各国が藁をも掴む思いで臨む上海G20!
昨年2015年11月トルコ・アンタルヤでのG20では、インフラ整備、テロ資金対策や難民問題を中心にした議論が交わされました。しかし最近は、ISやテロといった案件の報道が減る一方で、中国の景気減速や原油安を背景にした世界的な金融市場の混乱が取り上げられているように思われます。今回、上海で開催予定のG20では、中国当局からの説明や主要各国が協調して合意に向けた具体策が示されるのか、足元の市場センチメントの改善に訴えかけることができるのか注目されます。
今回のG20財務相・中央銀行総裁会議では、議長国となる中国が(1)金融市場の安定 (2)自国経済の構造改革 (3)人民元の安定 (4)資本移動の自由化などに対し、説得力のあるメッセージを発信できるか注目されています。
中国の金融市場の安定に関しては、昨年11/30のIMF理事会で人民元のSDR(特別引出権)採用が正式に決定され、人民元はドル、ユーロ、円、ポンドと並ぶ国際通貨としての地位を得ることとなりました。構成比を見ると人民元は、ドル(全体の41.3%)、ユーロ(30.93%)に次いで10.92%と円(8.33%)やポンド(8.09%)以上の国際通貨となります(実際の採用は2016年10月以降)。人民元のSDRの採用を決定したIMF理事会では、中国政府に対し人民元の国際化に向けた改革の促進を求めましたが、中国政府は依然として人民元取引に対する厳しい制限を課しており、中国人民銀行が日々公表している基準レートに基づいて人民元とドルとの交換レートを決定するなど、透明性を含め自由な市場に転換できていない状況が続いています。
中国・人民元基準レートの推移(対米ドル)
※出所:SBIリクイディティ・マーケット社
そのため、今回のG20の場で(1)中国が目指している人民元相場の水準 (2)人民元改革に向けた具体的なペース などの点に言及することがあれば市場の不透明感も払拭され、世界的な株安の流れにも変化を与える契機になるかもしれません。しかしながら、人民元はお世辞にも国際通貨としての条件を満たしていないばかりか、中国の金融市場そのものが未成熟なだけに、拙速な改革はかえって市場の混乱を招きかねない、との見方もあるようです。一方で人民元の自由化が遅れることになれば、海外からの投資マネーの流出が加速することにつながり、中国の経済成長を一層鈍化させかねない懸念があるのも事実です。
それでも先進諸国にとって13億人もの人口を抱える巨大市場は例外なく魅力的なことは間違いありません。今後、先進国が、国際通貨としての地位を手に入れた中国とどのように交渉しながらつきあっていくのか、今回のG20が前進のヒントになるのか、注目されます。
さらに、世界経済成長のための政策協調の枠組みに関しても(1)FRBの金融政策に対する説明 (2)独や日本など経常黒字国の歳出拡大、財政出動 など、具体策を示すことができるのかといった点も焦点となりそうです。
過去の値動き(米ドル/円)
出所:FX総合分析チャート(週足)
G20を目前に控え、各国はそれぞれの問題を抱えています。
米国は大統領選挙を控えて政策的に動きづらく、海外経済の減速や原油安による米国の景気減速懸念も一部で広がっています。
欧州では英国のEU離脱の是非を問う国民投票を6月に控えるほか、独大手金融機関の大幅な赤字決算、ギリシャやイタリアの財政問題に加え、中東からの移民問題など懸念材料が山積みしています。さらに、先週末にはECB副総裁がマイナス金利の金融機関への影響や緩和拡大の負の影響にも言及しています。
我が国でも日銀のマイナス金利は国内経済への好影響につながらないとの回答が80%を上回る世論調査が示されるなど、有効な手立てが見出しにくい中で、今後の追加緩和による株式・為替市場への影響によっては、日銀に対する信任も問われかねません。今年5月に開催予定の伊勢・志摩サミットでの議長国として積極的な対策を講じることができるかどうか、試金石になるかもしれません。
2009年に英国で開催されたG20では、前年秋のリーマンショックへの対応や世界経済の不均衡是正に向けた議論が交わされましたが、2016年以降の世界各国の株式市場を見るとリーマンショックの時と同じような危機感を抱く市場参加者も少なくありません。各国それぞれが国内の諸事情を抱える中、G20が失望を招くような結果となれば、ドル円は2/11の110円98銭を下抜け、110円割れの可能性も懸念されるだけに、藁をも掴む思いで迎えるのが今回の上海でのG20となります。いずれにしても共同声明の有無も含め、上海での議論の行方はまぎれもなく世界中から注目される重要なイベントであることは間違いありません。
各国の懸念材料
米国 |
大統領選を控え動きづらい 海外経済の減速や原油安による景気への影響 |
欧州 |
英国のEU離脱をめぐる問題(6月に国民投票予定) 独大手金融機関の大幅な赤字決算 ギリシャ・イタリアの財政問題 中東からの移民問題 |
日本 |
マイナス金利導入の反対世論 今後の追加緩和で有効な手立てを出しにくい 今年5月の伊勢・志摩サミットで積極的な策を講じることができるか |
直近の値動き(米ドル/円)
出所:FX総合分析チャート(8時間足)