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次期財務長官に就任するスコット・ベッセントの「3-3-3政策」はお題目にすぎない
次期財務長官に就任するスコット・ベッセントの「3-3-3政策」はお題目にすぎない
2024/12/20
広瀬隆雄氏には長きにわたる「広瀬の外国株式デビュー講座」連載を通じて、我が国の外国株式投資の啓蒙、裾野の拡大にご尽力いただきましたが、今回が最終レポートとなります。
これまでのご愛読ありがとうございました。
1月に発足するトランプ政権で財務長官に就任が決まっているスコット・ベッセントは「3-3-3政策」を打ち出しています。
財政赤字をGDPの3%以内にすること
GDP成長率で3%を達成すること
原油生産を日量300万バレル増加させること
このターゲットはいずれも非現実的とは言えないまでも達成は容易ではありません。
まず現在の財政赤字は1.7兆ドル、GDPの6.2%です。米国の財政支出の過半数は社会保障費など国民生活に直結する支払いであり、歳出の削減は自ずとそれ以外の小さな費用項目をカットすることになります。米国の債務は34兆ドルを超えており今後利払い負担はさらに重くなるリスクもあります。加えて2017年の「トランプ減税」を恒久化すれば赤字はさらに増えます。過去10年に米国の財政赤字がGDPの3%以内に収まった例は2015年の2.4%だけです。
GDP成長率で3%を達成するというのもかなりハードルが高いです。1990年以降米国のGDPが3%以上で成長した年は10回しかなく、そのうちの半分はドットコムブームの5年間でした。あとは湾岸戦争が引き起こした景気後退の反動としての急回復(1992年、+3.5%)、ドットコムバブル崩壊と世界同時多発テロによる景気後退のリアクションとしての急回復(2004年、+3.8%)、新型コロナの外出禁止令後、経済再開時の急回復(2021年、+6.0%)という風に先ず景気が落ち込んだ後でキャッチアップする急成長が殆どであり、平時にGDP成長率が自然に加速する例は皆無ではないけれどとても珍しいのです。
トランプはカナダ、メキシコ製品に対し25%の関税を課すとともに現在の中国製品に対する関税率も、あと10%上乗せすることで税収の足しにすると言っています。これは一定の効果が期待できるものの関税を実際に負担するのは米国民です。さらに関税はインフレ助長要因です。関税導入前の駆け込み需要が一巡すれば、消費は減退するリスクもあります。それは景気後退を招来しかねません。
原油生産を日量300万バレル増やすという提案は原油価格を押し下げ、それを通じてインフレ圧力を緩和させる意図から提唱された政策です。
現在の米国の原油生産高は日量1360万バレルで、それに300万バレルを足せば1630万バレルという計算になりますが、過去に一度もそのような高水準の原油生産を米国が記録したことはありません。
そもそもシェール業者が増産する理由は原油価格が高く増産するインセンティブが大きいからであり、原油価格が低迷している局面では生産調整が入るのが当たり前です。パイプラインの建設許可の加速や環境規制の緩和や連邦政府の所有する土地での掘削の承認というような弱々しい措置で巨大な新規投資を促すことができると考えるのは甘いです。
したがって増産で原油価格の下落を演出、インフレを抑制するというのは市場メカニズムを理解しない愚策といえるでしょう。
著者
広瀬 隆雄(ひろせたかお)
コンテクスチュアル・インベストメンツLLC マネージング・ディレクター
グローバル投資に精通している米国の投資顧問会社コンテクスチュアル・インベストメンツLLCでマネージング・ディレクターとして活躍中。
1982年 慶応大学法学部政治学科卒業。 三洋証券、SGウォーバーグ証券(現UBS証券)を経て、2003年からハンブレクト&クィスト証券(現JPモルガン証券)に在籍。
