ネットフリックスの株価は2022年には一時200ドル割れもありましたが、加入者純増の回復を背景に500ドル台半ばを奪回しました。今回はストリーミングサービスの競合状況を確認して、上場来高値の700ドルに向けて回復は続くか検討してみました。
図表1 主な言及銘柄
銘柄 | 株価(2/6) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
ネットフリックス(NFLX) | 555.88ドル | 579.64ドル | 285.33ドル |
アマゾン ドットコム(AMZN) | 169.15ドル | 172.50ドル | 88.12ドル |
ウォルト ディズニー(DIS) | 99.29ドル | 118.18ドル | 78.73ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今回は動画配信サービス企業から、順調な株価回復が続くネットフリックスを取り上げます。
〇大幅に回復したネットフリックスの株価
ネットフリックスの株価は新型コロナのパンデミック中に加入者純増数が急増したことを受けて2021年には一時700ドルを超えましたが、2022年に入って加入者純増数がマイナスに転じたことから、一時200ドルを割れる水準まで下落しました。当時はネットフリックスの対象市場は飽和に達し、もう成長できない可能性があるのではとまで言われました。
しかし、2022年4-6月期決算発表で7-9月期の加入者純増数は100万人のプラスになるとのガイダンスが出て安心感が広がり、実際7-9月期の加入者純増数は241万人とプラスに転じて、株価はそれ以降回復基調にあります(図表2)。
筆者はネットフリックスについて以下のレポートを掲載してフォローしてきました。
・2022年10月5日に掲載したレポート(1)
「株価が大幅下落したネットフリックスに復活はあるのか!?」では、ストリーミング市場での消費者への浸透ではネットフリックスが圧倒的なリードを保っていることを指摘し、広告つきプランの導入によって回復につながる可能性があることをご報告しました。
・2023年9月26日に掲載したレポート(2)
「400ドル台を奪回したネットフリックス、上場来高値の700ドルに向け回復は続くのか!?」では、2022年10月に試験導入し、2023年5月までに本格導入した「共有アカウント対策」が加入者純増数の回復をけん引する可能性が高いことを指摘しました。
〇加入者純増数は、「広告つきプラン」「共有アカウント対策」で回復が順調
上記のような順調な株価回復は、加入者純増数の復調が背景にあります(図表3)。さらに「広告つきプラン」や「共有アカウント対策」の導入によって、市場の外部要因やコンテンツの人気などに頼らない増加要因を得て、復調は質的に安定してきてるとみられます。
2022年後半から導入した「広告つきプラン」は最低加入料金を引き下げ、加入しやすくすることで対象市場を広げることができました。
日本のケースでは、広告つきプランが導入されるまでは月額990円の「ベーシック」プランが最低料金でしたが、広告が入る「広告つきスタンダード」では790円で加入することができます。「ベーシック」プランは廃止され、現在は月額790円の「広告つきスタンダード」、月額1,490円の「スタンダード」、月額1,980円の「プレミアム」の3本建てとなっています。
「共有アカウント対策」は、不正に無料で視聴している人を有料会員に転換していくものです。ネットフリックスは、インターネット上でIDとパスワードを入力してアカウントにログインして視聴する方式のため、例えば加入者が友人とログイン情報を「共有」することで、その友人は事実上無料で視聴することが可能でした。
会社も不正なアカウント共有が行われていることは承知していましたが、友人の家を訪れて自身のアカウントでログインして一緒に視聴したというような言い逃れが可能であり、また、不正を厳格に取り締まるのはコスト的に合わなかったようで、黙認される状態が続いていました。しかし、主たる視聴場所を指定させるなどの対策によって、徐々に有料会員に転換することができています。
共有アカウントによって無料で視聴している人は世界に1億人以上いると言われています。2023年末の加入者数は2.6億人ですので、無料で視聴していた人々が料金を支払う加入者に転換していくインパクトは非常に大きいと考えられます。
加入者純増数の回復は今後も続くと期待できそうです。
図表2 ネットフリックスの株価(週足、3年)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表3 四半期加入者純増数の推移(百万人)
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
ネットフリックスは第1節でみたように、自社の施策によって回復傾向が続きそうです。一方、ストリーミング市場の成長性にはメディア各社が注力しているため、競合激化も気になるところです。今節ではネットフリックスを取り巻く競合状況を確認してみます。
〇加入者数では、ネットフリックスに近づくところも
加入者数では、ネットフリックスが260百万人と依然としてトップですが、アマゾンドットコム、ウォルトディズニーが近づいており、競争の激化には注視していく必要がありそうです。
アマゾンプライムは、プライム会員サービスの一環という位置づけのため、単純な比較は難しいです。米国のTV視聴時間のシェア(2023年12月)では、ネットフリックスが8%、アマゾンプライムが3%で、消費者への浸透という面では、加入者数以上の差がついています。
ウォルトディズニーは、「ディズニー+」で2019年11月に参入し、当初は加入料金を低く設定したことから加入者数を急速に伸ばしてネットフリックスに近づいてきました。ただし、ディズニー+Hotstarはインドのサービスで平均加入料金が0.7ドルと非常に低いため、ネットフリックスとの比較では、これを除いた161百万人と考えたほうがよいかもしれません。
