ベトナムのVN指数は年初来7.1%上昇と好調です。しかし、その要因は原油価格の反発を受けたペトロベトナムガスの上昇とドル安による新興国株式の見直しの動きの影響が大きく、ベトナム独自の要因による上昇ではなかったと見られます。ベトナム市場のポテンシャルは発揮されておらず、逆にこれから評価が進む可能性に期待できるのではないでしょうか。同国の経済成長、企業業績の状況をチェックして同国株式への投資について考えてみましょう。
図表1:注目銘柄リスト
銘柄 |
株価 (円換算値) 6/7 |
52週高値 |
52週安値 |
ビナミルク(ベトナム乳業)(VNM) |
137,000ドン (658円) |
148,000ドン |
86,667ドン |
ビングループ(VIC) |
54,500ドン (262円) |
56,000ドン |
37,900ドン |
マサングループ(MSN) |
68,500ドン (329円) |
96,500ドン |
67,000ドン |
バオベト グループ(BVH) |
61,500ドン (295円) |
67,500ドン |
34,900ドン |
ホアファット グループ(HPG) |
36,100ドン (173円) |
36,800ドン |
23,900ドン |
- 注:株価の円換算値は、6/7(火)終値の100ドン当たり0.4804円で換算しています。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
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ベトナム市場好調の要因とは?
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ベトナム株式市場のパフォーマンスが好調です(図表2)。
年初から6/6(月)までのベトナムVN指数(ホーチミン取引所)の騰落率は+7.1%で、東南アジアではフィリピンの+9.3%、タイの+12.0%などとともに好調です。同期間でS&P500指数の+3.2%、TOPIXの-13.9%、香港ハンセン指数の-4.0%に比べても良好であることがわかります。
ベトナム市場の上昇を分析すると、要因として以下があげられます。
1. 原油価格の反発でペトロベトナムガスが上昇
2. ドル安による新興国株式見直しの動き
1.については、ペトロベトナムガスはベトナムVN指数で時価総額の9.4%を占める主要企業で、原油価格の反発を受けて株価が66%上がったことが指数の上昇に寄与しています(図表3)。ベトナムVN指数の年初来の上昇率7.1%のうち、3.9%ポイントが同社の上昇によります。
2. については、新興国株式は米国の利上げが意識された15年3月頃から回避される傾向が強くなりましたが、昨年12月の利上げ実施で悪材料が一旦出尽くし、その後利上げ回数の見通しも低下したことから、物色されたと考えられます。足元でも6/3(金)の雇用統計悪化でドルの下落を受け、新興国株式に対する物色が強まっています。
1/27掲載のアセアン株式に関するレポート「“波乱”後の投資先は?高成長のフィリピン、ベトナム、回復のタイに注目!!」で指摘したシナリオが実現したと言えます。
しかし、これらはグローバルなマクロ環境であって、ベトナム独自の要因で上がったとは言えないでしょう。そこでベトナムの独自要因がどうなっているか確認してみましょう。
図表2:ベトナム株式市場が堅調(週足、3年)
- 注:6/7(火)時点のベトナムVN指数によります。
- ※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表3:ペトロベトナムガスが指数を押し上げ
- 注:年初来のベトナムVN指数の上昇に対する寄与度上位5銘柄
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表4:ドル指数の下落が株価指数を押し上げ
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
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発揮されていないベトナムのポテンシャル、今後に期待!!
