6/2-6/9の香港市場は続伸しました。中国当局がネット大手に対する締め付けを緩和すると報じられ、ネット大手をはじめ中国株に対するセンチメントが改善しました。アリババやテンセントが上昇をけん引しました。
今回は、アリババと海運株の下落要因とインプリケーションを探ってみたいと思います。
図表1 ハンセン指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
注:6/9(木))までのチャートです。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成。
図表2 香港市場の業種別指数騰落率(6/9(木)までの騰落率)
注:業種別騰落率はハンセン総合指数が母集団です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(6/9(木)までの騰落率)
ハンセン指数
騰落率上位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
02269 | 薬明生物 [ウーシー・バイオロジクス] | 24.7% | 41.1% | 36.7% | バイオ医薬品開発受託大手。新工場の稼働と、1-4月に47の新規プロジェクトを獲得したことが好材料となり、買いが膨らんだ。 |
00241 | 阿里健康信息技術 [アリババ・ヘルス] | 23.0% | 27.2% | 10.3% | アリババ(09988)傘下のインターネットヘルス大手。中国当局がネット大手に対する締め付けを緩和すると報じられ、ネット大手が買われた。(詳細は本文をご参照願います) |
09988 | アリババ・グループ | 20.6% | 23.2% | 15.6% | EC・フィンテック大手。中国当局がネット大手に対する締め付けを緩和すると報じられ、ネット大手が買われた。(詳細は本文をご参照願います) |
09618 | JDドットコム | 12.5% | 9.9% | 6.0% | EC大手。中国当局がネット大手に対する締め付けを緩和すると報じられ、ネット大手が買われた。(詳細は本文をご参照願います) |
03690 | 美団(Meituan) | 12.0% | 28.5% | 35.9% | 中国フードデリバリー最大手。1-3月期の業績が市場予想を上回り、証券会社数社が目標株価を引き上げた。 |
騰落率下位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
00006 | 電能実業 [パワー・アセッツ] | -4.2% | -6.9% | -0.5% | 電力会社。投資家のリスク回避志向が後退したなか、ディフェンシブ銘柄が利益確定売りに押された。 |
00175 | 吉利汽車 [ジーリー・オートモービル] | -5.0% | 25.5% | 24.0% | 大手自動車メーカー。RSIが買われ過ぎサインとされる70に達した後、利益確定売りに押された。 |
00288 | 万洲国際 [WHグループ] | -6.0% | 8.3% | 13.6% | 豚肉加工で世界最大手。RSIが買われ過ぎサインとされる70を超え、売りを誘ったもよう。 |
00012 | 恒基兆業地産[ヘンダーソン・ランド] | -6.5% | -4.6% | -3.3% | 不動産会社。経営陣が上海ロックダウンの影響で関連プロジェクトの進行が半年遅れる見通しだとコメントし、売りを誘った。 |
00868 | 信義玻璃控股 [信義ガラス] | -10.6% | 4.1% | -1.4% | 大手ガラスメーカー。フロートガラスの平均価格が下落し、売り材料となった。同社が所在する地域のガラス需要は低迷しており、多くのガラスメーカーは採算が取れてない状況にあると、大手証券会社が指摘したことも嫌気された。 |
ハンセンテック指数
騰落率上位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
09626 | ビリビリ | 28.1% | 42.8% | 32.7% | 動画プラットフォーム大手。中国当局がネット大手に対する締め付けを緩和すると報じられ、ネット大手が買われた。(詳細は本文をご参照願います)(SBI証券取り扱いなし。リンク先は米国上場のBILIとなっています。) |
00241 | 阿里健康信息技術 [アリババ・ヘルス] | 23.0% | 27.2% | 10.3% | アリババ(09988)傘下のインターネットヘルス大手。中国当局がネット大手に対する締め付けを緩和すると報じられ、ネット大手が買われた。(詳細は本文をご参照願います) |
09988 | アリババ・グループ | 20.6% | 23.2% | 15.6% | EC・フィンテック大手。中国当局がネット大手に対する締め付けを緩和すると報じられ、ネット大手が買われた。(詳細は本文をご参照願います) |
09698 | 万国数拠服務 | 18.1% | 8.0% | -13.6% | データセンターを運営。中国当局がネット大手に対する締め付けを緩和すると報じられ、ネット大手が買われた。(詳細は本文をご参照願います) |
