このところ米国株式市場ではディフェンシブ銘柄の株価堅調が目立っています。株価を抑えていた長期金利のピークアウトや株式市場のボラティリティ上昇が要因と見られ、いましばらくパフォーマンス改善が続く可能性が高そうです。そこで、米国市場の代表的なディフェンシブ銘柄をご紹介いたします。
図表1:注目銘柄
銘柄 | 株価(4/3) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
プロクター & ギャンブル(PG) | 78.46ドル | 94.67ドル | 75.81ドル |
フィリップ モリス インターナショナル(PM) | 99.85ドル | 123.55ドル | 95.51ドル |
ベライゾン コミュニケーションズ(VZ) | 47.50ドル | 54.77ドル | 42.80ドル |
デューク エナジー(DUK) | 77.26ドル | 91.80ドル | 72.93ドル |
プロロジス REIT(PLD) | 61.73ドル | 67.53ドル | 51.66ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
パフォーマンス改善で注目のディフェンシブ銘柄 |
このところ米国株式市場で「ディフェンシブ銘柄」と言われる「生活必需品」「電気通信サービス」「公益事業」に加え、不動産投資信託(REIT)からなる「不動産」などのパフォーマンスが改善して、注目を集めています。
これらセクターの株価は図表2の通り、昨年来「情報技術」が牽引した上昇相場の中でも低調に推移してきました。しかし、株価は3/23(金)に底入れして、全般相場が軟調な中でも堅調です。さらに、S&P500指数と比較した相対株価では3/9(金)に底入れして、上昇基調は既に3週間継続しており、しっかりしたアウトパフォームのトレンドが出ていると言えそうです。
パフォーマンス改善の要因は、(1)配当利回りに注目して投資されることが多く、株価を抑えていた米長期金利のピークアウトが魅力度を高めていること、(2)株式市場でボラティリティが上昇した状態が続いていることから、景気への感応度が低く株価の下値不安が小さい「ディフェンシブ」セクターへの資金シフトが起こっていること、と考えられます(図表3)。
今後についても、(1)、(2)の要因とも、これらセクターの株価を支えると見込まれます。
長期金利については、当面は低下が続く可能性が高そうです。需給面からは、株式のボラティリティ上昇が、安全資産である債券投資へのシフトにつながり、金利の低下を促しているようです。
ファンダメンタルズ面からも、景気の水準は依然として高いものの、ピークアウトの可能性を示唆するものも散見されます。また、4月の米消費者物価指数は、携帯電話料金の引き下げから1年経過することが押し上げ要因となって上昇する可能性に注目が集まっていますが、同指標が発表される5/10(木)までまだ時間があります。
テクニカル面でも、16年11月にトランプ大統領誕生を受けて米10年国債利回りは2.4%前後から2.9%前後まで上昇したことから、「半値押し」の2.6%前後まで低下する可能性がありそうです。
株式市場のボラティリティについては、トランプ大統領が対中関税を発表して急落した3/22(木)、3/23(金)が当面のピークだったとみられます。しかし、米中の貿易交渉が続く中で、懸念が完全に沈静化するわけではなく、警戒は続きそうです。
ディフェンシブセクターの株価は、相対的に強いだけでなく、絶対株価でも上昇が期待できそうです。
図表2:米国の業種指数の推移(11業種指数から抜粋)
- 注:不動産事業は一般的には「ディフェンシブ」ではありませんが、米国の「不動産」セクターは不動産投資信託(REIT)からなり、配当利回りを軸に動く傾向があるため、まとめています。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表3:米10年国債利回りとVIX指数
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
ディフェンシブセクターのファンダメンタルズを確認 |
ディフェンシブセクターのファンダメンタルズはどうでしょうか?確認してみましょう。
17年のEPS増加率は、「生活必需品」が前年比2.4%増、「電気通信サービス」が同1.3%増、「公益事業」が2.4%増と、S&P500指数の同9.8%増に比べて冴えず、株価のパフォーマンスが低迷したのも無理はないと思われるものでした。
