昨年から続く穀物価格の上昇で米国農家の経済状況が大きく改善し、農家に製品を販売している企業への恩恵が期待されます。農業関連の銘柄を複数の分野に分けてリストアップした上で、各分野の注目銘柄をご紹介いたします。
図表1:注目銘柄リスト
銘柄 | 株価(4/13) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
ヴァンエック ベクトル アグリビジネスETF(MOO) | 88.88ドル | 89.65ドル | 51.33ドル |
ディアー(DE) | 378.67ドル | 392.42ドル | 117.85ドル |
コルテバ(CTVA) | 46.87ドル | 48.48ドル | 22.38ドル |
ニュートリエン(NTR) | 54.35ドル | 59.77ドル | 29.70ドル |
アーチャー ダニエルズ ミッドランド(ADM) | 57.90ドル | 59.12ドル | 33.01ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
とうもろこし、大豆、小麦など穀物の国際市況が高騰しています。4/12(月)の終値を2019年末と比較すると、とうもろこしが+49.1%、大豆が+45.8%と大幅な上昇で、小麦も+13.3%となっています。
図表2で2012年から長期の価格推移をみると、2015年から2019年にかけて低調であったのに対して、2020年から2021年にかけての価格上昇がいかに大きいものであるかお分かりいただけるでしょう。
穀物価格が上昇している背景には、以下があると言われます。(3)の金融面は今後変化しそうですが、ファンダメンタルズ面からは高水準の価格が維持される可能性もありそうです。
(1)需要面:中国による輸入拡大。中国が穀物輸入を拡大しているのは、アフリカ豚熱の影響で減少した養豚頭数を回復させていることが要因とされます。2021年に入っての豚肉生産量は2020年比14%増に回復しているものの、アフリカ豚熱の発生前の水準には戻っておらず、飼料原料の輸入は増加が続く見通しです。
また、環境政策を重視するバイデン米大統領の誕生により、とうもろこしを原料に製造されるエタノールの需要拡大の思惑も影響しているとみられます。
(2)供給面:2020年夏からラニーニャ現象が発生した影響により南米で乾燥気候が続き、大豆やとうもろこしの供給不安が高まっています。
一方、米国農務省が2021年3月末に公表した今年の作付予測では、米国のとうもろこし作付面積は前年比0.4%増、大豆は同5.4%増です。価格上昇を受けて作付面積がさらに拡大すると想定していた市場予想を2〜3%ポイント下回りました。米国の農家は供給増に慎重なようです。
(3)金融面:新型コロナのパンデミックに伴う各国中央銀行の緩和マネーが金融商品だけでなく穀物市場にも流れ込み、価格を押し上げている可能性があります。
穀物価格の上昇を受けて米国の農家の経済状況は大きく改善しています。米農務省が2021/2/5(金)に発表した「農家の利益と資産統計」によると、米国農家が農作物(家畜から得る収入を除く)から得る収入は、2021年にかけて拡大する見通しです(図表3)。
農家の所得(収入から経費を引いたもの)は、穀物価格の上昇と政府からの支払いが増えたことで、2019年の831億ドルから2020年には1,211億ドルに急増したと推定されています。2021年は政府からの支払いは減るものの、穀物価格上昇の恩恵が本格化して所得は1,141億ドルと高水準が維持される見通しです。
このような状況を受けて米国の農家に製品を販売している企業の業績は、2020年、2021年と好調が期待されています。
図表2:主要穀物価格の推移(月足)
- 注:最後のデータは4/12(月)です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表3:米国農家の農作物収入
- 注:予想は米農務省によります。
- ※米国農務省データをもとにSBI証券が作成
穀物価格の上昇によって農家の経済状況が改善しているため、農家に製品を販売している企業には恩恵が期待されます。農機、肥料など分野に分けて関連銘柄を図表4にリストアップしました。
