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【そうだったのか!ETF徹底解剖】 第2回 国内ETFと海外ETFって何が違うの?
2017/11/22
ETFと一言で言っても、東京証券取引所などに上場している国内上場ETFと米国や香港、ロンドンなどの海外の取引所に上場している海外上場ETFが存在しています。それぞれどのような違いがあるのでしょうか?
商品性の違い
国内に上場されているETFはETNや重複上場を含めて様々な商品が上場されています。確かに国内上場ETFを組み合わせることでグローバル資産に投資するポートフォリオを組むことは十分可能ですし、単一の国の株式や債券に投資することや、レバレッジやインバースのETFを利用することもできます。しかし、残高と流動性の高いものは日経平均やTOPIXなどの日本株のものに偏っており、その点では他の投資対象のものの利用がより進んでくることを期待したいところですし、もしかしたらそこは今後の発展の機会なのかもしれません。また、何よりも日本時間に円で取引できる点は日本に居住している人にとっては便利でしょう。
海外上場ETFについてはNYSEやNASDAQなどの米国の取引所や、香港やシンガポールに上場されているETFを個人投資家も売買することが可能です。その場合は基本的には現地時間に現地通貨(主に米ドル)で取引することになります。リアルタイムで取引するためには現地時間で市場が空いている時間でしなければなりません。しかしながら、海外上場ETFの魅力はその商品の多様性にあるといえます。S&P500などの代表的な指数に連動するものはもちろんですが、国別、業種別の様々な株式に連動するものや、米国債、社債などの債券のETFのラインナップも豊富です。さらに、時価総額加重ではないスマートベータ型のETFが多数そろっています。国内で届出がなされていて、個人投資家が売買可能な海外上場ETFは300銘柄を超えています。
市場規模の違い
日本のETF市場はこの10年余りの間で、平均約17%の成長を見せており、足元で約20兆円となっています。これは一般的な投資信託やその他の金融商品の残高の伸びと比べてもかなり高いほうだと考えられます。そういう意味で、「ETFは日本でも高い成長を見せている」という言葉は正しいといえます。しかし、グローバル全体のETF市場は20%を越える成長を見せており、その残高は昨年末で3.5兆ドル、一部報道などでは2017年4月末では4兆ドル(約440兆円)を超えたといわれています。そういった意味では、グローバルETFの伸びのほうが国内上場ETFの成長を上回っています。また、日本のETFの残高の成長の最も大きな要因の一つが日本銀行によるETFの買入れです。金融緩和政策の一環として現在では年間6兆円の規模の買入れを行っています。
出所:ETF GI
※狭義のETFの他に、上場金融商品(ETP)全般を含む(重複上場は除く)
利用者の違い
日本銀行は国内上場ETFの最大の保有者でもあります。東京証券取引所によると、国内上場ETFの保有者の6割超が信託銀行となっていますが、これのほとんどは日本銀行であると推察されます。純粋な個人投資家の保有割合はわずかに7%となっているのが実情です。
国内上場ETFの保有者
2016年7月末時点
出所:ETF/ETN Factsheet 2017 東京証券取引所
一方で、海外でも特にETFの利用が進んでいる米国を例に取ると、例えばウィズダムツリーの場合、ETFの4割弱はRIA(Registered Investment Advisor)と呼ばれるアドバイザーを通じたものとなっています。(注:このデータは販売チャネルであり、必ずしも保有者というわけではありません。) RIAは顧客資産を預かって運用をするアドバイザーですので、ETFのコスト効率や使い勝手のよさが素直に評価されているといえます。また大手の証券会社における販売も同じぐらいあり、こちらも証券会社に所属しているアドバイザーが主に個人の顧客に薦めていると推察できます。RIAのうちのいくらかは日本で言う運用会社(アセットマネジャー)も含まれているため、多少割り引いて考える必要がありますが、機関投資家だけでなく個人のマネーもかなりETFに流れてきていることがわかります。
ウィズダムツリーの米国上場ETFの保有者
2016年12月末時点
出所:ウィズダムツリー
個人投資家はどのように使い分けるべきか?
ETFの多様性、流動性、コスト効率、取引の柔軟性などの魅力は国内上場、海外上場に共通です。投資信託を上場させることによりその使い勝手が向上し、コストを抑え、投資家の資産運用に寄与する投資ツールであるというコンセプトに違いはありません。
そういう意味では、「国内上場 vs 海外上場」として比較して、こちらに上場しているものがいいとする方法は正しくありません。投資家はまずは、「どの資産にどのような戦略で」投資するのかを決定すべきです。その上で、「どの通貨で、どの時間帯で」などを加味するのがいいでしょう。通貨や時間帯にこだわりがないのであれば、ETFの流動性、経費率、取引手数料、そして税金の議論の重要性が上がってくるかもしれません。
「日本株に日経平均連動で」ということであれば国内上場ETFが候補になる可能性が高いでしょうし、「インド株にスマートベータの利益加重戦略で」ということであれば、米国上場のETFにふさわしい投資対象が見つかるでしょう。また、「米国株に高配当戦略で」とするのであれば、分配金の外国税額控除が受けられる米国上場ETFのほうが魅力的かもしれません。ETFの選択においては、まずは投資対象とそれにどのようなアプローチをするのかを吟味してから、実際に投資するETFを決定すべきであり、上場市場ありきで投資対象のETFを最初から絞るべきではありません。
著者
渡邊 雅史(わたなべ まさふみ)
ウィズダムツリー・ジャパン株式会社 ETFストラテジスト
アクセンチュア株式会社にて金融機関向けコンサルティング業務に携わった後、バークレイズ・グローバル・インベスターズ(現ブラックロック・ジャパン)にて、ポートフォリオマネジャー、ストラテジスト、及びETF部門専任のストラテジストを歴任。金融ベンチャー企業に参画した後、2016年よりWisdomTree JapanのETFストラテジスト。ETF市場の分析、ETFを用いた運用戦略の立案・提案業務などに携わる。
慶應義塾大学総合政策学部卒、早稲田大学大学院ファイナンス修士(MBA)。
著書に『計量アクティブ運用のすべて』(金融財政事情研究会)(共著)