今回は、エヌビディア(NVDA)を筆頭とする半導体大手3社の決算を確認します。堅調な決算内容からすると、足元の株価下落はスピード調整と言えそうです。
図表1 主な言及銘柄
銘柄 | 株価(11/21) | 52週高値 | 52週安値 |
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エヌビディア(NVDA) | 499.44米ドル | 505.48米ドル | 138.84米ドル |
アドバンスト マイクロ デバイシズ(AMD) | 119.16米ドル | 132.83米ドル | 60.05米ドル |
インテル(INTC) | 43.64米ドル | 44.93米ドル | 24.73米ドル |
マイクロソフト(MSFT) | 373.07米ドル | 378.87米ドル | 219.35米ドル |
メタ プラットフォームズ A(META) | 336.98米ドル | 341.87米ドル | 108.32米ドル |
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注:ブル・ベアETFについては、レポートの最後にある注意事項をご確認ください。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
CPUとGPU市場で競合する半導体大手3社、エヌビディア(NVDA)とアドバンスト マイクロ デバイシズ(AMD)(以下では略称のAMD)、インテル(INTC)の決算が出揃いました。
決算内容を確認する前に、それぞれの競合関係と株価推移を改めておさらいすると、図表2と図表3の通りです。
図表2 エヌビディア、AMD、インテルの競合関係
※Bloombergおよび各種資料をもとにSBI証券が作成
株価推移は、3銘柄ともおおむね「年前半は右肩上がり、年後半は夏場から10月にかけて調整後、10月末から反発」となっています。
図表3 半導体大手3社とSOX指数の推移(年初来)
※BloombergデータによりSBI証券が作成
10月末の反発は、タイミングとして、1)米利上げ終了観測の強まりと10年債利回りの反落、2)AMDとインテルの決算発表の時期と重なります。
1)米利上げ終了観測の強まりと10年債利回りの下落は、金利に敏感なテック株にとって好材料となりました。米長期金利の低下とともに投資家のリスク志向が回復し、テック株代表指数であるナスダック100指数やSOX指数(フィラデルフィア半導体株指数)は急反発しました(図表2の右下)。
2)AMDとインテルの決算は全般的に堅調な内容となり、金利低下による地合い好転も相まって、決算発表後はいずれも株価が反発しました。
エヌビディアは、11/21(引け後)に決算を発表しました。それまでの株価は、上記の1)に加え、決算期待で上昇しました。決算発表の当日(11/21)の通常取引時間帯では利益確定売りで小幅安(0.9%安)、決算発表後の時間外取引では一時6%安となりましたが、およそ2%安水準まで(11/22、日本時間午前10時)戻しています。
11/21の米国市場では、ナスダック100指数とSOX指数も反落しました。両指数とも、前日はテクニカル指標のRSIが短期的に買われすぎを示す70%に達していました。10月末の「売られ過ぎ」に比べれば、足元は「買われ過ぎ」と指摘する声もあり、テック株は利益確定売りに押されました。
この日は、10/31-11/1に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)会合の議事要旨が公表されました。「同会合では、今後の政策金利の動向に関して「慎重に進む」戦略を取ることで政策当局者の見解が一致していたことが明らかになり」(Bloomberg記事)、ややタカ派寄りとなりました。ただ、Bloombergの市況記事にあるように市場では「あまり材料になりませんでした」。利上げ終了観測と来年の利下げ期待が依然として強い状況を反映していると思います。
なお、半導体大手3社の決算については、まず、実績とガイダンスの対市場予想比は、図表4の通りです。
図表4 3社の業績実績とガイダンスの対市場予想比
