クライスラー社が23日にIPO申請書類を提出した。
ただしフィアット社と全米自動車労組との間の駆け引きという側面が強く、実現性はまだ不透明だ。
米国の自動車市場の回復、特にライトトラックの健闘が、米系自動車メーカーの業績改善を支えている。
米国自動車大手のクライスラー社が23日にIPO申請書類を提出した。実現すれば2010年のGMに続く再上場となるため、「アメリカのビック3がいよいよ復活!」と言いたいところである。ただし実際のところは、クライスラーの過半数を保有するフィアット社と株式の41.5%を握る全米自動車労組との間の駆け引きの一環と言われており、まだまだ状況は不透明なようだ。
ただし、最近の米国の自動車メーカーにとって明るいニュースが続いたことは事実である。そこで、現状の整理と今後の展望を試みたいと思う。
2012年の全世界の自動車販売台数は7,200万台。国別にみると中国が1,930万台で1位なのだが、中国市場は中国、ドイツ、日本メーカーの三カ国でシェア75%を占めており米系メーカーの存在感は低い。事実、図1・2で示したように、米系メーカーの業績回復は米国自動車市場の復活が背景となっている。
(図1)
(図2)
そこで米国市場に目を移すと、今年8月の販売台数は150万台(前年比+17%)。SAARと呼ばれる数字(単月の販売台数を、季節性などを調整し年間台数に換算したもの)は6年弱ぶりに1,600万台の大台を超えた。図3のように、リーマンショック時にSAARは一瞬900万台レベルまで落ち込んだが、その後順調に改善しリーマン以前の水準にほぼ戻ったことになる。
(なお、9月速報値は販売台数前年比▲4.2%、SAAR1,521万台。8月と併せて考えると良さそうだ)
では次に、米国市場における国毎のシェアを確認したい(図4)。
リーマンショックまでガソリン価格は右肩上がりの状況が続いており、それに伴い、大型車を得意とする米国ビック3がシェアを落とし続けてきたが、ここ5年ほどは落ち着いた状態だ。日系3社のシェアは東日本大震災の時には部品不足の影響を受け一旦低下したが、直近ではその分をほぼ回復した。昨年12月以降の円安傾向も巻き返しに寄与したであろう。
(図3)
(図4)
(図5)
(図6)
興味深いのは、米国の車種構成の推移である。
米国ではピックアップトラック(主に家庭用として使われる小型トラック)が広く普及していることが有名だが、そのピックアップトラック、バン、SUVなどをまとめてライトトラックと分類している。図5は、そのライトトラックが米国の新車販売に占める比率と、米国のレギュラーガソリンの価格を比較したチャートである(ライトトラックの構成比は6か月の移動平均を使用している)。
ライトトラックは、ご想像の通り乗用車と比べ燃費が著しく劣るため、ガソリン価格の上昇がライトトラック比率の構成比の低下につながると考えるのは自然である。右図からも、この両者が基本的には逆相関の関係にあることが窺える。
ただし、2011年以降はガソリン価格が3.5ドル/ガロンで高止まりする一方でライトトラックの比率も50%以上をほぼキープできており、一時期のような右肩下がりの状況からは脱している。
(ちなみに3.5ドル/ガロンは100円/ドル換算だと92.5円/リットルである。国策・税制の違いがあるとはいえ、安い!)
これは、ガソリン価格が(以前よりは高いとはいえ)ここ数年安定しており消費者が慣れてきたという面もあるだろう。あるいは、シェールガスの普及がこれから進むことにより、ガソリン価格が中長期的に上がることはないという安心感がもたらされたためなのかもしれない。
エコが声高に叫ばれる中で、今後ガソリン価格が下がり燃費の悪いピックアップトラックが米国内で復権するというシナリオを描く人は現時点ではまだそれほど多くないだろう。ただし株式投資の醍醐味の一つは、他の市場参加者と異なるシナリオを思い浮かべる事にある。シェールガスに代表される新エネルギーの台頭がパラダイムシフトをもたらし、その結果、これまでの常識と逆の現象が起きる可能性だってあり得るのだ。
ご参考までだが、ライトトラックの販売構成比が高いのは図6に示した通り、フォードとクライスラーである。
<米国株式>
ティッカー |
銘柄 |
事業内容 |
市場 |
---|---|---|---|
GM |
大手自動車メーカー |
NYSE |
|
F |
大手自動車メーカー |
NYSE |
<日本株式>
<韓国株式>
ティッカー |
銘柄 |
事業内容 |
市場 |
---|---|---|---|
005380 |
韓国を代表する乗用車、RV、トラック、商用車メーカー。 |
KOSPI |
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