米国のテーパリングや利上げの時期に対して警戒感が強まるなか、中国人民銀行が予想外に預金準備率を引き下げ、金融緩和へ舵を切りました。それを受け、市場では中国の景気回復に対し頭打ち懸念が強まっています。COVID-19のデルタ型による世界的な感染再拡大懸念も相まって、景気敏感株からディフェンシブ株への資金シフトが予想されます。ただし、中国経済が底割れする可能性も低いと考えられるため、ある程度成長性が期待できる銘柄がより注目されるでしょう。今回はディフェンシブ・グロース特性を持つヘルスケア関連株をご紹介します。
図表1:主な言及銘柄
銘柄 | 株価(7/20) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
チャイナバイオ ETF(02820) | 133.35香港ドル | 100.20香港ドル | 155.80香港ドル |
薬明生物(02269) | 138.00香港ドル | 46.70香港ドル | 148.00香港ドル |
復星医薬(02196) | 67.90香港ドル | 30.00香港ドル | 69.45香港ドル |
石薬集団(01093) | 10.68香港ドル | 7.08香港ドル | 12.68香港ドル |
京東健康(06618) | 101.90香港ドル | 92.60香港ドル | 198.50香港ドル |
阿里健康信息技術(00241) | 14.28香港ドル | 14.20香港ドル | 30.15香港ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
世界株式市場で米国のテーパリングや利上げの時期に対して警戒感が強まっているなか、中国が7月9日に預金準備率(RRR)の引き下げを発表し、市場に動揺を与えました。中国はCOVID-19の影響からいち早く脱却し、景気回復が続いており、今後もV字型回復が続くと予想されています。しかし、中国人民銀行は4-6月期の経済指標の発表を控えたタイミングで、予想外に金融緩和へ舵を切りました。それを受け、間もなく発表される4-6月期の経済指標は予想よりはるかに悪く、景気回復は頭打ちとなったのではないか、との懸念が強まりました。
それを受け、RRRの引き下げが発表された翌取引日の7月12日、中国本土と香港の主要株価指数はいずれも調整しました。一般的にRRRの引き下げは資金供給につながるため、経済や株式市場にとってプラス材料です。ただ今回のように、「当局が把握している景気の実態は市場が認識しているより悪いため、当局は金融緩和に転じた」と解釈される場合、マイナス材料となり得ます。
その後発表された4-6月期の経済指標が比較的堅調だったため、主要株価指数は持ち直しました。例えば、4-6月期のGDP成長率は前年同期比7.9%増と、1-3月期の同18.3%よりは鈍化したものの、市場予想(同8.0%増)をわずかに下回る程度にとどまりました。それを受け、過度な景気鈍化に対する懸念は後退し、市場ではひとまず安堵感が広がりました。
図表2:中国の四半期ベースGDP成長率(前年同期比、%)
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
ただしこのまま安心していいのかどうかついては、意見が分かれています。中国の金融政策の転換を受け、下期の景気見通しについて再考する必要があるとの声が上がっています。なぜならばRRRの引き下げは当局が下期の景気鈍化を見込んで、先手を打ったとも解釈できるからです。他方、仮に景気が予想以上に鈍化した場合、中国はさらなる緩和策を講じる可能性があり、それほど心配する必要はないとの声もあります。
もっとも中国経済については、昨年はCOVID-19の影響で1-3月期が最も落ち込み、その後は次第に回復したことで、今年の1-3月は反動増による影響でGDP成長率が最も高く、その後は反動効果の薄まりで伸び率が鈍化すると見込まれていました。中国経済が今後、「COVID-19前」の水準(GDP成長率5-6%程度)に戻っても決して驚くべきことではないでしょう。
しかしながら、今回RRRの引き下げや市場の反応からすると、今年下期以降の景気回復度合いを懸念している投資家が少なからずいることも事実です。そうならば景気敏感株のポジションを調整し、ディフェンシブ銘柄に資金をシフトする動きも出てくるでしょう。他方、中国景気の底割れリスクも低いと考えられるため、ディフェンシブの中でもある程度成長性が期待できるグロース株がより選好されるでしょう。そこで今回は、ディフェンシブ・グロース特性を持つヘルスケア関連株をご紹介します。
中国のヘルスケア市場は拡大余地が大きい
