日にNYダウが372ドル安の20,606.93ドルまで下落し、約1ヶ月ぶりの安値水準となりました。しかし18-19日の2日間で197ドル高まで反発したことから、先週一週間で91ドル安(0.44%)の下落に留まり、底堅い値動きとなっています。
NYダウの推移(日足)
- ※出所:Quants Research Inc.
リーマンショックの混乱により世界経済の低迷が続いていたオバマ前大統領が就任した際とは対照的に、トランプ大統領が選挙戦で勝利した昨年11月以降の世界経済は回復基調を続けており、トランプ政権の政策期待のみによって支えられた株価上昇ではない、という点に目を向けておく必要がありそうです。
昨年6月の英EU離脱によるポンド安の恩恵を受けた英国経済の好調や、金融緩和の効果が表れはじめた欧州経済に復調の兆しがみられること、さらには米大統領選以降の原油価格の上昇もエネルギー関連企業の業績の押上げに大きく寄与しています。
実際、トランプ政権での経済政策がいまだ実行されていないにもかかわらず、米国企業の1-3月期売上高は前年同期比+7%と過去5年間で最も大幅な上昇となっています。
米議会がロシア疑惑問題の影響によって、税制改革やインフラ整備などの財政政策の実現が遅れることへの懸念が尾を引く中にありながらも、NY株式市場は予想以上に堅調な値動きを続けているといえるでしょう。
米長期金利の上昇に勢いは見られず、ドル円の上昇も限定的
現在、米10年債利回りは、2.50%を上回って上昇を続けるといった兆候は見られず、概ね2.2%〜2.5%水準で推移しています。
米4月雇用統計で失業率が4.4%へ低下しているにもかかわらず時間給賃金の上昇は抑えられており、インフレ期待も盛り上がっていません。米国の成長率見通しを見ても2017年が実質+2.2%、2018年が+2.4%とトランプ大統領が掲げる+3.0%成長には距離があります。それでも景気減速といった弱気見通しが生じていないのが現状です。
米10年債利回りの推移 (日足)
- ※出所:Quants Research Inc.
トランプ政権がロシア問題で足元が揺らいでいることから税制改革や財政政策の実施が遅れるといった見通しも金利上昇の抑制につながっており、結果的に金利面からも株式市場をサポートしているといえそうです。
米国長期金利の上昇に勢いも見られないため、ドル円の上昇も限られていますが、一方でNY株式市場の堅調な相場が過度な円高を回避する一因にもなっています。
FRBは年末から来年初めにもバランスシートの縮小に動くことが予想されています。それだけに低金利主導による株高といった構図がいつまで継続できるのか注意する必要がありそうです。
NY株式市場の調整が本格化した場合、リスク回避志向の高まりがどのようなタイミングで訪れるのか、111円台で下げ止まっているドル円が再度110円割れに至るリスクには注意する必要がありそうです。
米株式・債券・為替の微妙なバランスがいつまで保てるのか注目する段階に差し掛かっているのかもしれません。