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メルクの経口薬の登場で米国では新型コロナに対し三段構えの防御態勢が整いつつある 株式市場への含蓄は?
メルクの経口薬の登場で米国では新型コロナに対し三段構えの防御態勢が整いつつある 株式市場への含蓄は?
2021/10/6
メルクの経口新型コロナ薬が臨床で好結果
メルク(ティッカーシンボル:MRK)がリッジバック・バイオセラピューティックス(株式非公開)と共同で開発してきた経口新型コロナ抗ウイルス薬モルヌピラビルの第3相臨床試験の結果が良好だったので、臨床試験を早々に打ちきり、緊急使用承認への申請から急遽承認へという流れになりつつあります。たぶんテキパキと承認されると思います。
三段構えの防御態勢
これにより米国では新型コロナに対し三段構えの防戦体勢が出来ることになります。
【第一の防御】
まずなるべく多くの国民にワクチンを接種してもらうというのが第一段の防御になります。これに関してはファイザー(ティッカーシンボル:PFE)がバイオンテック(ティッカーシンボル:BNTX)と開発したワクチン、モデルナ(ティッカーシンボル:MRNA)のワクチン、ジョンソン&ジョンソン(ティッカーシンボル:JNJ)のワクチンが米国では既に出回っています。いまのところ米国の国民の55%が必要な2回の接種を完了しています。
それでも7千万人のワクチンを接種できるけれど接種してない国民が居ます。
またワクチンを接種したからといって新たに新型コロナに感染しないという保証はありません。ワクチンの目的はあくまでも重篤になることを避けるのが狙いだからです。その代りワクチンを打てば病院に担ぎ込まれるリスクは減らすことが出来ます。
【第二の防御】
つぎに新型コロナのテストを受けて陽性の判定が出た人はメルクの経口薬を服用することになります。この薬は低分子薬、つまり昔からある化学精製されたお薬であり、「生きたお薬」のバイオ薬ではありません。そのため量産がカンタンで、飲みやすいという特徴があります。自宅で錠剤を飲むノリで、「ポン!」と口に放り込むだけで良いわけです。
これまで新型コロナで陽性の判定を受けた人の14%くらいが病院に担ぎ込まれると言われていましたが、メルクのこの薬を服用するとそれが7%くらいの確率まで低減できます。
具体的にはモルヌピラビルの投与を受けた人385名中28人だけが病院に収容されたのに対しプラセボ377名中53人が入院しました。
これまでの臨床試験ではモルヌピラビルの投与を受けた陽性者の中から死者は出ていません。これに対しプラセボでは8名が死んでいます。
経口薬はどうしても薬効に限界があるので、ここに述べたような結果は、その文脈においては上々の出来だと評価できます。
同薬が承認されたあかつきには最初の月に1千ドースの出荷が可能です。でも上に述べた特徴から後々増産することはたやすいと予想されます。
既にメルクは米国政府から12億ドルを受け取るのと引き換えに170万人分の経口薬を米国政府に納品する契約を締結済みです。
もちろんワクチンを接種したところで新型コロナに罹ってしまう人は居るわけだし、メルクの経口薬も100%防げるわけではなく7%は病院に行く羽目に陥ります。そこで登場するのが第三の防御です。
【第三の防御】
リジェネロンの抗体カクテル「REGN-COV2」はトランプ前大統領が新型コロナに罹り、ウォルターリード病院に収容されたときに使用されたバイオ薬です。これは病院で患者の静脈に直接注射する必要があるので、手間もかかりますし、高価です。でもトランプ前大統領が三日も立たないうちに退院したことからもわかるとおり、効果はてきめんです。
米国ではこれまでに新型コロナで70万人が死亡しました。しかし上記の防御態勢が確立すれば今後の死者数は大幅に軽減できる見通しです。
株式市場への含蓄
メルクの経口新型コロナ抗ウイルス薬モルヌピラビルはたぶん11月か12月頃に緊急使用承認が下りると予想されます。そうなればいままで欠落していた「テストで陽性が出てしまったけれど良いお薬が無いので自宅でおとなしくしている以外には無い」という人向けの便利なお薬が登場したので国民の心理的なプレッシャーは大幅に下がります。それは新型コロナが「手に負えない伝染病」から「インフルエンザに毛が生えた程度」の、対処可能な流行病へとダウングレードされる瞬間でもあるのです。
つまり普通の日常生活への回帰はこれによって完成すると思って間違いないです。
もちろん、今後の数年間は毎年新型コロナワクチンを注射する必要があると思います。でもそれはインフルエンザの注射と併せて済ませてしまえば良いわけで、新型コロナだけが特別に怖い病気だという先入観は徐々に消えてゆくと思われます。
すると国民はいままで行けなかった海外旅行とかに積極的に出ることが予想されます。また景気は強くなることが予想されるのでインフレは高止まりするリスクもあります。それは長期金利が一段と上昇するリスクを招来するので、株価が上昇するには超低金利の環境が必要になる急成長株などはやや苦しい展開になると思います。
それはつまりハイテク株からレジャー株へというシフトが起こることに他なりません。
著者
広瀬 隆雄(ひろせたかお)
コンテクスチュアル・インベストメンツLLC マネージング・ディレクター
グローバル投資に精通している米国の投資顧問会社コンテクスチュアル・インベストメンツLLCでマネージング・ディレクターとして活躍中。
1982年 慶応大学法学部政治学科卒業。 三洋証券、SGウォーバーグ証券(現UBS証券)を経て、2003年からハンブレクト&クィスト証券(現JPモルガン証券)に在籍。