一般的にヘルスケアは、生活必需品と同様に景況感に左右されにくく、ディフェンシブな特性を持ちます。他方、中国のような新興国市場では一人当たり医療支出が先進国に比べて依然として低く(例えば日本のおよそ1/9程度)、今後拡大の余地が大きいため、ヘルスケアは成長産業でもあります。
中国政府は「健康中国2030計画」で、ヘルスケアを含む健康サービス産業の市場規模を2020年の8兆元から2030年には16兆元に膨らむと見込んでいます。背景には所得水準の向上と高齢化の加速などが挙げられます。ヘルスケア市場の拡大とともに、関連企業の業績も伸びていくと予想されます。MSCI中国ヘルスケア指数(※)の1株当たり売上高と利益(EPS)を確認してみると、21.12期以降も高い伸びが予想されています。
- ※MSCI中国ヘルスケア指数の詳細(英語版)については、下記でご確認いただけます。
https://www.msci.com/documents/10199/53d45d8e-28a9-4a1f-8f91-c9dfddaf10bc
図表3:MSCI中国ヘルスケア指数の1株当たり売上高と利益(EPS)予想の推移
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
中国のヘルスケア関連株
中国のヘルスケア関連株は中国本土だけでなく、香港や米国市場にも数多く上場しています。香港市場のヘルスケア関連の代表指数はハンセン・ヘルスケア指数です。同指数の株価推移を確認してみると、米中貿易摩擦が勃発した2018年の相場調整時はハンセン指数と同様に大きく下落しましたが、19年以降は上昇基調が続いています。
図表4:ハンセン・ヘルスケア指数とハンセン指数の推移
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
ハンセン・ヘルスケア指数の構成銘柄のうち、時価総額上位10銘柄は下記の通りです。具体的には、中国最大のバイオ医薬品の受託開発企業である薬明生物(02269)をはじめ、オンライン医療の代表格であるJDヘルス(06618)やアリババ・ヘルス(00241)および平安健康医療科技(01833)、製薬大手の復星医薬(02196)や石薬集団(01093)、バイオ医薬品大手の中国生物製薬(01177)など、各分野の代表銘柄が含まれています。
図表5:ハンセン・ヘルスケア指数の主要構成銘柄(時価総額ベース)
銘柄コード | 銘柄名 | 分野 | 時価総額 (百万HKD) |
予想EPS成長率 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
21.12期 | 22.12期 | |||||
1 | 02269 | 薬明生物 | バイオ医薬品の受託開発 | 583,590 | 40% | 45% |
2 | 02359 | 薬明康徳(*) | 医薬品の受託開発 | 580,131 | 40% | 29% |
3 | 06618 | 京東健康 | オンライン医療 | 327,990 | 黒字転換 | 76% |
4 | 00241 | 阿里健康 | オンライン医療 | 212,307 | 10% | 69% |
5 | 02196 | 復星医薬 | 製薬大手 | 200,413 | 19% | 20% |
6 | 03692 | 翰森製薬(*) | 製薬大手 | 189,811 | 32% | 24% |
7 | 01177 | 中国生物製薬 | バイオ医薬品メーカー | 137,123 | 82% | 1% |
8 | 01093 | 石薬集団 | 製薬大手 | 133,627 | 9% | 17% |
9 | 00853 | 微創医療 | 医療機器メーカー | 129,917 | 赤字縮小 | 赤字縮小 |
10 | 01833 | 平安健康医療科技 | オンライン医療 | 99,815 | 赤字拡大 | 赤字縮小 |
- 注:2021年7月16日時点。(*)印が付いている銘柄はSBI証券では取り扱っておりません。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
各社の予想EPS成長率を確認してみると、薬明生物(02269)は製薬会社のアウトソーシング需要の拡大を背景に、21.12期と22.12期ともに40%強の高い成長率を維持すると予想されています。オンライン医療のJDヘルス(06618)とアリババ・ヘルス(00241)はそれぞれ21.12期に黒字転換および小幅な成長にとどまるが、22.12期にはいずれも7-8割の高い成長率が予想されています。オンライン医療各社はここまでの投資が報われ、21.12期以降は黒字化あるいは黒字拡大が見込まれています。ただオンライン医療は足元ではネット大手に対する中国当局の規制強化による影響が懸念材料として残りそうです。