しかし、18年は図表4の通り、法人税減税の効果もあってEPSの増加率は、「生活必需品」が前年比11.5%増、「電気通信サービス」が同14.9%増、「公益事業」が同7.8%増など高い伸びが見込まれています。この業績が今後実現する確度が高くなっていくとすると、株価も評価しそうだと思えるものです。
ディフェンシブ株の指標として重要な配当利回り(今期予想)については、S&P500指数が2.0%に対して、「生活必需品」「公益事業」「不動産」が3%台と有意に高くなっています(図表5)。「電気通信サービス」が5.6%と一段高いのは、携帯電話事業の競争激化によってこのところ業績動向が厳しく、他のセクターに比べて業績の安定感に欠けるとの見方が反映されているようです。
ここまでセクター名でお話してきましたが、抽象的でモヤモヤしていると思われているかもしれませんので、少し説明しておきましょう。
「公益事業」は、電力企業が中心となっています。家庭向けの電力販売は、天候の影響を受けますが景気変動による影響は小さく、需要は安定しています。産業向けは景気によって販売量が変わりますが、電気料金は認可制となっており、競争も限定的であることから、業績は一般的な事業会社に比べて安定しています。
「生活必需品」は、食品、飲料、タバコ、家庭用品、食品スーパーなどからなります。個人向けの商品・サービスで購入頻度が高いものを扱う企業群です。たとえば、自動車は数年に一度と購入頻度が低いため、購入タイミングは景気の影響を受けることがありますが、そのような影響を受けにくいと言えます。
「電気通信サービス」は、ベライゾンコミュニケーションズ、AT&T、スプリントなどからなります。17年12月期は、携帯電話分野の競争がヒートアップして安価な定額制プランが広がって業績が低迷しました。今年度についてはその影響が一巡することから、業績は改善が見込まれています。
「不動産」は、不動産業は、一般的には景気敏感ですが、米国の「不動産」セクターの構成銘柄はすべて不動産投資信託(REIT)です。配当を目的に保有されることが多く、株価の動きは他の「ディフェンシブ」セクターと似た動きとなっています。このため、今回は「ディフェンシブ」にまとめてお話しています。
図表4:18年12月期の業績見通し(前年比伸び率)
- ※FactSet社のレポートデータをもとにSBI証券が作成
図表5:業種指数の配当利回り比較(今期予想)
- ※BloombergのデータをもとにSBI証券が作成
ディフェンシブセクターの注目銘柄 |
S&P100指数に採用されている、ディフェンシブセクターに属する19銘柄から、今期の予想配当利回りが3%以上の銘柄を図表6にリストアップ(セクターごとの時価総額順)しています。
尚、不動産については、該当銘柄が当社での取り扱いがないため、S&P500指数の採用銘柄を繰り上げて採用しました。
これら銘柄から、業績動向、事業内容などを勘案して注目銘柄(オレンジ色でハイライト)についてご紹介いたします。
〇プロクター & ギャンブル(PG)
家庭用品の会社として世界最大です。主に「P&G」ブランド名で家庭用品、ヘアケア・スキンケア用品、歯ブラシ・歯磨き粉、衣料用洗剤・消臭剤、紙おむつなどベビー用品など幅広い製品を世界中で販売しています。業績は緩やかに改善しつつあり、18年6月期のガイダンスは、オーガニックの売上成長が2-3%増、コアEPSは前年度比5〜8%増の見通しです。売上成長を高めることが課題となっていますが、3月よりアクティビスト(物言う投資家)のネルソン・ペルツ氏が取締役として入っており、どのような変化が見られるか注目されます。
〇フィリップ モリス インターナショナル(PM)
米国以外を営業対象地域とし、主力ブランドとして「マールボロ」を擁する世界最大のたばこ会社です。「iQOS」など加熱式たばこの普及により紙巻きたばこの減少をカバーすることで成長を目指しています。注目されている米国での認可については、18年1/25(木)にFDA(米食品医薬品局)の諮問委員会が、「加熱式たばこは紙巻たばこよりも健康リスクが小さい」との同社主張を否決して、当初の楽観は後退しています。しかし、加熱式たばこの日本での普及状況や、多くの利用者の声からして、紙巻きたばこよりも健康リスクが小さいことは明らかとみられます。
〇ベライゾン コミュニケーションズ(VZ)
