今回は、足元の調整で特に注目されているエヌビディア(NVDA)を取り上げたいと思います。エヌビディアの調整は買いチャンスか、それとも警戒のサインか、主な出来事や相場環境を踏まえながら考察してみたいと思います。
図表1 主な言及銘柄 (Bloomberg銘柄名)
銘柄 | 株価(8/15) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
エヌビディア(NVDA) | 439.40米ドル | 480.88米ドル | 108.13米ドル |
アドバンスト マイクロ デバイシズ(AMD) | 111.35米ドル | 132.83米ドル | 54.57米ドル |
台湾セミコンダクター ADR(TSM) | 91.68米ドル | 110.69米ドル | 59.43米ドル |
インテル(INTC) | 34.77米ドル | 37.19米ドル | 24.59米ドル |
ヴァンエック 半導体 ETF(SMH) | 148.85米ドル | 161.17米ドル | 83.49米ドル |
Direxionデイリー半導体株ブル3倍ETF(SOXL) | 21.80米ドル | 28.75米ドル | 6.21米ドル |
Direxionデイリー半導体株ベア3倍ETF(SOXS) | 10.44米ドル | 89.59米ドル | 8.17米ドル |
- 注:ブル・ベアETFについては、レポートの最後にある注意事項をご確認ください。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
AI半導体王者のエヌビディア(NVDA)が7月中旬から10%以上下落した後、8/23の決算発表を前に反発を試しています。エヌビディアの調整は買いチャンスか、それとも警戒のサインか、主な出来事や相場環境を踏まえながら考察してみたいと思います。
エヌビディアの株価は、AI(人工知能)ブームのお陰で7/18に年初来高値の474.94ドルを付けるまで、年初から225%上昇しました。その間、フィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)も好調でしたが、その上昇率は52%となっており、エヌビディアの上昇率がいかに驚異的だったのかが伺えます。
エヌビディアの株価が年初来高値を更新するまでの主な出来事を確認してみると(図表2の@の部分)、マイクロソフト(MSFT)が生成AIのChatGPTを開発したOpenAIに今後数年で、数十億ドルを追加投資すると発表した1月からエヌビディアは上昇基調が続きました。
図表2 エヌビディア(NVDA)とSOX指数の年初来推移と主な出来事
注:目標株価はBloombergの集計です。
※Bloombergおよび各種資料によりSBI証券が作成
その後、株価が1日で10%以上上昇したこともあり、いずれも決算発表の翌取引日でした。1回目は2/23の14.0%高、2回目は5/25の24.4%高です。いずれも決算発表で市場予想を上回るガイダンスを発表したことが好材料となりました。
特に5/24の決算発表では、8/23(引け後)に発表される予定の24.1期2Q売上高について、市場予想を5割以上も上振れるガイダンスを提示し、市場を驚かせました。マイクロソフトを筆頭とするテック大手のAIへの設備投資がいかに旺盛かが伺える内容でした。決算発表後、アナリストたちはエヌビディアの業績見通しと目標株価を相次いで上方修正しました(図表2)。
しかしながら、7/18に終値ベースで年初来高値を付けた後、エヌビディアは下落しました(図表2のAの部分)。明確なきっかけがあったわけではありませんが、当時、市場では年初から株高が続いたテック大手の高バリュエーションを指摘する声が増えていました。
7/19-7/20に、テック大手の決算で先陣を切ったテスラ(TSLA)とネットフリックス(NFLX)、台湾セミコンダクター ADR(TSM)(通称TSMC)がそろって市場予想を下回る決算を発表しました。それを受け、テック大手が利益確定売りに押され、エヌビディアも下落しました。
折しも、テック大手で構成されるナスダック100指数が過度な集中に対処するため、7/24から「特別リバランス」を実施することとなりました。指数におけるテック大手のウェイトが引き下げられることになり、インデックス運用を行うファンドからポジション調整の売りがあったとみられます。
その後、7/26-7/28に、半導体大手のラムリサーチ(LRCX)とインテル(INTC)が市場予想を上回る決算を発表し、SOX指数とエヌビディアはやや持ち直しました。
しかし、エヌビディアに挑戦するアドバンスト マイクロ デバイシズ(AMD)(通称AMD)が8/1の決算発表でAI半導体分野で大きな進展を示したものの、AMDの株価は8/2に予想外に急落し(8/1の時間外取引では上昇)、SOX指数とエヌビディアも下落しました。
8/8にエヌビディアが最新のAIチップを発表し、24.1期2Qに生産開始の予定だと明かしましたが、株価はむしろ下落しました。モルガン・スタンレーのストラテジストが過去の経験とエヌビディアの株価上昇率に言及し、AIバブルがピークに近づいていると指摘したためです。
ここまでの動きからすると、図表2の@とAの部分では、ニュースフローに対する株価反応が明確に変わってきた印象があります。つまり、@の部分では好材料に対して株価が素直に反応し上昇したの対し、Aの部分では株価が好材料に対して反応薄になり、悪材料をより意識するようになっています。
