米ドル円の円高は一服か?円高への本格的転換か?
米ドル円の懸念材料
日経平均は年初から5日続落となる17,697円で先週末の取引を終え、年明け5日間の下落幅は1,335円と大幅なものになりました。さらに12月米雇用統計での非農業部門就業者数が市場予想(20万人増)を上回る29.2万人増となったものの、ドル円は118円85銭を上値に117円台前半まで下落して先週末の取引を終えたほか、週明け1/11のシドニー・ウェリントン市場では、南アランド円の急落余波もあり、米ドル円は昨年8月以来の116円70銭まで円高が進行しました。一説には、昨年12月に米FRBが9年半ぶりの利上げに踏み切った一方で、インフレ率が伸び悩んでおり、今後1年間の利上げペースは極めて緩やかなものに留まるとの観測が高まっているために米ドル円の上値が抑制され、ピークアウトしつつあるとの見方につながっているようです。
さらに、12/18の日銀政策決定会合後の黒田総裁の会見では、ETF(株式指数連動型投資信託)の3,000億円規模の増枠が「追加緩和」ではなく「補完的措置」であると強調し、再三に渡る『デフレ脱却のためにやるべきことは全てやる』との発言とは矛盾する内容を発表するなど、日銀と市場が対話出来る距離が広がり、金融政策の明確な方向性が不透明になっているとの指摘も聞こえます。例えば、昨年は2008年以来久々に年間を通じて売り越しに転じたこともあり、海外投資家による日本株投資スタンスにも変化が見られ、2012年12月以降のアベノミクスに対する期待や効果が日銀の金融緩和と共に、もはや頭打ちとなっているとも言われています。
米雇用統計 非農業部門就業者数(万人)
米時間給賃金 前月比(%)
直近の値動き(米ドル/円)
- 出所:FX総合分析チャート(1時間足)
さまざまな円高・ドル安の要因
日経平均株価は上述の通り下落を続けているほか、NYダウも先週1週間で1,078ドルの大幅安と2008年10月のリーマンショック直後以来となる約7年3ヵ月ぶりの下落幅を記録しました。さらにS&P500指数も年明け5日間の実績としては1928年以来の最悪のパフォーマンスを見せるなど中国の景気減速懸念や人民元安、上海株安など昨年8月のチャイナ・ショックを想起させる値動きとなりました。こうした中でのリスク回避による安全資産買いの動きも円買い要因とされているようです。また、昨年12月の利上げにもかかわらず米長期債利回りは低下し、先週の米債券市場での長期債利回りは利上げ決定時点の水準をも下回るなど、株式から債券への資金シフトが鮮明となりました。
ドル円も海外投機筋らによる円買いの観測が一部で聞かれるほか、年明け以降、人民元が対ドル、対円で下落しています。特にそれまで上昇していた対円での下落率が大きく、結果として人民元を基軸に円とドルの関係が調整されたことも円高・ドル安の一因になっているようです。
果たして、こうした傾向が今後も続くのか、今後の中国当局の対応策が注目されます。米ドル円は、昨年まで4年連続となっていた年間を通じての陽線から陰線(円高)への転換期を迎えているのか、あるいは昨年8月の116円15銭を割り込まずに反転するのか、年初から重要な局面にあるように思われます。
2015年8月の安値へ迫る米ドル/円
- 出所:SBIリクイディティ・マーケット(日足)
今後の相場を動かす注目材料
1 | 中国経済減速懸念、人民元安、上海株(=昨年8月の2,850.71を下回るのか?)に対し、中国当局がどのような対策を講じるのか(人民元安に歯止めがかかるのか) |
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2 | 2/1のアイオワ州での党員総会での予備選挙を皮切りに、米大統領選の本格的なスタートを控える中、米国がどのような指導力を打ち出すことができるのか |
3 | サウジアラビアとイランを巡るイスラム教の宗派対立の行方 |
- 出所:SBIリクイディティ・マーケット
人民元安に関していえば、1/11の米ドル/人民元のトム・ネクスト(翌日vs翌々日)のスワップレートが100Pipsの水準での推移となりました。米ドル高・人民元安のキャリー(ロール)コスト負担を考えると米ドル買い・人民元売りポジションを継続するのは難しくなったとの声も聞かれ始めています。人民元安に歯止めがかかり、上海株も昨年8月の安値(上記ご参照)を割り込むことなく反発に転じれば、ドル円も1/11朝方の116円70銭で直近の安値を確認したことになるかもしれません。
ただし、次に問題なのは、雇用統計直後に付けた118円85銭を上抜けることができるか、この値を上抜けられなければ、本格的な反発とは言い難く、年初第2週目の動向がいよいよ注目されます。
【分析】米ドル円に関する注意点
- 2012年12月の安倍政権発足以降、米ドル円の週足チャート上の雲に本格的に入るのは初めてとなる
※前回は民主党・野田政権時の2012年11月
- 2015年12月の日銀短観での大企業製造業、2015年度下期の想定レートが118円00銭(米ドル円)であり、その水準を割込んでいる
- 日経平均株価が1/12も含め年初来6日続落、その間の下落幅が1,800円を超えており、円高株安の進行に政府・日銀が対応する可能性も取り沙汰されている
※時間がかかると効果に疑問が生じる可能性もあるだけに要人発言などには注意
- 日経平均株価の25日騰落レシオが先週末の段階で62.9%まで低下、2012/6/4の59.33%以来の低水準になっていることから、売られ過ぎの領域に達していることに加え、米ドル円のIMM投機筋のポジションも円買いに傾いていることから反発が近いといった見方もある
- 1/12の日経平均株価の終値(17,218円)が、チャイナ・ショックの影響で2015/9/29に付けた日経平均株価の終値(16,930円)にあと300円安まで迫っている
過去の値動き(米ドル/円)
- 出所:FX総合分析チャート(週足)
日経平均株価の値動き
- 出所:FX総合分析チャート(週足)