最近では株式市場だけでなく一般のニュースでも、肥満治療薬として「GLP-1受動体作動薬」が有効であることが取り上げられるなど、世間の認知も高まって今後の市場拡大を予感させる動きとなっています。この市場を2分すると見込まれている、ノボノルディスクとイーライリリィの最近の動きと、両社の主力薬について整理します。
図表1 注目銘柄
銘柄 | 株価(11/28) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
ノボノルディスク ADR(NVO) | 101.43ドル | 105.69ドル | 59.77ドル |
イーライ リリィ(LLY) | 591.60ドル | 629.97ドル | 309.20ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今回は株式市場の注目が高まっている肥満治療薬市場に関してアップデートいたします。肥満治療薬市場に関しては、外国株式特集レポートで以下のように取り上げてきました。
・2022年12月14日付「需要“爆発”前夜!?肥満治療薬市場」
・2023年5月31日付「糖尿病治療薬、肥満治療薬、アルツハイマー病治療薬で成長期待のイーライリリィ」
・2023年10月4日付「期待高まる肥満治療薬!!市場はどこまで大きくなる!?」
最近では株式市場だけでなく一般メディアのニュースでも、肥満治療薬として「GLP-1受動体作動薬」が有効であることが取り上げられるなど、世間の認知も高まって今後の市場拡大を予感させる動きとなっています。
〇ノボノルディスクとイーライリリィの株価の動き
まず、株価の動きを確認しましょう(図表2)。ノボノルディスク、イーライリリィとも10月半ばまでは次々と上場来高値を更新する動きとなっていましたが、その後は両社の株価に違いが出ています。11/27(月)までの1ヵ月の株価騰落率はノボノルディスクが+11.1%、イーライリリィが+5.6%、市場平均のS&P500指数が+10.5%でした。
肥満治療薬で先行しているノボノルディスクは、1-9月期決算が文句なしに好調であったのに対し、イーライリリィの7-9月期決算は一時要因による売上・利益の押し上げ・押し下げを含んで、決算内容の良し悪しの判断がややしにくくなっていたことが影響しているとみられます。
イーライリリィはノボノルディスクが発表した臨床試験の好結果(「GLP-1受動体作動薬」の他疾病に対する有効性など)や肥満治療薬の売上動向(イーライリリィの肥満治療薬はまだ発売されていません)に、同じような薬をもっているからということである意味“連れ高”してきた面もあり、目先はやや注意が必要かもしれません。
〇10月以降の肥満治療薬の関連ニュース
【ノボノルディスクのリリース】
・10月10日: セマグルチドの腎臓病に関する臨床試験の早期有効中止を発表。
・10月13日: 1-9月期と2023年12月期の売上・営業利益ガイダンスを引き上げた。
・11月2日: 1-9月期の決算を発表。7-9月期(会社が公表した1-9月期決算から7-9月期を抜き出したもの)の売上は前年同期比29%増、営業利益は同33%増だった(デンマーク・クローネ建て)。
・11月10日: デンマーク・カロンボーの生産設備に420億デンマーク・クローネ(約62億ドル)を追加投資すると発表。
・11月23日: フランス・シャルトルの生産設備に160億デンマーク・クローネ(約24億ドル)を追加投資すると発表。
・11月24日: 肥満症治療薬「ウゴービ」を来年2月22日に日本で発売すると発表。発売はアジア地域では初めてで、世界では6ヵ国目となる。
【イーライリリィのリリース】
・10月4日: 糖尿病および肥満症治療薬部門のトップが、引退するメーソン氏からリリーUSAの社長であるジョンソン氏に交代すると発表。
・10月15日: 肥満治療薬の臨床試験の最終結果を発表。
・11月2日: 7-9月期決算を発表。売上は前年同期比37%増で、医薬品の権利売却、新型コロナの抗体薬の影響を除くと、同24%増だった。過去に買収した企業の研究開発費の影響で通期のEPS見通しを引き下げた。
・11月8日: FDAが肥満症治療薬「ゼプバウンド(Zepbound)」(一般名:チルセパチド)を承認。週1回の注射剤で、適応はBMIが27以上、かつ、体重関連の疾患をもつ患者。
・11月17日: ドイツ・アルツァイに25億ドルをかけて注射剤の生産設備を新設すると発表。
以上のように、両社とも7-9月期決算発表で糖尿病治療薬、肥満治療薬がけん引して売上が拡大していること、同治療薬の供給体制を強化するために設備投資を行うこと、関連の臨床試験では良好な結果が出たことが発表され、肥満治療薬市場の順調な拡大がうかがえます。
また、イーライリリィは昨年末に申請した肥満治療薬「ゼプバウンド」がFDAに承認され、いよいよノボノルディスクと同じ土俵に立てることになりました。
図表2 イーライリリィとノボノルディスクの株価
注:最後のデータは11/27(月)です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
市場で注目を集める「GLP-1受動体作動薬」については、薬の名前が一般名であったり、商品名であったり、また、ノボノルディスクとイーライリリィとも、従来ものと最新ものが混在しているため、話が複雑になっています。ニュースを理解するためにも一覧にして整理しました(図表3)。ご自身のご用向きのために知りたい方も多いかもしれません。ご参考に。
〇ノボノルディスクとイーライリリィの「GLP-1受動体作動薬」
「GLP-1受動体作動薬」は新世代の糖尿病治療薬として開発され、従来ものではノボノルディスクは「リラグルチド」、イーライリリィは「デュラグルチド」があります。それぞれ、ノボノルディスクでは「ビクトーザ」が2019年まで、イーライリリィでは現在でも「トルリシティ」が最大売上の薬となっています。
その後、これらの従来ものに対して薬効が上回る最新ものが開発され、徐々にこれに切り替わりつつあります。ノボノルディスクの最新「GLP-1受動体作動薬」は一般名が「セマグルチド」で、糖尿病治療薬として注射薬の「オゼンピック」、経口薬の「リベルサス」があり、肥満治療薬としては注射薬の「ウゴービ」として販売されています。
