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【そうだったのか!ETF徹底解剖】第18回 「ヘッジ」付きETFのいろいろ
2018/7/11
ETFの中には様々なリスクを限定するために「ヘッジ」を行っているものがあります。これらのETFは的確なエクスポージャーを獲得するためには非常に有用なツールであり、投資方法や投資戦略の幅を広げてくれます。何をどのようにヘッジするか?には様々な考え方や実行方法があります。本稿では、ヘッジ付のETFにどのようなものがあり、どのような使い道があるのかについて説明します。
為替ヘッジETF
例えば日本円の投資家が米ドル建ての資産(例えば米国株)を購入する際には、その資産の変動リスクだけではなく、米ドルの変動リスクを取る事になります。また、米ドルからの投資を考えている場合、日本株を買うということは、同時に日本円の変動の影響を受けることになります。特に日本株の場合、歴史的に為替レートの影響を受けやすいといわれており、ドル建ての海外投資家にとっては、円安(ドル建ての投資家からみると、円の価値が下がっている)と株高が同時に起こることで、せっかく株式が円ベースでは上がっているのに、円がドルに対して安くなったことでそのリターンを享受することが出来ないといわれてきました。このような場合には、投資先の通貨建てでの資産のリターンのみを享受するために、為替をヘッジしているETFが活用できます。ファンドの中においては、現地通貨を買ってそれを使って現地の資産の買いを行った後に、現地通貨を売り建てる(実際は為替のフォワード(先渡契約)を利用)ことによって、現地資産の(現地通貨ベースでの)リターンのみを得られるようになっています。また、単純に為替の変動を抑えて投資をしたいという場合にも十分活用できる手法です。この為替ヘッジをファンド内で実行した為替ヘッジ付ETFは、現在様々な資産クラスと通貨に対して提供されています。
金利ヘッジETF
金利が上がると基本的に債券の価格は下がります。また、社債などの場合は国債の利回りに対して企業の信用リスクに基づいた金利が上乗せされています。仮に国債の金利が上昇した場合、社債などもその金利上昇の影響を受けるために、企業の信用リスクは変化していなかったとしても価格は下落してしまいます。この金利の上昇の影響を受けないように、国債の先物などを売り建てておくのが金利ヘッジです。金利ヘッジ付のETFを用いれば、金利変動のリスクの影響を排除して、企業の信用リスクに基づいた利回り部分(スプレッド)のみを享受することができます。
ダイナミックヘッジETF
上記のそれぞれは、ヘッジを固定で行うものが多いですが、中には市場環境に応じてヘッジ比率を機動的に変更するダイナミックヘッジを行うETFも存在します。例えば、株式のベータヘッジの一種として、ヘッジ比率を市場見通しに応じて適宜変更していくことで、強気な場合はヘッジをかけず、弱気な場合は市場リスクを完全にヘッジしておくような戦略を実行するETFが存在しています。
「除く◯◯◯」ETF
先物やデリバティブなどを利用しなくても、ポートフォリオからあるセクターや企業を除くというやり方も、ある特定のリスクを除くという意味でヘッジをしているともいえます。例えば、金融機関を除いたETFや国有企業を除いた中国株のETFなどがこれに該当すると考えられます。
代表的なヘッジ付ETFの種類
代表的なヘッジ方法 | ヘッジできるリスク | ヘッジのための代表的なコスト | |
---|---|---|---|
為替ヘッジ付ETF | 対象通貨の為替のフォワード(先渡契約)を売りたてることで、為替リスクをヘッジする | 為替変動 | 金利差 |
金利ヘッジ付ETF | 債券の先物を売りたてることで、金利リスクをヘッジする | 金利変動 | 長短金利差 |
株式ベータヘッジETF | 株価指数の先物を売りたてることで、株式市場全体のリスクをヘッジする | 株式市場全体の変動 | 先物のロール |
「除く◯◯◯」ETF | 特定の投資対象をポートフォリオからあらかじめ除いておく | 特定の投資対象のリスク | トラッキングエラー |
ダイナミックヘッジETF | 上記の手法に関して、ヘッジ比率を機動的に変更する | 機動的に対象となるリスクのヘッジ | 対象や手法により様々 |
- ※一般的な場合を説明したもので、すべての事象を網羅しているわけではありません。
ヘッジ付ETFを利用することで、より自分好みの運用戦略の構築へ
「米国の社債の利回りは魅力的だけど、金利上昇で価格は下がるかもしれない」、「機動的に株式市場への連動性を調整してほしい」、「為替のリスクは取りたくない」など様々な投資家のニーズに対応できるヘッジ付のETFがここ数年でかなり増えてきたように思われます。市場見通しに適したヘッジ付ETFを活用することが出来れば、適切な投資対象へのエクスポージャーを得ることが出来ます。長期投資の観点からすれば、不要なリスクを除いたポートフォリオの一部としての活用もできるでしょう。また、ヘッジには当然様々なコストがかかります。このコストを負担してもヘッジする必要があるかという観点もまた必要となってきます。
著者
渡邊 雅史(わたなべ まさふみ)
ウィズダムツリー・ジャパン株式会社 ETFストラテジスト
アクセンチュアにて金融機関向けコンサルティング業務に携わった後、バークレイズ・グローバル・インベスターズ(現ブラックロック・ジャパン)にポートフォリオマネジャーとして入社。その後、ETF部門のストラテジストを務める。金融ベンチャー企業に参画した後、2016年より現職。ETF及びETF市場の分析や、機関投資家及び個人投資家に対するETFを用いた運用戦略の立案・提案業務などに幅広く携わっている。慶應義塾大学総合政策学部卒、早稲田大学大学院ファイナンス修士(MBA)。著書に『計量アクティブ運用のすべて』、『ロボアドバイザーの資産運用革命』(ともに共著、金融財政事情研究会)、訳書に『ETFハンドブック』(金融財政事情研究会)がある。