〇農機
農機は「耐久消費財」であり、2015年から2019年にかけて農家の経済状態が冴えなかったことを考えると、農機に対するペントアップ需要がたまっている可能性があります。米国の大型トラクター(100馬力以上)の売上は、農家の経済状況が良かった2013年ピークの半分以下に低下していることから、複数年にわたり更新需要が出る可能性があると言われています。
〇農業化学
農業化学は、農家が使用する種苗や農薬を提供するもので、農産物価格上昇の恩恵が早く表面化しやすい業界と考えられます。コルテバは種苗と農薬の両方の事業を運営する一方、FMCは農薬事業が100%です。FMCは2017年にデュポンの作物保護事業を取得する一方、リチウム事業をライベント コーポレーションとして分離しています。
〇肥料
肥料も作物価格の上昇で農家の経済状態が改善すると恩恵を受けやすい業界と考えられます。肥料の三要素には、窒素、リン酸、カリがありますが、リン酸とカリは鉱石から生産されるため、資源産業的な側面もあります。ニュートリエンは肥料の三要素をいずれも扱い、世界最大手です。ソシエダードキミカイミネラデチリは肥料事業が主力ですが、株式市場では蓄電池に使用されるリチウムを生産していることが注目されています。
〇穀物商社
穀物商社は、主要穀物の買い付けから集荷、輸送、保管までを手がける専門商社です。穀物価格の上昇は業績にプラスに効くことが多いとみられます。業界トップのカーギル(未公開企業)が群を抜いて大きく、アーチャー ダニエルズ ミッドランドは2位です。
〇医薬品
家畜向けの医薬品を生産している企業は、ペット向けの医薬品事業も併営しています。中期的には家畜向けよりもペット向けのほうが成長性が高いと考えられ、事業の成長をけん引すると期待されています。アイデックスラボラトリーズは、ペット向け医薬品の売上が88%を占めます(2020年12月期)。
図表4:農業関連銘柄
事業内容 |
銘柄(コード) |
時価総額 |
売上 |
純利益 |
関連売上 |
---|---|---|---|---|---|
農機 |
ディアー(DE) |
1,186 |
388.7 |
50.1 |
64 |
CNHインダストリアル(CNHI) |
210 |
273.2 |
10.3 |
39 |
|
アグコ(AGCO) |
112 |
102.9 |
5.5 |
90 |
|
農業化学 |
コルテバ(CTVA) |
349 |
146.4 |
13.6 |
100 |
FMC(FMC) |
146 |
49.8 |
9.2 |
100 |
|
肥料 |
ニュートリエン(NTR) |
310 |
222.3 |
15.5 |
100 |
ソシエダードキミカイミネラデチリ ADR(SQM) |
133 |
21.9 |
3.3 |
60 |
|
モザイク(MOS) |
121 |
104.7 |
9.5 |
100 |
|
CFインダストリーズ ホールディングス(CF) |
98 |
47.6 |
5.3 |
75 |
|
穀物商社 |
アーチャー ダニエルズ ミッドランド(ADM) |
327 |
667.7 |
21.5 |
77 |
ブンゲ(BG) |
112 |
427.9 |
9.2 |
71 |
|
医薬品 |
ゾエティス(ZTS) |
772 |
74.5 |
21.0 |
44 |
アイデックス ラボラトリーズ(IDXX) |
434 |
30.9 |
6.5 |
6 |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
農業関連銘柄に投資する米国上場のETFに加え、前節の図表4にリストアップした銘柄から、各分野の代表的なものをご紹介いたします。
【農業関連銘柄をグローバルに組み入れたETF】
・農業関連銘柄をグローバルに組み入れるマーケット・ベクトル・グローバル・アグリビジネス・インデックスの価格及び利回り実績に可能な限り連動することを目指すETFです。
・組み入れ上位銘柄はゾエティス8.3%、ディアー8.3%、バイエル6.9%、アイデックスラボラトリーズ6.5%、ニュートリエン5.7%、コルテバ5.5%、アーチャーダニエルズミッドランド4.7%、クボタ4.4%、トラクターサプライ3.7%、タイソンフーズ3.5%などとなっています(2021年3月末)。2021年3月末の純資産総額は111億ドルで、分配利回りは0.97%、経費率は0.55%です。