一方、イーライリリィの最新「GLP-1受動体作動薬」は一般名が「チルセパチド」で、糖尿病治療薬として注射薬の「マンジャロ」があり、肥満治療薬としては11月8日にFDAの承認を受けた「ゼプバウンド」があります。
〇先行するノボノルディスク、追いかけるイーライリリィ
最新ものの「GLP-1受動体作動薬」では、ノボノルディスクはイーライリリィに3〜4年程度先行しています(図表4)。それでも、図表2のように年初来の両銘柄の株価が平行して上昇してきたのは、肥満治療薬としてイーライリリィの「チルセパチド」のほうがノボノルディスクの「セマグルチド」よりも効果が高いとの臨床結果が出ているためと考えられます。
ノボノルディスクの「セマグルチド」の臨床試験での体重減少効果は約15%であるのに対して、イーライリリィの「チルセパチド」は約21%という結果が出ています。
ただし、ノボノルディスクも「セマグルチド」を超える効果をもつ薬を開発中ですので、「ゼプバウンド」が出てくれば、イーライリリィが市場を駆逐してしまうということはないと考えられます。競争は長期的に続いていく見通しです。
米大手証券から2030年に1,000億ドル(約15兆円)との予想もある「GLP-1受動体作動薬」の市場を、この2社が分け合うと見込まれています。
図表3 ノボノルディスクとイーライリリィの「GLP-1受動体作動薬」
※各種報道をもとにSBI証券が作成
図表4 「GLP-1受動体作動薬」の売上推移(単位:億ドル)
注:ノボノルディスクは、デンマーク・クローネ建ての数値を米ドルに換算(実績は1DKK=0.1416USD、予想は1DKK=0.1474USD)して表示しています。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
ノボノルディスク ADR(NVO) | 時価総額: 4,685億ドル | ||||
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決算期 | 売上高(億ドル) (前年比) | 純利益(億ドル) (前年比) | EPS(ドル) | ||
22.12 | 25,053 | 12% | 7,956 | 4% | 1.75 |
23.12予 | 33,513 | 34% | 12,066 | 52% | 2.68 |
24.12予 | 40,899 | 22% | 14,616 | 21% | 3.27 |
25.12予 | 47,953 | 17% | 17,365 | 19% | 3.93 |
株価(11/27): 103.87ドル | 予想PER(24.12期): 31.8倍 |
注:デンマーク・クローネ建ての数値を米ドルに換算して表示(実績は1DKK=0.1416USD、予想は1DKK=0.1474USD)しています。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
〇会社・事業概要
デンマークの医薬品大手で、米国市場にはADRで上場しています。1989年にインシュリンメーカー2社の合併で形成されました。糖尿病治療薬が主力で、他に肥満治療、希少疾患も手掛けています。
2022年12月期の売上のうち、「GLP-1受動体作動薬」の糖尿病治療薬が47%、同肥満治療薬が10%を占めます。売上の伸びをけん引しているのは、糖尿病治療薬の「オゼンピック」、肥満治療薬の「ウゴービ」です。両薬の需要が強いため、デンマークおよびフランスでの生産体制強化を表明しています。
〇業績動向
7-9月期の売上は前年同期比29%増、営業利益は同33%増、純利益は同56%増と好調です(会社が公表した1-9月期決算から7-9月期を抜き出したものです)。売上の52%を占める「GLP-1受容体作動薬」の糖尿病治療薬が同37%増と伸び、肥満治療薬は同2.8倍に増加しています。最新タイプの肥満治療薬である「ウゴービ」は米国市場での販売拡大を背景に同8.3倍に増えています。
イーライ リリィ(LLY) | 時価総額: 5,615億ドル | ||||
---|---|---|---|---|---|
決算期 | 売上高(億ドル) (前年比) | 純利益(億ドル) (前年比) | EPS(ドル) | ||
22.12 | 28,541 | 1% | 6,848 | -3% | 7.57 |
23.12予 | 33,683 | 18% | 5,980 | -13% | 6.60 |
24.12予 | 38,908 | 16% | 11,227 | 88% | 12.39 |
25.12予 | 46,727 | 20% | 15,807 | 41% | 17.72 |
株価(11/27): 591.53ドル | 予想PER(24.12期): 47.7倍 |
〇会社・事業概要
1876年創業の米国の医薬品大手です。インスリンの大量生産を初めて実現したことで有名で、ノボノルディスク同様に糖尿病と関係の深い会社です。糖尿病、がん、免疫が主力分野です。売上の25%を研究開発に投入する、研究開発重視の会社です。
期待されている肥満治療薬「ゼプバウンド」は11月8日にFDA(米食品医薬品局)から承認が下りました。ノボノルディスクの肥満治療薬は既に2022年に投入されていますが、臨床試験のときの平均体重の減少は、「ウゴービ」が約15%、「ゼプバウンド」が約21%でした。
〇業績動向
7-9月期の売上は前年同期比37%増で、医薬品権利の売却など一時要因を除くベースでも同24%増でした。売上をけん引しているのは、糖尿病治療薬の「マンジャロ」(4-6月期の9.8億ドルから14.1億ドルに増加)、前年同期比68%増となったがん治療薬の「ベージニオ」などです。調整後EPSは市場予想を大幅に下回りましたが、買収企業の研究開発資産を費用計上したことが主因で、同じ要因で通期の調整後EPSガイダンスが6.50〜6.70ドルに引き下げられました。
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