新規上場の注目点
(1)職場チームのコミュニケーションを効率化するコラボレーションソフトウェアを提供。
(2)利用組織は世界150ヵ国の60万超、有料顧客数は「フォーチュン100」の65社を含む9万に拡大。
(3)ティッカーの「WORK」には、職場PCのホーム画面になるとの遠大な構想があるとされる。
図表1:新規上場の概要
企業名(コード) |
スラックテクノロジーズ(WORK) |
上場市場 |
ニューヨーク |
---|---|---|---|
公表日 |
2019/2/4(月) |
上場日(予定) |
2019/6/20(木) |
公募価格(ドル) |
− |
募集・売出し株数(百万株) |
− |
公募規模(百万ドル) |
− |
時価総額概算(億ドル) |
− |
- 注:新規上場に際して新株発行を行わない「ダイレクトリスティング」によります。
- ※SBI証券では米国株式のIPOの申込み等の受付は行っておりません。当社では上場後に取扱銘柄へ追加を予定しております。
企業概要
2009年に現CEOのスチュワート・バターフィールド氏など写真共有サイトのフリッカー(Flickr)を開発したチームを中心にカナダで創業した会社です。当初はオンラインゲームの開発を行っていましたが、2014年に社内で活用していたコミュニケーションツールを「Slack」として外販するよう主力事業を変更し、現在150ヵ国で60万超の組織、1,000万人超が利用するシステムに成長しています。
株主構成は経営陣のほか、数社のベンチャーキャピタルが保有しており、その一角にソフトバンクが7.3%を保有する大株主となっています。
上場概要
上場にあたっては新株発行による資金調達を伴わない「ダイレクトリスティング」を採用、このため通常の新規公開で上場後の株価の目安になる公募価格はありません。
到達可能な時価総額として160〜170億ドルが市場で噂されているようです(6/12(水)のBloombergニュース)。その記事によると、20年1月期の売上を5.9億ドル程度、21年1月期の売上が9億ドル程度に達すると想定して、売上の20倍程度まで評価することを算出の根拠としています。
6/13(木)時点の発行済株式数が505百株であるため、1株当たり31〜34ドル程度の計算になります。ただ、後述のように当社がもつポテンシャルがフルに評価された場合と考えたほうがよさそうです。最近の取引事例での価格レンジは、21.00〜27.25ドルだったとされます(5/29(水)のBloombergニュース)。
なお、同社はティッカーを当初予定の「SK」から「WORK」に変更しています。これは単なるビジネスチャットのアプリにとどまるのではなく、数千の外部アプリと連携することによって、職場PCの「ホーム画面」になることを目標とする意思の現われであるとされます。
事業内容
同社製品の「Slack」はプロジェクトに携わるメンバーが、プロジェクトの進行について共通認識をもてる(「On the same page」にある)ことを目標とするコラボレーションソフトウェアです。
通常のeメールのやりとりでは各人の「Inbox」に入るとメンバーの情報へのアクセスが制限され、情報共有が効率的でないことに不便を感じて開発されたツールとしています。
例えば、eメールでも「cc(カーボンコピー)」で関係者への情報共有を行うことができます。しかし、チームに新しいメンバーが加入した場合には、過去のやり取りを共有するのが不便だといったこと、また、メールでは仕事で利用する様々なソフトウェアと連携できるようになっていないこと、などです。
これに対して「Slack」では「チャンネル」という情報共有の場を設けて、会話の整理、会話履歴の検索、外部ツールやサービスとの連携(連携できるアプリは1,500以上)、顧客など組織を超えたコラボレーション、ファイル共有機能の統合などを可能にすることで、チームのコラボレーションが効率化できるとしています。
「Slack」の利用は世界的に広がっており、同社が経営の重要指標と考えている年間売上が10万ドル以上の顧客数も、急拡大しています(図表2)。「Slack」を利用している顧客として、海外企業ではインチュイト、リフト、スポティファイ、エバーレーン、日本企業ではクックパッド、Sansan、DeNa、日経などが紹介されています。
競合する製品として、マイクロソフトの「Teams(チームズ)」、グーグルの「Hangouts Chat(ハウングアウツ・チャット)」、フェイスブックの「Workplace(ワークプレイス)」、シスコシステムズが提供する統合コミュニケーションシステムなどがあげられています。