02015 | 理想汽車[リーオート] | 16.3% | 37.8% | 19.2% | 新興EVメーカー。6/21に新車種を打ち出すと発表し、買い材料となった。地方政府が相次いで電気自動車(EV)の販売促進措置を発表したことも、EV業界の見通し改善につながった。(SBI証券取り扱いなし。リンク先は米国上場のLIとなっています。) |
騰落率下位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
02018 | 瑞声科技 [AACテクノロジーズ] | 0.8% | 4.9% | -8.6% | 音響部品メーカー。大手証券会社が投資判断を「ホールド」から「売り」に引き下げた。 |
00020 | SenseTime Group Inc | -2.9% | 21.3% | -13.6% | AIソフトウェア大手。大手証券会社が投資判断「売り」でカバレッジを開始し、売り材料となった。 |
01347 | 華虹半導体 [フアホン・セミコンダクター] | -3.4% | 1.4% | -12.2% | 半導体受託生産(ファウンドリー)大手。米半導体大手のインテルの経営幹部が半導体市場の需要軟化を予想し、半導体関連株が売られた。 |
02382 | 舜宇光学 [サニーオプチカル] | -3.6% | 16.7% | -19.3% | 大手光学機器メーカー。経営陣がスマートフォンの需要見通しは引き続き不透明とコメントし、売りを誘った。 |
06690 | 海爾智家 [ハイアールスマートホーム] | -5.7% | -4.1% | 6.6% | 大手家電メーカー。大手証券会社が投資判断「アウトパフォーム」を再表明し、売りが膨らんだ。 |
注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。
今週の中国株市況
6/2-6/9の香港市場は、ハンセン指数が3.7%上昇、ハンセンテック指数は8.0%上昇しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数は、4.7%上昇しました。
中国当局がネット大手に対する締め付けを緩和すると報じられ、ネット大手をはじめ中国株に対するセンチメントが改善しました。ネット大手をめぐる直近の動きは、下記の通りです。
1)6/6のウォール・ストリート・ジャーナルは、「中国当局は滴滴出行ADR(DIDI)に対する調査を終了し、今週中にも同社のアプリをアプリストアに戻す準備をしている」と報じました。滴滴出行はアリババに次いで規制強化の“重点対象”として認識されているだけに、上記の報道でネット大手への締め付け終了に対する期待につながりました。
2)中国当局は6/7に、4月に続き、今年2度目のゲーム認可を発表しました。中国当局はネット大手に対する締め付けの一環としてゲームの認可を長らく中断していましたが、今年4月に再開しました。それから2カ月間で2度目の認可になったことから、ゲームの認可が正常化していることが示唆されました。
業種別では、情報テクノロジー、ヘルスケア、素材が堅調でした。情報テクノロジーは、上記の出来事を受け、ネット大手の最悪期は過ぎつつあるとの見方が増え、買いが膨らみました。アリババ(09988)やテンセント(00700)、美団(03690)、JDドットコム(09618)などがそろって続伸しました。
ヘルスケアも、ネット大手への締め付けの影響で株価が大幅に調整したアリババヘルス(00241)やJDヘルス(06618)、平安ヘルスケア(01833)が反発しました。バイオ医薬品開発受託大手の薬明生物(02269)も大幅に続伸しました。新工場の稼働と、1-4月に47の新規プロジェクトを獲得したことが好材料となりました。
素材は、経済支援策とロックダウンの解除による景気回復を織り込み、買い優勢でした。資源大手の中国アルミ(02600)やツージンマイニン(02899)、コウセイコパー(00358)が買われました。リチウム大手のガンフォン(01772)も急反発しました。アルゼンチンで権益を所有している炭酸リチウムのプロジェクトが今年下期に生産を開始する見込みとなり、買い材料となりました。
一方、コングロマリットや公益は投資家のリスク回避姿勢の後退を受け、逆行安となりました。コングロマリットのうち最も構成比率が高い長江和記(00001)は通信事業の比率が高く、公益と同様に、投資家がリスク選好に転じる際は売られやすい傾向にあります。
今回のトピックス
今回は、アリババと海運株の下落要因とインプリケーションを探ってみたいと思います。
6/9の米国市場ではアリババ(BABA)が急反落しました。アリババは5/26の決算発表後、反発が続き(詳細は「アリババ:「アント事件」以降初めて決算発表後に株価が上昇、ネット大手反発のきっかけに」をご参照願います)、6/8は場中で節目の120米ドルを試しました。しかし、6/9は傘下のアント・グループ(以下、アント)のIPOをめぐる不透明感を嫌気し、大幅安となりました。