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ベトナム株式のファンダメンタルズについて、1.経済成長、2.企業業績、3. TPP(環太平洋経済連携協定)の行方についてチェックしてみましょう。
1. 経済成長
16年1-3月期のGDPは前年比5.5%増で市場予想の同6.1%増を下回り、15年通年の同6.7%増から鈍化となりました(図表5)。
ただ、原油生産の減少と干ばつによる農業生産の減少など一過性と考えられる要因が含まれていました。このため、16年通年のGDP成長率は6.4%増と1-3月期からは改善が予想されています。6/25-30に発表予定の4-6月期GDPでも改善が期待できるでしょう。
成長の牽引役となっている海外からの直接投資は15年に156億ドルで前年比25%増、16年5月までに76億ドルと順調です。
2. 企業業績
前回のベトナムに関するレポートでも指摘しましたが、6%前後の高成長が続いている経済としては、2010年以降の企業利益は伸び悩みの状態が続いています(図表6)。これは同国に進出した海外企業(サムスン電子、ナイキ、ファーストリテイリングなど)が経済成長を牽引しており、国内企業への恩恵が十分に行きわたっていない可能性が考えられます。
年初来ベトナムVN指数の予想EPSは42-43ポイントの横ばい圏で推移しており、このような状況は足元でも変わっていないように見えます。しかし、産業別には、エネルギーや公益事業が足を引っ張っており、消費関連セクターは経済成長や所得水準の上昇を受けて順調な拡大となっています。
原油価格の反発でエネルギー・公益のマイナス寄与が縮小すると全体も大きく改善する可能性があるでしょう。今後に期待できそうです。
3 . TPP(環太平洋経済連携協定)
TPPは15年10月に大筋合意、16年2月に協定への署名が終わり、各国での国内手続きに移っています。しかし、米大統領選挙で共和党のトランプ氏、民主党のクリントン氏ともにTPPへの反対を表明していることから、同協定への市場の期待は大きく低下しています。
しかし、選挙中のレトリックと実際の政策は異なる可能性もあるため、仮に進展があった場合の株式市場への影響は大きいでしょう。特にベトナムは参加国の中でも所得水準が低いことから、インパクトが大きいと推定されています(図表7)。ベトナム株式を保有することによって、「TPP発効」に対するオプションを低価格で購入するような効果が期待できるのではないでしょうか。
年初来のベトナム市場は好調ですが、マクロ環境が主因でベトナム市場のポテンシャルはまだ発揮されていないと言えそうです。逆に今後に期待できるのではないでしょうか。
図表5:1-3月期GDPは鈍化も一過性の要因を含む
図表6:企業業績は停滞も今後に期待
- 注:ベトナムVN指数の採用企業のEPS推移・予想です。
- ※BloombergをもとにSBI証券が作成
図表7:TPPはベトナムへの恩恵が大きい(対GDP比)
- 注:TPPが発効した場合の各国GDP成長率への影響を試算したものです。複数のシナリオがあるうち、「TPP参加国について、関税撤廃と非関税障壁の7%が取り除かれた場合」です。
- ※ベトナム経済・政策研究所の公表資料「TPPとAECのベトナム経済に対するインパクト」(15年8月)をもとにSBI証券が作成
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ベトナム市場の主要高成長銘柄をご紹介
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689社(6/7時点)あるベトナム株式市場の上場企業のうち、時価総額上位15社(当社取扱、銀行は上位3行まで)を図表8に抽出しています。海外の機関投資家がベトナム市場を見るときに、まずチェックする銘柄群と考えられます。
今回はこの中から今期予想EPSの増加率が5%以上の銘柄を時価総額の大きい順に5銘柄(表中、オレンジ色でハイライト)をご紹介いたします。
時価総額最大で海外展開も進めているビナミルク(ベトナム乳業)(VNM)、ベトナム最大の不動産開発業者であるビングループ(VIC)、M&Aに積極的な食品企業のマサングループ(MSN)、ベトナム最大の国有保険会社であるバオベト グループ(BVH)、建築用鋼材需要の拡大から恩恵を受けているホアファット グループ(HPG)です。
いずれも2ケタ台の売上成長が期待されており、ベトナムを代表する、主要企業かつ高成長企業と言えるでしょう。
図表8:ベトナム市場の主力銘柄
- 注:時価総額は6/6時点です。
- ※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成
銘柄名 |
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業種 |
食品・飲料 |
決算期 |
売上高(億ドン) |
(前年比) |
純利益(億ドン) |
(前年比) |
EPS(ドン) |
16.12予 |
455,993 |
14% |
88,080 |
26% |
6,908 |
17.12予 |
516,677 |
13% |
95,743 |
9% |
7,773 |
株価(6/7): 137,000ドン (円換算値:658円) |
予想PER(16.12期): 19.9倍 |
- 1976年創業の大手乳製品製造会社です。海外40ヵ国への輸出実績があり、米国、ニュージーランド、ポーランドに工場を保有するなど海外への展開を進めて海外売上が13%に達しています。ベトナムで唯一グローバル企業と呼べる会社と見られます。
- 食文化の西欧化、所得の上昇にともなってベトナム人の乳製品の消費は拡大が期待されます。また、海外展開による成長も期待できます。15年12月期の売上は前年比14%増、純利益は同28%増と順調な拡大が続いています。
- ただし、現在のところ発行株式の49%である外国人保有枠が使い切られており、当社への買付の発注をいただいても約定できないケースがある点はご了承ください。