米国のTV視聴時間のシェア(2023年12月)はディズニー+とHuluの合算で5%に達しており、ネットフリックスに近づいています。ただ、米国外での普及は、ネットフリックスが大きなリードを保っていると言えそうです。
〇収益性ではネットフリックスが圧倒的リード
主要各社のストリーミングサービスの営業利益を比較したのが図表5です。ストリーミングサービスの収益状況が公表されていない、アマゾンプライムとアルファベットのYouTubeプレミアム、アップルのApple TV+を除いています。
収益性では加入者数以上にネットフリックスが大きくリードしています。ネットフリックス以外の各社も加入者数の増加に伴って2023年から2024年にかけて利益は改善見込みですが、水準は大きな差が生じています。ウォルトディズニーは、「ディズニー+」について2024年7-9月期に営業黒字への転換を目指していますが、市場でも可能とみています。
これだけ収益に差があると、コンテンツへの投資額にも影響を及ぼし、2022年のコンテンツ支出額はネットフリックスが140億ドルに対してディズニー+が85億ドルと推定され、ここでも大きな差が生じています。
〇「コネクテッドTV」への広告シフトでもネットフリックスが優位か
広告業界では、TV向けの広告出稿が従来型のTV放送(あらかじめ放送時間が決まっていることから「リニアTV」と言われます)から、ストリーミングサービスなどインターネットに接続された「コネクテッドTV」にシフトすることが見込まれています。Bloombergのメディア業界アナリストのレポートに掲載された「eMarketer」の予想では、図表6の通り高い成長が見込まれています。
10-12月期決算のリリースでグレッグ・ピーターズCEOは「今後、従来のTV放送からネットにつながる『コネクテッドTV』に多額の広告費が流れる。エンゲージメント(視聴時間や視聴頻度などで測られる加入者の視聴習慣)が高い視聴者をもつ我々は、有利な立場にある」と自信を示しました。
以上を総合すると、ストリーミング市場の競争激化は注視していく必要がありますが、いまのところ、ネットフリックスの優位性は維持されると期待できそうです。
図表4 主要ストリーミングサービスの加入者数
注:ウォルトディズニーは、ディズニー+(コア)が112.6百万人、ディズニー+Hotstarが37.6百万人、Huluが48.5百万人の内訳です。
※会社資料、各種報道をもとにSBI証券が作成
図表5 ストリーミング事業の営業利益
注:2023年度はネットフリックス、ウォルトディズニーが実績、その他は市場予想によります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表6 米国の「コネクテッドTV」の広告出稿額(億ドル)
注:メディア調査会社「eMarketer」による予想です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
ネットフリックス(NFLX) | 時価総額: 2,432億ドル | ||||
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決算期 | 売上高(百万ドル) (前年比) | 純利益(百万ドル) (前年比) | EPS(ドル) | ||
23.12 | 33,723 | 7% | 5,547.3 | 28% | 12.34 |
24.12予 | 38,485 | 14% | 7,500.8 | 35% | 17.20 |
25.12予 | 43,006 | 12% | 9,039.7 | 21% | 21.24 |
26.12予 | 47,231 | 10% | 10,487.6 | 16% | 25.30 |
株価(2/5): 562.06ドル | 予想PER(24.12期): 32.7倍 |
注:予想はBloombergが集計するコンセンサス予想によります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
〇業績動向
10-12月期決算は売上が前年同期比13%増、調整後EPSは前年同期の一時損失がなくなったことで同17.6倍と伸びました。加入者純増数が1,312万人と市場予想の891万人を大幅に上回って好調です。広告つきプランとアカウント共有対策の導入が効いているとみられ、好調が続く可能性が高いと考えられます。
1-3月期の売上ガイダンスは前年同期比13%増ですが、為替変動の影響を3%ポイント織り込んでおり、しかも、その大半はアルゼンチンペソの下落による影響のため、実質的には同16%増の予想となります。10-12月期の売上伸び率の13%から加速が見込まれていることになります。
中期的には、同社のセールスポイントである幅広いコンテンツによって盤石な地位を占めつつ、広告つきプランと共有アカウント対策の導入によって、全世界で5億人のターゲット市場(中国を除く)に対する取り組みが進むと期待されます。また、同社はオリジナルコンテンツの創作能力や会員のエンゲージメント(視聴時間や視聴頻度)を高める能力に定評があり、これによって価格決定力やユニットエコノミクス(顧客1人当たりの採算性を表す数値)を高めることで収益力も維持されると期待されます。
2024年12月期から2026年12月期にかけて売上は前年比で10%以上伸長し、利益率も上昇していくと予想されています。
図表7 地域別加入者数の推移(各期末、百万人)
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
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