なお、8/14はモルガン・スタンレーのアナリストがエヌビディアの決算発表を前に、最近の下落は買いチャンスだと主張したことを受け、エヌビディアは7%上昇しました。ただ、8/15にサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)がエヌビディアのAI半導体を購入したと報じられましたが、エヌビディアは0.4%上昇にとどまりました。8/15の動きからすると、足元はAの時ほどではないかもしれませんが、好材料に対して反応したとしても、@の時ほどではないことが示されました。
エヌビディアの調整が「買いチャンス」かそれとも「警戒のサイン」かについては、市場で意見が分かれています。
8/14にモルガン・スタンレーのアナリストがエヌビディアの決算発表を前に、最近の下落は買いチャンスだと主張したように、下落を好機と捉える市場関係者や投資家がいる一方で、米CNBCの人気司会者であり投資家のジム・クレーマーのように足元では警戒が必要と訴える投資家もいます。ジム・クレーマー氏は8/14に、「私ほどエヌビディアを(長期的に)好きな者はいないが、この株はまだラリーしていない。もしかしたら乱高下するかもしれない。」とコメントしました。
8/15にサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)がエヌビディアのAI半導体を購入したと報じられたにもかかわらず、エヌビディアが小幅高にとどまったのは、ジム・クレーマー氏のような投資家がやや多いことを示唆しているかもしれません。
なお、8/15はフィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)が1.7%下落したことと比べれば、エヌビディアは底堅いとも言えます。ただ、SOXの下落要因は、今後、エヌビディアにも影響を与える可能性があり、無視することはできないと思います。
8/15にSOX指数が下落したのは、中国経済の先行きに対する不安が高まったためです。中国市場は米国の半導体企業にとって大きい市場の一つです。中国経済の回復が遅れた場合、半導体市況の底打ちタイミングもずれる可能性があります。半導体市況の底打ち期待も半導体株高を支えてきた要因の一つであることからすると、中国経済の動向には留意する必要がありそうです。
そして、図表2のAの部分で、エヌビディアを筆頭とするテック大手が調整した他の要因も確認する必要がありそうです。
1つ目の要因が、米国の金利上昇です。特に足元では、米国の実質利回りが14年ぶりの高水準になったことが大きく注目されています。Bloombergによると、「10年物の米実質利回り(インフレ調整後の利回り)は8/14に1.78%まで上昇し、2009年以来の高水準に近づきました。」もし、米国の金利上昇が続いた場合、金利に敏感なテック株にとって重石となりそうです。
図表3 米国の10年国債利回り・実質利回りとエヌビディア、SOX指数の推移(年初来)
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
2つ目の要因は、バリュエーション面での割高感です。たとえば、エヌビディアの株価について警戒すべきだと指摘する市場関係者がよく引用するのは、エヌビディアの株価収益率(PER)が既に200倍になっていることです(図表4)。
図表4 エヌビディア(NVDA)の終値とPERの推移(2020年以降)
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
ただ、グロース株のバリュエーションをみる際は、実績を反映するPERよりも、先行きの業績見通しを反映した予想PERのほうがより適切だと思います。予想PERでみた場合、エヌビディアは足元で55倍 で取引されています。この水準は過去平均よりは高いものの、5/24にエヌビディアが市場予想を5割以上も上回るガイダンスを発表した際の67倍を下回っています。一方、コロナ禍の低金利環境と特需の恩恵で株価が前回ピークを付けた2021年11月の58倍に近い水準にもなっています。割安感よりも割高感が意識されやすくなっていると言えます。
そうすると、8/23の決算発表が何よりも重要になってきます。図表4でも分かるように、エヌビディアが5/24に予想を大幅に上回るガイダンスを示した後、予想PERは急低下し、割高感はある程度解消されました。(予想PER=株価/予想EPSのため、予想EPSが上方修正されると、予想PERは低下する)
もし、8/23の決算発表で、前回(5/24)のように市場予想を大幅に上回るガイダンスを提示した場合、割高感の修正につながるため、5/25のように株価上昇につながるかもしれません。ただ、前回の決算を経て投資家の期待(市場予想も)は高くなっているため、当時よりハードルが高くなっているのも実情です。もし、既に高まっている予想に届かない場合、利益確定売りを誘う可能性もあります。
総合的にみると、足元の相場環境はやや不安定で、投資家のリスクテイク姿勢は弱いと言えるでしょう。エヌビディアの決算見通しについては、テック大手のAIへの投資意欲からすると、良好の可能性が高いとみております。他方、前回の決算を経て投資家の期待も高まっている点を考慮すると、決算内容を確認するまではやや慎重姿勢を取ったほうがいいかもしれません。
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