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銘柄名 |
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業種 |
不動産 |
決算期 |
売上高(億ドン) |
(前年比) |
純利益(億ドン) |
(前年比) |
EPS(ドン) |
16.12予 |
456,664 |
34% |
41,852 |
244% |
2,282 |
17.12予 |
705,081 |
54% |
87,003 |
108% |
4,436 |
株価(6/7): 54,500ドン (円換算値:262円) |
予想PER(16.12期): 24.2倍 |
- ベトナムで時価総額最大(2位企業の7倍)の不動産開発会社です。商業施設、オフィス、住宅を手がける「Vincom」とリゾート、娯楽施設を手がける「Vinpearl」が11年に合併してできた会社です。
- 15年12月末現在、ベトナム全土で65の開発プロジェクトを展開中で開発用土地の保有は9,000万平米(9.5キロメートル四方)に上ります。15年の売上のうち、62%が不動産販売、38%が賃貸など安定収入で、安定収入の比率を引き上げつつあります。
- 15年12月期決算は、不動産販売の減少で純利益は62%減となりましたが、安定収入は前年比2.1倍に拡大しました。今期は売上・利益ともに大幅な拡大となる見通しです。
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銘柄名 |
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業種 |
食品・飲料 |
決算期 |
売上高(億ドン) |
(前年比) |
純利益(億ドン) |
(前年比) |
EPS(ドン) |
16.12予 |
421,790 |
38% |
21,775 |
47% |
2,901 |
17.12予 |
467,825 |
11% |
30,732 |
41% |
3,844 |
株価(6/7): 68,500ドン (円換算値:329円) |
予想PER(16.12期): 22.1倍 |
- 魚醤、醤油、チリソースや他の調味料、及び即席めん、即席おかゆ、インスタントコーヒー、シリアルなどの製造販売を主力事業とする企業です。ほかに、タングステン、蛍石、ビスマスなどを産出する鉱業企業およびリテール銀行に出資しています。
- 途上国では所得の上昇とともに加工食品、パッケージ食品の消費比率が高まることが知られており、同社はベトナムの上場食品企業ではビナミルクに次ぐ大手であることから、長期的にそのような恩恵を受けることが期待されるでしょう。
- ベトナムの食品・飲料分野のM&Aに積極的で2010年から2015年までの5年間に売上は5倍に増えています。プライベート・エクイティのKKRから11年に1.6億ドル、13年に2.0億ドルの出資を受けて、事業推進のパートナーとしても協働しています。
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銘柄名 |
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業種 |
保険 |
決算期 |
売上高(億ドン) |
(前年比) |
純利益(億ドン) |
(前年比) |
EPS(ドン) |
16.12予 |
169,500 |
33% |
12,371 |
10% |
1,836 |
17.12予 |
198,110 |
17% |
14,395 |
16% |
2,219 |
株価(6/7): 61,500ドン (円換算値:295円) |
予想PER(16.12期): 33.5倍 |
- 1965年設立の国有保険会社で、生命保険、損害保険、再保険などを中心に、銀行・証券・資産運用などのサービスを提供します。生命保険ではベトナム最大、損害保険でも最大手の一角を占めます。同社株式の71%を政府、18%を住友生命が保有しています。
- 保険の普及率(保険料÷GDPで測定)は、ベトナムの1.6%に対して、世界6.2%、日本10.8%、中国3.2%などとなっており、保険事業の拡大の余地が大きく、外資系保険会社との競争はあるものの成長が期待されます。
- 16年1-3月期の営業収入が前年同期比15%増、純利益が同7%でした。
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銘柄名 |
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業種 |
素材 |
決算期 |
売上高(億ドン) |
(前年比) |
純利益(億ドン) |
(前年比) |
EPS(ドン) |
16.12予 |
314,531 |
15% |
39,358 |
19% |
4,871 |
17.12予 |
341,404 |
9% |
41,371 |
5% |
5,371 |
株価(6/7): 36,100ドン (円換算値:173円) |
予想PER(16.12期): 7.0倍 |
- 1992年に建設機械の商社として創業した会社で、その後家具、鋼材、冷蔵庫、不動産などに事業を拡げたコングロマリットです。現在は、鋼材(建築用鋼材、鋼管など)および製鋼材料の製造が売上の約8割を占める主力事業です。
- 15年12月期はアパートや戸建住宅を中心とした不動産市場の改善を受けて、同社が約2割のシェアを保有する建築用鋼材の需要が伸びて、売上は8%増、純利益は11%増と好調でした。
- 16年1-3月期の建築用鋼材の出荷は25%増となり、売上は前年同期比22%増、純利益は同58%増と好調が維持されています。
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- 注:株価の円換算値は、6/7(火)終値の100ドン当たり0.4804円で換算しています。
- ※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。