製薬大手の場合、ドイツのビオンテック社のワクチン生産と大中華圏の販売代理店となっている復星医薬(02196)が21.12期と22.12期ともに2割程度の成長率、急性脳梗塞治療薬や抗がん剤などを製造する石薬集団(01093)は21.12期が9%、22.12期は17%の成長率が予想されています。バイオ医薬品・中医薬メーカーの中国生物製薬(01177)は21.12期は高い伸び率ですが、22.12期は成長鈍化が予想されています。
なお、高い成長率が期待できる一部のヘルスケア株は、グロース銘柄の特徴として株価水準が高くなりやすく、短期的には投資家センチメントや流動性の影響を受けやすい側面もあり、注意が必要です。ただ中長期的な成長期待を考えると、株価調整時は押し目買いのチャンスとなるでしょう。
個別銘柄への投資リスクを避けたいと考える場合、ETFが有効な投資手段となり得ます。現時点、SBI証券で取り扱っている中国のヘルスケア関連株のETFにはチャイナバイオETF(02820)があります。ヘルスケアの中でも特に高い成長性が期待されるバイオ分野に特化したETFです。同ETFの詳細(英語版)に関しては、下記のページでご確認頂けます。
(https://www.globalxetfs.com.hk/funds/china-biotech-etf/)
チャイナバイオETFはドイツの指数開発会社であるSolactive社が算出・公表しているSolactive China Biotech Index NTRへの連動を目指すETFです。2019年7月に香港市場に上場しました。設定来のパフォーマンスは図表6の通りです。今年2月、米長期金利の急騰を嫌気し、世界的にリスク回避の売りが広がった時は、チャイナバイオETFの株価も大きく調整しましたが、3月以降は持ち直しています。
図表6:チャイナバイオETFの株価と出来高の推移
- 注:上記は過去の実績であり、将来の運用状況・成果等を示唆・保証するものではありません。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
チャイナバイオETFの6月末時点の組入上位10銘柄は図表7の通りです。バイオ医薬品の受託開発最大手である薬明生物(02269)が首位にあるほか、米国上場のバイオ医薬品メーカーのベイジーン ADR(BGNE)や深セン上場の雲南沃森生物技術(300142)、上海上場の中国抗がん剤最大手の江蘇恒瑞医薬(600276)など、バイオ関連で中国を代表する銘柄が組入上位に入っています。複数の市場で取引されているこれらの銘柄を全部投資するにはコストが嵩み、銘柄管理も不十分になりがちであることを考えると、ETF投資によるポートフォリオ構築は有効な手段と言えましょう。
図表7:チャイナバイオETFの組入上位10銘柄(2021年6月末時点)
銘柄コード | 市場 | 銘柄名 | 組入比率 (%) |
予想EPS成長率 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
21.12期 | 22.12期 | |||||
02820 | 香港 | チャイナバイオETF | - | - | - | |
1 | 02269 | 香港 | 薬明生物 | 12.16 | 40% | 45% |
2 | 603259 | 上海 | 薬明康徳(*) | 10.41 | 37% | 31% |
3 | BGNE | 米国 | ベイジーン ADR | 10.28 | - | 赤字縮小 |
4 | 300601 | 深セン | 康泰生物(*) | 7.01 | 64% | 69% |
5 | 300142 | 深セン | 雲南沃森生物技術(*) | 6.57 | 49% | 37% |
6 | 01801 | 香港 | 信達生物(*) | 6.28 | 10% | -81% |
7 | ZLAB | 米国 | ザイ・ラボ ADR(*) | 6.04 | 36% | -32% |
8 | 600276 | 上海 | 江蘇恒瑞医薬(*) | 5.81 | 24% | 20% |
9 | 01177 | 香港 | 中国生物製薬 | 4.55 | 83% | 1% |
10 | 300676 | 深セン | 華大基因(*) | 3.14 | -16% | -10% |
- 注:上記は過去の実績であり、将来の運用状況・成果等を示唆・保証するものではありません。
- (*)印が付いている銘柄はSBI証券では取り扱っておりません。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成