注:3Qは第3四半期、4Qは第4四半期を指します。エヌビディアとAMD、インテルの決算期が違うため、月表記(たとえば7-9月期)ではなく、四半期(Qの表記、たとえば3Qや4Q)としています。
※BloombergデータによりSBI証券が作成
次に、それぞれの決算内容と経営陣の主なコメントは、以下の通りです。
●エヌビディア:3Q(第3四半期)実績と4Q(第4四半期)ガイダンスともに市場予想を上振れました。決算発表後の時間外取引で一時6%安となった理由について、Bloomberg記事では「4Qの売上高見通しがAIブームに伴う一部の高い期待を下回った」と記しています。
ただ、その後およそ2%安まで下げ幅を縮めたことからすると、投資家はおおむね堅調な決算を評価しているようです。他方、株価がプラス圏まで浮上しなかったのは、ガイダンスが「一部の高い期待を下回った」ことに加え、株価が節目の500ドル突破を試している局面において、利益確定売りが優勢だったからだとみられます。
今回の決算で注目されたデータセンター部門の売上高は、3Qはほぼ前年同期の4倍となり、市場予想を上回りました。経営陣は、「大規模言語モデルや生成AIアプリケーションのトレーニングおよび推論に向けたインフラへの投資が、同社製品に対する広範かつ強い需要を後押している」と説明しました。
具体的には、「ほとんどの消費者向け大手ネット企業は生成AIの導入を急ピッチで進めている。企業におけるAI導入の波が今始まっている」とし、メタ プラットフォームズ A(META)やアドビ(ADBE)、スノーフレイク A(SNOW)、サービスナウ(NOW)を挙げました。「より広範な企業がテスラ(TSLA)や自動運転などの産業用アプリケーション向けのカスタムAIを開発している」とも示しました。
今後の見通しついては、需要は旺盛だとしたうえ、「今年、旺盛な需要に応えるために四半期ごとに供給を大幅に増やしており、来年もこの動向は続くと予想する」と示しました。アナリストの「データセンターは2025年になっても成長できるか」との質問に対しては、「データセンターは2025年まで成長できると確信している」と答えました。
市場で懸念している中国市場について経営陣は、「4Qの中国向け販売は大幅減を見込む」とコメントしました。中国向けをはじめとする米国の半導体輸出規制の対象になっている製品の売上高は、過去数四半期にわたって一貫してデータセンター部門の20-25%を貢献しているとも明かしました。ただ、4Qは中国向けが大幅に減少すると見込まれるものの(中国への輸出制限がなかったらもっと高いガイダンスを提示した可能性もあると認めたが)、その減少分は他の地域の堅調な伸びによって十分相殺される見込みだと示しました。
他方、「輸出規制は中国事業に悪影響を及ぼしており、長期的な影響の大きさについてはまだ見通しが立たない」と認めました。ただし、「ライセンスを必要としない新しい規制に準拠したソリューションを提供できるよう、データセンター製品のポートフォリオの拡大(新製品)に取り組んでいる」と表明し、「これらの新製品は、今後数カ月以内に入手可能になる可能性がある」と示しました。
中国向け売上高はある程度減少するかもしれませんが、全般的にAI向け半導体の需要はまだ旺盛で、データセンター部門は少なくとも2025年までは成長できる可能性が高いことが示されました。4Qはデータセンター部門の増収率が鈍化するかもしれませんが、中期的な見通しは依然として良好と言えそうです(図表5)。
図表5 エヌビディアの部門別売上高の推移
注:市場予想はBloomberg集計によるものです。
※BloombergデータによりSBI証券が作成
●AMD:3Q実績は市場予想を小幅に上回りましたが、4Q売上高ガイダンスは市場予想を下回りました。ただ、決算発表会で経営陣は、「データセンター向けGPU(AIチップ)について、4Qは約4億ドル、来年は20億ドル以上の売上高を見込む」と示し、好材料となりました。
経営陣はまた、「企業によるAIの導入はまだ初期段階にあり、今後3-4年間で年平均50%の成長率が見込まれる市場において複数の勝者が存在するだろう」とし、同社は勝つために戦っていると意気込みと自信を示しました。暗にエヌビディア一人勝ちではなく、自社も勝者の一人になれると示唆しました。
