今後のトルコはどこに注目!?
6/7に実施されたトルコ総選挙は、エルドアン大統領が支持するイスラム系与党・公正発展党(AKP)が政権を獲得した2002年以来となる13年ぶりの過半数割れとなり(定数550議席、改選前311議席、今回258議席)、大統領にとって初めて政治的敗北を喫する結果となりました。今回のAKPが敗北した最大の原因となったのは、反政府デモの弾圧やメディア関係者の逮捕などに表れたように、議院内閣制から大統領制への移行による大統領権限の強化集中を目論んだことへの警戒感によるものでした。
選挙結果を受け6/8のトルコリラは対ドルで過去最安値となる2.75リラ台までリラ売りが進行、選挙前に比べ5%以上の大幅安となったほか、トルコ主要株価指数BISTも昨年10月以来の安値まで下落、債券市場でも国債が売られました。市場の混乱は、単に長期にわたったAKP単独政権の終焉だけでなく、次に待ち受ける連立政権の枠組みが明確に描けていないことも影響したようです。
過去の値動き(トルコリラ/円)
- ※出所:FX総合チャート(月足)
トルコ政権発足までのスケジュール
6/18の選挙委員会からの最終選挙結果公表後、6/23に議会が招集され、今後のトルコ議会の日程は、6月末前後に議長を選出、大統領が第一党であるAKP党首に組閣を命ずる手順になります。AKPは議長選出から45日以内の8月半ばまでに連立相手と交渉し新政権を発足させることになります。AKP党首のダウトォール首相はインタビューで、「大統領は連立交渉に加わらない」と述べており、大統領の権限拡大に反対する意向を表明しています。野党第一党の共和人民党(CHP=132議席)、民主主義者行動党(MHP=80議席)、クルド人系政党の国民民主主義党(HDP=80議席)に対してもエルドアン大統領の国政への介入を最小限に留めるように求めています。大統領と議会との対立が鮮明化しつつあるものの、AKPの中には大統領寄りの議員も多数いると見られ、AKP内部の主導権争いも連立政権樹立に向けての火種になることも懸念されています。
新政権発足までのスケジュール表
6/18 | 選挙委員会からの最終選挙結果公表 |
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6/23 | 議会招集 政策金利発表(金利7.5%据え置き) |
6/30頃 | 議長を選出 ⇒大統領が第一党であるAKP党首に組閣を命ずる |
議長選出から45日以内 (8月半ばまで) |
連立相手と交渉し新政権を発足 |
AKPが政権樹立に失敗した場合、大統領は野党第一党のCHPに組閣依頼をすることも可能ですが、現状では想定しにくい選択肢です。即ち、大統領権限を形骸化させて真の議院内閣制に向かうのか、議長選出から3ヵ月以内の再選挙実施となるのか、いずれにしろ不透明な状況が続きそうだとの見方が一般的なようです。
選挙後1回目のトルコ政策金利発表を終えて
6/10に発表された1-3月期のGDPは、前年同期比+2.3%と昨年10-12月期の+2.6%から減速しました。GDPの約7割を占める家計消費支出は4.5%増、自動車販売は前年同期比50%増の18.4万台と好調でした。一方で欧州向けの輸出が6.8%減少、中東向けも5.5%減少しており、必ずしも盤石な状況とは言えないだけに、今後の連立政権樹立を巡る政党間協議が難航すれば、投資家や消費者の心理に悪影響を及ぼして景気回復の妨げになるかも知れません。
但し、1-3月のGDPだけでなく、6/15に発表された3月の失業率も2月から改善を見せており、トルコリラも対ドルで2.66台まで反発、株式市場も落ち着きを取り戻しつつあります。6/23の中銀政策委員会でも政策金利(現行7.5%)に変更はありませんでした。しかし、今後8月に向けての連立政権樹立が難航するような事態になれば、トルコ中銀が市場の混乱に先んじて金利引き上げ等の対策を講じる可能性も想定しておく必要があるかも知れません。
長期的なトルコ情勢
長期的な今後のトルコ情勢を捉えた時の懸念として、米国の利上げの影響を考慮する必要がありそうです。すなわち、ラガルドIMF専務理事が『米国の利上げは来年前半に先送りすべき』と異例の注文を付けたように、米国の利上げによってドル建民間債務の利払いに支障をきたすと懸念されるトルコ(ドル建債務がGDPの30%)やチリ(同40%)などの新興国経済の先行きを懸念する声も聞かれています。さらに、ロシア・ブラジル・中国・メキシコなどの新興国では2017年に償還や返済期限を迎えるドル建債務が多くあり、米国の利上げの悪影響をどのように消化していくのか、トルコの今後の大きな課題として認識しておく必要があるかもしれません。