7/5付日経新聞に米国には「債務超過でも自社株買い」をする企業があるとの記事が載りましたが、「自社株買いをしたから債務超過になった」というのが実態で、実はこれらは優良企業の宝庫と考えられます。例えば、自社株買いに熱心なことで有名な自動車部品販売のオートゾーンの株価は過去10年で7倍、2000年初からでは28倍になっています。そこで今回は、自社株買いと債務超過の関係をご説明し、自社株買いで債務超過になった優良企業をご紹介いたします。米国株式市場はFRB(米連邦準備制度理事会)による利上げの思惑から調整地合いとなっていますが、このような優良企業にエントリーするチャンスではないでしょうか。
図表1:注目銘柄リスト
銘柄 | 株価 (9/13) | 52週高値 | 52週安値 |
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ドミノピザ(DPZ) | 149.66ドル | 151.20ドル | 100.56ドル |
オートゾーン(AZO) | 744.15ドル | 819.54ドル | 681.01ドル |
ガートナー(IT) | 89.19ドル | 103.00ドル | 77.80ドル |
マリオットインターナショナル(MAR) | 68.41ドル | 79.88ドル | 56.43ドル |
マスココーポレーション(MAS) | 33.03ドル | 37.37ドル | 23.10ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
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「債務超過でも自社株買い」とは? |
7/5付日本経済新聞の投資情報面「一目均衡」に「債務超過でも自社株買い」との記事が載りました。財務が不健全な状態である「債務超過」と、財務に余裕があるときにする「自社株買い」では普通は結び付かないはずなのに・・・という内容です。
実は「自社株買いをしたから債務超過になった」、「債務超過になるまで自社株買いをする企業がある」というのが実態です。これについて説明します。
米国では、債務超過の企業に2種類あります。
(1) 業績が悪く赤字が嵩んだために株主資本が毀損していって債務超過になった企業です。これは日本でも見かける債務超過のパターンです。
(2) もう一つは、業績好調が続いて自社株買いを続けたことにより株主資本がマイナス、つまり、債務超過になったという会社です。これが今回取り上げるケースです。
(2)について、もう少し説明しましょう。
まず、「債務超過」の状態ですが、図表2の通り右側の負債額が左側の資産額を上回っているという状態です。
企業が保有している資産を全部足しても負債を返せないことを示し、財務上のリスクが高い状態と言えます。しかし、(2)では、自社株買いができるほど期間収益はあがっており、資金繰りにも余裕があり、会社の存続には問題がないというケースです。
次に、なぜ自社株買いでこのようなことが起こるかを説明します。
例えば、A社の株式が帳簿上では1株1ドルで計上されており、株式上場後に成長したことで株式市場では1株10ドルで評価されているとしましょう。
仮に発行済株式数の1%が自社株買いで買い戻された場合、株主資本は10%減ることになります。それが積み重なって10%の株式が買い戻されたときには、株主資本がゼロになっていたり、株価によってはマイナスにもなりうるということです。これが自社株買いが要因で債務超過になる仕組みです。
しかし、ここでなぜ債務超過になるまで自社株買いをするのかという疑問がわきます。
もちろん、これは株価上昇を期待する株主がそれを歓迎するからですが、どんな企業でもできるというものではありません。業績が安定していて、信頼度の高いキャッシュフローが期待できる企業にのみ可能と考えられます。
次段でその実例をみてみましょう。
図表2:「債務超過」とはどんな状態か

- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
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優良企業のみに許される「自社株買いで債務超過」 |
「自社株買いで債務超過」になった典型的な例として、自動車部品販売のオートゾーン(日本のオートバックスにあたる会社です)のケースを見てみましょう。
図表3は同社の株主資本、負債、発行済株式の推移を示しています。継続的な自社株買いにより発行済株式が減少、これに伴って株主資本も減少、09年からはマイナスに転じ、一方で負債は一貫して増加してきたことが分かります。
15年末の負債額98億ドルの内訳は、買掛金が39%、長期負債(ほとんどが債券発行によります)が49%を占め、同社の取引先(販売部品の納入企業)と債券投資家が株主に代って同社の資本を賄っている形です。
つまり、「自社株買いで債務超過」が成立するためには、「この会社は債務超過になって財務リスクは高いが、安定的なキャッシュフローが期待できるので、同社に対する債権や同社が発行した債券をもっていても大丈夫だ」と判断する、事業内容を熟知した取引先と債券投資家の存在が不可欠と言えるでしょう。
ですから、「自社株買いで債務超過」となっている企業には、盤石な事業基盤を有して、安定的なキャッシュフローが期待できる優良企業が多いはずだと考えられます。
もちろん、株式の投資家にとっては、会社が安定的に株式を買い戻すことで株式需給が締まることが期待できますし、発行済株式の減少は1株当たり利益(EPS)の押上げ要因となるため、投資対象として注目できる企業だと言えるでしょう。
そこで、このような企業をS&P1500指数に採用されている1,500社から以下の条件で抽出しています(図表4)。
【スクリーニングの条件】
・直近期末の1株当たり純資産がマイナス(株主資本がマイナス)
・信用格付けが「BBB-」以上
・直近会計年度中に発行済株式数が減少
・今期予想売上高が増加見込み
抽出された7銘柄の株価推移をみると、オートゾーン、ガートナー、ドミノピザなど長期に株価上昇が継続していて注目できるでしょう(図表5)。事業内容から中長期の成長性が高いと考えられる5銘柄を選んでご紹介いたします。
図表3:オートゾーンが債務超過になった経過

- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表4:「自社株買いで債務超過」企業をリストアップ

- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表5:リストアップ企業(図表4)の株価推移(06年〜、月足)

注:最後のデータは9/12です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
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注目銘柄のご紹介 |
業種:レストラン |
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決算期 |
売上高(億ドル) |
(前年比) |
純利益(億ドル) |
(前年比) |
EPS(ドル) |
16.12予 |
24.0 |
8% |
2.07 |
5% |
4.13 |
17.12予 |
26.0 |
9% |
2.39 |
16% |
4.93 |
株価(9/13):149.66ドル |
予想PER(16.12期):36.2倍 |
||||
|
業種:自動車部品販売 |
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---|---|---|---|---|---|
決算期 |
売上高(億ドル) |
(前年比) |
純利益(億ドル) |
(前年比) |
EPS(ドル) |
16.8予 |
106.7 |
5% |
12.43 |
7% |
40.74 |
17.8予 |
111.8 |
5% |
13.17 |
6% |
45.55 |
株価(9/13):744.15ドル |
予想PER(17.8期):16.3倍 |
||||
|
業種:調査 |
|||||
---|---|---|---|---|---|
決算期 |
売上高(億ドル) |
(前年比) |
純利益(億ドル) |
(前年比) |
EPS(ドル) |
16.12予 |
24.4 |
13% |
2.29 |
18% |
2.76 |
17.12予 |
27.1 |
11% |
2.59 |
13% |
3.14 |
株価(9/13):89.19ドル |
予想PER(16.12期):32.3倍 |
||||
|
業種:ホテル |
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決算期 |
売上高(億ドル) |
(前年比) |
純利益(億ドル) |
(前年比) |
EPS(ドル) |
16.12予 |
155.64 |
7% |
10.94 |
27% |
3.67 |
17.12予 |
168.12 |
8% |
11.40 |
4% |
4.16 |
株価(9/13):68.41ドル |
予想PER(16.12期):18.6倍 |
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|
業種:住宅設備機器 |
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決算期 |
売上高(億ドル) |
(前年比) |
純利益(億ドル) |
(前年比) |
EPS(ドル) |
16.12予 |
74.3 |
4% |
5.18 |
45% |
1.56 |
17.12予 |
78.3 |
5% |
6.13 |
18% |
1.92 |
株価(9/13):33.03ドル |
予想PER(16.12期):21.2倍 |
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|
- ※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成