なお、同社の日本サイトに製品内容や特長が詳しく解説されていますので、ご参照ください。
業績動向
急速な事業の拡大期にあるため営業赤字が続いているものの、有料顧客が急増しており、既存顧客に対する売上も拡大していることから、先行きの黒字への転換に不安はないと見られます(図表3)。
6/10(月)に発表された19年2-4月期の業績は、売上が前年同期比67%増、有料顧客数は9.5万に同42%増、売上10万ドル以上の顧客数が645へ同84%増と順調な拡大となっています。
19年5-7月期のガイダンスは売上が139〜141百万ドル(前年同期比51〜53%増)、営業利益が−77〜-75百万ドル、EPSが-0.20〜-0.19ドルです。
20年1月期のガイダンスは、売上が590〜600百万ドル(前年比47〜50%増)、営業利益が-192〜-182百万ドル、EPSが-0.44〜0.41ドルとしています。
なお、上場に伴う一時費用が19年5-7月期には32百万ドル、20年1月期には34百万ドル含まれています。
類似会社比較
企業向けに業務プロセスの効率化のためのビジネスソフトウェアを提供し、ほぼワンプロダクトだという面からは、ドキュサイン(DOCU)やファイルの共有サービスを中心にコラボレーションプラットフォームを提供するドロップボックス A(DBX)などが近いといえそうです。
一方、業務ソフトウェアのハブ的な存在になりうるという面では、中長期の対象市場はこれら企業よりも大きい可能性もありそうです。その分バリュエーションは高く評価される可能性がありそうです。
いずれも赤字企業のため時価総額÷売上でバリュエーションを比較すると、比較対象の両社に比べて市場で噂されているスラックテクノロジーズのバリュエーションは非常に高い水準にあると言えそうです。
これは業務PCのホーム画面になる可能性があることが要因と見られますが、巨大IT企業との競合もあるため、一気にここまで到達するのは難しいかもしれません。競争に打ち勝ってホーム画面になる可能性が高まってきたときには、ここまで評価される可能性があると解釈すべきでしょうか。
図表2:年間売上が10万ドル以上の顧客数と売上に占める比率
- ※会社資料をもとにSBI証券が作成
図表3:業績推移
17年1月期 |
18年1月期 |
19年1月期 |
18年2-4月期 |
19年2-4月期 |
|
---|---|---|---|---|---|
売上(百万ドル) |
105 |
221 |
401 |
81 |
135 |
営業利益(百万ドル) |
-149 |
-144 |
-154 |
-27 |
-38 |
純利益(百万ドル) |
-147 |
-140 |
-139 |
-25 |
-32 |
EPS(ドル) |
-1.28 |
-1.47 |
-1.16 |
-0.21 |
-0.26 |
有料顧客数 |
37,000 |
59,000 |
88,000 |
67,000 |
95,000 |
10万ドル以上の有料顧客数 |
135 |
298 |
575 |
351 |
645 |
ネットダラーリテンションレート(%) |
171 |
152 |
143 |
149 |
138 |
- 注:「ネットダラーリテンションレート(Net Dollar Retention Rate)」は、既存顧客の利用の広がりを測る尺度で、具体的には12ヵ月前の全顧客の月間経常収益(MRR)を求め、当該顧客の月間経常収益が12ヵ月後にどれくらい増えているかを計算しています。
- ※会社資料をもとにSBI証券が作成
図表4:類似会社比較
銘柄(コード) |
売上 |
純利益 |
EPS |
売上 |
時価総額 |
時価総額 |
時価総額 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
スラックテクノロジーズ(WORK) |
401 |
-139 |
-1.16 |
900 |
(注)170 |
42.4 |
18.9 |
ドロップボックス A(DBX) |
1,391 |
-484 |
-1.35 |
1,883 |
96.5 |
6.9 |
5.1 |
ドキュサイン(DOCU) |
701 |
-432 |
-3.20 |
1,115 |
88.3 |
12.6 |
7.9 |
- 注:スラックテクノロジーズの来期予想売上と時価総額は、「上場概要」で言及した6/12(水)のBloomberg記事から。ドロップボックスとドキュサインの来期予想売上は、Bloombergのコンセンサス予想によります。
- ※会社資料、各種報道をもとにSBI証券が作成
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。