大手通信サービス会社です。携帯電話、固定電話、ブロードバンド接続、コンテンツ配信などのサービスを幅広く展開しています。主力のワイヤレス部門が市場飽和と競争激化で売上が停滞する中、インターネットTVの「Fios」、インターネットメディアの「Oath」など他分野の貢献によって増収確保に努めています。売上成長の引き上げを目指して5Gのブロードバンドサービスに積極的で、18年末までに3〜5市場で商業サービスを開始する計画です。
〇デューク エナジー(DUK)
米国大手の電力・エネルギー会社です。米国電力・ガス部門はノースカロライナ、サウスカロライナ、オハイオ、インディアナ、ケンタッキーの各州で電力事業を行い、天然ガスの輸送と販売も手掛けます。国内の商業資産や海外事業を売却して、米国内の規制事業に特化する方針転換を行いました。18年〜22年にかけて370億ドルの成長投資を計画しており、EPSの年平均成長率は4〜6%を目標としています。
〇プロロジス REIT(PLD)
米国の物流不動産事業に従事する不動産投資信託(REIT)です。物流施設を専門に開発、所有、管理、運営し、米州、欧州、アジアの21カ国で事業を展開します。港や空港周辺、高速道路のインターチェンジ付近など利便性の高い環境に立地する物流施設を製造業、小売業、輸送業、3PL業など大規模な物流業務に携わる企業に賃貸しています。ネット通販の拡大が続いていることから、都市周辺での物流倉庫需要が強く、料金の引き上げによって既存施設の営業利益は4〜5%の高い伸びを続けています。今期の減収予想は、非戦略資産の売却によるもので、業績の実態は良好です。
図表6:ディフェンシブセクターの主要銘柄(S&P100指数採用銘柄より抜粋)
セクター | コード | 銘柄 | 株価 (4/2) (ドル) |
予想 PER (倍) |
予想 配当 利回り (%) |
今期 売上高 増加率 (%) |
今期 EPS 増加率 (%) |
株価 騰落 (1ヶ月) (%) |
予想 配当 (ドル) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
生活必需品 | PG | プロクター・アンド・ギャンブル(P&G) | 77.4 | 18.4 | 3.6 | 3.0 | 7.3 | -2.6 | 2.82 |
生活必需品 | KO | コカ・コーラ | 42.67 | 20.4 | 3.7 | -11.1 | 9.7 | -2.4 | 1.56 |
生活必需品 | PEP | ペプシコ | 107.05 | 18.8 | 3.3 | 2.9 | 9.1 | -1.8 | 3.58 |
生活必需品 | PM | フィリップ・モリス・インターナショナル | 97.54 | 18.5 | 4.5 | 10.7 | 7.1 | -8.7 | 4.36 |
生活必需品 | MO | アルトリア・グループ | 60.51 | 15.1 | 4.9 | 1.4 | 17.9 | -3.3 | 2.95 |
生活必需品 | KHC | クラフト・ハインツ | 60.06 | 15.8 | 4.3 | 1.1 | 7.4 | -10.6 | 2.57 |
生活必需品 | CVS | CVSヘルス | 61.04 | 9.5 | 3.6 | 2.3 | 8.8 | -9.5 | 2.18 |
電気通信サービス | T | AT&T | 35.1 | 10.1 | 5.7 | -0.2 | 13.7 | -3.4 | 2.01 |
電気通信サービス | VZ | ベライゾン・コミュニケーションズ | 47.16 | 10.4 | 5.1 | 1.6 | 21.1 | -2.3 | 2.39 |
公益事業 | DUK | デューク・エナジー | 77.1 | 16.4 | 4.7 | 2.2 | 2.8 | 2.3 | 3.66 |
公益事業 | SO | サザン | 44.21 | 15.3 | 5.4 | -0.8 | -4.1 | 0.0 | 2.39 |
公益事業 | EXC | エクセロン | 38.26 | 12.5 | 3.6 | -4.7 | 17.8 | 3.6 | 1.38 |
不動産 | PLD | プロロジス | 61.4 | 36.6 | 3.0 | -1.6 | 75.8 | 2.0 | 1.85 |
- ※BloombergのデータをもとにSBI証券が作成
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。