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長期の戦略を練り直すべき時
長期の戦略を練り直すべき時
2023/4/25
相場は小動き
このところの米国株式市場は出来高も少ないですし指数の動きも小さいです。「閑散に売りなし」という諺の通り、目先市場が大きく下落するリスクは小さいように思います。それを断った上で株式に対する期待はやや先走り過ぎている観があるので数ヶ月に及ぶスピード調整のダラダラ相場が来ることを覚悟したほうが良いと思います。
主なリスク
株式市場を巡る主なリスクとしては市場が織り込んでいる利下げ予想と連邦準備制度理事会(FRB)の発しているメッセージとの間には大きな乖離があるという点です。
市場参加者はこの秋からFRBは利下げに転じ年末までに3回前後の引き下げを行うと予想しています。
一方FRBは来る5月3日の連邦公開市場委員会(FOMC)でもう一回、0.25%の利上げをした後、年内はその水準(=政策金利で5.00〜5.25%)をずっと堅持することをシグナルしています。
言い直せばマーケットは株式にとって都合の良い楽観シナリオを目一杯織り込んでしまっているのです。
■拙い采配で知られる70年代のFRBですら極端なことはやらなかった
1970年代はハイパー・インフレの時代として記憶されており、その時のFRBの議長はアート・バーンズという元コロンビア大学の教授で、彼は政治的な圧力に屈し、すぐに利下げしたというネガティブな評価を受けています。しかしそのバーンズですら利上げ打ち止めから利下げに転じるまで半年以上様子を見たわけで、いま市場が織り込んでいる「利上げ→利下げ」という逆V字型の政策金利の手綱捌きはよほど酷い景気後退に襲われない限り望み薄だと思います。
すると「どれだけ待ってもFRBによる利下げが実現せず、その間にじりじりと株式バリュエーションが剥落する」というのが最も起こりやすいシナリオでしょう。
■一進一退の相場で時間を稼ぐしかない
ちなみに現在S&P500指数の向こう12か月の一株当たり利益(EPS)予想に基づく株価収益率(PER)は18倍前後で、これは過去10年の平均値とほぼ同じ水準です。つまり株式市場は決して割安とは言えないのです。
その一方で足元の四半期EPSは前年比−6%前後で推移しており業績はお世辞にも好調とは言えません。
何にもまして今は市中金利が高いので、譲渡性預金(CD)で1年預けているだけで4%を超える利子が付きます。これは株式にとって手ごわいライバルが登場したことを意味します。
つまり株式市場がもう一段高を狙えるためには今スランプに陥っている企業収益が改善しEPSの伸長がハッキリと視野に入ってくることが必要なのです。これには時間がかかるので目先の株式市場は一進一退を繰り返しスピード調整する必要があると思います。
なぜ長期では株式にポジティブになれる?
そう書いてくるとこれを読んでいる皆さんは(それじゃなぜ長期で株式にポジティブになれるの?)と思うかも知れません。
その最大の理由は金利です。
政策金利が5%ということはもし今後景気後退が襲った場合、十分な利下げ余地があるということです。
つまり量的緩和政策(QE)のような変則的な金利政策に依存するまでもなく、伝統的かつ正統的な手法で粛々と利下げすれば景気を救う余地は幾らでもあるということです。
アメリカは過去14年間ほどこのようなオーソドックスな手法が使えない異常事態が続いてきました。だから今回政策金利が5%に突っ掛けるまで利上げが繰り返されたということは将来の戦いにむけて「弾薬の備蓄は十分」な状態にようやく辿り着けたことを意味するのです。
二番目のポイントとして利下げは普通、株式にとって「買い」要因です。
もし来年のどこかでFRBが利下げに転じるのなら、それは株式バリュエーションにとって最大の支援要因がキックインすることを意味するので相場は「上」を予想すべきです。
■カイゼンの意識を持て!
ここまでの話をまとめると、目先は一進一退の展開で退屈な展開かもしれないけれど、時にはそのようなスピード調整も株式市場には必要であり、それは次のアップサイクルに向けて英気を養うことに他ならないということです。
だから相場から足を洗うのではなく、今は粛々とiDeCo、つみたてNISAなどの強制貯蓄型の、将来の自分の生活を守るしくみを整え、「入金力」をUPするための生活の見直し、さらには極めて不当な低い利子しかつかない銀行預金に余り大きなキャッシュを残さない……などのキメの細かい運用周りのカイゼンにいそしみ、次の大相場に備えるのがベストでしょう。
著者
広瀬 隆雄(ひろせたかお)
コンテクスチュアル・インベストメンツLLC マネージング・ディレクター
グローバル投資に精通している米国の投資顧問会社コンテクスチュアル・インベストメンツLLCでマネージング・ディレクターとして活躍中。
1982年 慶応大学法学部政治学科卒業。 三洋証券、SGウォーバーグ証券(現UBS証券)を経て、2003年からハンブレクト&クィスト証券(現JPモルガン証券)に在籍。