●インテル:3Q実績と4Qガイダンスともに市場予想を大きく上回りました。同社はPC市場の持ち直しとともに、業績回復トレンドがより鮮明になってきました。
決算発表時に報じられた競合他社(エヌビディアとAMD)がArm技術を使用しPC用CPU市場に参入する報道について、経営陣は「全体としてそれほど大きな意味を持つ可能性はない、我々は強力なロードマップを持っている」と表明しました。
決算発表後の株価推移からすると、投資家はひとまず「インテル再建」の初期段階の成果を評価しているようです。株価が11月中旬に節目の40ドル台を上抜いた後、騰勢を強めたのは、アナリストによる買い推奨が背景です。PC市場回復の見通しに信頼感が増してきたことも、株価の上昇トレンド形成を支えたとみられます。
中長期的にみて、エヌビディアとAMDがArm技術を使用しPC用CPU市場(インテルの「牙城」)に参入した場合、インテルのシェア低下につながる恐れがあり、エヌビディアとAMDの動向には留意が必要かもしれません(たとえば、AMDがサーバー向けCPU市場でインテルからシェアを獲得しているように)。
データ集(1) 「マグニフィセント・セブン」の騰落率と関連ニュース(11/8-11/20)
銘柄(時価総額順) | 騰落率 | 関連ニュース等 |
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アップル(AAPL) | 4.9% | 米10年債利回りの低下を背景に、テック株買いの流れが続いた。需要不足が懸念された米20年物国債の入札が好調だったことを受け、米10年債利回りは一段と低下した(データ集(3)や(4)を参照)。半導体受託大手でアップルのサプライヤーでもあるTSMC(TSM)は11/11に、10月の売上高が前年同月比15.7%増になったと発表。月次ベースで2月以来の増収となった。アップルの主要組み立て企業である鴻海精密工業(ホンハイ)は11/14に、市場予想を上回る7-9月期決算を発表した。10-12期見通しについては、組み立て事業の売上高は前年同期と横ばいになる見込みだと示した。アップルの業績見通しにおいて、TSMCやホンハイの業績動向は一つの参考指標とされている。なお、TSMCはエヌビディアの主要サプライヤーでもある。アップルの自社製チップについては、「準備を終わらせる目標はすでに来年中に延期されていたが、今では2025年春にも間に合わない見通しで、自社製チップのリリースは早くて25年末もしくは2026年初めにずれ込むことになる」と報じられた。ただ、アップルはクアルコム(QCOM)とチップ調達で契約を更新(2026年まで)しており、今のところ影響は限定的と言える。 |
マイクロソフト(MSFT) | 3.5% | 11/20に終値ベースで上場来高値を更新。テック株の好地合いが続いたほか、同社出資のOpenAIをめぐる混乱をひとまず抑え込めたことが買い安心感につながった。ただ、11/21はテック株が利益確定売りに押される中、同社株も反落した。OpenAIの取締役会が創業者兼CEOのサム・アルトマン氏を突然解任し、マイクロソフトの株価も一時下落した。ただ、サム・アルトマン氏のマイクロソフト入社が確認されると、株価は持ち直した。OpenAIの大多数の社員が現在の取締役会メンバーが全員辞任しない限り、CEOを解任されたサム・アルトマン氏に続いてマイクロソフトに移籍すると書簡で警告したことも明らかになっている。マイクロソフトに対する信頼の表れであり、OpenAIの発展においてマイクロソフトは不可欠な存在であることも間接的に示されたと言えよう。マイクロソフトのサティア・ナデラ氏は、「私たちはOpenAIとのパートナーシップに引き続きコミットしており、製品ロードマップに自信を持っている」と表明。今のところ、「OpenAIの騒動」による影響は限定的と言えよう。ただ、技術者が流出するなど思わぬ悪影響が出る際はマイナス材料となり得るため、今後の動向には留意する必要がある。 |
アルファベットA(GOOGL) | 4.6% | 米10年債利回りの低下やテック株の地合い改善で続伸した。 |