【農家の事業環境改善で農機の買い替え需要発現へ】
・世界最大級の農機メーカーで、コンバインやトラクターなどの農機と芝刈り機が売上の約6割、建機と林業向けフォークリフトが約3割を占めています。農産物価格の上昇や農家の財務状態の改善を受けて農機市場が回復、また、建機市場も改善しつつあることから、2021年10月期の売上は20%近い増収が可能とみられています。米国の大型トラクターの売上はピーク時の50%以下に落ち込んでいることから、更新需要による売上増加は複数年にわたると見込まれています。
・2020年11月-2021年1月期決算は、製品販売の主要3部門がいずれも20%を超える増収で、売上が前年同期比19%増、EPSが同2.4倍と好調でした。北米の農機市場が回復していることに加え、農機の販売価格引き上げが効いています。2021年10月期の機器販売は前年比17〜25%増に相当する36.5〜39.0億ドル、純利益は2020年10月期実績27.5億ドルに対して46〜50億ドルに増加するガイダンスです。
【農業化学の世界最大手】
・2019年6月にダウ・デュポンから分離した農業化学の最大手です。とうもろこしや大豆などの種苗と除草剤や殺虫剤などの農薬が2本柱で、2020年12月期の売上は種苗部門が55%、農薬部門が45%を占めます。種苗では世界トップ、農薬ではドイツのバイエル、BASFに次いで3位です。
・2020年12月期の業績は、種苗部門、農薬部門とも増収で、事業売却などの影響を除いたオーガニックベースの売上成長は前年比8%増、調整後EPSは同5%増と堅調でした。会社は2021年12月期について、とうもろこしと大豆の価格上昇が複数年にわたっていることを受けて北米での作付面積が拡大し、また、2021年に展開する大豆向け製品のマージンが高いことから業績拡大を見込んでいます。オーガニックベースの売上は前年比3%増程度、EPSは前年比15〜20%増のガイダンスを出しています。
【カナダ本拠の肥料世界最大手】
・2018年にポタシュとアグリウムが合併してできた肥料の世界最大手で、本拠地はカナダです。売上の7割を占めるリテール部門では、7ヵ国に2,000以上の販売拠点を展開して、50万超の農家に販売しています。肥料の売上が5割超を占めるほか、農薬、種苗事業も手掛けます。肥料の三要素をいずれも扱い、カリで世界トップ、窒素で世界3位の地位を占めます。
・2020年12月期の売上は前年比4%増、調整後EBITDA(利払い、税金、償却前利益)は同9%減にとどまりましたが、2020年10-12月期にはそれぞれ、前年同期比17%増、同16%増と業績モメンタムは大きく改善しています。2021年の見通しについて、「世界の穀物需要は中国による記録的な穀物・油糧種子の輸入と米国での作付面積の拡大に支えられて強く、肥料を中心に農業関連製品への需要拡大が期待できる」とし、2021年12月期の調整後EBITDAは前年比9〜23%増相当の40〜45億ドルが想定されています。
【カーギルに次ぐ世界2位の穀物メジャー】
・カーギルに次ぐ世界2位の穀物メジャーで、油糧種子、とうもろこし、マイロ、オーツ麦、大麦 、ピーナッツ、小麦などの加工処理や、食料および飼料を最終用途とする作物の加工も手掛けます。また、バイオ燃料のエタノールの取扱いも行っています。2020年12月期の売上は、農業サービスおよび油脂種子部門が77%、カーボハイドレートソリューションズ部門(とうもろこし、小麦の加工など)が13%、ニュートリション部門が9%です。
・2020年12月期は3部門とも営業増益を達成し、全体の営業利益は前年比17%増、調整後EPSは同29%増と好調でした。2021年12月期は、健康意識の高まりからニュートリション部門の利益成長が期待されるほか、主力の農業サービスおよび油脂種子も中国による穀物輸入拡大の恩恵を受けて堅調に推移すると期待されます。コンセンサス予想では調整後EPSは前年比22%の増加が見込まれています。
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