6/9の米国市場の取引開始前に、ブルームバーグは「中国の金融規制当局は、フィンテック企業アントのIPO計画を復活させる可能性について初期段階の協議を開始した」と、関係者からの情報として報じました。しかし、それに対し中国監督当局のスポークスマンは、「そのような検討や調査は行っていない。ただ、適格なプラットフォーム企業の国内外の上場は支援する」とコメントしました。渦中のアントも、「監督部門の指導のもとで改善に専念しており、現在IPOを開始する予定はない」とのコメントを出しました。
それを受け、米国市場ではアリババだけでなく、他のネット大手もそろって反落しました。「アントのIPO期待」の後退が引き金となりましたが、実際は短期的な急反発による利益確定売りの側面が強いと考えられます。というのは、5月末からアリババをはじめとするネット大手が上昇した理由は、「アントのIPO期待」によるものではないためです。
アリババをはじめ、ネット大手が反発した主な要因は、1)予想を上回ったアリババの決算、2)滴滴出行に対する調査終了の報道、3)ゲームの再認可です。この3つの要因はいずれもポジティブ材料であり、それほど期待されていない「アントのIPO期待」の後退によって帳消しされることはないと考えられます。
なお、中国現地では、ロイター(中国)の「アントのIPO計画復活」に関する報道が多く引用されています。それによると、ここ数週間、中国当局はアントの再編に関する承認手続きを早めています。また、中国当局は原則的にアントのIPO再開に同意を示しており、アントは早ければ来月に上場に向けた仮目論見書を提出する可能性があると報じられています。
このようにみると、アントのIPO計画復活は水面下で進んでいるようにみえます。ただし、中国当局やアントはこの件に関していずれも注意を引かないようにしているようです。アントのIPO延期がネット大手への締め付けの始まりとなったこともあり、中国当局は(アントも)慎重に対応したい意向とみられます。もし、アントがIPOに漕ぎつければ、締め付けの“完全終了”に向けた大きな一歩となるため、今後の動向には注目する必要があります。
いずれしても、中国当局がネット大手への締め付けを緩和しているのは事実です。その背景を考える際、海運株の急落にヒントが隠れていると思います。6/9の香港市場では中国海運大手のコスコシッピング(01919)が急落し、米国市場でも海運株が大幅安となりました。ブルームバーグ報道によると、きっかけは米大手投資銀行のJPモルガンがロサンゼルス港やロングビーチ港の週次データからは米国の輸入鈍化が確認されていると指摘したことです。中国現地報道では、貨物運送業に特化した情報を提供する米FreightWavesのレポートが取り上げられました。同レポートでは、過去数週間で(米国の)輸入の需要が急減していると指摘しました。
米国の輸入減は中国にとってみれば輸出減につながります。また、ウクライナ危機の影響で欧州の景気減速リスクも高まっています。中国の2大輸出先である欧州と米国で輸入が減少すれば、中国の輸出も今後鈍化する可能性が高いです。他方、中国当局は今年のGDP成長率について、5.5%前後と高めに設定しています。足元の世界経済情勢からすると、GDP目標を達成するためには、内需に大きく頼らざるを得ない状況です。
その内需に大きく関連している企業がアリババなどのネット大手です。ここにきて中国当局がネット大手に対して「優しく」なっているのはこのような背景があります。ネット大手への締め付けが一段と緩和されれば、業績回復にもつながるとみられます。ネット大手は短期的な急反発で一旦利益確定売りに押される場面も想定されますが、中長期にみて見直しの余地はまだあると考えられます。また、中国当局は内需支援策の一環として、電気自動車(EV)を含む自動車の購入促進を実施しています。EV関連銘柄も調整時は押し目買いが入りやすいかもしれません。
図表4は、主要ネット大手とEV大手の1-3月決算の対市場予想比(サプライズ)です。
図表4 1-3月期の売上高と純利益(調整後)の対市場予想比(売上高サプライズ順)
主力分野 | 売上高サプライズ | 調整後純利益サプライズ | |
ピン多多 ADR(PDD) | EC | 15% | 59% |
綱易(09999) | ゲーム | 4% | 7% |
美団(03690) | フードデリバリー | 2% | 22% |
百度(09888) | 検索エンジン | 2% | 119% |
快手(01024) | ショート動画 | 2% | 13% |
アリババ(09988) | EC、クラウド | 2% | 16% |
JDドットコム(09618) | EC、物流 | 1% | 56% |
テンセント(00700) | ゲーム、フィンテック | -4% | -4% |
シャオペン(09868) | EV | 1% | -1% |
ニオ(09866) | EV | 0.0% | 20% |
リーオート(LI) | EV | -0.2% | 265% |
比亜迪 (Byd)(01211) | EV | - | 48%* |
*)比亜迪 (Byd)(01211)は調整後純利益サプライズのデータがないため、調整後EPS(一株当たり純利益)サプライズとなっています。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。