アマゾン ドットコム(AMZN) | 0.8% | テック株をめぐる地合い改善が続いた中、同社株の上昇率は限定的だった。高値警戒感がくすぶる中、同社のジェフ・ベゾス会長による自社株売却が重しになっていると、米著名な投資情報誌のバロンズ誌は指摘した。なお、同社と韓国の自動車メーカー・現代自動車は11/16に提携を発表。それにより、アマゾンの顧客はアマゾンのECサイトで現代自動車の新車を購入できるようになる。同社が、音声アシスタント「アレクサ」の担当部署で数百人を削減することは11/17に明らかになった。同社は事業の優先順位に沿って、注力分野(生成AIの活用など)へシフトする取り組みの一環であると説明。 |
エヌビディア(NVDA) | 8.7% | テック株の地合い改善と決算期待で買われた。決算内容の詳細については、レポート本文をご参照ください。 |
メタ プラットフォームズ A(META) | 5.7% | 米10年債利回りの低下やテック株の地合い改善で続伸した。同社は中国で廉価版VRヘッドセット販売することでテンセント(00700)と暫定合意に至ったと報じられた。同記事によると、テンセントは2024年後半にヘッドセットの販売を開始する予定。 |
テスラ(TSLA) | 8.6% | 200日移動平均を回復した後、続伸した。以下が支援材料となった。テスラが購入から1年以内のサイバートラックの転売を禁止すると発表。インド進出をめぐっては、来年からEVをインドに輸出し、2年以内に現地工場を建設する方向でインド政府との合意に近づいていると報じられた。ただ、イーロン・マスクCEOがソーシャルメディア「X(旧ツイッター)」上の反ユダヤ主義的な投稿に支持を示したことが大きな波紋を呼んでいる。米大手企業数社は「X」上での広告をやめると発表している。今後、EV販売にも影響が及ぶ際はマイナス材料となり得る。 |
注:時価総額はレポート作成時点の前月末を基準にしたものです。
※Bloombergおよび各種報道によりSBI証券が作成
データ集(2) 「マグニフィセント・セブン」の株価推移(年初から11/20まで)
※BloombergデータによりSBI証券が作成
データ集(3) 業種別S&P500指数と米10年債利回りの推移(年初来)
※BloombergデータによりSBI証券が作成
データ集(4) ナスダック100指数とSOX指数の年初来推移
※BloombergデータによりSBI証券が作成
データ集(5) ナスダック100指数とSOX指数の上位・下位騰落率5銘柄(11/8-11/20)
ナスダック100指数の構成銘柄 | ||
銘柄コード | Bloomberg銘柄名 | 騰落率 |
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ENPH | エンフェーズ・エナジー | 24.7% |
DXCM | デクスコム | 14.5% |
IDXX | アイデックスラボラトリーズ | 13.1% |
INTC | インテル | 12.6% |
ISRG | インテュイティブサージカル | 11.9% |
GILD | ギリアド・サイエンシズ | -7.3% |
WBD | ワーナーブラザース・ディスカバリー | -8.9% |
CSCO | シスコシステムズ | -10.0% |
TTD | ザ・トレードデスク | -15.3% |
ILMN | イルミナ | -16.2% |
SOX指数の構成銘柄 | ||
銘柄コード | Bloomberg銘柄名 | 騰落率 |
AMKR | アムコー・テクノロジー | 15.9% |
RMBS | ラムバス | 15.2% |
INTC | インテル | 12.6% |
ENTG | インテグリス | 12.1% |
LRCX | ラムリサーチ | 10.3% |
MCHP | マイクロチップ・テクノロジー | 9.6% |
GFS | グローバルファウンドリーズ | 4.1% |
LSCC | ラティスセミコンダクター | 3.4% |
ON | オン・セミコンダクター | 2.4% |
WOLF | ウルフスピード | -0.2% |
ACLS | アクセリス・テクノロジーズ | -1.7% |
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